田畑看護師の説明にもあったほぼ真四角に近い形状のベッドは、今回のような複数の患者を同時に『施術』するためのものか、山崎と西田のそれなりに大柄な肉体を平行に横たえても、ゆったりとしたそのサイズに窮屈な感じはしない。
「山崎と同じベッドでこうして横になってると思うと、なんかそれだけで興奮します」
「私も自分と一緒に、西田が先生達に、その、色々『される』んだと思うと、興奮してしまいますね」
「いいことですよ。そのためにもこのキングサイズに近いベッドを導入した甲斐がありました」
にこにこと答える野村医師に取っても、自慢したいことなのだろう。
「そしてこのベッド、今日は使いませんが空気の圧力を使って色々出来るんですよね」
「空圧って、なんか怖そうですけど……」
「ふふ、次回以降の楽しみにしといてください」
「そう言われると、気になってしまいますよ」
「お楽しみってことで、今回はまあ、ですね」
田畑看護師との軽妙なやり取りも復活し、二人ともかなりリラックスしているようだ。
看護師の話す内容への期待へか、二人の股間の逸物もぶるんぶるんとその頭を振りかざしていた。
「それではここからの手順を説明します。先ほどまでの洗浄過程で、お二人の肛門と腸内はかなり綺麗になったと思いますし、粘膜も刺激に対してより反応しやすくなっているかとも思います。
お二人もまたそのことを御自身の視覚や嗅覚で感じ取れたことかと思いますが、どうでしょうかね」
野村医師の説明に横たわったまま頷く二人。
自分の尻から出てきた水の透明度や、その臭いの無さは、まさに体験したものにしかわかり得ぬものだったろう。
「この『きれい』という実感はこれから行う私達の肛門と腸内への刺激に対して、『汚さない』『匂わない』という安心感を与えてくれるものかと思っています。
そしてそれこそが、お二人の快感獲得に取って非常に大きなプラスのものになるかと考えています」
「確かにあのシャワー浣腸とやらの最後の方を見てると、もうぜんぜん大丈夫なんだなって思えました」
「私も実際にやる前は『汚い』『そんなとこを触ってもらうのが悪い』ってイメージだったんですが、洗ってもらっていく中で、そういうのはだいぶ薄れたと思います」
二人の率直な感想は、これまでの治療の中で『自らの気持ちや快感を言葉に出して相手に伝える』実践を重ねてきた成果の発露でもあるのだろう。
もっとも二人の股間の昂ぶりは、言葉にするまでもないほどにその心中を物語ってはいたのだが。
「はい、そこが『洗浄』の目的の1つでもありました。
ここからが実際に快感獲得の本番ともなりますが、まずは西田さん、山崎さん、お二人の肛門を私と田畑君でそれぞれ優しく、ゆっくりと刺激して、この場合は私達の指の挿入に痛みや不快感を感じないようにほぐしていきます。
その後、指の挿入とその本数の増加、さらにはいわゆる肛門括約筋と腸壁内粘膜、さらには前立腺への刺激を行っていき、そこから得られる独特の快感を獲得していただくのが、本日のセラピーの目的となります」
ゆっくりと解説をする野村医師。
その間に田畑看護師がベッドサイドの機械台に、ラテックスの手袋とローションを準備している。
「この肛門の刺激について、特に最初に『痛さ』や『嫌さ』を感じてしまうと、後からのその克服はかなり難しくなりますので、まずは最初に私と田畑君がお二人のペニスを刺激し、存分に快感を味わっていただいた上で始めたいと思います」
「先生、とは言っても、お二人とももうビンビンにおっ勃てておられますけどね」
「はは、仰る通りで、もう期待の方がデカくなってます、俺」
「私も、その、新しい快感を味わえるかと思うと、おさまらないですね」
当初は緊張しているようにも見えた山崎が己の下半身の様子を喜びとして語っているのは、これまでの『洗浄』が確かに医師の言う効能を表していることの証明でもあった。
「はははは。そうは言っても、私達の楽しみでもあるんですから、ここは省略するわけにもいかんだろう、田畑君」
「もちろんですよ、先生。僕、その、朝からもう、待ちどおしかったんですから」
全裸でベッドに横たわる山崎と西田。
上体と腰をベッド面に横たえたまま広げられた両足の膝から下は、ベッドの端からぶら下がっている。
それは足側に陣を取る者にとっては、股間が丸見えになる姿勢であった。
「うう、腕と鳴るなあ」
「田畑君、そりゃ、喉が鳴る、もしくは、舌が鳴る、だろう?」
「先生こそ、山崎さんのをしゃぶれるって朝からウキウキしてたじゃないですか」
赤裸々な医療者達の会話に、ベッド上の二人が嬉しそうに顔を見合わせる。
今や互いの勃起した逸物をしゃぶられることがなんら異常なことでは無く、快楽を得るための当然の行いとして認識している山崎と西田であった。
「じゃあ、始めましょうか」
むっちりとした裸体を晒す田畑看護師が、西田の股間の側へと椅子を移動させる。
野村医師もその毛深くでっぷりと張った腹を揺らしながら、山崎の足元方面へと椅子をずらした。
どうやら医師の説明した1対1の対応については、山崎には野村医師、西田には田畑看護師が付くようだ。
二人が山崎と西田の下半身に覆い被さるように、その頭を股間へと進めていく。
「あっ、の、野村先生っ……! き、気持ちいいっ……!」
「うおっ、田畑君の尺八、久しぶりだけど、すげえっ!!」
「そ、そんなやられたら、イきたくなっちゃいますよ……!」
ベッドに横たわったままの二人の股間に顔を埋めた野村医師と田畑看護師。
西田のうねうねとした血管に彩られた固い逸物が、山崎の色艶よくぼってりと膨らんだ亀頭が、二人の口内で暴れ回る。
「ふふ、ここはあくまでも肛門刺激の前の予備快感を獲得する段階ですから、イッてもらっちゃ困りますよ。今日のお二人の最初の射精は『尻穴をいじられながら私達の口に思い切り出す』というのが課題なんですから」
頭を上げた医師の説明に、切なそうにうなずく二人。
セラピーの前には数日は『溜めておくように』という指示が、今回も出されていたのは間違いない。
「お二人とも準備も良さそうですね。それではこれから、本日のメインの施術へと移ります」
顔を上げた医療者二人が、その左手にラテックスの手袋をはめた。
指先にとろりと垂らしたローションを見やる山崎の顔が赤らんでいる。
「足を広めに開いてみてください。そうそう、そんな感じです。最初はゆっくりと肛門周辺をマッサージしていきます」
開いた両足の間に医師と看護師の上半身が入り込むような形だ。
まだ持ち上げられていない太股の奥、露わには見えない肛門部分にラテックスをまとった指先が差し込まれていく。
「あ、尻にっ、せ、先生の指が当たる……」
「田畑君のそれ、気持ちいいよ……」
二人の反応から見ても、心地よい刺激と受け止めているようだ。
「このくらいの刺激については、はこれまでのセラピーなどでも経験されているかと思いますがどうでしょうか?」
「あ、そういえば、玉井先生のときに誰かに尻を舐めてもらったことがありました!」
「私もそのあたりをヌルヌル刺激されて、なんか気持ちよかったなあって……」
「お二人とも拒否感が無いようでなによりです。特に嫌な感じ、気持ち悪さはありませんか?」
「あ、いや、大丈夫です……」
「俺も、気持ちいい方が勝ってますね」
「段々と刺激を強くしていきますよ」
強い拒否が見られない様子に、野村医師、田畑看護師共に、徐々にその指先の動きが中心を目指していく。
「あっ、な、なんか、切ないっていうか……」
「俺も、もどかしいって言うか、なんかこう、ずぼってやってくれっていうか……」
焦らされていた数分間で、山崎と西田の息も少し上がってきていた。
頃はよしとみたのか、野村医師がちらりと田畑看護師に目配せをした。
「少しずつ、指を入れていきます。ここから先は肛門がよく見えるように、両足の太股を抱えるようにして持ち上げてみてください。長時間はきつい姿勢なので、休憩しながらやっていきます」
開いた太股を両手で抱えベッドの端に腰を乗せた姿は、野村医師と田畑看護師の目の前にそれぞれの股間と肛門がさらけ出されてしまう姿勢でもあった。
二人の尻肉の下には長方形の枕のようなものが差し入れられ、逞しい尻肉とその間の窄まりが上を向いた形で固定される。
「ああ、このポーズはなんだか恥ずかしいですね……」
「チンポしゃぶり合ってるのに、今さら恥ずかしいとか、西田さんも」
からかうような田畑看護師の口調に、野村医師がさっと割り込む。
「いや、田畑君。ペニスと肛門とでは、自分でも視野の中に入るかどうかの違いもあって、そんな言い方をするものじゃないぞ。西田さんに謝っておきなさい」
「あ、すみません。つい、自分達の感覚で言ってしまいました。西田さん、申し訳ありませんでした」
「あ、いや、そんな言われなくても。恥ずかしいっていっても、その、なんというか、チンポはビンビンのまんまなんで」
田畑看護師としてみれば、自らと野村医師との『いつもの行為』こそが『当たり前』のものだったのだろう。
普段とは逆な形での医師からの戒めに、瞬時に反省した田畑看護師。
西田の笑いを含んだ返しに、医師から発せられた言葉に一瞬の緊張が走った施術室の空気も和む。
このいわゆる『M字開脚』の姿は、西田や山崎にとってはアダルトビデオの中の世界でしか見たことが無いものだ。
その体勢に自らがなっているということが、かえって興奮を増すことに気付き始めている二人であった。
「では、入れますよ」
「あっ、入ってくる……」
「痛かったり、気持ち悪くは無いですか?」
「んんっ、んー、特には……。もっと違和感があるかと思ってたんですが……」
「俺もだ……。なんかかえって普通なのが不思議な感じで」
「西田さん、山崎さん。お二人がリラックスされてる証拠ですよ。いいことです」
刺激に慣らされた肛門は、指先の侵入についてはさほど抵抗が無かったようだ。
ゆっくりとした出し入れを始める医師と看護師。
「これはどうですか、山崎さん?」
「あっ、あっ、田畑君、入れたり出したりしてるのが分かります……」
「気持ち悪くは無いですか?」
「これも大丈夫です。西田の言葉じゃ無いけど、なんだか不思議な気持ちで……」
「快感、といえるものを感じますか?」
「それも特に無いです……。『出し入れが分かる』以上のものじゃないような感じで……」
田畑と山崎の会話に、西田に同じ処置をしている野村医師が割って入った。
「今はそれでいいんですよ。拒否感、痛み、違和感無く、刺激を受け入れられている状況が一番大事なんです。西田さんはどうですか?」
「えっと、ちょっと気持ちいいっていうか、チンポの刺激とは違うんですけど、なんて言えばいいのかな……。うまく言葉が見つからないっていうか……」
「それでいいんですよ。快感の獲得はじっくりやっていくものですから、今日は指での腸内の刺激と、直接のペニスへの刺激での射精とを結びつけるための施術ですから」
医師の解説の間でも、二人の指の動きが止まることが無い。
山崎と西田の様子を見て、次の段階へと進むことにする医療者たち。
「もう人差し指が一番奥まで入っていますよ」
「ああ、もうそんなに……」
「ここから先はかなり個人的な感覚になりますので、山崎さんは私の言葉に、西田さんは田畑君の言葉に集中するようにしてください」
「分かりました」
「了解ですっ!」
患者二人の下半身にのし掛かるようにして、医療者二人の施術が進められていく。
山崎の股間を見つめる野村医師が、その低い声でゆっくりと話し始めた。
「山崎さん、私の指を意識しながら、肛門を締めるようにしてもらっていいですか? 大便をするときの『切るような動き』と思ってもらうといいかと思います」
「あ、はい……。こうですかね……?」
「おお、すごい締め付けです。そうそう、そんな感じで。はい、今度は緩めてみてください」
「あ、はい……」
「もう一度、締めて」
「はい、こんなかな……?」
「いいですよ、その調子です。次はリズム感よく、締めるのと緩めるのを繰り返してみましょう。はい、締めて、緩めて、締めて、緩めて……。いいですね。御自身でも『締める』感覚がだんだん分かってこられたかと思います」
「あ、はい、先生。野村先生の指が入ってる分、分かりやすいです」
田畑看護師と西田のペアも、同じ状態に到達したようだ。
「西田さんも締める感覚はつかめたようですね。次は『肛門を広げる』感覚をお二人に身に付けてもらいたいと思います」
「広げるって? それって、どういう……? さっきの『緩める』とは違うんですか?」
「さっきやってもらったのはあくまでも『締めた状態を解除する』といったものでした。次の段階では指以上の太さのものを受け入れるために積極的に肛門の窄まりを広げるための感覚を学んでもらいます」
「指以上の、ということは、その、なんというか、アレですよね……」
「ご想像の通りですよ、西田さん」
山崎はもとより前立腺への刺激を受けた経験のある西田もまた、医師の話だけでは腑に落ちて無い様子である。
それでも『指以上のモノ』が何を差すものなのかは理解している西田のようだ。
「ふふ、それではお二人とも、私と田畑君の指を入れたまま、そうですね、大便を出すときにいきむようにしてみてもらえますか?」
「え、あ、そんなことしたら、その『出てくる』んじゃ……」
「そのために時間をかけてお二人の『中』を『洗って』きたんですよ。安心されてください」
「なんだかかえって締まる気がするんですけど……」
「大丈夫ですよ。ほら、いきんで、いきんでみてください」
半信半疑のまま、医師の指示に従う山崎と西田。がっしりとした尻肉に挟まれた窄まりに神経を集中させる。
「そうです、そうです! 山崎さん、その感じをしっかり掴んでください! 田畑君、西田さんの方はどうだね?」
「僕の指にも、西田さんが緩めたのがすごく伝わりました。いい感じですよ、西田さん!!」
「なんか、『いきむ』って、絞るというか、締めるイメージを持ってたんですけど、違うんですね……」
「そうか、普段閉じてる穴から出すワケだから、『広げる』って、そういうことか!」
「そうなんですよ! 山崎さんの疑問も、西田さんの感想も、どちらも正しいというか、当たり前の感覚だと思います。普段は出す機能だけを使っているわけですから、入れられたときの感覚は、まさに『今』、お二人の肉体が『学習』しているところなんですよ」
どこかまだ不思議な面持ちではあったが、山崎も西田も何かが『掴めた』ようである。
山崎の正直な感想であった。
一般的な感覚では便を排出するための『いきみ』は、確かに『絞り出す』概念との結びつきが強い。当然そこには『絞る=締める』との感覚が成り立つことにより、実際の排便動作と体感で得られるそれとに齟齬が生じている。
突き詰めていけば理屈での理解も出来たのであろうが、まずは体感で、という野村医師の試みは成功したようだ。
「さあ、今度は先ほどの『締める』『緩める』に『広げる』を加えてやってみましょう。私と田畑君の指をしっかり意識しながらだと、やりやすいかと思います。では、はい、締めて、緩めて、広げて、また締めて、緩めて、広げて……。そうです、山崎さん、上手く出来てますよ!」
「西田さんもコツを掴まれたみたいです。3つの段階の違いが、僕の指にもしっかり伝わってますよ。そうそう、そんな感じです、西田さん!」
野村医師、田畑看護師の声がうわずっているのは、二人にとっても山崎達の達成感を共有しているゆえであるのか。
「次はその『広げる』感覚を使って、指を増やしていきます。山崎さんも西田さんも、はい、広げてみてください」
野村医師の言葉は、今度は両人に対して発せられた。
先ほどまでの練習で感覚が掴めたのか、医師と看護師の指先の締め付けが格段に緩んでいく。
「そうですそうです。そのまま保ってください。ほら、もう、2本目が入りましたよ」
「あっ、あっ、ちょっと圧迫感が……」
「大丈夫です、山崎さん。しばらく動かさないでおきますから、その間にゆっくりと締める、緩める、広がるの先ほどやった動きを繰り返してみてください」
「あ、分かる! 先生の指が増えてるのが、分かります!」
「締めるときに違いが明確になるかと思います。西田さんの方はどうですか?」
「ああっ、俺は、その、ぜんぜん大丈夫です……」
田畑看護師の人差し指と中指を飲み込んだ西田の尻穴が、ほんの少し盛り上がってきているようにすら見えるのは、田畑看護師のうがち過ぎな見方のせいだけではあるまい。
「山崎さんも落ち着かれたようですね。それでは、この2本を前後左右、ぐるりと回してみます。ローションたっぷり使ってますから、大丈夫ですよ……」
「あっ、動いてるっ……。先生の指がっ、動いてるっ……」
「俺もっ、俺もっ、田畑君の指が分かるぞっ……。あっ、なんかっ、先生っ、俺っ、気持ちいいですっ……」
風俗での経験を思い出したのか、慣れない感覚と快感の結びつきは西田の方が早いようだ。
「おお、西田さんはもう感じ始めたようですね。山崎さんも大丈夫ですよ、ゆっくり慣らしていきますから」
「あ、はい……。私はまだ、その、気持ちいいまでは……」
「それでいいんですよ。痛みや嫌な感じがしないだけで、ここはいいんですから」
アナルについては初心者である二人に、あくまでもゆっくりと、じっくりと開発を進めていく野村医師。自らの勃ち上がった肉棒をびくびくと震わせている田畑看護師も、己と医師のアナルに何年も加えてきた行為を『ノンケ』の二人に施していることに、特別な興奮を感じているようだ。
「山崎さんも慣れてきたようですね。それではまた広げてみてください」
医師の指示でいきむ二人。
肛門括約筋がわずかに外側に押し出されるようなその瞬間を狙って、医師と看護師、二人の3本目の指である薬指が、山崎と西田の尻穴をくぐり抜けていく。
「おっ、さすがにこれは……。田畑君、なんか『広がってる』『広げられてる』ってのが分かるよ……」
「西田さん、痛みは無いですか?」
「それがぜんぜん……。圧迫感はあるけど、思ってたような違和感や痛みが無くて、俺自身が驚いてる……」
天井を見つめ、息を吐いている西田の表情からも、痛みや不快感は無さそうなことが読み取れた。
頃合いを見て、3本の指の出し入れを始める田畑。
「あっ、それっ、すごいよっ、田畑君っ……! ああっ、なんかっ、なんだかっ……」
「どんな感じですか、西田さん?」
「その……。『いい』んだ……。入れられるときもそうなんだが、抜かれるときに、なんか『ああっ』ってなるんだ……」
「肛門と直腸の粘膜への刺激を、西田さんの肉体が快感と受け止め始めたんですよ。もう少しですよ、西田さん。このまま出し入れを続けながら、もう少し広げるように指を動かしていきます」
「あっ、あっ、それいいっ! 西田君っ、その横に広げるのもっ、いいよっ、いいよっ……」
どんなときでもしっかりと名前を呼び合うという、このクリニックでのルールは、西田もきちんと守っていた。
「西田さんの方はだいぶ仕上がってきたようですね。山崎さん、3本入って、どんな感じですか?」
「その、西田の声聞いてると、なんか私の方も興奮してしまって……。先生の指が動くと、なんかびくびくって、うーん、気持ちいいってことなのかな、これが……?」
「山崎さんのアナルが、私の指を受け入れてきてるんですよ。ほら、こんなのはどうです?」
野村医師が3本の指をまとめたままゆっくりと、ぐるりぐるりとその向きを変えていく。
「うわっ、それっ、それっ、なんかすごいですっ! あっ、あっ、ああああっ……!」
「痛かったりは無いですか?」
「痛くは、痛くは無いんですが、その、壁が、えっと、壁でいいのかな? その、そこらへんがぐりってされるのが、なんか……」
「気持ちいい?」
「あっ、先生っ、野村先生っ! 私の尻がっ、尻が、私がっ、そのっ、これっ、気持ちいいのかもしれないですっ……」
山崎の反応に笑みを浮かべる野村医師。
その剛毛に覆われ太り肉の肉体に、うっすらと汗が浮かんでいる。
「山崎さん、その感覚をしっかり味わいながら、はい、締めて、緩めて、広げて……。うん、ちゃんと出来てますよ。3本入れても山崎さんの身体がしっかり脳からの命令をこなしていています。もう、大丈夫なようですね。本当によかった……」
「そうなんですね。先生が仰る『快感を学習する』っていうのが、ちょっとだけ分かった気がします……。先生、感覚が分かってきたのは嬉しいんですが、足の方がちょっと疲れてしまってきてて……。すみません……」
「ああ、そうでしたね。山崎さんも西田さんも、ここまでは上出来のようですし、ちょっと休憩しましょう。足を下ろしてもらっていいですよ」
両足を抱えた姿勢を続けていくことはさすがにつらいものがあったのか。尻に集中していた意識が医師の褒め言葉で少し緩んだのだろう。
腹が出ている山崎の方から声が上がる。
ベッドを下りた二人にも椅子が用意され、田畑看護師が用意した茶が供された。
「その、ホモの人って、ああいう格好をずっとやれるんですか? 尻の方は、なんだか新発見って感じでよかったんですが、姿勢っていうか、腰を上げて足を持ち上げてって、ずっとやるにはけっこうキツいなって思ってしまいました」
西田のあけすけな問いは、『挿入』という点に関して言えば女性との経験ばかりであった者からすれば、ある意味当然の疑問だった。
田畑看護師が身を乗り出すようにして答えるが、少しおちついてきた中年男達の中で、一人その股間がいきり勃ったままなのは、年齢からして仕方の無いことだ。
「ああ、それはですね。あの姿勢のときって最初に慣らしたあとは、まあ挿入ってことになるので、双方相手の身体で互いに支え合う、っていう感じになるんですよ。
そういう意味ではけっこう長時間、その、言い方はアレですが、『掘り続ける』『掘られ続ける』ことが出来るんです」
「ああ、そっか。互いの腰が合わさるわけだから……」
「そうそう、そういうことです」
答える田畑看護師の頬が少しばかり紅潮している。
いわゆる『ノンケ』であった山崎と西田が、自らが日常のものとして行っている肛門を使った性的な行為をそのまま受け止めていることが嬉しいのであろう。
くつろぐ二人の様子から、足を抱えていた疲れも回復したと判断した野村医師が、次のセッションの内容を告げる。
「お二人が先ほどの『広げる』感覚をマスターされ、その尻穴に指3本を違和感無く受け入れられたこと。これは1回のセラピーの中での到達としては素晴らしいことだと思います。
今日のセラピーの最後に、前立腺への刺激を行いながら、そこで受ける感覚と射精感覚が結びつくような施術をする予定です」
野村医師の治療において常にその日その日の到達目標が示されるのは山崎たちにとっても当たり前のこととなっていた。
その内容を知った上でセラピーに取り組むことが、より一層の効果を上げるとの確信もまた、二人の中に生まれてきている。
「なんだか、先生達にケツをいじられて、こんなに普通にしていられるってのが、自分でも不思議なんだよな。おい、山崎、お前はどうなんだ?」
西田の問いかけに、山崎が答える。
「ああ、お前の言う通りで、尻の穴をくじられるなんて初めてなのに、なんかぜんぜん普通というか、いつもの治療の流れと変わらないように思えて、私もびっくりしてるよ」
ゆっくりと答える山崎。
椅子に腰掛けたその姿は野村医師と同じく太鼓腹を抱えた典型的な中年太りの体型である。医師との違いと言えば全身を覆う体毛の薄さではあるが、それが男としての魅力をなんら損ねるもので無いことは、同性を好む野村医師と田畑看護師から見れば一目瞭然の豊かな肉体であるのだ。
横に座る西田もまた山崎や野村医師ほどの体重があるわけでは無かったが、年齢の割にはがっちりとした筋肉を維持しつつ、その上にうっすらと乗った脂肪が全体の輪郭を覆う様は、たとえそちらの発展場に行ったとしても、いわゆる『モテる』タイプであったろう。
4人の中で一番の若手となる田畑看護師ともなると、中学高校とラグビーで鍛えたそのむっちりとした肉体が褐色の肌と相まって、全身から発する色気もまた素晴らしいものであった。
傍目には奇妙なものに見えるであろう四人の男達による全裸での歓談も、彼らにとっては当たり前の光景となっているのだ。
先ほどまではそれぞれに勃ち上がっていた肉棒も、さすがに喫茶の間にその興奮が減じたものか、ゆったりとした太さはそのままではあるものの、それぞれの天を突くほどの勃起はおさまっているようだった。
「さ、一息ついたところで、最後のセッションに移りましょうか」
「その、それって、俺達のケツ穴の『前立腺』ってやらを刺激して、そこの刺激で『イける』ようにするってことですよね?」
「そうですね。こちらも痛みや不快感を感じないよう、じっくりとやっていくつもりです」
「それにしても指3本って、ホントに入ってたってのが、いまだに不思議ですよ」
「肛門括約筋、また直腸からの腸壁の可塑性というものは素晴らしいものでして、訓練を行うことで大人の腕も飲み込むほどの柔軟さを見せるものなんですよ」
「う、腕?! ホントですか、先生??」
西田が思わず上げた声は、馴染みの無いものにとっては当然の疑問であったろう。
セラピーの目的からはいささか逸脱した話だが、医師もまた一応ここで触れておこうと判断したのか。
「ええ、ネットなどで『ゲイ』『フィスト』などで検索かけてみられると、実際にプレイされている動画など見つかるかと思いますよ」
「先生、西田さんたちにはまだそのあたりは刺激が強すぎるかと思いますよ」
先ほどとは逆に、今度は田畑看護師からの諫めが入る。
「まあ、私達の治療方針はそこを目指しているわけでは無いのであまり気にされずに」
「気にするなと言われても、気になっちゃいますよ、先生ったら」
西田の一言も混ぜっ返すような軽い口調だ。
このクリニックでのこれまでの流れから、こちらの意思を無視した形での強引な進行はしないだろうと、西田自体が感じているのだろう。
「最初に前立腺がどういうものか、少し図を使って説明しておきますね。診療室にも張ってあるこちらの図は、お二人も見られたことがあるかと思います」
セッションの前に、患者に対してまずは医学的な解説をしておこうというのは、野村医師のこのクリニックにおける診療に関してのポリシーの1つであった。