俺と親父の柔道場

その7

 

「四の五の言わずに、もうさっさと始めちまおうぜ」

 

 俺、内心の動揺を見透かされないよう、声を出す。

 親父も同じ気持ちだったらしい。

 2人とも褌の上にそれぞれ身体に馴染んだ柔道着を身に付け、畳の上で正対した。

 

「師範代っ、お願いしますっ!」

「おう、お願いします!」

 

 声を出しての、稽古が始まった。

 

 準備・柔軟、足回し、受け身。

 道場に俺と親父、2人だけの気合いとバタンバタンという、うち付けの音が響く。

 回転と寝技対応まで一通りの動きを終えると、1月というのに2人とも汗が噴き出ていた。

 

「打ち込みからいくか」

 

 親父から声がかかる。

 打ち込み稽古は、実際に技を掛ける直前の動作までを身体に覚えさせる奴だ。

 掛ける方は組み手と引き掛けの正確さと、受ける側は引きや倒しの力を毎回受けつつ、正着を目指していく。

 

 手技から初めて、腰、足、捨て身、横捨て身。

 それぞれに幾つかの技があるので、それぞれ順番に10回ずつぐらいでやっていく。

 都合、150から200回ぐらい続けたかな。

 俺の後は、親父の掛けるのを受けながら、黙々とした練習が続く。

 

「次は約束で、掛け終わりまで。まずはお前が取りになって、30本。入れ替えで3セット!」

 

 約束、約束稽古。

 これは技の掛け手と受け手をあらかじめ決めておいてやる、練習のやり方の1つだ。

 取りは技を掛ける方、受けは技を受ける方。

 打ち込みと違うのは、技を最後までやりきる、つまり投げる投げられる、倒す倒されるところまでやるってこと。

 これ、掛ける方もだけど、受け側も20本投げられ続けるわけで、いくら受け身とっていても連続でやってくとかなりきつい。

 

「お願いしますっ!」

 

 打ち込み稽古と同じく、手技から初めて順番にこなしていく。

 この辺りは道場での普段の稽古でもルーチンになってるから、2人ともとまどうことなく進めていけるんだ。

 こちらが襟をどの部分で取ろうとするか、体重移動がどうなのか。受けの親父が瞬時に判断しながら、『意図的に技にかかってくれる』相手になってくれる。

 その度に、畳に身体全体を打ち付けられる受けのダメージを軽減するのが『受け身』って奴だけど、技をかける方、受ける方、双方ともに体力の消費もなかなかのもんだ。

 

「気合い入れろっ!」

 

 親父、いや、師範から檄を入れられる俺の方が未熟ってことなんだ。

 最後の5本はランダムで、俺から親父への挑戦状みたいなもん。

 それでも綺麗に受けきる親父。

 なんか、俺、すげえって尊敬と感動で、変になっちまってる。

 

「交代だ」

 

 息も整わないうちに、親父が掛け手で俺が受け手に。

 親父も俺と同じで型3本の5部位掛け。

 身長差がある分、もぐり込まれたときの撥ね上げの圧がすごい。

 あの『柔よく剛を制する』ってのは、誤解されてる部分も多いけど、デカいことだけでは勝てないってのは、よく表してると思うぜ。

 

「1セット、終わりだな」

 

 親父の攻めをなんとか受けきった俺。

 これを後2回は繰り返す。

 これだけでもう、中途半端な鍛え方だったら、ぶっ倒れちまいそうになる練習だ。

 

 俺も親父も全身から汗がしたたり、それがしみた柔道着が明らかに重さを増していた。

 畳に落ちた汗を踏みしめ、目に流れ込むそれを袖でざっと拭い上げる。

 

「固め技はどうする?」

「大きく体力使うのが目的だ。神さんの前では、投げを見せ合おうや。寝技は、稽古の終わり、精力分かち合いの始まりとして、最後にやるぞ」

 

 普通の稽古なら、いわゆる間接技、絞め技、寝技の掛け合いもしっかりやるんだけど、ここでは立ち技中心にいくみたいだった。

 寝技が最後ってのに、勃ったままの俺のチンポがびくんってなったのは、親父には内緒だけどな。

 

 俺も親父も息が上がってきてる。

 それでも、なんだか俺、親父と2人きりで稽古やれてるのが楽しくなってきてた。

 

「お願いしますっ!」

 

 何度も響く、俺の声。

 1本1本の技が、全部『きちんと』受けてもらえる。

 これって、柔道やってるもんにしか分かんない『快感』って奴かもしんない。

 

 剃り上げた頭から汗が落ち、目に入ろうとするのを頭を振って振り飛ばす。

 道着の下に締め込んだ六尺は、もうションベン漏らしたみたいに重くなり、正直、早く外したいって思うほどだった。

 

 3セットが終わり、乱取りになる。

 

 これは実戦と同じで、互いに相手を倒すまで自由に技を掛け合う稽古で、ある意味、頭と身体を高速で回転させなきゃならない練習だ。

 

 俺も親父も、ひたすら1本を取ろうと動き回り、牽制し、互いの隙を狙う。

 神経戦でもあり、俊敏さ、力強さ、粘り、すべてを出し切らないと稽古にならない。

 

「ありがとうございますっ! 次っ、お願いしますっ!」

 

 親父に1本決めた俺が、大声で叫ぶ。

 うちの道場では、投げた方、勝った方が負けた側に礼を言う。

 変なことかもだけど、爺ちゃんが決めたルールは、なんとなく俺はその意味が分かってるつもりだった。

 

 俺、柔道って、元々は相手を倒す、命を奪う格闘から始まったのかもしんないけど、居間ではそれを『道』って呼べるものにまで変えてきた、昔の人達の思いが詰まったもんだと思ってる。

 実際にはなかなか出来ないけど、練習した結果で勝敗が着くのは仕方無いけど、それでも勝ち負けに囚われすぎず、互いの肉体と精神を尊重したもんだと思ってるんだ。

 

「ありがとうございますっ! お願いしますっ!」

 

 俺の声が、親父の声が、何十回繰り返されたろう。

 もう、2人とも、ふらふらって感じになってた。

 

「よし立ち技はここまでだ」

 

 汗にまみれた親父が、ふっと呟いた。

 互いの消耗具合を観察した、親父としてもぎりぎりのところだったんだと思う。

 

「こっから先は、お前は初めて経験することになる」

 

 まだ寝技が残ってるけど、って思いながらも、親父に倣って正座する俺。

 

「少し息を整えておけ。『務めの香』を用意する」

 

 ああ、ついにそのときが来たんだなって、俺、思った。

 ここ数日で爺ちゃんや親父から『務めの香』について少し聞き出していた俺。

 親父の言う通り、ここから先は、俺、初めてだった。

 

「法事のときの焼香と一緒だ。この粉を一つまみだけ取って、炭の上にかけろ。すぐ煙が上がるので、顔を近づけて胸いっぱいに吸え」

 

 香炉と香入れを持ってきた親父が、説明する。

 葬式のときの焼香みたいに、煙が上がるのは一瞬ってことなんだけど、爺ちゃんの話だと、それを一息吸うだけで、もう一晩中効くって話し。

 

「怖いか?」

 

 親父が言った。

 

「ちょっとな……。親父も爺ちゃんもやってきてるんだろうけど……」

「吸ってみれば分かる……。といっても、やはり吸う前には分からん話だな。以前は毎日の『お務め』の前にも使っていたということだが、調合する知識ももう無くなっていて、ここ数代では『お役士渡し』のときだけ使ってるってことだ」

「爺ちゃんからも聞いたけど、それだけ効き目があるってことなんだよな」

「ああ、そうだ……。少なくとも、俺はそうだった」

 

 2人とも核心には触れないけど、分かってる。

 とにかくこの香の匂いを嗅げば、いや『聞く』って言うのか、もうその、やりたくてやりたくてたまんなくなるって話し。

 催淫剤に興奮剤、それに加えて勃起薬。

 最後の奴のことだったらもう2人ともおっ勃っちまってるけど、まあそんなのの、超強力な奴ってことだったんだ。

 

「俺が最初にやるから、しっかり見ておけ。2人とも香を聞いたら、すぐ寝技を掛け合うぞ」

 

 親父が胸の前に片手で香炉を持ち上げ、右手で一つまみの粉を額先に持ってくる。

 大きく息を吐いた親父の肩が沈む。

 香炉の真ん中の炭にかけるとふわっと煙が立つ。

 そこに顔を持っていった親父が、身体が持ち上がるような勢いで、大きく息を吸った。

 

「う、あああ……」

 

 天井を向いた親父から、声が漏れた。

 

「お前、も……、同じように、しろ……」

 

 何かを堪えてるような親父の声。

 香炉を受け取った俺が、同じ動作を繰り返した。

 

「あああっ、な、なんだコレっ……!」

 

 立ち昇った煙を肺に入れた瞬間、俺、全身の毛穴という毛穴が開いたような感じがしたんだ。

 足下と頭のてっぺん、両方から熱湯の膜をくぐり抜けるような感触が一気に広がり、道場の中のかすかな気配が耳に、鼻に、肌に直接感じられるに敏感になった気がする。

 いてもたってもいられない、というのはこういうことを言うんだと、はじめて『実感』した俺だった。

 

「堪えろ」

 

 何が、って言わなかった親父だったけど、言ってる意味はすぐ分かった。

 俺、もう、イきそうになってた。

 

「寝技、やるぞ。絞めと……、関節除いての、押さえ込み技だ……」

「あ、ああ……」

 

 親父がさっきよりかすれたような声で、俺に言う。

 俺、親父のこの言葉だけで、先走りがションベンみたいに出ちまってたんだ。

 この状態で親父と密着する。

 その意味が、俺、もう分かってた。

 

「あ……、うぐっ……」

 

 袈裟固め、肩固め、互いに掛け合い、逃れようと身をよじる。

 その度に、俺と親父から、交互に切ない声が漏れちまう。

 

「あ、親父、お、俺、もう……」

 

 上四方、縦四方、横四方。

 親父のはだけた胸が俺の顔に重なり、汗と体臭がこちらの身体に染みこんでいく。

 さっきまでは何とも思ってなかった親父の汗の匂いが、欲情をなぶりあげる炎のように揺らめいていく。

 

「お前も、だな……。俺も、だ……」

 

 2人とも褌で押さえつけてるとはいえ、互いの股間がごりごりと当たってるのが分かってた。

 普段は絞めない六尺を、なんで今日だけ絞めさせられたのかが分かる。

 単純に『危ない』んだ。

 

 俺、もう、ダメだった。

 親父の汗、表情、匂い。

 肌にあたる道着の感触、褌の中でぬるぬるとこすれあうチンポと金玉。

 力を込める毎に、手の、指の、足の、腰の、親父の動き全部が、俺に伝わる。

 その動きそのものが、生まれて初めて経験する壮絶な快感を伴ってた。

 

「親父っ、親父っ、俺っ、もうっ、もうっ……!」

「ああ、ああ、そうだ、ロク。俺もだ、俺もだ……!」

 

 俺も親父も、限界近かったんだと思う。

 思いの丈を、ついに口に出しちまう。

 さっきまでの俺だったら、ぜったい言わない台詞が口から出ちまってた。

 

「親父とキスなんて、キスなんてって思うけど、すげえやりたい、俺、親父とキスしたい」

「ああ、ロク……。俺もだ。俺もロクとキスしたい」

 

 これまでも部室や友達んちで、ネットのエロ動画見てセンズリの掻き合いとかまではやったことあった。

 でも、あれって、側にいる『奴』に興奮してたんじゃなくって『興奮してる』奴が側にいるってことで、『勃起があくびみたい移る』ってことだったんだと思う。

 

 今の俺は、目の前の親父に、親父の顔に、声に、匂いに興奮してた。

 親父の肉体そのものに、興奮してたんだ。

 

 もう、柔道の練習・稽古なんてのは頭からすっ飛んでた。

 とにかくこの肉体の内側を焼き尽くすような、やらしい、性欲の固まりみたいな何かを、とにかく親父にぶつけたかった。

 

 親父の顔が、近づく。

 親父とのキスなんて、考えもしなかった俺が、汗と唾液で濡れ光る親父の唇をしゃぶりてえなと思ってた。

 

「親父、俺、もう、親父とキスするぞ」

「ああ、ロク……。お前とキスするぞ。お前の唾液、俺に飲ませてくれ」

 

 親父の言葉で、俺のなにかがブチ切れた。

 俺、親父に襲いかかるようにして、その唇を奪ってた。

 

 親父の舌が、俺の口の中で暴れてる。

 歯を、歯茎を、親父の舌先がべろべろと舐めていく。

 俺も負けじと、親父の唇を内側から持ち上げるように舌先を差し込む。

 

 親父の唾液が俺の口中に流れ込む。

 俺も舌先に乗せた唾液を、親父の中に送り込む。

 わずかに苦みを感じる親父の唾液。飲み込むたびに喉すらが快感を感じる。

 

 互いの唇を離れた舌が、喉を、頬を、舐め回し、相手の顔中に唾液をぬりたくっていく。

 

「あ、すげっ、すげっ! 親父と俺、キスしてる!」

「お前のキス、すげえ感じるぞ。ダメだキスしてるだけで、イきそうだっ!」

 

 俺も親父も、イきそうになってた。

 実の親父とのキスだけで、俺、射精しそうだった。

 

「我慢ならんっ! 脱ぐぞっ!」

 

 そう言った親父。

 俺ももう、たまらず道着を脱ぎ捨てる。

 互いに六尺褌一丁になった身体から、さらに濃厚な汗と体臭が立ち昇っていく。

 

「舐めるぞ」

「うああああああっ!」

 

 親父が宣言したターゲットは、俺の乳首だった。

 べろりと舐められた瞬間、俺の喉からはよがり声が上がり、背筋が反り返るようにしてその快感を露わにする。

 

 乳首が、剃り上げられた脇が、親父の分厚い舌に蹂躙される。

 俺も溜まらず親父の脇に顔を埋め、濃厚なその芳香を浴びながらべろべろと舐め上げていく。

 汗が、唾液が、互いの全身を犯していくその様が、肌同士のぬるぬるとした触れ合いとともに快感を呼ぶ。

 

 親父のゴツい手が、いきなり俺の褌の前袋を掴み上げた。

 

「んんっ、ダメだって、親父っ! そんなことっ、されたらっ!」

「堪えろ、堪えろ!」

 

 親父が俺の耳元で囁く。

 その吐息がかかるだけで、俺の130キロを越す肉体がびくびくと反応する。

 

「向き、変えるぞ」

 

 親父がぐるりと身体を入れ替えると、前袋からはみ出しそうに張りつめた親父の股間が俺の目の前に来る。

 俺のチンポ、親父が布越しにまさぐってる。

 俺も、親父のチンポ、褌越しだけど、握っちまった。

 

「たまらん、もう、たまらん。しゃぶるぞ、いいな、ロク! お前のチンポ、しゃぶるぞ!」

「俺も、俺も親父のチンポ、しゃぶりてえ! なんでだよ、なんで俺、親父のチンポ、しゃぶりてえって思ってんだよ?!」

 

 もう、何がなんだか分かんなかった。

 目の前にある、膨らみ。

 そこからむわっと立ち上がる匂い。

 汗と先走りに濡れそぼった布に透ける、赤黒いその色。

 くっきりと段を刻んだ、親父の亀頭のでかさ。

 

 俺、もう親父のなにもかもが、欲望の対象になってた。

 親父の目を見りゃ分かる。

 俺自身も、親父の欲望の対象になっちまってた。

 

 親父の手が、前袋の横から差し入れられたと思ったら、俺の滾りきったチンポがぶりっと外に剥き出しになる。

 俺もまた、親父のぶっといチンポ、引き出しちまう。

 さっきよりもさらに濃厚さを増した匂いと体温が、俺の顔面を直撃する。

 俺の金玉まで引き出した親父が、荒い息を吐きながら、言った。

 

「いいな、いいんだな、ロク? お前のチンポ、親父の俺がしゃぶっていいんだな?」

「俺も、俺もしゃぶるからっ! 親父の、親父のチンポっ、しゃぶるからっ!」

 

 目の前にそびえ立った親父のチンポ。

 俺、本気でそれをしゃぶりたかった。

 親父が俺のチンポをしゃぶる。そう考えただけで、射精しそうだった。

 

「んんんっ! ぐうっ!!」

 

 互いのものを口にしたのは同時だったと思う。

 逸物に感じる体温と、裏筋を舐め上げる舌の動き。

 どこか喉奥に引き込まれるような吸引される気持ちよさ。

 相手から受ける刺激を次の瞬間にやり返し、どこか勝負めいたものすら感じる技巧の応酬。

 

 俺と親父、お互いのチンポを口にしたまま、ごろごろと畳の上を転がり回る。

 咥えきれない肉竿は、利き手で根元からシゴキ上げ、もう片方の手で腰が引けないように相手の尻肉をがっしりと掴む。

 のしかかられたときの親父の体重、上になったときの腹に感じる下からの圧。

 全部が気持ちよかった。

 全部が快感だった。

 

 この夜、最初の吐精の瞬間が、俺と親父、2人に迫ってきていた。