雄志社大学柔道部

副主将の受難

その9

 

成果と結果

 

「おう、シバ、昨日は1年坊主どもに抜いてもらって、ぐっすり寝れたか?」

 

 柔道部寮の早朝、洗面所で一緒になった3回生の野村が、副主将の内柴へと声をかける。

 脂っ気は抜けたようだが、どこか気力まで置いてきてしまった副主将の様子に、野村の太い眉が少しばかり眉間の中心へと寄っている。

 

「で、シバ。結局お前、昨日は何発抜いたんだよ?」

「じゅう……」

「10回か! さすがに3ヶ月近く溜め込んだこたあ、あるなあ!」

「い、いや……。その、正確には16発だ……」

「なんだ、そりゃ?! 四捨五入したらもう20発になるじゃんか?! 今日からの合練、大丈夫なのか?!」

 

 今日は明友大学柔道部との今年2回目の合同練習の初日である。これからの1週間、再び両大学の柔道部が合同での練習や試合を繰り返し、それぞれの糧を持ち帰るためのものだ。

 

 前回の合同練習、団体戦で唯一の負けを味わった内柴が、その対策として肌鍛錬に費やした時間は膨大なものだった。

 初日を迎える昨夜は、これまでの禁欲に耐えてきた内柴のために、主将である古賀の直々の采配で、1、2回生達がこぞって内柴の肉棒に喰らい付き、溜め込まれた雄汁の抜きに専念したのだ。

 さすがに同学年の3回生のもの達は気が引けるのか、元の個室に戻された内柴の部屋を訪れるものはいなかったようだが、部員の肉体状況の把握も仕事の一つである野村にとっては、昨夜の狂宴の中身を把握しておきたかったのだろう。

 あれほどの刺激と禁欲に耐えた後の射精解禁がかなりの激しさを伴うことを予想していた野村にとっても、内柴が示した射精回数には驚いたようだ。

 

「もう無理だ、出ねえって言っても、下の奴らが入れ替わりでしゃぶって来るんだ。俺のもずっと萎えないまんま、最後はイッた感覚だけで、汁はほとんど出てなかったみたいだったがな……」

「それにしても、そんなにイっちまって、今日からの合練、大丈夫か? 身体のどっかが、強張ってたりしないか?」

「ああ、あいつら、俺に負担かけないようにって、とにかく口と手で上手くヤってくれてさ。腰も動かねえようにって押さえつけられてたから、ぜんぜんそのあたりの筋肉は使ってねえよ」

「といっても、射精そのものもどっかの筋肉使わねえとイケないはずだろ?」

「そこらへん、責めるあいつらも分かってやがって、どっちかというとシゴキでの射精で無くて、亀頭責めや乳首責め中心にヤられちまって……。『イく』って言うより『漏らしちまう』って感じでイかされまくったんだ……」

「乳首責めって、お前、まさか『それだけ』で、イっちまったのか?」

「あ、ああ、そうなんだ……。俺、俺、乳首だけで、イかされちまった……」

 

 内柴の告白に目を白黒させる野村である。

 

「亀頭責めはまあ俺も経験あるからさ、あの快感で漏らすようにイっちまうってのは分かんねえでも無いけどよ、乳首でって、お前、そこ、重点的に鍛えたんじゃないんかよ??」

「ああ、俺もそう思ってたんだが……。胸のあの『置き針』を外された後、ちょっといじられるだけで痙攣するほどに、俺、感じるようになっちまってたんだ……。

 最初は自分でも『そんなはずはねえ』って頭ん中では否定してたんだけど、最初にシール剥がした後の俺の反応見て、1年の奴ら、『乳首だけ責めてみようぜ』とか言い出しちまって。

 俺はもう、どうにかなっちまいそうな気がして、とにかく『止めろ』って言うんだが、何人もの奴らに押さえ込まれちまった。

 後はもう喚いてる俺の乳首がひたすら捏ねくり回されたり、舐められたりしてな。5分くらいだったか、もう、ああ、なんか上がってくるって思ったら、もうダメで、そのままビュルビュル、イかされちまって……」

「それ、古賀には話したのか?」

「言えるはず無いだろう。あいつは俺に刺激に強くなってほしいって、あの鍛錬を計画したんだ。その俺が、終わってみりゃ乳首でイかされる野郎になってましたって、言えるわけ無いだろう……」

 

 これが朝一に野村が感じた『どこか気が抜けたような内柴の様子』の正体だった。

 克服するための鍛錬が新たな弱点を生む。

 野村が感じたそれは、この矛盾した状況に気付いたゆえの内柴が感じた苦悩の表れだったのだろう。

 

「いや、お前はそう考えるだろうが、もともとはお前の弱点克服のためってのは分かってんだろう? だったらそこに対してだけは誠実でないといけないんじゃないか。お前から言いにくいのは分かるし、そこは主務である俺の役目でもある。俺から古賀や団体戦のメンバーに伝えるぞ、いいな? シバ?」

「あ、ああ、分かった。頼んでいいか、ノム……」

「それが俺の仕事だ。今日から合練じゃああるが、団体戦は毎回最終日だ。個々の練習や試合はやるだろうが、形になるのはやはり団体戦だろう。そこらへんも、みなで考えよう。あんまり1人で悩むんじゃないぞ、シバ」

「ああ、分かった。俺も会合に参加させてもらう」

「うん、それがいい。お前からも何か提案あれば、考えとけ」

 

 野村が古賀に報告し、それを受けて昼前には幹部学年と団体戦メンバーによる会議が始まる。

 

「午後には明友の連中も揃うはずだ。それまでにちょっと打合せをしておこう」

 

 1週間にわたる合同練習では様々な取り組みが両大学の学生間で行われる。

 互いに階級の同じもの、近いもの同士での練習はもとより、体力強化のためのトレーニング方法の交流や、最終日前日での懇親を兼ねた食事会など、ライバル校ではありつつも互いの部としての運営方針などの相違はいったん置いて、あくまでも『親善と協力』が題目とはなっている。

 学年毎の交流や階級による練習のスケジュール、武道場使用のローテンションなど、前日までの合同幹部会での打合せについて古賀からの報告を受け、幹部学年である3年生が役割を分担しながら仕事としての任務を割り振っていくのだ。

 同県内とはいえ地域に一定の距離があるため、前回は明友大学を中心とした合同練習が、今回は雄志社側での持ち回りということもあり、当日までの準備はそれなりに忙しいものだった。

 

「合練そのものの段取りは確認出来たかと思う。で、野村から提案があった内柴の件についてみんなと意思統一を図りたいと思ってる」

「どうしたんだ? 昨日までのアレが、なんか良くなかったってか?」

 

 古賀の話に敏感に反応したのは団体戦のメンバーには選ばれていないが、内柴と同階級、66キロ級の三回生、丸山幸四郎(まるやまこうしろう)だった。

 寡黙で目立たないタイプではあるが、幹部学年としての責任感は強い男だ。

 

「マルの言うことが半分当たってるんだ。昨夜、シバの溜まってたザーメン、主に1年の連中に思い切り抜かせてたときに分かったことらしい。

 まずはこれまでの鍛錬の成果として、シバ、お前、逸物を刺激されることには前より耐えれるようになったって話なんだよな?」

 

 古賀が内柴の返答を、その視線で促してくる。

 

「……ああ、おかげさまでって言うか、なんなんだかだが、昨日、5、6発抜いたあたりで1年の奴が言うには『シバ先輩のチンポ、前に比べて尺八だけでイかせるのには時間かかるようになったっスよ』ってことだった。

 俺自身も、前みたいに握られたり亀頭を胴着で擦ったりしただけでイっちまったりとかは、たぶん大丈夫だと思う」

「まあ、あれだけの刺激色々受け続けてイくのを堪えさせたんだ。そのくらいの我慢が効くようになってもらったのは、当たり前か、御の字か、だな」

「だったら鍛錬の成果、ばっちしってことじゃねえかよ。他になんか、アレで困ったことが起きたって言うんか?」

 

 当然の疑問を口にするのは、100キロ超級でも部内最重量を誇る斉藤だ。

 内柴が一瞬、下を向き、唇を噛んだ姿を主務である野村が見逃さなかった。

 

「それは俺の口から言おう。本人からだと、言いにくいようだ」

「だから何なんだよ。俺達みんなの前で言うってことは、けっこうデカい問題なんだろ?」

「ああ……。この間の鍛錬で、内柴に対しては全身の肌を鍛える、特に敏感な股間や乳首は重点的に責めを強くして、刺激に耐えうる状態にするってのが基本だったわけだ」

「そりゃみんな、分かってることだろう。あれだけ色々グッズも揃えてやってたワケだし、正直、下の連中や俺達の中でも、あんなに焦らすんじゃなくて、一気にイかせちまって汁飲みてえって思ってた奴だっていたはずだ」

「ああ、それはそうなんだが……。今回の取り組み、内柴の弱点を克服することで、部全体の勝率、団体戦の勝率を上げることを目標としていたわけだ。だが、内柴からの深刻で、逸物や金玉についての感度は鈍くなったらしいとのことだが、実は別の弱点が生じちまったらしい」

 

 その場の3回生が、一斉に顔を見合わせる。

 

「どういうことだ?」

「ぶっちゃけ、置き針やら筆、歯ブラシなんかでかなり内柴の乳首を責めたろう。もちろんもともと感じやすいからってことだったからやったことではあるが、チンポや玉と違って、乳首に関しては逆効果になったらしい」

「逆効果って、前よりも感じやすくなっちまったってことか?」

 

 81キロ級の吉田が、頓狂な声を上げる。

 

「ああ……。内柴からの報告だと、昨日の夜、1年坊主に乳首を責められただけで、それこそチンポには指1本触れられずシゴかれずなのに、雄汁、噴き上げちまったそうだ……」

「それって、大変じゃんか。乳首だと、寝技もだが立ち技のときに締められながらだと、胴着との擦れもあるぞ。それでイっちまうなんてことになったら、審判も危険行為って判断するかもしんねえし」

「ああ、そうだよな……。あの人達も経験者ばかりだから、ナニが起こったかなんてのは近くにいたら丸分かりだろう」

「どうすんだよ、俊彦もシバも、悠長にしてる暇なんて、無い話だろう??」

 

 主将、副主将である2人よりも吉田や斉藤の方が焦ってすらいるようだ。

 

「……朝、ノムからこの話し聞いて、ホントかよって俺も思ったんだ。で、試しってことで俺とノムの2人で、シバの乳首責めてみたら、マジでこいつ、イきやがったんだよ……」

 

 古賀の話しを聞いた内柴はうつむき、他の部員達もまた、驚きの顔を隠せない。

 

「それって、シバ。マジもんで乳首だけでイっちまうような身体になったってことなのか?」

「あ、ああ……。俺も昨日の夜は3ヶ月も溜めてたせいだろうって思いも少しはあったんだが……。さっきのことだ。俊彦に右舐められて、ノムに左を指でやられて、俺、それだけでもう、マジにイっちまった。

 俺、俺、どうすりゃいいんだよ……」

 

 頭を抱える内柴に、声をかけるものはいない。

 

「どうすんだよ、シバ、俊彦? これ、結構ヤバいんじゃないか? 合練はまあお祭りみたいなもんだが、インターハイや国体含めても、時期的にまずいだろう?」

 

 吉田の疑問はもっともなものだった。

 一応の話しは古賀と野村、内柴の間でも済ませていたのか、古賀が話し始める。

 

「正直、この段階での対応策といっても俺も思いつかなくてな。一応、射精の感度を下げるって意味で、合練中もシバには下の学年のを2人つけて、朝と昼に2発ずつ、イかせておくことにする。股間については寝技に入ってからの刺激になるが、胸となると襟袖の取り合いや回転伴った引き技で刺激が続いたりするのがヤバいと思っての判断だ。一応はそれで、練習や試合中の射精はそれなりに回避出来るかと思う」

「そりゃそうだろうが、シバのスタミナはそれでいいんかよ。それって、夜は夜で、何回か抜くの前提の話だろう?」

「ああ、その通りだが、組み合ってる途中でイっちまうよりはマシってことで、シバも納得してることだ」

「シバが分かってそれやるってんなら、俺達が口出し出来るわけじゃねえけど、それでもなんか、他にいい方法とか無いのか、俊彦? 今日は初日だ。毎回、初日の顔合わせは、それこそ全員総当たりの乱取りから始まるんだろう? シバが敏感性ってのは割と知られちまってるんだ。乳首がそうってのはまだだろうが、もう、その時点でヤバくないか?」

 

 冷静になった吉田の文責は実にまっとうなものだった。

 ある程度の段階で内柴の敏感な性質については、近隣の学校では知れ渡っていると言っていいだろう。その中で一定の戦果を上げてきている内柴の力量がすごいものではあるのだが、よりその乳首の敏感さが増しているとの情報は、寝技以外の場面でも内柴のアドバンテージがより少なくなることを意味していた。

 

「まあ、とにかく長い目で見る対策はゆっくり考えていくしかないだろう。で、吉田が言う通り、今日の午後はさっそく全員総当たりでの組稽古だ。

 これはもう、正直一度でもイっちまったら退場させないと危ないって状況になっちまうと思う。そうなりゃ、明友の連中もナニゴトだって色めき立つ。

 そこでだ、さっきの話しじゃないが、まずはここにいる俺達で、シバの雄汁、何発か搾り取っておこうと思うんだが、どうだ、みんなは?」

「まあ、そんなこったろうとは思ったが、俺は異論はねえぞ。それこそ何発でも、しゃぶってやるからイっちまいな、シバ」

「俺もいいぜ。手でも口でも、好きな方使って、好きなだけイきやがれ」

「まあ、合練前にシバのを飲むなんてのも、験担ぎになるかもな。相撲じゃないが、なんたって白い汁だ」

 

 話しの途中から、もしかしてそのような展開かもと読んでいたものも多かったのか、普通だと驚きをもって迎えられようはずの古賀の提案が、意外にもあっさりとその場を通過していく。

 

「じゃあ、決まりだな。シバ、入部してすぐ、先輩達にシゴかれたときみたいに、そこで仁王立ちになって、頭の後ろで手を組んどけ。俺達が交代で、お前の汁、抜いてやっから」

「ああ、すまん、みんな……。正直、昨日16発抜いてもらったんだが、一晩経ったらまたすんげえ溜まった気がしてるんだ。さっき、俊彦とノムに乳首やられて1発イッたけど、これじゃ絶対また噴き上げちまう。申し訳ないが、よろしく頼むぜ」

「応っ、任せとけっ!!」

 

 内柴の危機に対し、別な意味で同学年の部員達の結束は強まったようだ。

 手で口で、幾度も内柴の肉棒からの白濁液を受け止める男達もまた、どこか嬉しそうな気配を感じていたように古賀には思えた。

 そして、古賀もまた、己の肉棒を隆々と勃起させ、その先端からはとろとろとした先走りを流しながら、内柴の肉棒に奉仕したのだ。

 

 ここで10発近く抜かれた内柴は、なんとか合同練習の初日をクリアすることになる。

 3回生と組み合った明友大学の部員が、妙に生臭い練習相手の口臭に気が付いていたのもまた、事実であったが。

 

 当初、朝昼夜、2回ずつの射精で対応出来るとの古賀の読みは外れたらしい。

 内柴の射精への要求は日に日に高まり、団体戦が行われる予定の最終日前日、懇親会を終えたその夜には、禁欲からの射精解放日となった16発に迫る射精に至っていた。

 

 それでも最終日、前回と同じく団体戦へと臨んだ内柴に対し、合同練習中の異変に相手選手もまた気付いていたのだろう。

 立ち技の段階でさんざん襟袖の攻防で刺激された内柴の乳首は、寝技に入りこまれ、さも偶然を装ったような相手選手の指先が触れた瞬間、その股間から柔道着をも濡らすほどの吐精をしてしまっていた。

 内柴に与えられた試練は、その成果と結果を、鍛えられたその肉体に刻みこんだのだ。

 

 あるいはそれは、本来の問題である内柴のためになったかと言えば、違った結果となったのかもしれない。

 だが、そこには少なくとも同じ部員である内柴に対して、『なんとかしなければ』という同世代の者達の思いは確かにあったのだ。

 もちろん精力性欲溢れた部員達の中には、それこそ自らの下半身のための欲望のためにその『行為』に加わった者も、あるいは日頃の秘めた感情の発露の場として加わった者も、それぞれいたには違いなかった。

 少なくとも同じ学年の部員にとっては、なんらかの解決を望んだものではあったのだ。

 

 そしてそれはまた、雄志社大学柔道部の一つの伝統となって、後進のものたちへと伝えられていくのだろう。

 1人はみんなのために、みんなは1人のために、という、あのスポーツの名言にも通ずる『それ』は、屈強な男達同士による友愛行為をも承諾・内包していくものとなっていったのだった。