『金精の湯』秘境温泉物語

その6 個室

 

 夕食前の入浴が終わり、1時間ほど休息を取る。その間も、俺たち全員の股間は昂ぶりを示したままだった。

 初日ということで、昼と同じく夕食の用意は宿守りでやってくれるということで、俺たち4人は広間でごろごろと、滾った自分の肉体を持て余していた。

 

「ちょっと皆さんにお聞きしたいんですけど、これ、勃起したままっていうのは温泉の効き目なんでしょうけど、その、僕、男の人にあんなことされて感じるなんて、思ってもみなかったんですけど、皆さんはどうですか?」

 

 日高君の言葉は、皆の疑問を代弁していた。

 

「俺も、ホント、それが不思議で。昨日までなら毛むくじゃらの男の集団に囲まれたら、うわっ、てなってたって思うんですよね。職場は男ばっかりのとこだったので風呂とかで裸は見慣れてるので、嫌だ、とかは無かったんですが……」

 

 朝熊君も首をかしげる。

 

「私もなんだ。ただ、なんというか、女性とのそれに感じる『いやらしさ』とはちょっと違う気がしててね。若いときの友達とのせんずりの掻き合いとかに近い感じで興奮してる気がするな」

「あ、それは俺も感じてました。四方さん、宿守りさんたちに言われたことって、なんか尊敬してる先輩に言われてるような感じで……。無理矢理やらされてる訳じゃ無い、というのも影響してるのかな……?」

「午前中、宿に着いたときに感じたんだが、この温泉のあの甘い湯気というか、蒸気みたいなのの匂いを嗅ぐと、なんだか頭が少しぼーっとしなかったかい? 私はすぐに慣れてしまって、あまり気にしなかったんだが……」

「ああ、それは俺も感じました。朝熊君、日高君はどうだった?」

「俺はなんか緊張してて、匂いとかはあんまり気にしてなかったですね」

「僕も、ここでの一ヶ月が始まるって気負いが大きかったので、そう違和感も無かったですね。思ってたのと全然雰囲気違って、なんか宿守りの皆さん、優しいなあってホッとした気持ちでいましたから」

 

 この意識の変化が温泉によるものなのかは中年2人と若者組では若干認識が違うようだったが、それでも逞しい男性の、それも全身が剛毛に覆われた男たちの肉体に対しての嫌悪感の無さ、抵抗感の無さは不思議なものとの思いは一致していたようだ。

 普段は人に見せることなど無い部位を、握られ、計られ、あるいはその口でしゃぶられたものさえいるのだ。先ほどの風呂では、明らかに勃起をより促し、射精へと導くような動きさえ見られた。

 もちろんそこに『戸惑いと驚き』はあったのだが、昨日までの俺たちであれば当然感じていただろう、同性による性的な刺激を受けることへの違和感が、まったく生じなくなっていたのだ。

 

「男だけ、という環境と、もともと女人禁制の土地柄と聞いたからかもしれないが、ホントに不思議なものだな。まあ、物理的な刺激に男女を想定してしまうこれまでの自分の考えの方が、よくよく考えるとおかしかったのかもしれないが……」

 

 年長者である豊後さんの言葉に若い2人がうなずいているところを見ると、一応の納得はしているのだろう。

 俺もまた、どこかに小さなひっかかりはあるのだが、先ほどの風呂で感じたあの快感には抗えないという事実に、自分のそんな疑問も飲み込まれていくのを感じていた。

 

 一息ついた頃合いに次々と目の前に用意された夕食は、昼と同じように猪肉と野菜を主とした料理が卓上に並べられていた。

 これもまた温泉の湯で猪の出汁を取ったものだろう。

 その野趣豊かな風味はあっと言う間に、幾度もの入湯で疲れた身体に染み渡っていく。

 

「昼も言いましたが、温泉療法はかなりの疲労を心身ともにもたらします。適度に身体を動かして、しっかり食べて、しっかり飲んで、しっかり身体を休める。これの繰り返しが基本だと思ってください」

 

 昼からそう身体を動かしているわけではないのだが、温泉に何度も浸かるというのは自分でも気が付かないうちに体力を消耗しているのだろう。

 昼にあれほど食べたため夕方は軽くしか入らないだろうなとも思っていたのだが、箸は勝手に進んでいく。もともと体格のいい朝熊君はもとより、俺と豊後さんですら大皿盛りの鍋の具材とともに、飯だけでも2合以上も胃に入れ終わっての夕食となった。

 

「しばらく用意されたお部屋でお休みください。この後は私どもがお一人様ずつのお部屋に伺って、『揉み療(もみりょう)』というマッサージというか、按摩のようなことをさせていただきます。最初に南川様、西山様のお部屋に伺い、お二人が終わられたら、北郷様、東尾様のお部屋へと参ります。

 皆様の揉み療狩猟後に本日最後の入湯を行っていただき、初日の日程終了となります」

 

 今日だけでもすでに二度の温泉でかなり身体も柔らかくなっているとは思うのだが、さらに最後の入湯前に身体をほぐすのだということだった。

 最初の一週間は個々別々に行うとのことで、それまでの生活経験の違いがどう肉体に蓄積しているか、宿守りとしても理解しておきたいとのことだ。確かに文筆業が主の俺や、身体を動かす立場だった朝熊君、座った状態での作業が多い豊後さんなど、1人1人違う身体状況であるのは当然だろう。

 俺たちは軽く挨拶をして、それぞれに用意された部屋へ戻ることになった。

 

 改めて部屋を見渡すと、壁の前には布団が一組三つ折りに畳んである。

 確か担当の宿守りさんと2人で寝るってことだったよな、と不思議に思っていると、どうやら洋ベッドでいうクイーンサイズ、幅が160センチほどもありそうな広い敷き布団だ。

 これに2人で同衾ということになるというのも不思議なものだが、これから行われる『揉み療』とやらのためなのかもな、とも考えることも出来そうだった。

 

 ここに参加する誓約の関係で日記や何か記録が出来るわけでもなく、テレビもラジオも無い部屋だ。

 四方さんが言うように、少し身体でも動かしておこうかと満腹になった腹をかばいながら、腕立てや腹筋をしてみる。小一時間ほど一人の時間を過ごしたろうか。あれだけ食べた後で大丈夫かなとも思ったが、それなりに消化は早いようで、軽く汗ばむほどの運動が出来たような気がしたときだった。

 

「失礼します」

 

 俺の個人担当である赤瀬さんと、朝熊君の担当である白山さんが一緒に部屋に入ってきたのだ。

 

「お待たせしました」

「あ、西山くんところに行かれてたんですかね」

「はい、そうですね。西山様には施術を終えてきました。今週、みなさんに行う『揉み療』は、2人一組で45分ほど行います。では、失礼して私どもは上を脱がせていただきます。布団を用意しますので、北郷様は褌も外し、うつ伏せになっていただけますか」

 

 局部を覆うだけとはいえ、相手が六尺褌だけの姿でありながらこちらが素っ裸になるというのはなんとも恥ずかしく思えそうなのだが、すでに広間での計測や風呂場での痴態を見られている相手と思えば、そう躊躇うものでもない。

 俺は越中褌の前紐を解き、勃起そのものはおさまっていたものの、ずろんと太く血を集めたままの逸物が腹の下になるような形で横になる。確かにここで2人係りでのでのマッサージとなれば、このくらいの大きな布団の方がやりやすいのだろう。

 

「それでは始めますね。失礼します」

 

 赤瀬さんが俺の頭側から肩を、白山さんが両足の側から揉み始めた。

 専用のベッドというわけでも無いので、真下を向くというわけにもいかずに顎を布団につけた少し無理な姿勢なのだが、赤瀬さんの二抱えもありそうな太ももでその俺の視野の大半が占められることになる。

 ぐいぐいと肩から首筋が揉まれる動きに連れて、太股への力の入りよう、やはり勃起したままの逸物を無理矢理収めているような前袋の膨らみが強烈に目に焼き付いてきた。

 右の足首から脹ら脛にかけては白山さんがじゃりじゃりと毛の擦れる尻を乗せ、俺の太股を両手で揉み上げてくる。

 視界に、肌の感触に、それぞれで味わう肉感と体毛が、俺の皮膚感覚をさらに鋭敏にさせていった。

 痛すぎず、弱すぎず。その絶妙な手の動きは、俺の全身をとろとろと弱火であぶり、まさに蕩けさせていくかのような繊細さを持っていたのだ。

 

 

「ああ、気持ちいいです……。全身、溶けていきそうだ……」

「痛くないように気をつけますが、もし力が強すぎたりしたら、すぐに言ってください」

「大丈夫です、もっと強くしてもらっても……。あっ、ああ、いいです、本当に気持ちいい……」

 

 120キロは優に超すだろう大男に2人係りでのしかかられ、全身をマッサージされる。

 その力強さと肌に触れる手のひらの動きの繊細さは、身も心も蕩けるとはこのことを指すのかと思わせる。

 温浴で身体の芯まで温まったところにこの刺激を受け、全裸で横たわっている俺の肌に汗が浮かび上がる。

 

「汗、出てきましたね。失礼して、私たちも褌を外させてもらいますよ」

 

 湿った布の引きずりを嫌ったのか、宿守りの2人が六尺褌の横褌に手をかけた。

 布団に横になっている俺の顔の側に、赤瀬さんの締めていた長布がはらりと落ちてくる。

 鼻先に漂う体臭と温泉の甘い香り。それら2つが混じりあった匂いが、俺の脳髄を染めていく。

 けして嫌では無い、砂糖に熱を加えたような、どこか懐かしい匂いすら感じている。

 その匂いに俺の逸物は、腹と布団の間で押しつぶされたような形になり、先端からは先走りのしずくさえ漏れ出ている。

 

「赤瀬さんの、すごい……」

 

 頭ごと横を向き、つい赤瀬さんの下半身に目をやってしまった。

 正直、そのときの俺は赤瀬さんの、白山さんのちんぽを見たい、握りたい、しゃぶりたいう欲望を感じていたのだ。

 なんで、こんなことを?

 そんな疑問はあっと言う間に彼方へと過ぎ去り、2人のむわりとした甘い体臭に脳髄がしびれてしまう。

 風呂場で勃ち上がった巨大な逸物はすでに見てはいたのだが、これほどの近くで目にするそれは、もはや凶器とも言えるほどの偉容を誇り、びくびくと上下に揺れる先端は子どもの拳ほどの大きさで赤黒く腫れ上がっている。

 

「北郷様のも腹でつぶされて、苦しいんじゃないですか?」

 

 赤瀬さんが笑みを浮かべながら声をかけてくる。

 白山さんの指がちょうど会陰部に差し掛かり、その刺激がさらに俺の怒張への血流を増している。

 

「はい……、その、痛いぐらいです……。ここに来てから、ずっと勃ちっぱなしで……」

「温泉の効験あらたかってことですよ。長年勤めてる私どもは、もう萎えている感覚が分からなくなってしまってるほどです」

「それって、その、たとえばここから離れて、山から下りても続くんですか?」

「そうですね。温泉から離れると徐々におさまりますが、それでも数日はかかるかと思います」

「俺たちも、そう、そうなるんでしょうか?」

「もちろんですよ。しっかり温泉の成分を採り込んでいただくのがここでも湯治の目的でもあるのです」

 

 赤瀬さんとの会話の間も宿守り2人の手が止まることは無い。

 太股を、尻肉を、腰回りを回すように揉み上げる手は、力強くも繊細な動きで、筋肉と脂肪の中から一切の疲労物質を追い出すかのように動き回る。

 

「ここのコリもほぐしましょう」

 

 白山さんが俺の尻穴にそっとその太い指を添えているようだ。

 かすかな圧力を感じた後口のすぼまりに、とろりとした液体の存在を感じた。

 

「あっ、そこっ、なにを……」

「ここの温泉を煮詰めたものです。5倍ほどに濃縮された温泉成分が色々な部分を柔らかくほぐしてくれます」

「ああっ、でも、汚いですよ、そんな……」

「大丈夫ですよ。夕方前に、しっかり出しておられるでしょう?」

 

 確かに夕方の入湯前にトイレでしゃがんでいたとき、妙に「キレ」がいいなあとは感じていた。

 温泉そのものがアルカリ性が強いこと、その温泉を薄めずにかなりの量を飲んでいることと、なにか関係があるのだろうか。

 

「あっ、あっ、そんなとこっ……」

 

 ぬるぬるとした液体をまぶされた白山さんの指先が、俺の尻穴に沈んでいく。

 入り口をゆるゆるとなで回されるその感触に、俺は思わず声を上げてしまう。

 

「このまま、上を向いてください」

「えっ、あっ、はい……。ああっ、当たるっ、当たるっ!」

 

 指先を挿れられたまま、俺はぐるりと身体の向きを変えようとした。

 その瞬間、ぐりぐりとした指先が肉壁のあちこちを擦りあげたのだ。

 

「痛いですか?」

「いえ、痛くは、痛いわけではないんですが、何か、その……」

「ほら、ゆっくり出し入れしますよ」

「あっ、駄目ですっ、そんなっ、あっ、ああっ……」

「全身のコリをほぐしてほぐれた身体にこそ、湯の成分もまた浸透しやすくなります」

 

 一応、理には適っているのだろうが、尻穴までほぐすマッサージなど聞いたことは無い。

 それでも囁くような宿守りの言葉がそのまま頭の中に刻み込まれていくのは、いったいなぜなのだろう。

 

「こちらにも温泉を煮詰めたものを塗っておきます」

 

 上半身を担当していた赤瀬さんが、上向いた俺の乳首にやはりとろとろとぬめりのある液体をすり込むように塗ってきた。

 

「あ、嘘だっ、ち、乳首が感じる……」

「こちらはアルカリを調整せずに濃縮したものです。後ろに使ったものと違い、20倍ほどに濃縮してあります。身体の内側には使えませんが、乳首や亀頭など、身体の外側にある部分に使うと皮膚の新陳代謝を刺激し、より敏感に、より大きく膨れていくのです」

「そ、そんな、ああああっ、乳首、乳首がすごい……」

 

 赤瀬さんの太い指先が俺の乳首をぐりぐりと摘まみあげる。ひねり潰すようなその動きに痛みを感じるはずの俺の敏感な部分は、その痛みを数倍もの快感へと転化させ、脊髄へと信号を送る。

 

「次はこちらです」

 

 尻穴をいじっていた白山さんがもう片方の手にとろりとした汁と取り、先ほどから勃起したままの俺の先端へと塗り込める。

 

「ああああー、駄目ですっ! そんなされたら、駄目だっ、駄目だっ!!」

「これを塗りながらの刺激はすごいでしょう? これから毎日、乳首と亀頭にこの液を塗り込みます。でも、ほら、イッては駄目ですよ」

「亀頭に、こんなのやられたらっ! イッちまいますよっ!!」

「大丈夫です。『まだイっては、駄目ですよ』」

「あ、はい、イきません。俺、我慢します」

「そうです。私どもが『イッていい』と言ったときに、思う存分、イってください。我慢に我慢を重ねた上での射精が、どれほどの快感を呼ぶか、存分に味わってください」

 

 宿守りたちの言葉に素直に従う俺の頭に、なぜ? との思いが浮かび上がり、その度に乳首と尻穴と、肉棒の先端から伝わる快感が大波のようにその思いを押し流していく。

 なぜ宿守りの言葉に従ってしまうのか。いや、そもそもこの状況になぜ至っているのか。

 いくつもの疑問の断片が頭をよぎりはするが、その答えを求める前に朝霧のように消え去っていくのだ。

 

「俺、我慢します。どんなにイきたくなっても、我慢します」

「そうです。皆様方の射精は宿長の命によってのみ許可されます。それまではこのイきたくてもイけない、射精寸前の快感をずっと味わえるのです」

「ああっ、すごいです……。これをずっとなんて、すごいです……」

「もっと感じてください。私どもの肉体を、もっと味わってください……」

 

 両手を乳首と局部に当てたまま、宿守りの2人が俺の体側にその毛深い肉体を密着させてきた。

 

 全身の肌をさりさりと刺激する体毛。

 尻の中でうごめく指。

 乳首を摘まみ、こりこりといたぶる爪先。

 ぬるぬるとした汁で亀頭だけを責める分厚い手のひら。

 

 そのどれもが途方も無い快感を与えてくる。

 これまでの人生で味わったことの無い、おそろしいほどの、おぞましいほどの快感が、俺の全身を襲う。

 

 体毛に覆われた圧倒的な肉の塊に挟まれた俺の全身が、さすられ、揉まれ、撫で上げられる。

 乳首が、亀頭が、尻穴が、とろとろとしたぬめりを伴う汁で弄られ続けている。

 午前中からすでに二度の入湯を済ませ、一升近く飲泉もしている俺の肉体の内側から、炭火が燃え上がるようなじっとりとした熱に炙られていく。

 そこから導き出される快感は、強烈な『射精欲』を引き起こしているのだが、扱かれることの無い肉棒からは『射精感』は立ち上って来ないのだ。

 粘膜をゆるゆると刺激される純粋な快感が、俺の全身を燃え上がらせてはいくのだが、その炎が爆発を迎えることは無い。

 

「赤瀬さん、白山さん。俺、自分のを扱きたいんですが、駄目ですか?」

 

 かろうじて懇願には聞こえないようにと俺が2人に尋ねたが、その底にある思いには当然2人も気が付いているだろう。

 

「イッては駄目、というのは、北郷様の肉体の中に、この金精の湯の成分を最大限に取り込みながら、その素晴らしい効能を肉体中に巡らすことを指しています。扱くだけなら構いませんが、暴発しない自身はおありですか?」

 

 想像した通りの答えではあった。

 俺の身体は2人の手と肌で、最大限までとろけさせられながら、固く勃ち上がった肉棒からはとろとろとした先汁を流すしかなかったのだ。