岐跨村の男達

その2

 

秘薬

 

 予め儀式の手順は昼間にも打ち合わせていたのだろう。

 一礼した重吾は雷蔵に背を向け、上体を床に伏せるよう倒して膝を立てれば、縦横厚みのある腰肉と思わず顔を埋めたくなるような尻肉の双丘が雷蔵の眼前に掲げられる。

 昨夜は暗黙の了解があったかのごとく、村の男達が誰一人として触れることの無かった重吾の尻穴が、雷蔵の目の前にくすんだ色皺を曝すこととなった。

 

 いつの間に用意したのか、雷蔵の手には高さ四寸ほどの容器が乗せられている。白い器を満たすのは茶色い軟膏のようだ。

「合わせ香だけでもこれまで感じたことの無いほどの愉悦であろう。香を聞くのは主に男に取っての『前』に効くものでな。昂ぶらせた気を今度は『後ろ』でも感じるようにするのが次のモノだ。これより重吾殿の尻穴に、神代秘伝の膏薬を塗り込める。これは掻淫膏(そういんこう)と言い、棒達の者が普段より家にて煮出して使っている海藻のぬめり汁に、芋茎(ずいき)のぬめりと蟾酥(せんそ)、黄耆(おうぎ)をはじめとした幾つかの薬を溶かし込んだものを、さらに煮詰めたものだ」

 

 人差し指と束ねられた薬指が、重吾の菫色の窪地の周りに軟膏を塗り付ける。

 すでに後口を相棒の肉棹を受け入れるものとして鍛え込んでいるのはこの村の男としては当然のことではあり、雷蔵の弄る入口もそれなりの快感は得ているが、何か薬効に依るような変化は感じられない。

 重吾の沈黙に自らも三年前に同じ疑念を抱いたのを思い出したのだろう。

「中に入れてからが本番だ」

 雷蔵が重吾の声無き問いに答えた。

 

 若い重吾とて棒達として既に10人以上の男達との生活を繰り返してきている。当然その尻穴も幾度となく相棒の肉棹を受け入れ、あるいは自らも相手の尻肉の締め付けに堪えきれず、数え切れないほどの雄汁をその粘膜の窄まりの中へと放出してきた。

 今更、指ほどの刺激でひるむはずも無いのだが、神代として迎える初めての行いと、雷蔵が呟く薬物の効き目に少しばかりの怯えが出てしまうのは仕方の無いことだったろう。

 たっぷりと淫膏を乗せた指が、重吾の中に差し込まれる。粘膜に覆われた肉筒をぐるりと指先が捉えた後、一度抜かれた指が再び膏薬を乗せて尻穴の奥深くに埋没する。体温で溶けた膏薬はさらにぬめりを増し、じっとりと腸の内壁に染み込んでいくようだ。

 ゆるゆると出し入れを繰り返す雷蔵の指の動きに、重吾が尻穴での快感を覚えようとしたそのときだった。

 

 とくん、と重吾の心臓の響きが跳ね上がる。

 

 尻肉にいつにもない温感は感じていた重吾であったが、ようやく薬効がその巨体全身へと回ったのだろう。

 頭頂から薄い熱湯の幕をくぐり抜けるかのような感覚に全身が包まれる。

 

「あっ、これはっ、あ、熱い・・・」

 

「まずは心の蔵の鼓動が早くなり、全身がカッと熱くなる。これは蟾酥の効能だ。その後に今度は全身の力が抜けたようになり、その身に触れる物の感触がいつもの何倍にも感じられるようになる。こちらは黄耆が全身の血の道を広げるせいだ。蟾酥と黄耆が同時に効くと、お主は尻穴をほんの少しくじられ、肉棒を一擦りされるだけで、あるいはその肌を手のひらで触れられるだけですら、全身にこれまで味わったことの無いような快楽を感じることが出来るようになる」

 

 雷蔵は秘薬の効能を説き聞かせているはずなのだが、全身を襲う生まれて初めての感覚に、重吾はすでに困惑していた。

 

「ら、雷蔵殿っ、尻が、尻の中が、熱くて痒い・・・。指が入り口を擦るだけで、もうたまりませぬ」

 

「こればかりは初めての感覚よな。お主がこれまで神代と交合していた際、わしらは皆この尻穴の熱さ痒さを保ちながらお主の棹を受け入れておったのよ。ここに今からわしの棹を突き入れるが、それがどれほどの心地よさか、想像するだけでも漏らしてしまいそうになるだろう」

「雷蔵殿も、五郎太殿も、このような身の内の熱をお抱えでの行為だったとは、知りもしませんでした。こ、これではまさに、入れられただけで何度でも噴き上げてしまいます」

「今宵は重吾殿の初試しじゃ。わしの肉棹をたっぷりと味わい、その玉を涸らすほどに汁を飛ばされよ」

 

 重吾がその夜、雷蔵の八寸では足りぬ太棹を受け入れ、汁を漏らした回数はゆうに二十を越えた。

 その間、雷蔵はその逸物を一度も重吾の尻穴から抜くこともせず、自らも二桁に至るほどの埒を上げたのであった。

 

 

木賊(とくさ)

 

 神代の一日は、早朝から始まる。

 午前4時の起床、井戸での水垢離は季節に関係無く、厳冬期にも続けられる。

 水垢離の後は暖を取ることも兼ねた一度目の奉納射精を行い、神前に捧げる。

 互いにささら竹を手にし全身が真っ赤になるまで打ち据えるのは、嗜虐指向のある村人のどんな要求にも応えることの出来る肉体作りにほかならない。

 

 午前中は主に山に入り、薬酒薬香用の原料を採集する。いかり草や山大蒜、野蒜といった民間薬でよく見かけるものから、香薬木、茸類、動物性の物では猪の肝、胆嚢と睾丸、爬虫類、両生類の性腺・耳腺など、季節季節に採集内容も決まっている。深い山間ということもあり、かなりの知識と体力が必要となるものであった。

 午後は特別なことが無ければ社殿で薬酒や薬香の精製や、サキのモノから教授される性技の修得に励むこととなる。

 夜ともなれば村の男達の個別の処理を一手に引き受ける。

 村人との様々な形態での肉体接触が終了し、社殿の灯りを落とす前になり、その日最後の儀式が二人の神代を待つ。

 

「床に就く前、最後の儀式がこれより始める胸と亀頭の錬磨となる。最初はこれが一番の苦行となるゆえ、心して迎えよ」

 重吾が籤によりアトのモノとして選ばれ、三日目の夜だった。

 雷蔵は薄い木箱から縦横一寸ほどだろうか、薄茶色の四角い薄板のようなものを取り出した。

 

「雷蔵殿、それはなんでしょうか」

「開いて切り揃えてあるので分からぬと思うが、河原によく生えておる木賊(とくさ)の茎を灰を入れた湯で煮て乾かしたものだ。柱の艶出しや年寄りが瘤となった爪を削っているのを見たこともあるだろう」

「言われてみると、細工師がよく使っていたとも思われます。それを如何様に使うのですか」

「こればかりはやってみないと分からぬか。かなりの痛みを伴うものだ。覚悟して臨めよ」

 

 雷蔵は薄い布団に重吾を寝かせ、まずはこちらからと、手に取ったぬめり汁を重吾の両乳首に塗り付ける。

 これは棒達の各家にも常に用意されているもので、主に尻穴を使った情交や互いに手で気をやるときに用いられていた。美袴村から譲り受ける海藻を用いたぬめり成分を使うもので、指先に一掬い乗せた分量でも尻穴を滑らかに潤し、擂り粉木ほどもある村の男達の太棹を受け入れるための潤滑剤となる。

 精力旺盛な若者の身体ゆえか、これまでその部分にも相棒からの刺激を幾度となく受けていたせいか、重吾の椀を伏せたような逞しい両胸の先端が、見る間に幾ばくかの血を集めたように小豆ほどに膨らんだ。

 

「この後はそれなりの痛みを受けることとなる。覚悟されよ」

 雷蔵が木箱より一枚の木賊片を取り上げる。片手の二指で摘まみ上げた重吾の突起は、垂らされたぬめり汁が艶やかに光っていた。

 雷蔵は乳首の先端に木賊をあてがうと、蛞蝓の歩む速度ほどの慎重な指捌きで、重吾の右乳首を薄い紙ヤスリのような一葉で擦り上げた。

 

「うぐっ、あぁぁぁっ」

 途端に上がる重吾の唸り声が、社殿に響き渡る。

 垂らされたぬめり汁にて刺激の内の幾分かは和らげられているのだが、爪や木材ですら磨き上げるほどのヤスリにも似たその木賊の表面が、充血した乳首の先端を薄く削るのだ。

 

「堪えよ、堪えよ!」

「うぎぅぐぐぐ・・・」

 重吾も何とか堪えようとはするのだが、生まれて初めて味わうその強烈な痛みは与えられる部位の狭さ小ささ故に、鮮烈なものだった。

 

「これを毎晩、両の胸に血が滲むまで互いに擦り、その後は主殿の男の中心、亀頭も同じように行うのだ。こちらは今の痛みより遥かに耐え難いものだが、半年もすれば胸も肉棹もその皮を厚くし、一年も経てば更に激しい刺激を心待ちにするようになる。今はただ、わしを信じて堪えることだ」

 

 見れば神代として三年を越した雷蔵の両乳首は、熟れた野苺のように膨れ上がり、風が当たるほどの僅かな刺激でさえ全身が快感に仰け反るほどの成長を見せている。

 六年の任期を終える頃には歴代の神代は皆、己の肉棒には触れることさえ必要とせず、乳首を両の指で揉み上げられるだけで精を漏らすほどの鋭敏さを獲得するのだ。

 

「こ、これを亀頭にも行うなど、私は耐えきれるでしょうか・・・」

 胸の痛みに耐えながら漏らした重吾の言葉は、本心であろう。

 

「しばらくは夜も寝れぬほどの疼きがあると心得よ。されども鍛錬を重ねることで、その痛みは己の悦楽をより一層深いものとなす。休む前には痛みを軽くし、傷の治りを進める汁も塗るので、しばらくは己の玉をきつく握り締め、他の痛みで気を紛らわすがよい」

 

 重吾の両の乳首が朱く染まり、交代して雷蔵のものを重吾が錬磨する。

 初手故にさすがに加減が分からず、鍛錬を重ね、ぼったりと厚みを増しているはずの雷蔵の両胸の先端からも、沸々と熱い血潮が流れ落ちる。

「擦り過ぎたかもしれません。申し訳ありません」

「なんの、サキのモノともなれば、この痛みもまた心地よいものよ。次の亀頭も、遠慮なく擂り上げよ」

 確かに屹立を保てなくなっている重吾のものとは違い、雷蔵のそれは胸の痛みあろうともその隆々とした昂ぶりを失ってはいなかった。

 

「こればかりは勃たせておらねば効も無い故、まずは重吾殿にはわしの手扱きを受けてもらおうかの」

 

 再び横になった重吾の股間に、ぬめり汁が垂らされる。

 緊張と乳首の疼きに太さはかろうじて保っているが、反り返るほどの硬度は失っている。それでも男の手でようやく指が回るか回らないかという肉棹は、村外の男の最大限の勃起ですら足りぬほどの太さである。

 雷蔵は自らの掌にぬるぬるとした汁をたっぷりと取り、重吾の逸物を握り締める。

 それだけで年若の重吾にはたまらぬ刺激となるのだろう。脈動とともに太さ硬さが増していくのを、雷蔵の右手は確かに感じ取っていた。

 

 汁のぬめりを利用しての扱き上げに、果たして雷蔵の手にした重吾のそれは瞬く間に厚い掌の圧力を押し返すほどに堅く勃ち上がり、熟した李のようにぷっくりとした先端の膨らみは、針で一突きすれば破裂音を立てて吹き飛びそうなほど、張り詰めていた。

 

「本日は初日ゆえ、おまえ様のこの張り切った亀頭を気をやる直前に擦るだけに留めよう。それでも今宵は眠れぬほどの疼きを覚えることとなろう。そのお前様の魔羅に薬草を塗り込め、また明日の夜には木賊を使う。痛み疼きはしばらくは続くが、時が過ぎれば擦られることそのものにたまらぬほどの快感を生じるようになるゆえ、堪えられよ」

 

「あっ、ああっ、雷蔵殿っ、そのように、あまりにやられると、果ててしまいますっ」

 雷蔵はたくみに重吾の逸物を、握り締め、扱き、あるときはその亀頭を手の平にてかぶせるようにぬめり汁を塗り込める。その度に上がる重吾の喘ぎ声が、だんだんと高くなっていく。

「気をやる寸前で堪えることだ。重吾殿がイく寸前に木賊を使う。痛みで気をやる、その快楽をとくと味わうがよい」

「そのようなっ、ああっ、雷蔵殿っ、い、イきそうですっ」

 

 重吾の精が迫り上がってきたのか、大きめの蜜柑ほどもあるふぐりがぐっと根元へその体積を寄せる。雷蔵が木賊を構える。

 あと一扱き、あと一搾り。その寸前で、腫れ上がった重吾の亀頭にざらついた木賊がしゅっと音が聞こえるかのようにあてがわれた。

 

「ぐあぁっ、あああっ、あっ、イくっ、イきますっ!」

 

 ぶしゅっ、ぶしゅっと、音に聞こえるほどの凄まじい噴き上げであった。

 重吾は己の股間に走る激痛と、相反する快感のどちらに身をゆだねてよいのか分からぬまま、自らの頭を越えるほどの噴き上げに呆然となっていた。

 

 雷蔵は射精直後の重吾のそれを、再び扱き上げた。

 少しばかり黄色みのあるねばついた多量の雄汁が、亀頭表面に滲みだした赤さを取り込み薄い桃色へと変わる。

「ら、雷蔵殿っ、堪忍っ、堪忍くださいませっ」

「痛みとともに気をやる感じを身体に取り込むことが大事であるからな。本日はほんの一擦りであったが、明日からは回数を増やしていく。身をもって痛みと快楽の垣根を乗り越えよ」

 

 重吾のそれが腹にだらりと横たわり、雷蔵は蒸した布で丁寧に拭き上げる。

 自らのそれを最大限に勃ち上がらせた後、亀頭の周囲、先端と木賊の一切れを持ち幾度も擦り上げる。真剣な面持ちで覗き込む重吾もまた、一度は萎えた己の股間が再び頭を持ち上げるほどの興奮を覚えていた。

 

 雷蔵の指示に従い、床に就く前、ヒリヒリと痛む胸と股間の膨らみには蒲黄を獣脂で練ったものをたっぷりと含ませ重吾は横になった。

 強すぎる刺激に腫れ上がった乳首と亀頭に眠れぬほどの痛みを感じていた重吾もやがては慣れ、深い睡眠を取る間には壮健な肉体が薬草の効果も相まっての回復を見せる。半年、一年と繰り返す中で、ともすれば拷問とも思えたほどの痛みを伴うその行為ですら待ち焦がれる程となる快感を、神代たる肉体にもたらすのだ。

 

 乳首と同じ刺激に曝される股間の赤黒い先端の膨らみは、その鈴口の切れ込みが指先を呑み込まんとするほどに切れ上がり、近くに寄れば互いの顔の表情さえ写し出す程に艶めいていく。

 こちらもまた六尺の晒しに触れる刺激にすら、先端からの露を零すほどの快楽を与える器官と化すのであった。