『金精の湯』秘境温泉物語

その13 終日

 

 いよいよ俺たち4人の湯治が明日で終わるという夜。

 普段は大量ではあるが食事と飲泉だけで済ませていた夕食に、宿守りたちが酒の容器のようなものを用意している。

 

「アルコールってダメじゃ無かったんでしたっけ? それか、最終日だから、打ち上げしようとかですか?」

 

 どこかウキウキとした朝熊君の言葉。

 俺もその浮かれ具合は理解しつつ、同時に寂しさも募るこの日だ。

 

 

 あれからの『修めの湯』の毎日は、俺たち4人に取っては、それはもう雄叫びと吐精に彩られた、苦痛と快楽、苦行と修行に満ちた毎日だったように思う。

 風呂場ではそれまで互いの肌同士で行っていた洗体行為。それが、いきなり強い刺激をもたらすナイロンタオルで肉体中のあらゆるところを擦られていくことになった。

 

 股ぐら、乳首、亀頭、そして全身の鬱蒼と体毛の茂った肌。

 そこに与えられる強い刺激は、まるで絶叫マシンに無理矢理乗せられたかのような雄叫びを、俺たちの喉から上げさせていく。

 刺激に堪えきれず雄汁を噴き上げる肉棒も、射精途中、直後を一切考慮されることなく、その先端を、玉袋を、ごしごしと擦りあげられるのだ。

 特に射精直後のその刺激は、もう声すらも枯れるほど、身をよじりによじるほどの強烈なものであり、カッと火を噴かれたように、敏感な粘膜に熱と刺激をもたらしていく。

 

 あるいは夜の布団の中、揉み療とはもう名ばかりの乱交の中、それまで手と指先で刺激されていた亀頭が、たっぷりと魔剋水に浸された越中褌を使っての責めを受ける。

 思わずのけぞりそうになるその瞬間に、歯ブラシの先を使って責められる乳首からは、焼けるような感覚すら伝わってくる。

 何度吐精をしても決して逃れられないその刺激は、とうとうじょぼじょぼとした小便すら漏らしてしまうほどで、『男も潮を吹く』という、これもまた生まれて初めての経験を何度もすることになった。

 

「もう、もう出ませんっ! 許してくださいっ!」

「まだまだ、全然萎えないですよ。もっと感じて、もっとイッてください」

 

 冷酷にも残酷にも聞こえる宿守りの声。

 しかしその声を聞くと、勝手に頭の中が「もっと俺はイける。まだまだ萎えていない。もっと快感を感じて、何度も射精をしなければ」との思いに支配されていくのだ。

 

 

 そんな雄汁とよがり声にまみれた日々が数日続いた後、その熱を持った波が一気に引いていく感覚を覚えることになる。

 

 それまでのナイロンタオルや一枚布、歯ブラシでの刺激が止まり、再び宿守りたちの手と口、あるいは肌同士への触れあいへと切り替わったのだ。

 

「あ、これ、気持ちはすごくいいけど、なんか我慢できます」

「確かに、慣れってのはすごいものだな。手でやられただけでもあれほどよがっていたのに、これだったらずっと耐えることが出来そうだ」

「それに『刺激を受けたら勃つ』のは今まで通りなんですが、なんだか太いままで固さはほどよい状態って時間が増えてきました」

 

 それぞれの感想、それこそが宿守りたちの言っていた『肉体への強い刺激に慣れる』ということだったのだろう。

 

 山を下り『普通の生活』に戻ったときに最大の不安材料だった、『四六時中、いつでも勃起している状態』については、解決しそうな具合だったのだ。

 

 

「ほら、ぐっと空けてください!」

 

 宿守りたちが用意していたのは、酒器にたっぷりと注がれた『魔剋湯』だった。

 ピアス穴を開けるときに少し飲まされてはいたのだが、これほどの量を飲むのは初めてだ。

 効能の一つに、酒に似た酩酊作用がある、というのを実感する。

 禁酒禁煙で過ごしてきた中、まさに俺は大宴会にも参加している気分になっていた。

 最終日というどこか開放感に満ちたこの場の雰囲気と、酒に酔ったような自分の気分と、その二つが合いまった俺は、普段ではまずやらないような大胆な行動に出てしまった。

 

「おおーし、俺、全裸でピアス乳首いじりますっ! 皆さん、俺の乳首せんずり、見てくださいっ!!」

 

 学生時代の体育会での宴会でのようなノリだった。

 久しぶりの『酔い』に俺の頭がスパークし、越中褌を外し全裸になった俺は、皆の前にその逸物を曝け出す。

 

「大和先輩がやるなら、後輩の俺が脱がないなんて、失礼っスよね! 俺も脱ぎますっ! 先輩の乳首せんずり、お手伝いしますっ!」

 

 俺のノリにあてられたのか、朝熊君もまた素っ裸になる。

 

 手伝い、の意味は明白だった。

 俺は両手を頭の上で組み、皆の前に仁王立ちになった。なにもかも、すべてをさらけ出す、男の姿勢だ。

 朝熊君が俺の後ろに回り込み、この一ヶ月で何十キロも増えたバルクを密着させてくる。

 

 背中一面に感じる朝熊君の体温。

 互いの体毛から発するむわりとした体臭。

 尻肉の間で火傷するかのような熱を発している朝熊君の肉棒。

 そして、俺の身体を見つめる、宿守りたちと豊後さん、日高君、男たちの視線。

 

 そのすべてが俺の脳髄を灼き、そのすべてが俺の股間に男としての『気』を集めていた。

 

「先輩、いいっスか? 俺、先輩のピアス乳首、いじるっスよ。大和先輩、俺のテクで、乳首だけでイってくださいっ!」

「おうっ、朝熊っ! やれっ! 俺のピアス乳首、いじって、いじめて、俺のチンポから雄汁噴き上げさせてみろっ! 俺の『男』を、お前の指で、どうとでもしてみろっ!!」

 

 もう俺の頭の中は、乳首をいじられての射精、それだけが目的になっていた。

 この感覚、感触、感動。

 なんと言ってか分からない、その『感じ』が、ぞくぞくと俺の背中から漂ってきていた。

 

「先輩、俺、イきますっ! 先輩の乳首、ピアス乳首、いじるッスよっ!!」

 

 ついに朝熊君の爪先が、俺のピアス乳首を捉えた。

 

「うあ、ああ、ああああああっ!!

 朝熊っ、いいぞっ!

 もっと、もっと強く乳首いじれっ!

 ピアスにお前の指引っかけて、つねり上げろっ!!

 

 ああっ、あっ、あっ、乳首感じるっ!

 俺、乳首感じてるっ!

 みんなに見られて、俺、乳首だけでイッちまう!!」

 

「大和先輩っ、イってください!! 俺の指で、乳首だけで、イってください!!!」

 

「おうっ、おおっ、おおっ!!!!

 ダメだ、イくぞっ!

 乳首で、こんなでっかくなった乳首いじられて!

 みんなに見られてっ!

 

 俺、イくっ!

 イくっ!

 イくーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 

 こうして俺の28日間の湯治は、俺の肉体と精神の変容は、一応の終わりを迎えた。

 下山してからの日々。朝熊君とは今でも頻繁に連絡を取り合い、互いの性欲をぶつけ合っている。

 日高君と豊後さんも、けっこういい感じになっているらしい。

 

 この冬、12月の自由逗留期間に早速2度目の湯治を申し込もうと思っている俺は、最終日に渡された封筒を開けた。

 その電話番号を鳴らす俺の隣には、朝熊君がやはり期待した顔で聞き耳を立てている。

 

 2人合わせて250キロの体重を支えるソファーは、そろそろ買い換えないといけないだろう。

 それでも、この体重と体毛、幾度も汁を噴き上げる肉体を手に入れたことに、悔いは無い。

 

 俺も、朝熊君も、あの日々を共に過ごした4人も。

 みなあの『金精の湯』で過ごした日々に自らの『男』を磨き上げたことを、誇りに思っているのだから。