09
汗が親父さんの肉厚の胸を伝わって、毛の生えた太鼓腹に落ちる。
俺は親父さんの話を聞いている間中、勢いよく越中の前垂れを押し上げて染みを広げようとしている自分のちんぽの存在を忘れていた。
「ぼんずも、今の俺と息子の話を聞いて、おっ勃てとったか? んだな、当たり前でねえか、男ならみなそうだず。となりの男がちんぽ勃っているのを見れば、自然に自分のちんぽも勃つもんだ。恥ずかしることはねえべさ。あくびとかと同じだ。ぼんずが元気な男を見せてくれたからよ、俺のちんぽも元気になってしもたず。ほら、こんなだ」
親父さんは越中の前垂れを引き上げる。脇から先走りまみれになった、雄々しく短いがたくましく太い、中年男の使いこんだ一物を引きずりだして見せてくれた。
むわっと夏の熱気に蒸された陽物は、その臭いでさえ人を魅力的に見せる。
オリンピックのために出稼ぎに来た、東北の田舎くさい親父が、途方もなく男らしい英雄に見えるくらい、その効果は絶大だった。
「俺の金玉もごついからな、見てみっか?」
親父さんはわざわざ越中の股の脇から黒々とした毛に覆われた、大きなじゃがいもをさらけ出す。
ずっしりと重量感のある雄の源は、ちんぽの猛々しさをしっかり抑え、包容力のある役割を果たした。
この二つの男の象徴はどちらか片方が欠けても、魔性の威力は発揮できないのだろう。二つ揃った状態であることが、俺にとっては完全な性神のシンボルとなるのだ。
親父さんのその二つの男はまさに絶妙なバランスで、股間の中央に堂々と存在した。
そのシンボルに俺の手が到達するまで、どれだけ長い時間がかかったろう。気絶するくらいのじれったい時間をかけて、俺の指が親父さんの太棹の根元に絡みつく。その熱い脈動を捉えたとき、親父さんは俺を見下ろして、一言、問うた。
「ぼんずも、父ちゃんのちんぽをしゃぶらされたかの?」
それは、俺の人生の大きな分水嶺を見抜かれたことと同じだった。
一瞬、手の動きを止めて、俺は親父さんの顔を見上げた。
途端にまた涙が溢れ、後から後から親父さんの越中の上を濡らし続けた。
俺の親父。親父はある夜、夢中でセンズリをかいていた俺の背後に立ち、覗き込んでいた。俺が振り返ると、恐ろしい目つきで睨みつけた。
慌てふためく俺の前に仁王立ちになり、勢いよく越中褌を剥ぎ取り、隅の方に丸めて放る。
俺の目に飛び込んで来たのは、怒りに震えるかのようにびくびくと上下に雁首を揺らし、目の前の獲物を威嚇するような動きをする大蛇であった。
そして、その大蛇の懐に抱かれていたのは、男性の証である巨大な玉二つ。
大蛇は口からネロネロと唾液を垂らし、畳に糸を引いた。
俺は引き寄せられるかのように、素っ裸の親父の股ぐら目指して、這って行った。
10
「せんずりするなら、父ちゃんのちんぽ、ねぶりながらしろは・・・。」
俺は死んだ親父のセリフの続きを言いかけて、何故だかそこに本当に父親がいるような気がした。
親父さんは、優しく俺の頭を撫でながら、話の続きを待ってくれた。
「ぼんず、辛えなら話すこたねえからな」
親父さんは、ふんわりと抱きしめてくれた。親父さんの身体から淫蕩な臭いに混じって、かすかにハイライトの煙の匂いもする。
それもまた、父親との始まりのことを思い出させて、いっそう涙が溢れてきた。
「いや、話してえからよ、聞いてくれ。話すとなんかよ、親父さんと一緒にになるような気がすんだ」
ここからは俺と死んでしまった俺の実の父親との話だ。
俺の父親との間に起こった事は、辛い思い出ではなかったと思う。
心の中では父親に対する性的な魅力を、自分の本質的な性衝動の一部として捉えていることはすでに認識していたし、その誘惑にも勝てないことは分かっていたからだ。
もちろんそれが、同じ屋根の下に住む肉親に対する淫欲ということになる、そのことも理解していたわけで、成長期の男子が受け入れるには、非常に複雑で残酷な状況だった。
そんな複雑な思いも、実の父親の
「せんずりするなら、俺の一物を愛しながらやれ」
という、たったそれだけの言葉で、あらゆる罪の意識も、あらゆる肉欲の煩悩も、一気に瓦礫のように崩れ去り、後に残った感情はただ一つだった。
「父ちゃんのちんぽをしゃぶりたい!」
世の中で、普段言われている「不道徳なこと」とは、いったいどんなことなのか?
そんなものは何も思い出せなかった。目の前にある、大人の男の強烈な性の象徴の前には、何も勝てなかった。
躊躇させるものも、後悔させるものも、踏み止まらせる規律も、そこには何もない。
俺の目の前には、男の生殖器だけが浮かんでいたのだ。
つまり、それは、ひたすら愛すべきものにすぎなかった。愛おしく、執拗に愛撫する以外、何をしろというのだ。
凄まじい存在で、俺を魅了するもの。
その、ふてぶてしく、猛々しく、誇張された太い親父の中心に俺は見とれて、全身で喜びを表しながらしゃぶりついた。
「父ちゃんの男の臭い、雄の味、俺が求めているものすべてが備わった、完璧な肉塊だった」
裸電球の明かりを綺麗に反射させて、亀頭が照り輝く。
そこに俺の上顎がぴったりと覆い、そしてゆっくりくびれを感じながら竿の根元の草むらまで、喉の奥にあてがう。
「おおっ! き、気持ちいい。自分の息子にしゃぶってもらうと、さらにいいなあ。興奮するずう」
父ちゃんは目を閉じて、恍惚となっていた。
俺は無我夢中で、目の前の父の男を味わっていた。同時に自分自身の男の部分もしごき始めた。
「どうだ? 父ちゃんのちんぽをしゃぶりながらかくせんずりは、また格別だろが? 一人でかくより、気持ちええべ?」
「んぐっ、んぐぁ」
言葉にならない返事をした。
「よしゃ、次は父ちゃんの金玉さしゃぶれや。お前はな、このでかい玉ん中さ、いたんだず。お前の生まれた場所だ。ほれ、懐かしいべ、臭いを嗅ぎながら、口いっぺいに、ほおばれ」
父の臭いは故郷の臭いであり、純粋な男の臭いでもある。汗臭い、男臭い、懐かしい、安心するが同時に、淫蕩に自分が変わる臭いでもある。
俺は口いっぱいに巨大なふぐりを押し入れて、舌を這わせた。
「うおうっ、たまんねえ。金玉をよ、自分の息子に舐めさせながら、息子のせんずりを見物できるとはよ。父親冥利につきるべ」
俺はこの二つの玉の中で、父に作られたのだ。まさに自分が自分自身を愛する形であった。
俺は自分の金玉もしっかりと右手で鷲掴みして、揉み始めた。
「おめえも金玉、気持ちいいか? 父ちゃんの玉とお前の玉、両方撫でてみろは」
父ちゃんは俺を一旦立たせて、父と子の両玉を俺の手のひらで包み込んでくれた。
同時にいやらしい、吐息がこぼれた。
「あ、ああ、金玉、気持ちいい」
親父は俺にそのまま玉を揉み続けるように命令し、もう片方の手で二本のちんぽをゆっくり扱き、こう言った。
「玉をながら、ちんぽ扱くと気持ちいいべ、これからせんずりのときは、自分の玉撫で回しながらやれや」
喘ぎ声が、かろうじて俺の返事だった。
父ちゃんは俺を再び座らせると、また、ちんぽを突き出してきた。
亀頭がぱんぱんに張った、熱い男の生きている竿。俺は父ちゃんを見上げながら喉の奥まで咥えこむ。
俺の口の中を出し入れする父のちんぽは、次第にその運動が激しくなってきた。
「はあはあ、おおっ、いい!」
父は俺を見つめながら、自分の一物がぬらぬらと息子の体の中に入って行ったり、出てきたりする様を楽しんでいた。
「そろそろ、お前も出したかろうて。父ちゃんの男の命ば、今からお前の中に送り込むからな、お前の兄弟と同じだず、自分の兄弟を受け入れろな」
そう言いながら、激しく腰を動かし、俺の頭を思い切り抱え込んで、根本まで、ぐいっと押し入れる。
「飲め!ほれ、お前の弟だ、うおおっ」
夥しい生臭い、熱い液体が容赦なく喉の奥を打ち付ける。
すごい量だ。
終わりかと思えば、まだどくどくと注いでくる、親父の男自身。一滴も残さず味わいながら、自分自身の男もこの射精のいやらしさに負け、勢いよく噴出して応えた。
「父ちゃん、俺のも見てけろ」
栗の花に似たあの臭いが広がり、父ちゃんはしゃがみこむと、愛おしげに俺のちんぽから滴り落ちる男の液体を舐めとった。
「いい、せんずりだったべ? また、こきたくなったら、父ちゃんを呼べな。なあに男同士だ、おめえがいた父ちゃんの玉だからよ、恥ずかしくねえべさ。父ちゃんも息子が一人前の男になって、せんずりかいて見せてくれるのが嬉しいんだず。自分の息子が男になってな。気持ちよがっているのを見られるのは、いいことだ。息子にしごかれるのも、親子の情を感じるしな」
父ちゃんは自分の越中で、俺の出した精液を拭き取ると、臭いを嗅ぎながら笑った。
「おんなじ臭いだべした」
そう言うと、べっとり濡れたそれを俺の顔にくしゃくしゃにして押し付け、部屋を出て行った。
11
「それから・・・」
そう言いかけると、俺を見つめながら聞いていた親父さんは、いつの間にか解いた自分の越中を俺の顔に押し付け、涙を拭いてくれる。俺は思い切り鼻を押し付け、親父さんの一物を包んでいたその臭いを嗅ぐ。
「毎晩、父ちゃんと出し合いしたんだへ? 俺の越中を嗅ぐと思い出すべ?」
俺はうっとりと気持ちよい臭いに浸り、自分も越中を外しにかかった。
「まんず、俺のとこと、ぼんずのとことよ、おんなじだなあ」
俺は優しく抱きしめてくれた、親父さんの胸の温もりを確かめながら聞いてみた。
「親父さん、オリンピックの工事に出稼ぎに来てから、こういうことは、うん、つまり男同士の交わりさ、なかったけ? 寂しかったろ?」
親父さんは、真面目な顔になった。
そして、ゆっくり自分の唇を俺の唇にかぶせてきた。
ハイライトの香り、汗の香り、精液の香り、すべてが自分の父と重なってくる。
俺の腹に親父さんの男が当たる。鈴口から透明な液が伝わり、広がる。親父さんは自分でそれを指ですくって、俺の口に押し込んだ。
俺も何をすれば良いか、悟った。
ぬるぬると越中を染めていた俺自身の先走りを同じように指にすくうと、親父さんの舌の上に乗せた。
互いの雄としての象徴から垂れる雫を飲み合うこと。つまり、それは本当の親子になろうとする合図だった。
何も言わなかったがお互いに理解していた。
俺達は、まさに出会うべくして出会った、元父親と元息子だったのだ。
親父さんは自分の舌を俺に重ねて、しばらく舌が合わさる感触を味わってから、なんとも、やるせない話を始めた。
それは、俺たちが親子になるためには、避けられない話であった。