『金精の湯』秘境温泉物語

その12 修場

 

 俺たちの28日間の湯治逗留は、期間の最終週『修めの湯』を迎えることになった。

 最後の七日間、これは温泉の効能を存分に浴び自らの肉体と精神の変容を受け止めてきた俺たちに取って、いわばその変化をこれからの生活にどう折り合わせていくのか、その心構えを修める週でもあるのだ。

 

 俺の肉体は、すでに130キロの大台に乗り、肉の鎧をまとっていた。

 肩から胸、腹、下腹部、足へと、黒々とした体毛はすべてが繋がり、肌を合わせる相手にその独特な感触での快感を与えるだろう。

 4人の湯治客の中では一番小柄だった日高君でさえ、その体重は120キロを超し、増加率だけで言えば一番になっていたのだ。もともと大きかった彼の逸物は勃起時には24センチにまで増大し、今もその猛々しいほどの偉容を誇っていた。

 

 そんな俺たちに取って、もう残り7日でこの宿での暮らしが終わってしまうことは、この変化した身体で娑婆に戻ったときの周囲との折り合いや、ここで味わったあらゆる快楽快感への訴求欲求をどのように処理していけばいいのか、それらをなんとか『修めて』しまう必要があるのだ。

 

 同時に俺と日高君に取っては、先の一週間、触れるのを禁じられていたピアス乳首への刺激が解禁される週でもある。

 日々の生活の中、ふと感じる空気の動きや、印半纏に擦られる乳首、布地に影響されたピアスの動きに、うずくまってしまうほどの刺激・快感を感じていたのだ。

 これが『快感を与えること』を目的として愛撫され、いじられ、舐められるとき、俺の精神はどうなってしまうのか。そこに与えられる快感の総量は、俺が受け止められるそれを軽く上回ってしまうのではないのか。

 そんな不安に包まれていた俺だった。

 

 

 夕食後、皆が後片付けを済まそうと立ち上がったとき、四方さんが俺と日高君を別室へと誘った。

 四方さんと俺、日高君の3人が一室に集まっている。座布団を勧められた俺たちが腰を下ろすと、四方さんもよっこらしょとあぐらをかく。その股間の盛り上がりは、いつ見ても惚れ惚れするほどの膨らみを呈し、一日中流れ出している先走りにじっくりとその前布を湿らせている。

 俺たち2人もまた、越中の一枚布を突き上げるような勃起を、互いに目の前に晒していた。

 

「どうですか。お二人への乳首への刺激を今日の夜の『揉み療』の時間から解禁しようと思います。私どもでも毎日チェックさせていただき、ピアスの定着、内壁の安定具合も大丈夫だろうと判断しておりますが、北郷様、南川様の方でご不安などあられませんか?」

 

 俺と日高君に、四方さんが一言一言を確かめるように聞いてきてくれる。

 

 この日も夕食前までの3回の入湯で、俺はすでにこの日4度目の射精を終えていた。

 それほどの回数を重ねても、俺のチンポも日高君のそれも、やはり勃起したままの硬度を維持している。

 四方さんの問いは、あくまでも、どんな行為、たとえそれが俺たちに快楽だけをもたらすものであっても、すべてそこには『同意の下で進めていく』というポリシーがあるのだろう。

 俺と日高君が、質問に答える。

 

「正直、傷の方は心配はしていません。

 貫通後、二日ほどはズキズキとうずく感じはしましたが、そのときも、つい指でいじってしまいたくなるような、半分快感、半分痛みを伴っていたような気がしてます。

 それよりも、この一週間触れられなかった乳首を誰かの指でつままれたり、舌で舐め上げられたりしたら、いったいどんな快感を感じてしまうのか。あまりの気持ちよさに、自分が壊れてしまうんじゃないか。

 そっちの不安の方が大きいと感じてます」

 

 俺の話を、日高君が引き継ぐ。

 

「僕もそんな感じです。

 痛みはもっと長引くかと思っていたんですが、なんかもう、その日のうちに感じなくなってしまっていたと思います。

 四方さんや黄田さんに『魔剋湯』を塗ってもらったり、石鹸の泡でそっと洗ってもらってるとき、何もされなくても射精してしまうんじゃないかってぐらいに感じていたのは、四方さんも気づいておられたと思います。

 今日、この乳首とピアスいじられたら、僕、おかしくなっちゃうんじゃないかって、そこらへんは大和さんと同じ意味での不安を感じてます」

 

 日高君の告白に、俺も大きくうなずいていた。

 この一週間、あくまでも傷の治りを早め感染を防ぐための『魔剋湯』の塗布も、俺や日高君に取っては強烈な愛撫と受け止めてしまうものだったのだ。

 

「お二人の心配も分かります。

 かなりの昔ではありますが、私も最初の禁止期間が過ぎ、当時の宿守りにいじられたとき、それによってもたらされたあまりの快感に気を失いそうになっていたそうです。

 正直、そのときの記憶は飛んでしまっているのですが、おぼろげな思い出として、乳首に触れられているはず、乳首だけを責められているはずなのに、全身の性感帯を百の手で撫でられ、千の舌で舐め上げられている、そんな気がしたように思ってます」

 

「それほどまでのものなのですか……。俺たち、ホントにどうにかなってしまいそうですね……」

「そう聞くと、僕もやっぱり怖いなと思います。それでも、これを乗り越えることで『変化した自分』を受け止めることが出来るようになるというのも、分かってはいるんですが……」

 

「お二人の不安は当然のものです。

 ただでさえ、これまで気づいておられなかった乳首による快感獲得に加え、ピアスによる刺激の極大化がお二人の身体では進んできております。

 もちろん『魔剋湯』の効能により、傷そのものは癒えていると判断はしておりますが、それも通常であれば数ヶ月から半年、人によっては完治安定に一年近くかかる場合もあるものです。

 過剰な刺激とならぬよう、特に今日に当たっては、慣れている私、荒熊内と紫雲の2人だけが、北郷様、南川様の乳首に触れさせていただきます。

 お二人がどのようにお乱れになろうと、どんな大声を上げられようと、私ども宿守りが何があっても支えますので、どうぞ何らの気遣いは無用にて、その身で味わう快感をご堪能ください。

 さすれば、南川様が仰る通り、変化した新しい自分の新しい未来が開けていくことかと思っております」

 

 俺と日高君は思わず四方さんの厚みのある肉体を抱きしめた。

 半纏に擦られた乳首とピアスに身体をくの字に折りたくなるが、なんとか堪えたのは日高君も同じだろう。

 ここまで考えてくれている宿守りたちの思いに、俺たちの小さな不安など振り返る必要すらないものだとの思いが沸き上がる。

 

「ありがとうございます。四方さんと紫雲さんの指、あるいは舌もかな? その与えてくれるだろう快感、俺、真っ正面から受け止めてみせます」

「僕もです。叫んでしまうかも、それこそ気絶して倒れてしまうかもだけど、宿守りの皆さんを信頼して、僕の全身をお任せします」

 

 日高君と俺との、ひそやかな決意表明だった。

 四方さんが俺たち2人の背中に毛深い手をやり、ぽんぽんと優しく叩く。

 

「分かりました。お二人の気持ちが少しも無駄にならぬよう、私も紫雲も精一杯のご奉仕をさせていただきます。

 明日からはまた、みなでの行為となりますが、今日だけはお二人を主役とした時間としたいと思いますので、『ピアス貫通乳首で初めて感じる強烈な快感』『その姿を、馴染みのものたち全員に見られる快感』を存分に味わってください。

 それでは、片付けも終わったことでしょうし、皆様も待っておられますでしょう。

 通常ですと最初の湯治期間でピアスをされる方はほとんどおられないため、まずはここから七日間の『修めの湯』についての説明を皆様に行い、その後に、お二人の乳首刺激の解禁をさせていただこうかと考えています。

 それでは、広間へ。

 そう、お二人の新しい門出の場へと、向かいましょう」

 

 俺と日高君は四方さんに促され、皆の待つ大広間へと足を向けた。

 

 

「皆様、いよいよ皆様の湯治療養もあと一週、『修めの湯』の期間を残すのみとなりました。

 ここからの七日間は、これまで昂ぶらせるだけ昂ぶらせてきた皆様の男としての『気』を、己で制御するための訓練期間となります。

 といっても最初の『慣らしの湯』のときのように皆様に禁欲をお願いするというわけではございません。『盛りの湯』の期間と同様に、互いの肉体を使いながら、己の欲望、性欲に忠実なご自身を受け入れていっていただくことはすべての前提です。

 ただし、この『金精の湯』での皆様の肉体と精神の変容は、この湯の存在を知らない方々からすれば脅威を持って思われうるほどのものでございましょう。

 そこでこの一週間では、これまでの午前中の御行の時間に、皆様の体力、精力を『普通の』社会でいかにコントロールしていくのかを学んでいっていただきたいと思っています。

 それは同時に、この湯で心身を鍛えた皆様の先輩方、すでに肉体と精神の変容を受け止め、二度三度とこの湯での滞在を許された方々との交流が始まることをも意味します」

 

 

 ああ、そう考えれば、この湯治療養では毎月毎年、幾人かの『経験者』が発生しているはずだった。

 そのことにこれまでまったく思いを抱かなかったのは、自分でも不思議に思うほどだ。

 俺たち湯治客は皆、言われてみればそうだよな、と妙な納得感を感じている。

 

「皆様には湯治最終日、お一人様ずつに封筒をお渡しします。

 これには私どもが考えた、皆様のそれぞれの嗜好に適う当宿経験者の方の連絡先が記してあります。

 もちろん、今ここにおられる4名の皆様の相互連絡については制限するものでもございませんし、むしろ積極的に連絡を取り合い、それぞれの『精(しょう)』を慰める相手としてお過ごしいただきたいと思っています。

 皆様が今後おそらく当温泉、当宿の次回利用を検討されるときに、色々な疑問や質問点も生じるかと思います。

 皆様にお渡しする連絡先の体験者様は、実際に複数回の湯治を体験された方のお話しを聞くことで、色々と踏ん切りがついたり、少しの行動に勇気が出られるのではと思って采配させていただきます。ご紹介する方は皆様、当宿での湯治を3度以上繰り返しておられるベテランの方々ですので、皆様のご不安にも必ずやお答えいただける方々だと思っております。

 なにぶんにも、予約の際に感じられたであろう様々なやり取りに費やす時間の節約になるかとも思いますので、どうぞ下山された折にはぜひ連絡をされてみていただきたいと思っています」

 

 確かに、この28日間の湯治療法をクリアすれば、自由逗留期間の予約が可能になるとの話ではあったが、具体的にそこで何が行われているかという説明は無かったように思う。

 要は利用者同士で意見交換しろ、とのことではあるが、これはこれで効率的な気がしてくるのも不思議なものだ。

 

「四方さん、次の逗留のことについて、質問出来る人、連絡出来る人がおられるということには安心しました。ただ、この一週間の『修めの湯』というところが、よく分からないでいます」

 

 いつもながら、豊後さんの質問は皆の気持ちを代弁してくれる的確なものだった。

 

「はい、そこは禁欲とは違うのですが、皆様の肉体はこの『金精の湯』の効能にて、もうすでにあらゆる刺激に対して敏感に、そこで感じる快感を最大限に味わうよう、変化してきておられると思います。

 そこでこれからの七日間は、そうですね、単純に言えば、勃起を制御する、勃起が必要で無い場面で、不用意に勃たないようにする、そのような訓練期間と考えています」

 

「それって、正直、無理っぽいですよ。俺、もう朝から晩まで、おっ勃ってるのが普通になっちゃってます」

 

 朝熊君の言いようは、皆も同じくするところだ。

 もはや萎えているときの自分の逸物が想像出来ないほど、常にその先端は濡れ、支える金玉もぐりぐりと蠢いている。

 

「もちろん、意思の力で快感を減じ、勃起を制御することは大変なことかと思います。

 そのため、ここ『金精の湯』では、皆様の肉体の方を『刺激に慣らしてしまう』方策を採っております」

 

「??? それってどういう……?」

 

 つい口をついて出た俺のつぶやきも、もっともなものだろう。

 

「これもまた単純に言えば、これまでの手や口、肌と肌との触れあいによって感じていた刺激をもっと強烈なものに置き換え、たとえば握手やハグ、あるいは衣類との摩擦によっての勃起に対して『肉体を慣れさせて』しまう方策とお考えください」

 

「えっと、僕にはちょっと、難しいです。これ以上の刺激なんて、怖すぎる気がします……」

 

「まあ、明日からの実戦で経験してもらうことになりますが、これまで入浴の際には洗体にタオルなどは使わず、私ども手のひらや体表の体毛だけで行ってきました。

 そこに今度は肌に強い刺激を与えるナイロンタオルを使用することで、普段の肌と肌、肌と衣類との摩擦や刺激を『弱い』ものなのだと刷り込みを行います」

 

 日高君、朝熊君は頭をひねっていたが、俺はその意味するところを直感的に理解したような気がしていた。

 

「それって、今まででは考えられないような刺激をやりあうってことですよね?! これまでの互いの行為でも一日に10回近い射精をしてきたのに、そんなことしたら、それこそすさまじいことになるんじゃないですか!!」

 

 俺の台詞、最後の方はもう叫んでいるかのようだった。

 これまで感じていた恐ろしくも甘美な触れあいを『弱める』ために、より『強い』刺激に身体を慣らすとは、理には適っているのだがそれがもたらす過程にはおそろしいほどの射精地獄(天国かもだが)が待っているのでは無いのか。

 

「北郷様には正確にご理解いただけたようですね。

 最初の数日はそれこそ20回、30回という射精が必要になるかと思います。それでも皆様の肉体が慣れるにしたがって、その反応も落ち着いてきますので、そこは私どもの指示を素直に受け止めていただきたいと思います」

 

 四方さんの言葉に俺たちはもう、腰を抜かしたようになっていた。

 これまでの数倍にあたる刺激に、日に何十回もの射精など、現実のことだとは思えない。

 それでもいかにもこの話題はここまでという宿守りたちの雰囲気に、俺たち4人は顔を見合わせ、目を白黒とさせるばかりだった。

 

「まあ、これは明日からのことでございますし、本日については、北郷様、南川様の乳首刺激の解禁行為が一番のものかと考えております。

 これはお二方には先ほど段取りについても説明させていただきました。

 乳首の貫通部位への『魔剋湯』の効能での傷の治りは毎日の観察で確認出来ておりますが、やはり最初は慣れたものの手による刺激がよいかと判断しております。

 皆様には待ち遠しいことかとは思いますが、本日は宿長の私と一番の経験者である紫雲の2人の手によってのみの刺激とさせていただきます。

 では、北郷様、南川様。前にお進みください」

 

 四方さんの勧めで、俺たちが皆の前に立つ。

 

「お二人は褌も外され、全裸になられてください。皆様も脱いでいただいても結構ですし、お二人を見ながら自らのものを扱いていただく、自分の乳首をいじっていただいても大丈夫です。

 ただ、皆様のこの時間における最初の射精は、北郷様、南川様の絶頂に合わせ、皆で一緒にイきたいと思いますので、その分のコントロールはお願いしたいと思います」

 

「うわあ、大和さんがピアス乳首いじられる姿見ながらせんずりかけるなんて、最高ですよ!」

 

 朝熊君の言葉は、応援と受け取っていいんだろう。

 

「日高君、想像するだけで失神しそうな快感が襲うんじゃないかと思うが、頑張れよ」

 

 豊後さんのそれは、文字通りの声援だ。

 

「それでは失礼して、私、荒熊内と紫雲の2人も、北郷様、南川様と同じように褌も外させていただきます」

 

 四方さん、紫雲さんが素っ裸になり、4人の巨大な砲塔が、雄々しくも天を突く。

 朝熊君も素っ裸になり、もう準備万端。その後ろには白山さんが抱きかかえるようにして腰を下ろす。

 豊後さんも印半纏を脱ぎ、越中の前布越しに股間を揉み上げながら、ぷっくりと肥大した乳首をいじっている。

 横に控えた緑川さんの唇が、豊後さんの片方の乳首を狙っていた。

 

 赤瀬さん、黄田さんは俺たち2人の後ろで万が一のときに身体を張ってくれるのだろう。

 何が来てもいいように仁王立ちになり、俺たちと四方さんたちの行為を見届けるようだ。

 

「それでは、北郷様、南川様のピアス乳首への刺激を開始いたします。

 お二人とも、気を確かに持って、受ける快感を少しも漏らさぬよう、受け取ってください」

 

 四方さんの言葉に、俺と日高君の裸体に緊張が走る。

 

 2人の宿守りの、黒毛に覆われた無骨な指が、俺の乳首の先端を捉えたそのときだった。

 

 

「あがっ、あああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 

 ここから先のことは、もう、ほとんど記憶に残っていない。

 後から聞けば、日高君もまた同じだったようだ。

 

 それは乳首から全身を貫く稲妻だったか。

 あるいは煮えたぎる溶鉱炉から注ぎ込まれる、1000度を超える溶けた金属であったか。

 

 記憶も理性も吹っ飛ばすほどの刺激を、たった2本の指先がもたらしたらしい。

 ばったりと倒れようとする俺を、赤瀬さんが支え、横たわらせる。

 かろうじて最初の一撃には耐えた日高君も、くりくりと揉まれた乳首に、すぐに立っていられなくなったらしい。

 

 ほぼ意識を失った俺と日高君は、乳首とピアスをいじられながら、誰にも触れられていない逸物から、それこそ何回にもわたって雄汁を噴き上げたようだ。

 それを見ていた朝熊君、豊後さんも、宿守りの手を借りながら、片手ではおさまらないほどの回数の吐精に及んだという。

 

 それほどの快感を味わいながら、記憶が不鮮明というのはどうしようもなくもったいない気がしてしまったのだが、こればかりは悔いても仕方の無いことだろう。

 それでも後から聞くあの日のことは、頭に残るかすかな記憶を繋ぎ合わせることと相まって、俺の貴重なズリネタになったのだった。