男性専科クリニック Part 4

その5

 

その5 ハグ、キス、スニッフィング

 

「いやあ、さすがに夕食も美味しかったですね」

「馬肉料理にスッポンにって、精力つけろと言わんばかりのメニューは先生の好みなんすかね?」

「このあたりは馬もスッポンも有名なんですよ。もちろん、ちゃんと入れておいてくれとは言いましたが」

「田畑君なんか、飯喰っただけでギンギンになったんじゃ?」

「そこまでは無いですけど、ボリュームもあってホントに美味しかったですよね」

 

 部屋食の片付けも中居がテキパキと行い、後は敷かれた4組の布団が残っているだけの、山崎達の部屋での会話であった。

 

 地のものをふんだんに使った料理の数々は、食通でもある野村医師の紹介だったこともあり、それぞれに満足したようだ。

 

「それにしても、ビール禁止には参ったなあ。ゴルフ場ではOKだったのに、まさか夕飯で飲んじゃいかんと言われるとは思ってもみなかったですよ」

 

 愚痴混じりに聞こえるのは西田の台詞か。

 夕食前、野村医師からあくまでも今回の旅行は性機能回復をはかる目的があるのだと、夕食時のアルコール摂取の禁止令が出たのだ。

 

「アルコールは確かに心的抑制の除去や全身の血流を増すという効果があるのは確かだが、それよりも害の方が大きいというのが私の持論でしてね。西田さんや山崎さんにはこれまでの治療でも『抑制を意識的に外す』行動を指導してきたわけで、その点でも主体的な快感の獲得に向けてアルコールの力を借りるより、行動変容を先にした心理的障壁を取り去ることの実感を掴んでほしいとの思いからですので、今日ばかりは辛抱してくださいね」

 

「まあ、先生がそう言うと、こっちはぐうの音も出ないですけどね」

「西田さん、ビール以上に楽しいことが待ってるんだからいいじゃないですか。野村先生を僕達全員で責めるなんて、お酒以上に楽しいことだと思いますよ」

 

 口を尖らせていう西田に田畑が切り返す台詞がおもしろく、山崎が笑いを堪えていた。

 もちろんこれまでの治療過程で野村医師を周囲が責めるという場面が無かったわけではない。

 玉井医師も入った合同セッションではそれぞれの肉体をそれぞれが堪能する一面もあったわけではあるが、今回のような完全に1対3の状況、責め手と受け手が別れた上での経験は初めてのものだ。

 

 山崎や西田はてっきり布団に横たわった、もしくは立ったままの野村医師を責めるのかと思っていたら、部屋食のときに使った重厚な座卓を使うらしい。

 

「てっきり山崎さんか西田さんを責めるようにと思ってたんですけど、まさか先生になるとは思わなかったですよ」

 田畑君が用意しているのは、手足を拘束する縄であろうか。

 手足それぞれのためか、4本は確実に用意されている。

 

「俺、もうおっ勃っちまってるよ。先生をみんなで責めるって、想像するだけでもう堪らんなあ」

 

 西田の浴衣の前はこんもりと盛り上がり、風呂以降、下着を付けていないのも明かだ。

 視線を移せば、4人全員の逸物がすでに勃起しているのが分かる。

 

「では、今日の流れを説明しておきたいと思います」

 

 医師が責められ役ということで、必然、田畑君が仕切り役になる。

 握りうんぬんは移動を初めてからのものではあるが、元々夜の部の構想を色々用意していたのだろう。バッグの中には長さも様々なロープや縄、手錠にアイマスク、数多くのローションなどが用意してあった。

 クリニック側としての打合せはすでにしていたようで、今夜の流れの説明が始まる。

 野村医師は田畑君を見守りながら、責められ役を堪能するつもりのようだ。

 

「先生とも話したんですが、最初はいつものセッションの流れの途中、全裸でのハグから始めましょう。

 今日はこれまでのハグで終わるルーチンに、キスの行程を追加したいと考えてます。ハグをしっかり堪能して、その後に舌を入れ、唾液をたっぷり交換するディープキスを交わしてください。

 ここではこれまでのハグや射精のときにもやってもらっていた、『目をつぶらずに』ということを意識してもらいたいと思います。

 その後、いよいよ先生を座卓に手足を拘束します。

 そこからは3人で先生を責め、最低でも2時間は射精させずに快感を与え続けたいと思います。

 先生に射精を何度も懇願させて、3人がもう快楽責めを堪能したと合意したところで、初めて射精をしてもらおうかなと。

 先生の射精後には拘束を解いて、4人でそれこそ組んず解れつ、何度も射精出来ればなと考えてます。

 仲居さんももう来られませんので、玉井先生の薬も使って、本能剥き出し、最高の快感をみなで楽しみましょう」

 

「あの薬、みんなで使うのは2ヶ月振りかな? この前は俺と山崎だけだったし……」

「あれ使っちゃうと医療側としての介入忘れちゃうぐらい、気持ちよくなっちゃいますからね」

 

 ここでの薬とは、野村医師の師事する玉井医師が参加したセッションの際に使った、長期的には男性ホルモンの生成を促し、短期的には強烈な興奮を引き起こす媚薬ともいえるものだ。

 揮発成分の直接吸入、もしくは空間への噴霧、あるいは下着に染みこませたものを着用することによる皮膚からの吸収など、使用方法は幅広い。

 

 短時間効能としての、催淫、興奮、さらには精神的抑制の除去を誘う。長期的には男性性能力の底上げと、性的な意欲向上が見込まれている薬剤となる。

 その効き目は劇的なもので、一晩で二桁の射精をも可能にするほどなのだ。

 

 あのときの、金曜の夜から日曜にかけての3日間。玉井医師を含めた合同セッションで、5人でいったい何十回の射精をしたのだろうか。

 淫獣と化した男達、医師2人、看護師1人、患者2人の空間が実に淫猥な気に満ち、雄汁と汗、唾液と先走りと、それこそありとあらゆる体液にまみれた数日を過ごすこととなったのだった。

 

 今回、2ヶ月振りに参加者全員があの薬を使用する。

 そのことを思うだけで、全員の逸物の硬度が増すのは仕方がないことだった。

 

「空間噴霧だと、明日、部屋の片付けをする人に影響出るかもですから、今日は鼻腔からの直接吸入で使用します。全裸でのキスの時点から、使いましょう。

 それでは、まずは全部脱いで、それぞれのハグ、キスからお願いします。二組出来ますから、今回は同時進行で。

 最初は山崎さんと僕、西田さんと先生から初めて、他の2人をぐるっと一周しましょう。

 山崎さん、西田さん。なにか質問はありませんか?」

 

「いや、大丈夫です。田畑君の話し聞いてるだけで、しごきたくなってます」

「俺もだ、誰のでもいいからしゃぶりたい。しゃぶってほしくなっちまってるよ」

 

 山崎と西田の率直な意見に、野村医師が答えた。

 

「はは、みな興奮を隠さなくなってるのは素晴らしい成果だな。今日はみなに責められると思うと私ももう、触ってもいないのに漏らしそうになっていますよ。

 それでは、お手柔らかに、いや、違うな。

 激しく責めて、思いきり私をよがらせてほしい。

 最後は全員で絡み合って、何度も最高の快楽を楽しんで、射精しましょう」

 

 田畑君が目配せをする。

 座卓の周りに座っていた4人が一斉に立ち上がる。

 浴衣を脱ぐ。

 単純なその行為そのもので、山崎も西田も、部屋の室温が一気に上がるような気がしていた。

 

 4人の男達が、部屋の蛍光灯の灯りの下にそれぞれの裸体を晒す。

 

 全身を覆う体毛が実にいやらしく、太鼓腹もまた黒くけぶったシルエットを描く野村医師。

 典型的な中年太りで野村医師ほどでは無いが、たっぷりとした下腹と肉厚の身体が熟した色気を放つ山崎。

 がっしりした体格に中年らしい脂が乗り、袖下と首から上の日焼けが健康的ないやらしさを醸し出す西田。

 柔道体型と言っても過言の無い、むっちりしとした重量感ある肉体に日灼けした肌をまとった田畑君の裸体は、唯一の30代としての熱気を放っている。

 

 4人それぞれが互いの肉体に欲情し、かすかに漂う体臭に、さらなる興奮を感じている。

 目線が何度も行き交い、その度に勃起した逸物が揺れ、先端からは透明な汁が飛び散った。

 

「最初は西田さんと先生、山崎さんと僕とでスタートです。ハグとキスを堪能して、下半身をぞんぶんに擦り合わせたら、相手を交換してやっていきましょう」

 

 スタートを合図した田畑君の声がわずかにかすれているのは、興奮のためか。

 

「野村先生、お願いします。私、山崎は今から先生を抱きしめて、キスをします」

「ああ、私野村も、山崎さんを抱いて、キスをしたい」

「俺、西田が田畑君を抱くぞ。たっぷりハグして、お互いのチンポ擦り付けて、やらしいキスをいっぱいしよう」

「西田さん、そんな言われると、僕、田畑はそれだけで感じてしまいます。ハグして、キスして、西田さんの身体を感じたいです」

 

 相手の名前を呼び、行為を言葉に出して確認する。

 この作業が快感を増幅し、無意識に快感を与える、与えられる相手を強く認識に繋がることを理解した上での言葉であった。

 

 4人がそれぞれの相手に近づき、しっかりと相手の目を見つめながら互いの背に手を回し、ぐっと引き寄せる。

 腹と腹、胸と胸、股間と股間がぶつかり、ぐにゃりとその形を変えた。

 

「西田さん、これ、使ってください」

 

 田畑君が薬液が入った小瓶を西田に渡す。

 中の液体をこぼさぬよう、慎重に蓋を開け、開口部に鼻を寄せる。

 深く吸い込んではしばらく息を止め、ふうっと吐き出したそのときだった。

 

「ああ、すげえ……。来た……」

 

 頭のてっぺんから足先まで、灼熱の幕を通り抜けたような熱感が全身を襲い、触れ合った肌が火傷をしたかのような感触で鋭敏さを増す。

 

「西田さん、まだイっちゃ、もったいないですよ」

 

 西田のがっしりとした身体を抱いている田畑君が、耳元で囁く。

 薬をスニッフィングした西田にとっては、耳にかかる吐息さえ快感を呼ぶ。

 

「ああああっ、田畑君っ……。な、なんとか堪えたぞ……」

「僕も、吸わせてください……」

 

 西田から受け取った小瓶から同じように吸入をした田畑君が、一瞬のふらつきの後、山崎と野村医師のペアに瓶を渡した。

 

「玉井先生の薬は、やっぱりすごいな……」

「もう全身が燃え上がりそうです」

 

 慣れている野村医師と田畑君ですら、あまりの快感と衝動に一瞬、瞳の焦点が合わなくなるのだ。

 ましてや、まだ数度の経験しかない山崎と西田にとって、この薬の影響は絶大なものだ

 

 一度深く吸えば数時間は保つように調合してあるとの玉井医師の話ではあったが、この滾りを抱えたまま過ごす時間に、山崎などは恐怖さえ覚えるほどだ。

 

「野村先生のチンポが、私のに当たってます……」

「山崎さんの腹も気持ちがいいなあ」

「西田さん、チンポの先が腹に当たって痛いぐらいですよ」

「田畑君の身体、いつもだけど抱き心地いいよな」

 

 より即物的な物言いが、4人の間で目立ち始めた。

 薬で心理的な抑制が取れたせいなのであろう。

 

「田畑君、キスしよう」

「はい、西田さん、目をお互い見つめたままで……」

「野村先生、キスしていいですか? 先生の唾液、私にください……」

「ああ、山崎さん……。キスだけでイきそうだ……」

 

 西田と抱き合った田畑、山崎と抱き合った野村医師。

 それぞれが肌を密着させたまま、その唇を寄せ合っていく。

 田畑君の指示通り、無意識に閉じそうになる瞼を押し開き、焦点が合わなくなる距離まで互いの瞳を見つめ合う。

 

「んっ、んんっ……」

「むんっ、うう……」

 

 唇が触れあい、舌と舌が絡み合う。

 舌先に乗せた唾液を相手の口中に送り込み、もらい受けた液体をごくりと喉を鳴らして飲み込む。

 唇の表面を、1本1本の歯を、歯茎を、口蓋を、舌先が這い周り、塗り込められた唾液が潤滑油と化す。

 

 くちゅっくちゅっ、ぬちゃっ、ぬちゃっ。

 かすかな水音が淫靡な雰囲気を醸し出す。

 

 欲情を浮かび上がらせた表情が、目を見開いたままの口接によって、しっかりと相手に伝わっていく。

 自らの欲望と欲情が相手の瞳を通して環流し、一回り毎に倍にもなっていくのではなかろうか。

 互いの股間の屹立が、固さ熱さを混じり合わせながらごりごりとぶつかり合い、肉棒の奥底ではキスだけでも漏らしそうになっている白濁汁が滾っていた。

 

 思っていたよりも数倍も長く感じた口接の後、糸を引きながら唇が離れる。

 名残惜しそうにもう一度強く抱き合い、相手を変えるためにその立ち位置を変える。

 

「西田、俺はお前を抱くぞ。そしてキスしよう」

「山崎、なんだかお前から言われると照れるな。俺もお前とキスしたい」

「野村先生、しっかりハグしてキスしましょう」

「田畑君、君の若いエキスを飲ませてくれ。頼む」

 

 再びのハグとキス。

 揺すり合う腰と腰がぶつかり、挟まれた肉棒と金玉が蒸れた体臭を放ち始める。

 

「田畑君、この二週間、待ち遠しかった。抱き合って、そしてキスしよう」

「山崎さん、僕、山崎さんや西田さんと玉井先生のところでのことを思い出して、最近せんずりしてるんです。野村先生とみんなと、こんなふうにやれて、幸せです」

「野村先生、俺、山崎も一緒にこんなふうになれて、すげえ嬉しいんですよ。先生の裸、これから抱いて、キス出来るって、なんて幸せもんなんだと思います」

「西田さん、なんだか告白大会みたいになっとりますが、私もお二人の治療に貢献出来て、すごく嬉しく思ってます。西田さんを抱いて、キスして、その先ももっと楽しみましょう」

 

 三度、抱き合う男達。

 

 ハグ。

 キス。

 強いハグ。

 見つめ合う瞳。

 

 それらすべてが官能を揺さぶり、その震度を感じた欲望が、忠実に逸物の硬度へと変換されていく。

 長さ、太さ、形はそれぞれ違えども、張りつめた皮膚と粘膜表面にまで送り込まれた血流が、どくどくとした律動を刻む。

 自らの逸物に手を伸ばしたくなる欲望をなんとか抑え、男達は次の段階へと進むのだ。

 

「なんだかハグとキスだけですごい興奮しちゃいましたよね。次はいよいよ、先生を縛って、快感責めをやりたいと思います。この座卓の上に先生に横になってもらって、手足を座卓の脚に紐で固定します。山崎さん、西田さん、手伝ってもらっていいですか?」

「もちろんですよ。先生を縛るなんて、なかなか出来ることじゃない」

 

 珍しく、西田よりも山崎の方が興奮しているように見えた。玉井医師の薬のせい、とも思えるが、それは西田もまた同じのはずだ。

 

「おいおい、血が止まるほどまでには強く縛るなよ、田畑君。しびれると長く楽しめないからな」

「分かってますよ、先生。先生のところで何年やってると思ってるんですか」

 

 野村医師が座卓の上に大の字に寝転がる。

 軽く結わえた両腕と二抱えもありそうな2本の足が、座卓の脚の細くなった部分と連結され、可動部分はあるものの、大きく姿勢を変えることは出来なくなる。

 

 体毛に覆われた太鼓腹はうっすらと汗ばみ、臍下から描かれたカーブの落ち込みから隆々と勃起した逸物が、腹に張り付かんばかりしてその雁首を振り立てている。

 白衣姿とは違う色気が全身から立ち昇る。

 周りの男達が見下ろす中、野村医師は静かに目を見開いていた。