父子(おやこ)の契り

信治の一人語り

方言(熊本弁)の解説

 

●この地方の方言(熊本弁モチーフ)について

 

 今作内の表現だけでなく収録

 用語用法はすべて作者三太によるもの

 

 ■後(あと)の者→他の者、の意として使われることが多い

 ■いさぎ、いさぎい→とても、大変 肯定的な文脈で使われることが多い

 ■いっちょん→まったく、ぜんぜん 否定後を伴う

 ■おもさん→思い切り 「思うさま」=思うがままの音便

 ■おる、おっ→俺、の音便形 女性も使用する

 ■かくさん→奥さん、母さんなど 自分にも他者にも使うが、本人への呼びかけには使われない

 ■ぎゃん→~のような こそあどに付き「どぎゃんして」→「どのようにして」となる 「ぎゃん」単独で「そうそう」のような同意を表すこともある

 ■こぶる→ねぶり上げる、しゃぶる 作者の感覚としては「すわぶる」より濃厚な行為と感じている

 ■しこる、しこっとる→「せんずりをかく」もしくは「かっこつけている」等の意もあるが、ここでは古語用法でもある「硬い」「硬くなっている」の意として使われている 「醜の御楯と出で立つわれは」の「醜(しこ)」と同意

 ■ずる→出る 促音便化し「ずっ」という形での使用も多い 「いずる」からか

 ■すわぶる→しゃぶる、舐める、すすり上げる等 作者の感覚としては「こぶる」よりも唾液の量が多い状態で「舐めすする」ような行為と感じている

 ■たいがな、たいぎゃ、たいぎゃな→とても、すごく

 ■たまがる→驚く、びっくりする 古語の「魂消る(たまぎる)」からか

 ■ちかがつれ→腹が減り力が出ない 低血糖でふらふらするような状態を指す 近+かつれる(飢える)=飢餓状態に近い、からか

 ■ちょうじょう→ありがとう 感謝の意 重畳

 ■ててんご→ここでは、せんずり・マスターベーション・自慰行為を表す 元来の意味は「手遊び」であり、その場合は性的な要素は含まない

 ■どしこでん→どれだけでも 下記の「よかしこ」と同じく「しこ」は限定の意

 ■どま→くらい もういっぺんどま→もう一度ぐらい

 ■なんさん、なんさま→とにかく、とても

 ■のさん→嫌、嫌だ

 ■飲み方→飲み会、宴会の意 「飲む方法」では無い

 ■~してはいよ→~してください 標準語訳の「ください」と同じく「指示」「譲り受けの意志」どちらにも使用出来る

 ■ばってん→けど、だが、等の逆接の接続詞 この地方では主に文末、語末に付く 他県では文頭につく用例も

 ■ひっと出る→出る 「ひっ」は強意の接頭語 他に「うっ」等もあり

 ■ほいっぱい→いっぱい、たくさん、「ほ」は強意の接頭語 もしくは「陰部、下腹」を表すことにより「腹一杯」の説も

 ■まうごつ→とても、ひどく、大変など 「舞う+ごとく」からか 他の同意表現として「はうごつ」「なばんごつ」「だごんごつ」などがある なば=茸類 だご=団子

 ■まこて→本当に 「まこつ」「まっこつ」など音便化もあり 「まことに」の変化か、南部九州にて使われる

 ■やおいかん→大変、困る、うまく行かない、など否定的な意味合いを持つが標準語には直しにくいニュアンスも 他者への対人評価として使われる場合は陰口相当となり当人の前で使われることは無い 状況判断の場合には対人にも使用される 「やおういかん」(柔らかく=簡単に+いかない)からか

 ■よかしこ→いいだけ、好きなだけ、思うがまま 「よか」は「よい」のカ語尾活用形態で「しこ」は限定を表す 「どしこでん」と同じ用法

 

 ■体言+ば→~を(目的) 頭ば使う→頭を使う 古語表現の「をば」からか

 ■形容詞(形容動詞)カ語尾もしくは名詞+格助詞の後の「つ」「と」→「もの」ときには「人」との置き換え可 良かつ→良いもの わっかつ(若っかつ)→若者、若い人 きれいかつ→きれいなもの 早かつ→早いもの 俺の(ん)と→俺のもの 俺がつ→俺のもの 俺(お)ったちんとば→俺たち+の(ん)+と+ば=俺たちのものを 「なんかうまかつばはいよ」→「何か美味しいものをください」←ここでは「豚カツ」と同じ意味での「馬カツ」のことでは無いが、最近は馬カツも店のメニューにあったりするのでちとややこしいことになってきている

 ■語尾の「けん」→だから、から 順接・理由を表す

 ■語尾の「たい」→です、ます、だ、だよ等 「ばい」に似る

 ■語尾の「ばい」→~しよう、~しようよ、~したよ等、言いきり・同意・勧誘・意志・完了形過去等を表す終助詞 さらに後尾に「た」「な」が付くことも

 

以上