縄の味

岐跨村の男達 Part 2

その1

 

 重吾が神代(かみしろ)として御客(おんきゃく)をもてなし始め、村内のほとんどの相棒組との相穿(あいがち)を二廻りは済ませたほどのことであったろうか。

 その年の新棒が加わった相棒組は新人との交情や教育に忙しく、神代との相穿の申し込みが遅くなるとは雷蔵からも聞いていた話だ。

 とりわけ本日迎えることになる留吉と新棒である宗平の相棒組に神翁(かんのおきな)である亮造が加わった三人との相穿は、その年の秋も進んだ頃、棒達組の中でも最も遅い顔合わせとなった。

 

 留吉は数えの28、六尺豊かな上背に30貫、今で言えば100キロをはるかに越す身体は肉感に溢れている。重吾とは年が近いこともあり、昔から村内の苦役では一緒に汗を流すことも多かった。

 

 宗平は今年初めて相棒組へと上がった新棒であり、数え15と半年ほどか。留吉よりは幾分か背は低いが目方はそれほど変わらぬところまで肥えており、相撲を取ればはたしてこの村の屈強な男達の中でも引けを取らぬ腕前である。

 くるくるとよく動く瞳が愛嬌のある顔立ちとも伴って、神子(かんのこ)として過ごした数年も村の男達の人気者であったようだ。

 

 神翁として棒達に加わる亮造は今年で62の年を数えている。かつて神代を勤め上げたこともあり、その知識と経験とで三人の交情では中心となっているとのことだ。

 背こそ村の男としてはやや低いが、頭と変わらぬ猪首の太さや膂力溢れる筋肉質の身体付きは、壮年の男としての成熟もあり見事と言うほかは無い。

 

 今年は村内で二人の新棒が新たな相棒を成したが、もう一組にも元神代の神翁が組まれているのは、これより成人として扱われる新棒のさらなる教育のため、という側面があるのだろう。

 

 数え12を迎え美袴村(みこむら)から連れてこられた神子の生活環境としては、棒達2人に神翁を加えた4人棒達組、あるいは神代経験者を含む棒達との3人棒達組が組まれることが多い。

 15才で新棒として村の成員と認められ正式な相棒組を形成するまでの三年間を、人生経験豊富な男達に囲まれながら過ごしていくのだ。

 

 歴代の記録を詳しく見ていけば、神子としての暮らしを終え新棒となったモノと組まれる棒達は、神代を経験したことのあるモノ、もしくは25以上の一定の経験があるモノであることが慣習となっていた。

 後段の場合でも神代経験のある神翁との同居形態が取られることがほとんどであり、いずれにしても神代という経験が若者の教育に果たす役割が大きいと信じられていることの表れであろう。

 神代を経験した男達は皆、どのような交情にも相対する経験と技量とによって自然と新棒とその相棒である二人を支え、互いの交情を深めていくのである。

 

 留吉について社殿に残る記録には「縄による戒めを好み、身動きが取れぬ様にて打ち据えられることにても悦楽を覚ゆるものなり。ときに縛られることのみにて吐精す」との記述が見られている。

 その己の被虐性を快感とする行為を求めることは、いつぞやの文治と重晴の組のような神代との交情の際のみの発露とは異なり、三人で行う日常の相穿の中でも常に相棒へと求められているようだ。

 

「留吉の喜ぶよう宗平に縄を仕込むのに日にちがかかってしまい、神代殿との初穿(はつがち)がだいぶ遅うなってしもうたな」

 亮造がカラカラと笑いながら話せば思い出すのか、若い相棒達の六尺の前袋がはちきれんばかりに盛り上がる。

 

「今年初の相穿はかなり遅い時期となりましたが、これまでは宗平殿に縛り方を教えておられたのですか」

 亮造に尋ねる雷蔵の言葉もまた、楽しそうだ。

 

「いや、まずは宗平には縛られる心地よさやここをこうした、というときの痛みを味わってもらわぬといかんなと思うてな。まずは儂と留吉との二人で宗平への縄掛けを繰り返しやることとした。

 はじめは縛られた宗平を二人して散々に焦らしては精汁を噴き上げさせ、縄を打たれたまま気をやる心地良さを身体に染み込ませる。これを繰り返していくと留吉と同じように、肌に縄が触れただけで逸物を膨らますようになるのでな。

 次に首や血の巡りの障りとなる縄の危なさを身をもって分かってもらえるよう、わざときつく縛りもしたな。それを終えてやっと他のモノを縛るためのやり方を教えたものよ。

 これがまた若い故か、覚えが早くてな。今では縛り縛られで、儂が手を出さずとも二人で存分に楽しめるようになったようだな」

 

 様々な性技を身に付けた亮造と縄の扱いに秀でた留吉。二人からここ数ヶ月でその技術と精神を集中的に教え込まれた宗平の成長は、かくやといったものだったのだろう。

 おそらくはたまの習いにしかならぬ重吾よりも、毎日が縄打ちの鍛錬ともなっている宗平の方が、縄扱いという点のみで比べれば、その示す力量も上になっているはずだ。

 話す亮造もまた、自慢の弟子の技量に十分な満足を得ているようだった。

 

「重吾殿も縄打ちや縛りなど、だいぶ雷蔵殿に仕込まれてきているとは思うが、どれほど覚えたものかの」

 亮造からの質問に、突然話しを振られた重吾は赤面しながらも答えることになる。

「神代となり覚えることも多く、縄の扱いについてはまだまだです。雷蔵殿にも手を焼かせていると思っております。

 縄を打たれての嬲りや打ち据えられることの楽しみは大方分かってまいりましたが、縛る方は雷蔵殿のようにはなかなかなれませぬ。

 危なき行いも頭では分かっているつもりではありますが、いざ縛る段になると良くないことをやってしまい、度々雷蔵殿からのお叱りを頂戴しております」

 

 重吾の謙遜した話しぶりに雷蔵が後を継ぐ。

「はは、重吾殿はそう言われるが、修練も重ねて来ており、こちらもなかなか筋がいいとは思ってはおります。

 縄捌きの習練の時間が取れておりませで留吉殿のように縛られることのみで吐精とはいきませぬが、縛りの後に一度摩羅を膨らませてしまえば、もうそのまま先汁を垂れ流して萎えぬままにはなってきてはおりますかな。

 手足は自由にして縛り合い、しゃぶり扱きあったときなど、何度イっても萎えぬのはお互いのことでしたしな」

 雷蔵の話す神代二人の交情の様に、留吉も宗平も、目を輝かせて聴き入るのだった。

 

「本日、留吉殿からの申し入れにては、留吉殿と私の二人が縛られる側、宗平殿と重吾殿が縄を打つ側との願いでありましたが、そのような運びでよろしいかな」

 雷蔵が三人に確かめる。

 

「はい、我と亮造殿以外の者に宗平殿が縄を打つのも初めてのことですし、我もまた重き責めを受けれればと思っております」

 留吉の返事は縛られる側としての己の楽しみとともに、宗平の技術向上をも目論んでいることの表れなのだろう。

 留吉に代わって亮造も答える。

「うむ、危なきこと無きよう儂も手を挟むがな。留吉は儂と宗平二人だけでは出来ぬようなきつい責めを求めておる。儂と重吾殿、宗平の三人が責め手ともなれば、かなりのことが出来るであろう。

 留吉と雷蔵殿を縛った後、天井吊りなどもやれればとは思うておるが」

 

 社殿の梁にはこのようなときのため通常の家屋には見られぬような滑車も用意してあり、その点では相棒の間のみにて行う交情よりも様々な責めを行うには格好の場所であった。

 

 それでも亮造の話しに雷蔵は少しばかりの疑問を持ったようだ。

 留吉の自らが縛縄されることで昂ぶることについては、これまでの三年間、神代と棒達として接してきた自分の方がまだ限界などが分かっているのではあるまいか。

 縛り手としては未熟な重吾では、万が一にも亮造が判断を誤ったときに、それを正すことが出来ぬのではなかろうか、と。

 

 雷蔵の顔に走った微妙な翳りを、留吉が見て取ったのだろう。

「雷蔵殿、大丈夫でございますよ。ここ数ヶ月共に暮らし、私の亮造殿への思いはこの身体を如何様(いかよう)に預けても悔いは無いとまでに至っております。

 亮造殿がおられれば、まだまだ未熟な宗平殿や神代としての経験も浅き重吾殿とて、立派に打ち掛けされることと我は信じております。

 宗平と共に三人で互いに縄を掛け合い、更には互いの汁を飲み合って床に付くとき、これほどの安らぎを得たことはこれまでで初めてのことでありました。

 亮造殿はさすがに神代を務めた御方だと、雷蔵殿や重吾殿と同じく尊敬いたしております」

 

 雷蔵は己の内心を読み取りすかさず応対した留吉の観察眼の鋭さに驚くとともに、三人の間にここしばらくのうちに生じていた信頼関係をも見誤っていた自分を恥じた。

 

「面表(つらおもて)に出てしまったようで、大変申し訳なかった。御三方の間の信頼と友愛を、少しでも疑った私を許してほしい」

 頭を下げる雷蔵に慌てて手を差し伸べるのもまた留吉と宗平なのであった。

 

「さて、そろそろ始むるかの」

「亮造様、褌は締めたままがよろしいか、それとも裸の方が縄掛けもよろしかろうか」

 亮造の声に宗平が尋ねる。

 新棒らしい率直な問いが、周りの男達のふふという笑いを誘う。亮造がおそらくは他の村の年寄りが孫を見つめる目もかくや、と思う風体で答えた。

「うむ、今日は玉の振り分け縛りもやるので褌も解いて裸を晒してもらうかの」

 留吉は亮造の言葉を聞いただけで、もうその股間の昂ぶりは隠せぬほどのものとなっているようだった。

 

 やはり全体の仕切りは亮造が行うのが自然となるのだろう。

「宗平には留吉と儂より普段より言っておるのじゃが、幾つか互いに守るべき決め事をさせてもらうかの。

 まず縄を受ける雷蔵殿、留吉ともに、尋常ならざる痛みを感じたときや堪え切れぬと思うたときなどは必ず縛る側に止めよと伝ゆることを肝に命じよ。本日は二人の快楽のあえぎ声、よがり声を楽しむため轡(くつわ)も掛けぬゆえ、なにか不快な際には必ず声を上げてほしい。

 縄の打ち掛けはときには相手の身体や命にまで障(さわ)りを呼ぶこともある。縛り手側となる宗平と重吾殿には、一つ一つの事柄を先に進めるときには、儂が検分を終えてからにすることを約定してもらう。

 努々(ゆめゆめ)、そのあたりの抜かり無きよう、諸兄にはお願いすることにするかの」

 

 亮造の危険を諭し、その年ならではの互いを思いやる心持ちになにか打たれるものがあったのだろう。

 重吾は深く頭を下ろし、亮造の経験と見識に敬意を表していた。

 

「まずは留吉より縛らせてもらうかの」

 亮造の言葉に立ち上がった留吉が、するすると六尺を解く。

 膂力(りょりょく)溢れたその肉体は、居合わせる五人の中でも突出して太く大きく、その身のどこを切り取っても子どもの胴体ほどもあるのではと思わせるほどだ。

 首裏から肩にかけての肉の盛り上がりは村の男達の太い指を回しても、一掴みには出来はすまい。汁椀を伏せたような胸肉の厚みはその下の陰影にて一層に強調され、いくらか出た腹の下にあるしっかりとした筋肉の有り様をも示している。

 体側に張り出した太股に支えられた股間は日頃からの剃刀(かみそり)での手入れを怠らぬためか、脂の乗った滑らかな肌には一抹の体毛すら見当たらない。

 その逸物は小山のような体躯に相応しく、根太雁高の上反り逞しきモノが男達の眼前にずんと突き出ている。

 その肉の厚みにて真っ直ぐに閉じることすら出来ぬ両太股の根元には、たっぷりとしたふぐりが少しばかりの緩みを伴って鎮座しており、その玉の一つを持ち上げれば男の手にすら余るほどの量感を湛(たた)えていた。

 他の村の男達に比べ、その太さ硬度ともに凌駕することの多い岐跨村(きこむら)の男達の中でも業物(わざもの)とされる留吉のそれは、これから始まる性宴への期待からか、びくびくとその棹を揺らし、垂れ落ちる先汁はその量もまた足下に溜まりを作るほどの勢いだ。

 

「これまで幾度も味あわせていただいてはおりますが、改めて留吉殿の逸物を目の前にさせていただくと、誠に惚れ惚れとするほどのモノでございますな」

「この太ましき逸物が、縄を打たれそのぷっくりとした乳首を弄(いら)われるだけで多量の精汁を噴き上げる様は、誠に見事なものよ。

 散々に焦らした後に、今度は幾度もの吐精をと手を止めずに行えば、およそ萎えぬまま何度でも汁を漏らすその有り様は、儂とて一度味わってみたいほどの悦楽なのじゃろうなあ」

 雷蔵と亮造の交わす言葉に、残りの三人の股間がとろりとした先露を溢れさせるのを止めることは叶わなかった。