男性専科クリニックPart2

その1

 

 男性専科クリニック Part2 集団療法体験記

 

 私が初めてこのクリニックの前に立ったときから、二カ月が経とうとしていた。

 ここのスタッフは四十才になる恰幅のいい野村医師と、三十代半ばの田畑看護師の二人だけである。患者のプライバシーを守ることを最優先にし、男性の、それも主に下半身の悩みを引き受けている治療院だ。

 

 四十二才にしてEDの不安を感じた私は、ゴルフ仲間の西田が世話になっているこのクリニックを訪れたのだった。

 初めての診療で野村医師が私の勃起不全に対して下した診断は、勃起不全の原因が機能的なものではなく心理的なものであろうということであった。

 流行りの勃起薬も出せるのだろうが、まずは、心理的なカウンセリングと自分の身体に勃起状態を記憶させるために、「陰圧式陰茎勃起補助機」というものものしい名前の機械を用いた治療を提案された。薬は最後の手段だろうと得心したのだが、二人から受けた治療は実に強烈なものだった。

 

 機械によって強制的に勃起させられ、医師や看護師の掌で男の証を搾りとられるその行為は、これまで私が味わったことのない、初めての快感をともなっていた。この治療が、男同士の快楽などまったく知らなかった私に、もう一つの世界への扉を開かせることになってしまったのだ。

 それ以来、二週間に一度のペースで若かりしときの昂ぶりを取り戻すため、通院を続けているのだ。

 

 まさに青天の霹靂のようなこの変化にも、日々の生活は少しも揺らぐことなく繰り返されていく。

 一つだけ変わったことといえば、まがりなりにもこれまで女性の肉体に向けられていた私の視線が、同僚のワイシャツに透ける乳首やゴルフ場の風呂で一緒になる男達の下半身に向かっているのに気付いてしまうことだ。

 そんな折りに、野村医師よりそろそろグループでのセラピーをやってみましょうかと言われ、本日、私にここを紹介した西田と一緒の来院となった訳だった。

 

 このクリニックの方針で午後の治療は私達の分しか入っておらず、待合室でゆっくりと寛いでいた。お互い下半身の悩みで治療中ということは分かっているはずだが、それでも二人して同じ治療を受けるというのも恥ずかしいものだ。

 第一、西田自身が私と同じような治療を受けているかどうかさえ分かってはいないのだから。

 程無くして看護師の田畑君が二人を診察室へ招き入れた。

 正直そのときの私は、西田の肉付きのよい日焼けした裸体を思い浮かべ、自分の肉棒が勃起まではいかないものの、ゆったりとした膨らみを見せ始めているのを感じていたのだった。

 

「西田さん、山崎さん、お久しぶりですね。今日は始めてのグループセラピーで不安もあるでしょうが、リラックスして私達にまかせてください。まずは今日の段取りから説明しましょう」

 野村医師が相変わらずの恰幅のいい身体を揺らしながら、眼鏡の奥の柔和な目をさらに細めるようにして話し始めた。

 

 なんでも今回の治療は、患者同士で治療関係を築く「ピアカウンセリング」という考え方をこのクリニック流に取り入れたものだと言う。

 

 医師によると、目覚めつつある性欲を自分自身で恥ずかしいこと、いけないことだと思い込んでしまっていることが、私自身のより一層の回復を阻んでいるらしい。

 もちろんその性欲の対象が男性だということは、医師の配慮からか西田の前では黙っていてくれたのだが。

 

 今日は先輩患者として西田が私の直接の治療にあたり、野村医師と田畑君はそれを補佐する立場に回るということだった。

 驚いたことに、西田の方は今日のような治療の経験がすでにあるらしく、医師の話しにしたり顔でうなずいている。

 

「山崎さんは何の心配もせず、西田さんと私達に身体と心をまかせてもらえばいいんですよ。しかもこれは山崎さんだけでなく、西田さんにとっても、自信を深めるいい機会でもあるんです。では質問が無いようでしたら、施療室に行きましょうか。田畑君が準備してるはずですから」

 

 医師に案内された部屋、施療室は、トレーニング機械の置かれた板張りの十二畳程の広さであった。指圧や運動療法も取り入れているための場所らしく、室温も汗ばむほどの暖かさだ。

 左手の壁と天井が一面の鏡となっており、部屋全体を広く見せている。

 部屋の奥の壁は丈夫そうなベンチがしつらえられ、その上は体育館によくあるような壁昇り用の横木が天井まで何本も渡してあった。そのベンチの下から部屋の半分ほどを覆うマットに、清潔そうな真っ白のシーツが敷かれている。

 

「ここから先は、いくつかのルールを決めさせてもらいます。田畑君、二人に説明してくれないか」

 野村医師の指示に田畑君が用意されていた資料を私達に配布した。その内容は新たな快楽への期待を十分に呼び覚ますものだった。

 

一、本日は3セッション施行予定

一、被療者(私のことだ)は指示がないかぎり自分で自分の身体を動かさないこと

一、被療者と治療者間(今回は西田)の意思疎通は明確な言葉を持って行うこと

一、その際に被療者、治療者、及び助手の任に当たるもの(今回は野村医師と田畑君だ)は、相互に相手の名前を必ず呼ぶこと

一、被療者治療者ともに羞恥心を無くし、快感の表意や射精を我慢しないこと

 

 A4一枚の紙に打ち出されている内容は、だいたいこのようなものだった。

 

 

第一のセッション

 

「これから行なうセッションは山崎さんと西田さんとの、また私達全員の信頼関係を二人がしっかりと認識し、この後の治療をスムースに行なうようにするための準備運動のようなものです。ここでは治療者である西田さんも治療を受ける側の山崎さんも、いったん役割分担を忘れてもらって、二人とも私達の指示にしたがってくださいね。このセッションは立ったまま行ないます。それでは始めましょうか」

 

 田畑君の指示に従い、床に敷かれたマットの上に西田と私が向い合い、二人をはさんで野村医師と田畑君が位置を決める。ちょうど直径一メートル程の円周に四人が向い合って立つような形になった。

 

 最初は全員が一人一人の名前を呼びながら握手をすることだった。これはまあ最近では商談などでもやるようになってきているし、4人全員があっさりクリアする。

 その後に外国人がスキンシップでよくやるように、お互いが両手を相手の背中に回してしっかりと抱き合うようにと指示が出た。

 

 長いつき合いになる西田との抱擁は逆に少しばかりぎこちなかったと思うが、野村医師や田畑君とはこれまでの治療の経験からか、スムーズに進めることが出来た。

 確かに他人に対してはっきりと名前を呼んで握手や抱擁をすることは、たとえ見知っている相手とはいえ、これまでよりもっと親近感が湧くような気がする。

 

 このことこれこそが本来の治療の目的なのだろう。

 人前で抱き合うことなど日本では滅多にないことで多少の照れはあったが、割りとうまくやれたのではと思う。

 

 内心ホッと一息ついたところで野村医師が次に進むよう全員に言葉を掛けた。それは今日の治療の核心に迫るものだと分かる内容のものだった。

 

「ここまでは山崎さんもよくできましたね。今のは服を来たままの握手と抱擁でしたが、次は全員が服を脱いだ状態で今のと同じ事をやってください。恥ずかしいと思わずに肌と肌とを触れ合わす心地よさを感じるように、しっかりやってみてください」

 

 医師はこれまで私が服を着たまま行なったような握手と抱擁を、今度は素っ裸になり行なうようにと命じたのだ。

 

 先の治療で自分の肉棒までしゃぶられた野村医師と田畑君はいいとしても、友人である西田の目の前で裸を晒すことには、やはり大きな抵抗を感じてしまう。

 とまどう私に野村医師と田畑君が促すような視線を送り、意を決した私はズボンのベルトに手をかけたのだった。

 

 私を含め4人の男達が次々と服を脱ぎ、生まれたままの姿へと変わっていく。

 

 目の前にある太鼓腹を抱えた野村医師の毛深い身体、筋肉質のむっちりとした逞しい身体付きを日焼けした肌で覆った田畑君の裸体。そして、ゴルフ場の風呂で見なれているとはいえ、最近の私にとってもやもやとした感情を醸し出している年相応の肉付きにしっかりと脂ののった西田の裸。

 

 そのどれもが野村医師によって引き出された私の新たな欲望の対象として、十二分な魅力をたたえている。

 残念なことに、その魅力へと転じた男達の裸体を眼前にしても、私の肉棒はまだじっとうずくまったまま、その姿勢を変えようとはしない。

 すでにゆったりとした膨らみを感じさせてきている西田や田畑君のものとは違い、そこだけは毛深い股間から所在無げにぶらさがっているだけだった。

 

 最初の握手はどうしても目をそらしてしまいがちな私に野村医師や田畑看護師からの指導がありながらも、そう時間もかからずになんとかクリア出来た。

 

「さあ、山崎さん、次はしっかりみんなと抱き合うんです。最初は先生、次に僕、最後に西田さんとやってみてください。そのときに声に出してみんなの名前を呼ぶのを忘れないでください」

 

 いよいよ全裸での抱擁だ。田畑君の張りのある声が施療室に響く。

 裸の男同士がぎゅっと抱き合えば当然のように股間のものも密着してしまうだろう。野村医師の張り出した腹も2人の体圧でさしたる障害にはならないように思えた。

 

 私は高鳴る鼓動を何とか落ち着かせようとしながら野村医師の前に進んだ。医師の目を見つめ、緊張のためかすれた声で名前を呼ぶ。

「先生、野村先生・・・」

 

 白い肌と対照的に全身を覆った体毛が医師の恰幅のよい肉体を更に男臭いものとしている。もう一度の握手の後、手を医師の背中に回してしっかりと抱きごたえのある身体を抱き締める。

 一六五センチの私より少し大きい野村医師の太い首筋に顔を埋めると、医師の暖かい体温と、かすかに漂う汗の匂いが私の鼓動を更に高める。

 突き出した腹の下ではお互いの肉棒がごろごろと擦り合わされ、医師の太いものが私の腰にあたっていた。

 時間にすれば数秒のことだったのだろう。私にしてみれば1時間にも感じられた医師との抱擁が終わると、どこか心の中がすっきりとしたように感じられるのであった。

 

 医師に続いて田畑君、西田と、握手と抱擁を繰り返した。若さのせいかすでに勃ちあがっている田畑君の火傷しそうに熱をもった肉棒が、私の下腹部に擦りつけられる。

 二カ月前まではおそらく感じていたはずの同性の裸への嫌悪感は露ほども湧かず、かえってその隆々とした勃起に憧れさえも抱く程であった。

 最後に西田を抱きしめたときには、皆と違い、膨らみはするが頭をもたげるまでにはいかない自分の下半身に、少しばかりの失望さえ覚えていたのだった。

 

 三人と全裸での抱擁を終えた私に、野村医師が最初のセッションの終わりを告げた。