茶師慕情

序章

 

茶師・・・本来は中国伝来の言葉であり、お茶の専門家を指す。中国では現在国家資格として用いられ有資格者は非常に高い地位を得る。また、各々、文字通りの「喫茶」店や茶工場、また販売所には欠かせない人物として、茶作りの技術指導から、茶の飲み方、作法、選び方、味わい方など多岐に渡る知識を持つ。アルコールに比すれば酒を醸す杜氏とワイン選びのプロであるソムリエとを兼務した職とも言えるのであろうか。我が国においては、静岡、鹿児島、狭山など茶の各産地において、主に手揉みの技術を伝える技術者として多くの名も無き男達がその技術を相伝してきた。近年においては茶農家の庭先で手揉みを請け負う、実際の廻り茶師の姿も少なくなった。その技術の伝承は、生産農家や茶を商いとするもの達が中心となっている茶手揉み技術の保存会などによって行われる品評会の取り組みなどにより、連綿と続けられてきている。

 

殺青・・・「さっせい」と読み、茶葉を加熱することで植物内の酸化酵素の働きを止め、酸化発酵を進ませないために行われる。喫茶文化が伝わった時代の中国様式が蒸気での蒸し止めであったため、我が国では蒸しによる製法が発達継承されている。他に釜や鉄板での炒り作業にての殺青も現在の中国や九州地方などでは行われており、独特の香ばしさや爽やかさを好まれることも多い。

 

茶・・・我が国には中国から当初薬として伝わったこのツバキ科の常緑低木は、その葉の類い希なる艶やかさとともに、おそらく地球上の照葉樹圏=その木の栽培可能なあらゆる土地において、様々な喫茶文化をもたらすものだった。緑茶、紅茶、白茶、黒茶、青茶、黄茶、俗に言う烏龍茶など、一部のハーブティーなどを除くすべての「茶」は、遺伝子学的には同一の個体と見なされる「茶の木」より産出される。昨今の清涼飲料としての茶ブームは新しい動きではあるが、文化としての茶の日常生活への再浸透が進んでいくかは、ひとえにこれからの動きにかかっているのであろう。

 

文責 三太