ED気味の俺が……(略)

その4

 

その4 三好紀幸のオレ語り②

 

「センパイ、ちょっと個人的なこと、色々聞いて、いいっスか?」

「ああ、ここまで言っちまったらもう恥ずかしいこととかないんで、なんでもいいぞ」

 

 そんな会話してるとき、オレ、もう心臓バクバクしてた。

 ノンケの徳センパイさん、そう、ノンケの職場の先輩が、このオレに、インポって、中折れするって話、してくれてるんだぜ?

 なんかもう、オレ、どうしていいか分かんなくなるほど興奮っていうか、いや、エロって意味じゃなく、いや、色気もあってほしいんだけど、ああ、もう、なんていうか、どっかそこには感動? みたいなもんもあってさ。

 オレみたいな年下にこういう話するって、たぶんすごく勇気っていうか、決断がいることだったと思うんだ。そういうの色々考えて、年下で部下でもあるオレを相談相手に選んでくれたってのが、こっそり惚れてるオレからしたら、もう、なんか嬉しいっていうか、いや、ホントに嬉しかったんだ。

 徳さんは徳さんで、オレが女ったらしって思ってるからこその話しだろうから、ホモとしてのアレには遠いんだけど、少なくともシモの話しても笑わない奴っては思われてるんだろうから、そこはほら、なんか舞い上がっちまうんだよ。

 

 会社出るときからさ、なんかこう徳さんの様子おかしくて。

 もじもじっていうか、上の空っていうか、そこらへんが仕事してるときの落ち着き考えると、なんか違和感ありまくりで。

 オレ自身も二人っきりで、しかも徳さんの部屋で飲むなんて、もう興奮ものでさ。

 スーパーで色々仕入れるときもすげえぶち上がってて、これ絶対一晩じゃ食い切れねえだろってぐらいのつまみ買っちまってた。もちろん半分払うっていうんだけど、センパイ、そこは強固に拒否して自分のカード払いにしちまってるの、なんか悪くて。

 その分、盛り上げなきゃみたいに色々話し降ってたら、けっこう二人とも飲んじゃって。

 あ、これ、飲みが楽しすぎて『相談』って雰囲気飛んじゃってるなって途中で気づいてさ。

 なんか切り出さなきゃって思ったときに、ちょうど二人ともビール缶空いた感じになったんで、こっちから話し降ったんだよな。

 

 そしたら、センパイ、真面目な顔して、自分のインポのこと、話し出した。

 しかも『たまたま』とか『こんなことがあってさ』ってレベルじゃ無さそうな、ちょっとマジな感じな奴。

 病院も確定されるの怖くて行けてないって、逆にそういうことありそうだなって思っちまう。

 当然の話だけど、センパイ、オレが風俗通いしてるとか思ってるみたいだから勃起薬とかの話しになって、持ってないかとか聞かれるし。

 ま、持ってはいるんだけど、薬の個人輸入って人に渡すのはマジもんでやばいから、そこはちょっと逃げた感じ。センパイだってどうせ検索はしてるだろうから、そこらへんは分かってるんだと思うけど、それより何より、センパイ、他に糖尿とかのことも聞いたこと無いし、もしかして精神的なことかもなーって、ちょっと探り入れてみることにする。

 

「センパイ、その、彼女さんとか、付き合ってる人とか、今、いるんスか?」

「ほしいけど、いねえよ」

「じゃ、風俗とかで入れあげてる嬢とかは?」

「ソープもデリも若い頃は行ってたけど、30超してからはご無沙汰だな」

「なんかそれ、理由あったんッスか?」

「それ、言わせんのかよ」

「話し聞いてて、なんか精神的なこともあるんかなって、思ったんスよ」

「まあ、お前が言うんなら、そうかもな……」

 

 センパイ、ちょっと遠い目になった。

 そういう話し、オレにしてくれてるって思うだけで、オレの方は、嬉しさで舞い上がってた。

 

「誰にも言ってないんだけどな、俺、入社してすぐ、同期の子と付き合ってたんだ」

「へえ、その話し、宴会でのセンパイの武勇伝でも、聞いたことなかったっス」

「ああ、誰にも言ってないからな……。その子も2年ぐらいで辞めちまったし。で、俺、正直に言うと、そいつとのときが『初めて』だったんだ」

「けっこう奥手っていうか、真面目だったんスね、徳さん……」

「お前みたいなもんからするとそうかもだが、俺らんとき、半分ぐらいはそんなもんだったと思うぞ。まあ、そんなだから俺もかなり最初びびってっつーか、勢いありすぎてっていうか、その、うまくいかなくてな……」

「セックスが、ですか?」

「……ああ、その通りだ……」

「言いにくければいいっスけど、どんなだったんスか?」

「ここまで来たら、全部話すか……。その『そのとき』って、俺、ものすごく興奮しちまっててさ。分かるだろ、そういうのって?」

「最初は、オレもぜったいそうでしたよ」

「で、まあその、狙い定めるっていうか、そのあたりを触って確認っていうかさ、その段階で、俺……」

 

 センパイ、言いよどむ。

 で、オレは、すげえ申し訳なかったけど、センパイの話しに、もう、たまんなくなってて、すんげえ勃起してた。

 会社帰りのスーツだからまだ隠せてるけど、これ、ジャージとかハーパンだったら、絶対バレるってぐらいに、ギンギンになっちまってた。

 センパイの『そのとき』を、オレ、頭の中でぐるんぐるん、想像しちまってたんだ。

 

「もしか、挿れる前に、って奴ですか?」

「ああ、やっぱり分かるよな。挿れる前どころか、横になって、あいつのそこ、どんな感じかなって触ってただけのときにイッちまって」

「若い分、2度目とか、ダメだったんスか?」

「それがなんでか、そのときばかりは最初の一発で萎えちまってな。普段のせんずりのときとか、ノッてるときは3発とかなんでもないのにな。それで焦ると、ますますダメで、相手の子もまた今度でいいからって言ってはくれたんだが」

 

 センパイの話し聞きながら、オレ、あ、これ、もう、インポの原因は精神的な奴だって判断してたんだと思う。

 センパイは無意識になにげない話しにしてるけど、たぶん、『対等な相手に対等に行為をする』ってのが、そのときからダメになってるんじゃないかな。

 勃起しながら考えることじゃないけど、センパイへの心配と、色気からの勃起と、そのときのオレん中では、どっちも成立してたんだ。

 

「そういうのとか色々あって、なんとなく気まずくなっちまって、半年もしないうちに別れちまった」

「その、その人の後は誰かとの付き合いとかは?」

「ねえんだよ、それが。後は会社の上司や取引先の人に連れられてのソープとかばっかしで」

「でも、今は風俗、行ってないんでしょ?」

「ああ、しばらくは結構マメに顔出して、馴染みの女の子もいたんだけどな。しばらく通ってたら向こうもすげえ打ち解けてくれたのは嬉しかったんだけど……」

「なんかあったんスか?」

 

 なんか、あってるよな、これ、絶対。

 

「もうそのときのこと、あんまり覚えてないんだけどな。なんかの拍子に彼女の素の表情みたいなのを見たか感じたことがあって、それからはなんかダメになっちまって……。勝手にのぼせ上がってた俺が悪いだけなんだけど、足が遠くなっちまったんだ」

 

 ああ、やっぱりプロに『理想の彼女』ってのを、投影しちまってるよ、この人。

 疑似恋愛としてはそれはそれでアリなんだけど、互いに『分かった上のお約束』で無いと、ダメージ喰らうんだよな、アレ。

 ちょっとこれ、深刻な話しかもしんないなと、勃起しながら身構えるオレ。

 萎えないのは、ほら。やっぱセンパイ、オレ、すんげえタイプだったし。

 

「それからは?」

「恥ずかしいけど、せんずりばっかりだな。ネットでオナホールとか、色々グッズ仕入れたりしてて、それはそれで楽しかったし、まあ、一人も気楽でいいかなって思ってたところに、こんなインポみたいになっちまって……。急に現実がのし掛かってきたっていうか、もう俺、まともに人相手が出来ないんじゃないかって、すげえ不安になって」

 

 自分語りになってきてるセンパイ。

 これ、吐き出させた方がいい奴だ、たぶん。

 

「当たり前って思ってたことが出来なくなると、キツいッスよね……」

「そうなんだよ! やっぱりお前、こういうの、よく分かってくれるよな! お前に話してよかったよ、俺……」

 

 うん、最初はインポの解消法みたいなの求めてたけど、途中で話しを聞いてもらうことに目標変わってるのに気付いてない。

 それがまあ、大半の人の『相談』って奴の正体だとは思うけど。

 

「その、それって、どのくらい前からなんスか?」

「去年ぐらいに始まったかな。ホント最初は『厄年』ってよく言ったもんだなって自分でも思ってたんだが、だんだん『それ』がいつもののことみたいになっちまってな」

「なんかきっかけあったとか、思い出せませんか?」

「うーん、40ってことで、遠い親戚がちらっと見合いの話し持ってきたことぐらいかなあ。ちょっと色々めんどくさそうだったんで、会う前に断ったけどな。

 

 うーん、タイミング的にそれまでただ快感の追求だったせんずりに、生身の女性との付き合いを想起したってとこなんだろうなあ。

 昔の彼女さんとソープ嬢かな、そこらへんの微妙なトラウマが引っかかってるってことに、たぶんセンパイ自身が気付いて無いっぽい。

 

「徳さんって、せんずりのときは妄想ずりッスか? それとも、ビデオとか?」

「ん? だいたいの奴って、ビデオとかじゃねえのか? ビデオっていうか、今はネットで転がってる動画っていうか。最近は中年っぽいのの3Pモノとか、はまってっかな……」

 

 ああ、やっぱり視覚刺激中心か。エロ動画見てても『そのときの自分の行為』とか『そのときの相手の表情』とか、実は思い出してしまってるんだろうなあ。

 

「なにかそれが、俺のインポに関係するんか? あんまり刺激強いとか、そういうのか?」

「いや、そういうワケじゃ無いんスけどね……。せんずりのときって、なんか道具とか使ってます?」

「おお、オナグッズは結構持ってるぞ」

 

 センパイ、押し入れあけて段ボール箱ごとごそっと持ってきた。

 

「ほら、こういうのだろ? 色々試して、非貫通の奴で吸い込み強い奴とかがかなりいいかな」

「あ、これ、オレも使ってます。亀頭のとこがすんごく気持ちいいっスよね……。って、徳さん、これケツとか乳首用じゃないっスか?!」

 

 徳さんが持ってきたオナグッズ、ホール系はまあそうかなって思ってたけど、それも量がすごい。未使用のだけでも2ダースぐらいありそうだし、よく見たらエネマ系とかディルド、アナルパールに乳首用の吸引器やクリップらしきものまで揃ってる。

 今どきのノンケって、このあたりまで手を出しちゃうんだって、オレ、変な声出ちゃったよ。

 

「へへ、ネットで色々見てたら気持ちよさそうなの全部買いたくなっちまってよ。ケツのはまだ怖くて使ってないんだけど、前立腺とか、かなりいいんだろ? 乳首のは最初痛かったんだけど、なんかだんだん感じるっていうか、びくびくって来るようになってきたかな。ここらへん、インポになって、もっと感じるのないかって探してて、見つけたんだ」

 

 センパイ、たぶんこんな話ししてるのとアルコールとで、絶対ハイになってる。

 それはオレも変わんないんだけど、後輩に嬉しそうにオナホールやディルド見せるのって、それ、もう学生のノリだろ?

 ただ、乳首やケツに嫌悪感無いって知れたのは、オレ的には大収穫なんだけど、それが中折れ解消には役立ってないってことの裏返しでもあるわな。

 オレ、ますますセンパイのインポ、精神的なことが原因なんじゃないかって思いが深くなってった。

 

「センパイ、徳さん。騙されたと思って、オレの提案、乗ってもらっていいっスかね?」

 

 オレ、自分の考え(っつーか、想像)が、すげえ自分に取って都合のいいことって分かりながら、センパイに提案することにした。

 一応、大学で心理学やってたときの古い知識だけど、ちっとはセンパイの役に立つんじゃないかってのはもちろんあってのこと。でも、それでも、かなりオレ得の話しなんだけど、センパイ、うんって言ってくれるかどうか。すげえ、ホントにすげえ、不安だったんだ。