祭りの後、その夜

その1

 

「浩平も、権立(ごんだち)はお疲れさんでしたなあ。

 なんもかんもこっで済んで、よおよこしほっとしたろなあ。

 青年団も祭りば終えち、もう色々よかごつなったけん、月末の月待ちんとにも来て楽しみなっせなあ」

 

 良さんが祭りの直会(なおらい)で焼酎を勧めながら言ってくる。

 

 正月も明けた先週から一週間、村の公民館を兼ねた若衆宿に籠もっての「七日籠もり」と呼ばれる神事の準備と、今日の昼間に行われた「ウマレキヨマリ」の儀式は、いずれも女人禁制の中、男達だけで執り行われた祭りだった。

 過疎化対策のため地域での営農を条件とした外部入村者第一号として、昨年秋口にこの村に来た俺が、初めて地域の祭りで担った大役は、「白沢さんの祭り」と呼ばれる籠もりと擬死再生、巨石信仰と修験道を元とした儀式での「権立」という、まさに祭りの主役とも言えるものだったのだ。

 

 通常であれば成人を迎える世代が担うはずの「権立」という役目は、七晩になる籠もり神事の中で、世話人一同となる村の青年団の男達の手により徹底的に俺の体内における穢れ=男としての証=精液を搾り取られてしまう。

 日に三度の吐精は当たり前とされ、多いときには八度にも及ぶ射精が、男達の手で、あるいは口で誘われ、全裸で過ごさねばならない俺の肉体を嬲り上げる御幣(ごへい)へと汁を吸わせていた。

 籠もり最後の七日目の夜にはウマレキヨマリの事前段階として、5人の男達の精を自らの尻を差し出して受け止める。

 祭り最終日である本日早朝から行われたウマレキヨマリの神事では、産道に見立てた白沢さんと呼ばれる巨石の間をくぐり抜けることで、この世に改めて生まれ来ることを皆に示す。その後、祭りの世話役たる当屋(とうや)の任に当たっていた青年団長の良三さんの逸物を尻肉で慰め、その精汁で腹を満たした。

 最後には男達全員が褌を外し、全裸で横たわった俺に次から次へと白濁した雄汁を浴びせかける。男達の精汁のむせかえるような匂いに包まれながら、俺自らが自分のものを扱いて吐精することで、祭りの幕は下りたのであった。

 

 

 俺は田山浩平36才。

 過疎化の進むこの村の定住促進事業に運良く当選し、昨年の秋口に入村したばかりの村民にとってはいわば新参者だ。

 村が用意してくれた住居や田畑もあり、10年間の定住後には権利も自分のものとなるというシステムに申し込んだ俺に、抽選の神さまが微笑んでくれたらしい。

 入村前の手続き中に役場からの紹介で、独り身の男達で構成される青年団の一員に加わることになったのだ。

 

 村の青年団は俺を入れても7人しかいない独身者の集まりである。祭りや地域消防組織、村の様々な行事や苦役には欠かせない集団であり、村の主産業でもある農林業の一番の担い手でもあった。

 とりわけ団長の良三さん=良さんと、俺の3歳年上で団の中では一番年の近い信治さんは、不慣れな俺の百姓仕事を何くれとなく手伝ってくれもし、祭でも中心となって世話をやいてくれていた。

 

 祭りの日程を本日昼前にはすべて終え、湯浴みをして身体の疲れを落とす。当屋を務めた良さんと権立の俺は少し休んでおけと言われ、数時間ではあったが宿の少し狭い部屋で仮眠を取らせてもらう。

 残りの連中は籠もりの会場となった若衆宿全体の片付けや、夜の直会=打ち上げの準備にかかっていたらしい。

 夕方前に良さんとともに宿の大広間に来てみれば、籠もりの間には摂ることの出来なかった肉や魚も含めての宴会料理が並んでいた。部屋のあちこちに置かれたストーブと座卓毎に用意してある鍋物のカセットコンロで、防寒着や上着を取りシャツとズボンだけの姿になっても過ごせる室温になっている。

 

 以前に祭の当屋や権立も務めたのであろう村の古老も幾人かの顔が見えたが、乾杯や最初のビールの取り回しが終わるとすっと場を離れて行くのが分かった。

 毎年のことでもあり、祭りそのものの運営を担った青年団だけにした方が、なんの気兼ねもなく飲めるだろうとの年寄りなりの気遣いだったのだろう。

 開式から一時間も立てば、広間に残っているのは青年団の連中だけとなる。

 

 この一週間を宿にて寝起きを共にし、権立の俺に至っては下帯一つ身に付けることすら許されず、みなの眼前に素っ裸をさらして過ごしてきたのだ。

 俺の精液を抜きまくることが目的だったとは言え、他の団員達も幾度も互いの手と口で雄の印である汁を飛ばしあっていた。

 当屋を務めた良さんだけは、七日に及ぶ籠もりの中で独りだけ吐精が許されず、最後のウマレキヨマリの神事にて初めて俺の尻穴を穿ち、一度も抜くことなく4度の吐精を果たしたのだ。

 仲間内の気楽さと存分に暖められた室温に、俺も含め皆がズボンやシャツも脱ぎ捨て、祭りの際には締め込んでいる越中や六尺褌一丁の姿になっていた。

 

 

 先ほどの良さんの話は、青年団の連中が毎月の晦日にこの直会の会場である若衆宿に集まり眠らないように互いに気をつけながら皆で朝まで過ごすという、月待ちの行事への誘いだった。

 これまでも毎月末に若衆宿で青年団の連中が集まっている、とは聞いていたのだが、昨年のうちは自分自身も入植後のあれやこれやで忙しく、周りからも白沢さんの祭りが終わってゆっくりしてからでいいぞと言われてきていたのだ。

 

 男衆だけで集まり、一晩寝ずに皆で過ごす。

 これだけを聞いていたときには、地方によくある庚申講(こうしんこう)が月例の懇親会に変化したよくあるもの、ぐらいに思っていたのだ。

 

 学生時代に民族学でもかじった覚えのある「庚申講」とは、二ヶ月に一度訪れる庚申(かのえさる)の日に、人の身体に住まうと言う「三尸の虫(さんしのむし)」が眠っている間に身体を抜け出して閻魔大王に悪事を告げぬよう、一晩中起きて過ごす、というものだったと思う。

 庚申信仰、庚申講そのものは現代でも懇親会や宴会などの行事へと趣を変え、集落の中に根付いている地域も多いのだ。

 月末に集まりがあるという話を聞いたときには、てっきりその類のものだとばかり考えていたのだった。

 

「籠もりのときに色々聞いたんですが、確かに一度白沢さんの祭りを経験しとかなかったら、ちょっと引いてたかもですね。

 聞く前まではてっきり夜通し宴会してるのか、ぐらいに思ってたんですが、眠らずに団員全員で一晩中ヤりまくってるなんて、びっくりでしたよ。

 まあ、今ならもう十分に楽しめる気もしてますが」

 

 この一週間の籠もりの間、男達の手や口で何十回もイかされ、あまつさえ最終夜を迎えた昨夜は良さんを除く男達全員に、そして今日行われたウマレキヨマリの儀式では、良さんの逸物を尻に受けるまでのことが行われたのだ。

 男達の指や舌で七日七晩かけて少しずつほぐされてきていた俺の尻穴は、初めての行為ではあったがさほどの痛みを感じることなく男達の汁を尻穴奥深くで受け止める。ふぐりの裏側あたりを男達の張り詰めた亀頭で突かれる度に、そのあまりの快感に自分も何度となく埒を上げた。

 今日のウマレキヨマリの儀式では、一週間溜めに溜め込んだ良さんの硬く勃ち上がった肉棒を受け入れると、尻肉に良さんを納めたままさほど扱かれもせずに、2度もイってしまったのだ。

 

 学生時代の寮生活で男同士のせんずりの掻き合い程度は経験していたとはいえ、白沢さんの祭りにおける七日に渡る籠もりとウマレキヨマリの儀式は、俺の中に眠っていた同性への性的な指向を完全に決定付けたのだろう。

 お湯割りの焼酎と暖房の効いた室温にすでに褌一丁の姿になっている男達の半裸体に、ここしばらくであれほどの射精を重ねてきたはずの俺の股間が、また頭を持ち上げ始めてるのだ。

 

「今日の打ち上げは浩平もおっ達もさすがに昨日今日できつかし、なんかあっと神さんにも悪かし、酒も入っとるけん夜中にはお開きにするて思うばってん、月待ちんときはそれこそ朝まで酒も飲まんで一晩中すっけんな。

 たまには青年団ば上がった上のもんも顔出してやらすけん、色々面白かこつもしてみよるけん、浩平も楽しみにしとってはいよな。

 別に水かぶったりはせんけん、普通にして来っとよかけん。

 ああ、ただよかなら褌ば締めてきなっせ。六尺でん越中でん、どっちでんよかばってん、いやらしか方が良かて思うとなら、六尺褌の方がよかかん知れんなあ」

 

 良さんの言う月待ちの行事には興味津々なところもあるのだが、さすがに七日に渡って何十回も強制的な射精を繰り返し、疲れが溜まっていたはずのところへのアルコールには敵わなかった。

 良さんの話の通り、この日の宴会は夜の内に打ち上げになり、別な意味での互いの親交を深める行為が始まると思っていた俺にはいささか拍子抜けに終わった。

 日付もまだ変わらぬうちであったろう、俺は一週間振りに村が用意してくれた一人住まいの我が家へと戻ることになったのだ。

 

 お疲れさま、よく頑張った、よくぞ大役を果たしてくれたと、何度も焼酎を勧められ、場の雰囲気からも自分自身の思いからも、断るなどということをするはずもなく飲んでいた割には、信治さんに肩を借りるぐらいの酔いで帰り着けたのだ。

 

 このまま一週間人気(ひとけ)の無かった部屋で一人寝るのもどこか心寂しく、送ってくれた御礼も兼ねて信治さんを招き入れる。

 

 冷えきった部屋のストーブを着け炬燵を入れる。とろりとした酔いで動きの鈍い俺に代わって、信治さんが茶まで煎れてくれる。

 座ったままの俺も、燃え盛るストーブと炬燵、暖かい茶の一服にようやく人心地がついた感じだ。

 

「ホントに浩平も、ようがまだしたたいなあ。

 街におったもんにはたまらんかったろばってん、ここじゃこぎゃんして身内になっていくとが普通だけん、勘弁してはいよな」

 

 おっとりとした信治さんの言葉に、俺が答える。

 

「なんで信治さんが謝るんですか。

 俺、やっとこれで村に受け入れてもらえるんだなあって、すごく嬉しかったんですよ。

 一週間であれだけ射精出来たのだって、なんだか男としての自信になったし。

 良さんや信治さんに扱かれたりしゃぶられたりしても、本当に嫌だったら勃たなかったって思います。

 たぶん俺、こういうのにどっか憧れとかあったのかも知れないですね……」

 

 やはり酔いのせいか、自分でも少しくどくなってる気がしていた。

 いや、学生時代の青臭さがまたぞろ頭をもたげてきていたと言うべきだったのかもしれない。

 

「そぎゃん言うてもらうとおっ達もよかこつだったては思うばってんな」

 信治さんがにっこり笑ってくれるのが何より嬉しかった。

 

「今日だって宴会の後にまたみんなでヤるんじゃないかって、ちょっと期待もあったんですけどね。

 俺がちょっと酔いすぎちゃったのかなあ……」

 我ながら一週間ですごいことを言うようになったなと思う。

 

「そぎゃん心配はいらんこったい。

 もともと、籠もりの間に浩平の汁ば抜きまくるとが目的だったっだけん、そっの終わった後にまたイくとかなると、祭りのうちに全部出しとらんかったつか、そら神さんに失礼かろもんってなるどたい?

 そぎゃんこつのあるもんだけん、毎年の終わった後の打ち上げは何もせんでお開きにすっとたい。

 まあ、浩平もだろばってん、おっ達も疲れてはおっとばってん、まだどっか身体のあちこちの火照っとる感じのしてな。

 みな独り身だけん、それぞれん家で別のもんと色々すっとはあるばってんな」