南方第二騎士団の壊滅と

獣人盗賊団への従属

その3

 

狼族レイ

 

「お前さん。そろそろ、ケツが疼いてきてるんだろ? ほら、後ろ向いて、ケツ、突き出しな」

 

 延々と尺八を堪能しているかのようなアレクの頭上から、獣人の声が響く。

 尻穴を使う行為は雌雄問わずに行われているこの世界、獣人との性行為はいささか禁忌とされる騎士団内においても、アレクほどの年齢であれば当然そこは熟れた性器と化していることは言うまでもない。

 長期にわたる巡回遠征時など、互いの肉体を使っての性欲の発散は身体能力の十全な発揮においても当然のこととされ、団員同士の性的接触は推奨とまではいかずとも、黙認状態にあることがほとんどである。

 アレクの所属する第二騎士団においては、団長ボルグの潔癖さゆえか、他の分隊に比べるとその頻度や行為の激しさには差があったが、副団長のバーンの好色さゆえ、それなりには場数をこなしてきている団員達であった。

 所属団員中、いまだバーンの性欲発散の対象となっていないのは、今年加入したばかりの20才にもならない新人、ベル1人であったろう。

 アレクもまた性豪との噂高いバーンはもちろんのこと、同年代のセオリオなどとの同衾は当たり前のこととして、その逞しい裸体を互いの喜びの財として抱き合っていたのである。

 

「あ、ああ、私の、お、俺の尻に、あんたのが……」

「おお、ちょっとほぐしゃ、もうトロトロじゃねえか。騎士団ってのもかなりお盛んとは聞いちゃあいたが、こりゃ楽しめそうだ。これだけほぐれりゃ、俺のも全部入っちまいそうだしな」

 

 その爪で肉壁を傷付けることを嫌ってか、アレクの尻穴をくじる獣人の指の動きは実に繊細なものであった。

 先ほどまで凶悪な肉棒の先端から溢れる先走りをたっぷりと舐め上げ、後口には潤滑のために流し込まれた狼獣人の唾液。

 獣人の雄汁の芳香、注ぎ込まれた体液。それらはアレクの肉体と精神をもはや日常とはかけ離れた境地へと誘っている。

 

「は、早く、い、入れてくれ……。あんたの、あんたの、その滾りきった肉棒を、俺の、俺の尻に……」

「素直な奴ぁ、俺は好きだぜ。優しくしてやるから、お前さんも存分に楽しみな」

 

 両手を地に付き尻を高く掲げたアレクに、膝立ちとなった狼獣人がその厚みのある腰肉を突き出す。

 丸みを帯びた先端が、みっしりと割られた尻穴に狙いを定める。

 

「入れるぞ」

「……」

 

 無言で受け入れが整っていることを示すアレク。

 ついにはその窄まりが、どろりと垂らされた唾液のぬめりとともに、ぐちゅりと開かされた。

 

「うああっ……。ゆっくり、ゆっくり頼む……」

「なにも壊そうってワケじゃ無い。じっくりやってやるぜ、人族の騎士団員さんよ」

 

 1ミリ1ミリ、慎重にも慎重さを重ね、穴奥を目指す獣人の逸物。

 ヒトのそれとの質感の違い、盛り上がる亀頭冠の刺激、どこまでも摩擦が続くようなその長大さ。奥まで突き入れられたとき、入口である肛門括約筋を押し広げようとさえする動きは、犬族の系統に見られる亀頭球の名残か。それらいずれもが、アレクがこれまでの人生で経験してきたそれとは、まったく異質の感覚をもたらしてくる。

 とりわけ巨根で知られるバーン副団長のそれと比べても、およそ1.5倍もの長さとなる全長は、いまだ未通の『最奥』へと、その進みを止めることが無い。

 

「ああ、当たる……。奥に、奥まで、当たるっ、当たるっ……!」

「人族のよりは、だいぶ長えだろ。熊族や猪族の連中にゃあ太さで負けるが、その分、奥の奥まで届くってワケだ。まあ、根元の膨らみまで入るんだったらもっと感じさせてやれるんだが、そっちはさすがに無理かねえ……」

「あっ、あっ、いいっ、感じるっ、感じるよっ……!」

「そろそろ本気出しても良さそうだな……。派手に動かすぞ。お仲間は誰も近くにゃいねえんだ。思いきり、声、出しな」

 

 それまでは人族としての身体を思っての遠慮した獣人の腰遣いだったのか、その動きが一気に切り替わる。

 

「ぐがああっ、あああっ、あっ、ああああっ!!」

 

 奥への前進。先端が抜け出るほどの引き抜き。

 いきなりのその激しさに、アレクの喉が張り裂けんばかりの声を上げた。

 

「あっ、あっ、あっ、あがっ……」

 

 獣人の腰遣いに呼応して、アレクのよがり声が上がる。

 

「ひあっ、あっ、そこっ、それっ……!」

 

 疲れを知らないようなその規則的な動きの中に、ときおり混じる尻穴を捏ね上げるようなえぐり込みが、いっそうの快楽をもたらす。

 

「ん?! お前さんの汁の匂いもしてきたぜ。ああ、ぶっ放すってワケじゃなく、ちょろちょろ漏らしてんのか。まあ、それほどオレ様の『コレ』が、いいってことだよなあ」

 

 勝ち誇ったような笑顔を見せる狼獣人だが、その腰の動きが止まることは無い。

 犬族にも優るその鋭敏な臭覚が、己のものとは明らかに違う性臭を嗅ぎ取ったのだろう。

 アレクの股間から流れ落ちる先走りの中に、確かに白い筋が混じり始めている。

 

「あっ、あっ、漏れるっ、シゴかれてもいないのに、汁がっ、汁が、漏れちまうっ……」

「せいぜい感じて、全部出しちまいな。どうせ服も脱いでんだ。後で川で流しゃいい。そら、そら、イけっ、イけっ!」

 

 獣人の膨れ上がった先端が、どうやらアレクの『そこ』を的確に捉え始めたようだ。

 一突きごとに、アレクの亀頭から、びゅるびゅると白濁した汁が撒き散らされていく。

 

「ああっ、出るっ、出るっ! ケツやられてっ、汁がっ、汁がっ、で、出るっ、出てるっ……!!」

「ははは、ところてんか。いいぞっ、イけっ、イけっ!!」

「ああっ、イくっ、イくっ、イくっ!!!」

 

 性交が、いや、交尾か。

 人族と狼獣人のそれが始まってまだ幾許も経たぬうちの、アレクの吐精であった。

 獣人の体液はそれほどまでに人族の官能を刺激し、さらには精液生産能においても通常の数倍ともなる活性化を促す。

 獣人の、とりわけ獅子族の生体フェロモンの遠距離誘惑には強い人族が、他の獣人への肉体接触を許してしまった際の留意点がそこにはあった。

 しかし、それについては獣人対獣人での接触であっても同様の結果をもたらすことから、あえて人族中心のチームを組むことが慣例化されていたのだ。

 

「うああああっ!」

 

 ぐったりと頭を沈めたアレクの後ろで、狼獣人がズドンとその腰を突き上げる。

 

「あ……? な、なんで……?」

「そっちがイッたからって、勝手に気ぃ抜くんじゃねえよ。オレ様はこれからなんだ。濃いのぶっ放すから、泣き入れるんじゃねえぞ!」

「あ、あ、そ、そんな、ああああっ……!」

 

 猛烈なスピードで前後左右へと動く獣人の腰が、削岩機のような圧を持ってアレクの腰を突き上げていく。

 溢れ出る獣人の先走りが、濡れた布が壁に打ち付けられるような水音を呼ぶ。

 もはや声を上げることすら出来なくなったアレクが、ただこの嵐が早く過ぎ去れとばかりに、その身を委ねている。

 

「よしっ、イくぞっ! お前の尻にっ、俺の汁っ、出すぞ、出すぞっ!」

「あっ、あっ、あっ、あっ、早くっ、早くっ……!」

「俺も、俺ももうっ、堪えきれねえっ! おうっ、イくぞっ、イくっ、イくっ、イくっ!!」

 

 幾度も幾度も打ち付けられてきた狼獣人の腰の動きが、ようやく止まった。

 灰色の体毛に覆われた、太くもあり、かつ、引き締まった獣人の尻肉の震えは、およそ2分ほども続いたのではあるまいか。

 人族と違い全身を覆う体毛のため、門渡りから尿道海綿体にわたる部分の収縮の観測は難しいが、その脈動からは、精嚢から送り出される大量の汁がアレクへと注がれていることが推測されたのだった。

 

「おい、お前! 大丈夫か?」

 

 気付けのためだろう。アレクの頬が軽く叩かれている。

 

「あ、ああ……。私は、気を失っていたのか……?」

「緊張が一気にほぐれたんだろう。がくって落ちたんで、こっちもちょっと驚いたんだぜ」

 

 裸のまま、仰向けにされているアレクの横に、こちらもまた素っ裸のまま、ゴロリと寝転がって片手で頭を支えている狼獣人である。

 それはまるで、長年住み慣れた我が家の居間でくつろいでいるかのように見える姿だ。

 

「……」

「ん? どうした?」

「私には、もう貴殿を捕縛したり、どこかに突き出すことなんぞ、出来ないんだろうな……。これはもう、本能的なものだろう。貴殿に対し、私は矢も短剣も、もう向けることは出来ない。それだけではない。あなたに命じられれば、たとえ人前であろうとも、あなたの逸物をしゃぶり、尻に入れてくれと懇願するだろう……」

 

 淡々と紡ぐアレクの言葉には、諦念とともに、心の奥底の蠢く情念が揺らめいていた。

 

「貴殿、と来たか……。まあ、俺や獅子族、熊や猪族にヤられりゃ、人族はそんなもんだろう。直接の接触が断たれれば、肉体的にはそこまで長くは影響残るもんでも無いってのは聞いてるしな」

「だが、先ほどの話の通りであれば、貴殿らの望みは、これで関係を絶つというわけでも無かろう」

「ヤってる最中だったのに、よく覚えてたな。まあ、あんたらが俺らとの『お楽しみ』に付き合ってくれりゃあ、俺達はまたすぐどっかに行っちまうさ。あんたも、まあ、その、一緒に楽しんでくれればいいんじゃ無いか?」

「あんたら、ということは、当然、私が所属する騎士団としての動きも知ってるんだな?」

 

 狼獣人が使う複数形の二人称には早くから気付いていたアレクではあったが、ここまでそれを問い糾すタイミングが無かったのだ。

 

「ああ、あんたら6人が動き出した2日前から、仲間の1人、鼻の利く犬族がずっとあんた達の動きは追っていた。で、あの小屋に泊まるだろうって連絡受けて、俺ともう1人が、まずは誰かを堕とそうってやってきたワケだ」

「もう1人、とは?」

「さすがにそれは、今んとこは内緒にしてくれって情報だな。ま、今日の夜にでもことが一段落したら、分かると思うぜ」

「まあいい。どうせ私は貴殿の命には逆らえない。それはもう、確信的なまでに理解してるさ。それで、私に何をやらせたいんだ?」

「話が早くて助かるな。まあ、お前さん、あの部隊の料理番なんだろう? 今日の夕飯に、こいつをちょっと垂らしてくれりゃ、それでいい」

 

 皮膚の強靭化が為されている現存獣人類(人族をも含む)にあたっては、通常の気温中での衣類は必要とされず、さらには感覚器としての役割を果たす体毛を極力覆わないためにも、通常は局部のみを覆う極小面積の黒猫褌様のものを身に付けるだけの被服習慣となっている。

 体毛発達の見られない人族においては、キルト状の巻き付けタイプの腰布がそれにあたるが、職能集団によっては収納を考えてのベスト装着もよく見られる光景だった。

 

 狼獣人が身に付けていた黒い布の黒猫褌。

 その紐に結びつけられていた袋から、小さな瓶を取り出した狼獣人。

 

「それは……?」

「お前さんに最初に嗅がせたもんと同じ奴だ」

「貴殿の精液か?!」

「ふふ、こいつはうちの連中、全員の分を混ぜ合わせたもんだ。俺のだけでも充分に『効く』はずだが、牛、犬、ましてや獅子族もいる俺達の汁の特性ブレンドだ。一発でもう、あんたらぶっ飛ぶぜ」

 

 ニヤリと笑う獣人に、わずかに困ったような顔をするアレク。

 

「ん、どうした? どうせ晩飯を、お前さんが作るんだろう? あんたはそこにこいつを混ぜ込んでくれるだけでいい。後はあんた達が色気でどうしようもなくなった頃に俺達が登場して、みんなでワイワイ楽しもうってこった」

 

 屈託も無さそうに笑う狼獣人に対し、アレクの心境は複雑な思いで溢れている。

 

「……。騎士団に対しても、仲間に対しても、私は裏切り者になるのだな……」

「なに、さっきも言ったろう。あんたに逆らえるワケが無かったってのは、誰もが分かるこった。それならもう、楽しむのが先って考えりゃ済むことだ」

 

 騎士団の教育においても、獣人との直接肉体接触が生じた場合、『抵抗は諦め、自らの生命の維持のみを考えろ』が教えの一番に来ていることは事実だった。

 それほどまでに、体液摂取による隷属関係の本能的な成立は、避けえないものだ。

 同時にそれは、『獣人間における獅子族の絶対的な優位性』とも並ぶ、個々人においてはどうしようもない至言律として、この世界に存在する『理(ことわり)』の1つでもあったのだ。

 

「先ほどから……」

「ん? なんだ?」

「先ほどから聞いていると、貴殿が盗賊団の首領とは思えんのだがな……。もっとも、貴殿の体液で、私の判断力が無くなっているせいかもしれんのだが……」

「盗賊団ってのは、人聞きの悪い話だな。俺達ゃ、別に盗みだけで生きてるワケじゃねえしな。そりゃ、有り余ってそうな処からはちいっとばっかりいただいたりもするが、ほとんどはやれ獣が出たから退治してくれだの、橋が崩れたのを直してくれだの、そんなことやってあちこち旅して回ってるってだけの話だ」

「そうだったのか……。我々はてっきり、貴殿らが、犯し、盗み、殺してきたのかと思っていたが……」

「だいたいこの前の村のことだって、俺達がいただいたにしても、村全体が飢えるのどうのってこっちゃ無かったはずだろう? ほとんどの周辺村落だと、余所者じゃああるが、俺達ゃ、便利な何でも屋って思われてるはずなんだがな」

「妙だな……。中央と報告書の上がった村に、租税台帳を調べさせるか……?」

「ま、難しいことはおいといて、あんたもそろそろ小屋に戻らんとヤバいだろう? 服は汚してねえから、沢で身体洗って、尻の中のもんもひり出して来いよ」

「あ、ああ、そうだな。料理の時間もいるし、日があるうちに戻るとの話もしている」

「さあさあ、俺もあんたも身体中ベタベタだ。洗おうぜ、ほら」

「あ、ああ。その、貴殿の名を、名前を教えてはくれないか?」

「あ、俺はレイってんだ。あんたは?」

「私はアレク。南方第二騎士団のアレクだ」

 

 灰色の体毛に覆われた長い手が、アレクの前にスッと伸びる。

 握手か、と反射的にその手を取ったアレクの背中が、再び官能の慄きに震えた。

 

「あ、触っちまうと、また感じちまうか。まあ、今夜はみんなで楽しもうぜ。俺様の肉棒、いや、俺達全員の肉棒かな。あんたにも、あんたのお仲間さん達にも、たっぷりしゃぶらせてやっからよ」

 

 ニヤリと笑うレイの顔を見つめるアレクは、己の汁にまみれたままの肉棒を、再び硬く、勃起させてしまっていたのである。