縄の味

岐跨村の男達 Part 2

その2

 

「重吾殿、本日は練り香の他に線香も燻らせておくようにな」

 雷蔵の指示に、今日はよほどの淫欲の夜になりそうだと、重吾は頬を少し赤らめてしまう。

 代々の神代に伝わる秘香は幾つもの薬草生薬を練り合わせたものであり、漂うその煙を吸い込めばたちまちにして男のモノはそそり勃ち、その気は淫の気配に充ち満ちていく。

 社殿全体に広がるその薄まったものですらそのような影響を心身に及ぼすモノを、立ち昇る白煙そのものを直接聞き味わえば、堪え性の無いものであれば刹那に己の膨れあがった肉棒から白い精汁を噴き上げてしまうほどのものなのだ。

 どちらの香も切らさぬように、との雷蔵の言葉に、重吾は多めの練り香線香を用意することとなった。

 

 薄く広がるなんとも言えぬ香りに興が乗り始めたのか、亮造も先ほどまでの落ち着いた様よりはいささか興奮した様子で、留吉に声をかける。

「そのいななきはもう待ちきれぬようだの。重吾殿と宗平に示しながら故にじっくりと縄をかけることとなるのは致し方ないゆえ、留吉も心得てもらわねばならぬかな」

「縄を打ってもらう者として、承知しております。我が身体、かなりの時間も堪えまするゆえ、きつい責めをお願いいたします」

 

 もはや3人の中では常態となっているのか、留吉は背を向けて膝をつくと、両手を背中に回す。

「今日は留吉に釣りの快楽を楽しませるため、後手縛りから始むることとする。宗平も重吾殿も、よく見ておかれよ」

 亮造は半分に折った縄を留吉の太い手首に回し掛け、己が手の業(わざ)を見せるためにか宗平と重吾を呼び寄せる。

 

「手首や足首、もとより首周りや胴体の腰上など、肉太きところから細くなるところにきつい縄をかけると血の巡りに障ってしまう。これらに縄を掛ける際には必ず余りを持たせるようにすることが肝要じゃ。ほれ、この縄の下に指を入れてみよ」

「おお、幾分かの隙間を作るのですね」

 宗平はここしばらくの手習いで既に納得しているのか、亮造が重吾に試させてみれば、果たして指2本分ほどのゆとりがあった。

 

「その分、結びをしっかりともやっておかぬとならぬのも分かるな。留吉や宗平のように重き肉体のものへ縄を打つのであれば、我が縄も一つ一つの結びをしっかりとやれるよう、精進せねばならん」

 教え子に諭すように語る亮造はその間にもするすると留吉の胸へと縄を掛けていく。

 乳首を上下に挟み厚い胸肉に四回りの縄を掛けると、己の二本の指を縄の内側にぐるりと回し入れる。

 その様を見つめていた重吾が亮造に声をかけた。

 

「今のは何かの仕業でございますか?」

「おお、話すのを忘れておったな。

 いずこにしても人の身体に縄を回しかけるときには、掛けた後に必ず指を入れ、縄目を整えておくのが良いのだ。

 縛るだけであればそれほどでも無いのじゃが、これが引き連れて動いたり、ましてや釣り上げての責めの際に縄目が調っておらぬと、いらぬ傷など負わせてしまうからな。

 特に釣りにおける縄の捻れは中途での縄切れを起こすこともあるため、用心せねばならぬ」

「おお、初めて知りました。確かに雷蔵殿に縄を打っていただいたときにもそのようにされていたことを思い出しました」

「これは雷蔵殿の教えが抜けておったのだろう。そのあたりは先のモノがしっかりせぬと、後のモノが恥をかくこととなる故な」

 亮造の指摘に雷蔵が申し訳なさそうに頭を垂れる。

 神代を勤め上げそれからの経験も豊富な亮造には、雷蔵も頭が上がらぬようだ。

 

「おそらくは雷蔵殿、重吾殿にあっては縛られた互いの身体を見て楽しむことや縄から受ける締め付けの味わいにて快楽を求めておられるかと思うが、これが拷問や痛み、あるいは縄を掛けられその一本一本に己が命が委ねられているということそのものを快楽とするためには、特に縄を打つ側の技量が問わるることとなる。

 縄を打たれる者の血の巡りや息の妨げにならぬよう、とかく己が頭でしっかりと考えながら縄を打つようにな」

 亮造の教えは若い宗平のみならず、雷蔵や重吾にとっても新鮮な響きを持って受け止められいるようだ。

 

「本日は留吉には菱や亀形の飾り縄はせず、釣りを楽しむための広縄を打っていくので、普段楽しむための飾り縄との違いを重吾殿や宗平はよく見ておくようにな」

 肩が外れぬようにか留吉の上半身を一度は締め終わった亮造が縄を継ぎながら解説を行う。

 どうやら逆海老にて責める際、体重がかかる肉体の前面に四重に縄を回し掛け、一、二本の打ち縄では食い込んでしまう加重を面的に散らすことで、責められる側の損傷を防ぐ狙いがあるようだった。

 

「足もまとめて縛ることで身動き取れぬ己が肉体を楽しむこともあるのじゃが、今日は釣った後に留吉の尻も弄(いじ)りたいので、釣り上げたときの重みを分ける股の縄のみにて仕上げることとする。足首は手と同じようにゆとりを持って幅広く縄を掛け、後の釣りに備えることとなるのは分かるな」

 一つ一つの縄の掛かり具合や縄目のなめしを宗平や重吾に体験させつつ、留吉の身体全体に縄が回ったのは、縛りを始めて半刻も経った頃だったろうか。

 

 留吉の両腕は背中に回され、幾重にも回された縄目がしっかりと上半身を絡めている。

 前から見れば豊かな両胸の盛り上がりが上下の縄掛かりにてさらに強調され、先端の突起は指先ほどの太さに膨らみきっていた。熟した野苺のようなそれを一撫ですれば、並外れた大きさの留吉の図体に震えるほどの快感を呼び覚ます。

 左右の太腿はこちらも回しかけられた縄により曲げられた膝下と共にひとまとめにされている。膝を開くことは可能だが足首上部で纏められた縄目は後小手に結ばれた縄の一群と共に、滑車を使った作業のための縄頭の輪を幾つも突き出していた。

 

 今回の逆海老にての釣り上げを目的とした縛りは、息をする度に緊縛感を感じるようなきつい打ち縄では無い。それでも留吉は、自由な身動きはびくとも許されぬような、がっちりと纏められている縄目を全身で感じ取っている。

 身体中のあちこちに感じる縄の肌合いと、亮造、宗平、重吾と交互にに触れられる皮膚への様々な刺激に、留吉の逸物は一向に萎える気配無くぬらぬらと先汁を垂らし艶めいていた。

 腹這いに畳の上に転がされた留吉は、背中に回された両手と尻肉にほど近く引き上げられた足首で、まさに丸まった海老を無理に反らせたような姿で縄を打たれている。

 わずかに動く肩と縄が通っていない腹周りの筋肉を揺らして動く様は、先走りでぬめる逸物を床に擦り付けることで更なる快感を得ようとのことだろう。

 

「雷蔵殿の縄掛けが終わったら、お主の摩羅棒とふぐりにも細縄を掛けてやるので、それまではしばし縄の肌合いを感じておけ」

 亮造の言葉に一層の興奮を覚えるのか、どこか赤味を帯び始めたその顔は、初めて見る重吾に取って、縄を打たれる前とは別人に思えるほど蕩(とろ)けきっているように見えたのだ。

 

「雷蔵殿については宗平の縄捌きを味わってもらうこととするかいの。重吾殿は宗平を手伝ってはくれぬか」

「雷蔵様、始めさせていただきます。未熟ながら亮造様や留吉様から教わりし私の縄打ちを試させていただきます」

 亮造から促された宗平はまだ神子時代の言い方が抜けぬのか、大人顔負けの肉体には似つかわしくない物言いが、神代2人にも若者らしい上気の様にと感じられる。

 

「私の方では雷蔵様に飾り縄としての亀形と、後に高手小手にての縛りを施したいと思っております」

 雷蔵や重吾よりも一回り大きな宗平が恐縮したように言うと、雷蔵が答える。

「様はよしてくれぬか。互いに殿呼びで構わぬからな。留吉殿や宗平殿のような立派な身体ではないが、それなりに鍛えてもおるとは思うので、存分にきつく縄をかけられよ」

 それでは、雷蔵殿と呼ばせていただきます、と答える宗平にそれまで呼びつけていた亮造も思うところがあったのだろう。重吾に向けて悪戯を見つかった子のように首をすくめると、小さく「新棒殿に諭(さと)されてしまったな」と笑った。

 

 こちらも留吉と同じく褌を解いた雷蔵の肌に宗平が縄を打つ。

 100kgを越す留吉にはさすがに及ばぬが、雷蔵も長年の労働で鍛えられた筋肉に年相応の脂の乗ったその肉体は黒々とした体毛に彩られ、他村の男に比べれば十分に誇れるものであった。

 こちらの股間もまた堅く勃ち上がり、先汁に光る先端は相穿に付き物の神代に伝わる秘香のせいばかりではあるまい。

 

 首より掛けた縄に一つ二つ三つと結び目を作った宗平は、留吉や亮造以外のモノへ初めて縄を打つ己にと興奮するのか、その瞳を輝かせている。留吉とは逆に、縄を打つ行為そのものが愉悦を呼ぶのか、その太い腰に回した六尺の前袋は張り裂けんばかりに盛り上がっていた。

「重吾殿は亀形の飾り縄縛りはやられたことはござりますか?」

「いや、雷蔵殿からの縛りを受けたことがございますが、こちらからは菱縛りのみしか経験はございませんな」

 重吾の返答ではあるが、その言葉選びには年下ではあるが縄縛りの先達としての宗平への尊敬もあるようだ。

 

「菱形に打つ場合はこの一つ一つの結び目の間に一度縄を通すだけになりまするが、亀形の場合は高さを変えて二度縄を通すこととなります。

 後ほどの小手結びでも胸縄を掛け回しますが、それを見越してあまりきつく締めぬが息の妨げにならぬためによいと習いました。

 背にて回した縄は互いに引きかけて前に戻す縛りと、そのまま掛け回すやり方もあるようではございますが、ここでは引きかけて同じ側に戻す形にしたいと思っております」

 ここ数ヶ月の間によほどの修練を積んだのであろう。宗平が体格に見合ったその大きな両手で取り回す縄捌きは、若年とはいえなかなか堂に入ったものだ。

 見る間に雷蔵のがっしりとした胸と腹に六角の文様が浮かび上がっていく。

 

「これは見事な亀甲紋でございますな」

 重吾の嘆息まじりの言葉も心からのもののようだ。

 

「胴体に回し掛ける際はとにかく縄の重なりや縒り目の戻りに注意してくだされ。結び目は意図した場所に作れますが、気付かぬ重なりや折れた縄目は血の巡りがそこだけ悪くなり痣が残ったりしますので。

 そのためにも先ほど亮造さ…、いや、亮造殿が言われた、縄目のなめしが大切と考えます」

 留吉と亮造の教えがよいのか、宗平の話は実に分かりやすく、生徒役の重吾も頷くばかりである。

 

「股ぐらに掛け渡した後の結び目ですが、これは先ほどまでのものとは違い、亀形の縄を通した後に結び目を作ります。

 後ほど太股周りより縄を回しますのでその分のゆとりを持った上で雷蔵殿の逸物の両側に縄を通した後、ちょうど肛門とふぐりの間、蟻の門渡りの部分にて大きめの瘤を作るように結びます。

 腰掛けての責めをするのであれば小さめにいたしますが、本日は立ったまま、もしくは横になっての責めと亮造殿も考えておられますので、大きめの結びといたしましょう。

 これはこれで、ふぐりの下側が身動きする度にごろごろと嬲られ、さらには前に押し出されるように玉も持ち上がるので、なかなかの快感となるのでございますよ」

「おお、これは股ぐらをずっと指圧されているようで、たまりませんな」

 縄を打たれる側の雷蔵の感想は、縄そのものがもたらす快感があることを指し示す。

 縄打つ側の宗平も、自らもまたその味わいを堪能したことがあるのだろう。若い肉体から立ち上る熱気と精気は、火照った身体の興奮を如実(にょじつ)に表していた。

 

 玉下の結び目から回された縄尻は一度背中の横に渡された縄で仮止めされる。

「これは後の小手縛りの縄と結び付け、身動きする度に玉と逸物が引き絞られることでさらなる愉悦を生むことになりまする」

 男達の中で一番年下の宗平が指南役になっているというものも不思議なことではあるが、それだけ留吉と亮造の教えがよいのだろう。

 雷蔵はその宗平の話しを素直に聴き受け止める重吾の姿に、安堵とこれからの期待を感じている。

 

「両足にも縄を打つ方が総身の心地よさもあるのですが、留吉殿との絡みもあるため本日は膝上の縄のみといたしましょう。小手縛りは重吾殿にやってもらいましょうかの」

 亮造の勧めに重吾が背中に回した雷蔵の毛深い腕に縄を回す。   

 縄の捻れやなめしを一つ一つ確認しながら進める宗平と重吾の動きに、亮造が満足そうな目を向ける。その亮造もまた、留吉の股間をやわやわと揉み上げては手のひらに溜まる先走りを甘露のように飲み啜っているのであった。

 縛られたまま亀頭を嬲られる留吉の微かな呻き声も、社殿内の男達の昂ぶりを増すための妙薬として働いているのだろう。