男性専科クリニック Part 5

その5

 

その5 村岡

 

 野村医師と田畑看護師のクリニックで妙に積極的な『検査』を受けた4日後、村岡昭一は、ある雑居ビルの2階へと向かっていた。

 ドア横に小さな立て看板が出ているだけで、入口に何か特徴があるわけでも無い。慣れた様子で呼び鈴を鳴らした村岡を、『はい、どうぞ』と落ち着いた声の主がドアを開けて迎え入れる。

 

「お待ちしてました、村岡さん。今回は1か月振りでしたね」

 

 にこやかに声をかけてきたここの主は、なんとすでに六尺褌一丁の姿で村岡に相対していた。

 村岡を見下ろすような上背にたくましく筋肉と脂肪の乗った身体付きは、男好きの世界であればかなりのモテ筋になるだろう。禿頭か、と思えるほどに短く手入れされた坊主頭が、柔和な相貌と相まって、男ならではの色気を醸し出している。

 祭りか何かの儀式でしか見かけないようなその姿を村岡もまた平然と受け流している様子から見れば、双方にとってこれが『いつものこと』なのは間違いないようだ。

 

「ちょっと忙しくしとってなあ。甚さんに早う会いたかったよ」

 

 にこにこと相好を崩す村岡の声は弾んでいる。

 

 ここは『マッサージ回春堂』、オーナー兼施術師でもある大柄な男は、昔から『甚兵衛』と名乗っており、常連客や知人からは『甚さん』と呼ばれている。

 個人営業の性感マッサージとして開業し、もう20年以上にもなる。界隈でもその道のプロとして高い評価とファンを持っていた。

 60過ぎとはいえ、若い時分のスポーツ経験と現在はジムでも鍛えているためか、180近い上背に100キロを優に超える体重を数え、しっかりとした筋肉の土台と、むっちりとした脂肪による陰影が体表に浮かんでいる。その立ち姿は褌の風情ともあいまって、締まった関取とも思えるほどの肉体美を誇っている。

 その鍛錬した肉体は衰えを感じさせず、豊かな体躯とともに、その手のタイプが好きなゲイにはかなりのモテ筋だと言えるだろう。

 後褌をきれいに捩じり込まれた六尺は、その前袋の盛り上がりが内部に秘められた『ブツ』の巨大さを映し出していた。

 

「シャワーはどうされますか?」

「一応浴びては来てるけど、いつもどおりにお願いしますわ」

 

 この店では、客のシャワーにオーナーが加わり、バスルームでもそれなりの『楽しみ』を味わうことが出来るのが売りだった。

 

「恰好は?」

「こっちもいつも通り、褌締めたままでお互い……」

「分りました。ではお風呂に行きましょうか」

 

 褌姿に気持ちも上がるのか、村岡は毎回褌を締めたままでの洗体をリクエストしていた。

 マッサージするときにはオーナーは改めて新しい六尺褌を締め直し、村岡は濡れた越中は絞ってそのまま持ち帰ることが定番となっている。

 濡れた布地の感触とボディソープのぬるつき。オーナーの巨根が布越しに自分の逸物にあたる感触がたまらないのだ。

 

「ああ、いつもながら甚さんに抱かれると気持ちいいよ。腹にあたるチンポが、もう猛りきってる……」

 

 軽く汗を流した後、甚兵衛が両手に取ったボディソープを村岡の全身に泡立てていく。自分の腹と股間にも塗りつけ、そのまま覆いかぶさるようにして村岡を抱きしめた。

 

「村岡さんのもいつもより大きくなってる感じがしますよ。ほら、こんなのはどうですか?」

 

 甚兵衛が抱き締めた村岡をバスルームの壁に押しつけ、二抱えもありそうな太腿を村岡の足の間に差し入れる。

 濡れた越中が村岡の逸物の所在を明らかにし、そのふぐりはとりわけ目立つ大きさだ。がちがちに固くなっているわけでは無いが、太さだけであれば十分な体積へと成長した村岡の逸物が、甚兵衛の太腿と村岡自身の突き出た腹の間でゴロゴロと揉まれていく。

 股座を襲うその重量感溢れる責めが、村岡を一層興奮させていくのだ。

 

「あっ、甚さんっ、気持ちいいよっ!! もっとっ、もっとしてくれっ!!!」

 

 頃合いを見たのか、甚兵衛が村岡の唇を奪った。

 甚兵衛の小さめな唇の間に、村岡の舌が待ってましたとばかりのように差し入れられ、白い歯と口蓋をねぶりまわす。

 

「村岡さん、相変わらずキスがお上手だ」

「甚さんがリード上手いから……」

「そうは言っても、マッサージになると指示出すタイプでしょ? 村岡さんって」

「そう言われるとぐうの音も出ませんわな」

 

 甚兵衛の笑いながらの突っ込みに苦笑する村岡だった。

 2人の会話を聞けば、宮内とのセックスでは味わえない、リードする喜びをこのマッサージ屋で果たしているのかもしれない。

 

「温まったので、ベッドに行きましょうか。私の方は褌を締め直しますね」

 

 タオルで身体についた水滴を拭き上げた2人が、ベッドスペースへと移る。

 

 甚兵衛の指示を待たずにベッドにうつ伏せになった村岡は、やはりもう常連ということなのだろう。施術の流れを理解しているその上半身に、新しい六尺を締め上げた甚兵衛がバスタオルをかける。

 まずは通常のマッサージが行われるようだ。

 

「ああ、背中が気持ちいい……」

「ちょっと肩甲骨あたりに張りがありますね。なにか根詰めた作業でもされました?」

「先週からこっち、ちょっと書き物仕事をせんといかんのが溜まってしまっとったんですわ。甚さん、よおそんなの分るわなあ」

「何十年もやってれば、そりゃ分らないとおかしいですよ」

 

 甚兵衛の低く柔らかな声と、ソフトでそれでいて力強いマッサージは村岡の全身を蕩かしていく。

 

「さ、仰向けに」

 

 天井を向いた村岡の裸体。その股間は先ほどでの風呂場での触れ合いとあいまって、臍を突くとまでは言えないものの、ずっしりとした量感を発していた。

 

「さっきも思いましたけど、今日はいつもより太くなってる気がしますよ。なんかいいことありました?」

 

 観察眼の鋭い甚兵衛は、村岡の微妙な変化に気づいたようだ。

 

「はは、寛の奴と一緒に、前に知り合ったお医者さんところに行き始めたんですわ。ほら、この前話したゴルフ旅行のときの先生たちのところ」

「ああ、もしかして野村先生のところでしたかね。やっぱり有名ですからね、あの先生」

 

 村岡の話しぶりを聞けば、甚兵衛と宮内もまた、知り合いであると知れてしまう。

 3人ともこの界隈での生活が長い中、タイプが似通っていればどこかで通じているのは、よくある話でもあった。

 

「有名って、どんな?」

「『男のインポの最後の砦』とかで、なかなかいい評判聞きますよ。色んな治療でとにかく自信をつけさせてくれるって。私のところのお客さんでもけっこう通ってる人おられるかと思います」

「やっぱり、その『効く』のかなあ……?」

「実際に行かれた方の施療してると『ああ、これなら実感湧くだろうな』って方も多いですね。村岡さんだって、なんだか元気になってる気がしますし……」

「けっこう治療そのものが刺激的というか、いやらしくってさ。で、つい思い出すと、なんだかムラムラしてしまうんですわ……」

「なんにしろ、よかったじゃないですか。私もその先生方、一度、お手合わせ願いたいものですね……。さて、村岡さんも元気になってきてるし、後半、始めましょうか」

 

 一瞬、クリニックの2人と目の前の甚兵衛が絡み合う姿を想像してしまい、より一層血が上る村岡である。

 話の内に腕や肩、太ももも気持ちよく揉まれていた村岡だったが、いつの間にか通常のマッサージは終わったらしい。ここからはいわゆる『リフレッシュ』の時間だった。

 

「今日はどんな風がお好みですか?」

 

 この甚兵衛がオーナーを務めるこの『回春堂』では、施術側である甚兵衛の一方的な行為では無く、あくまでお客の要望に応えつつ、長年にわたって鍛え上げられたテクニックで相手をイカせるその一連の流れが、通う客たちからの評判を呼んでいた。

 

「前にやった王様ごっこみたいなの、いいですかいな?」

「もちろんですよ。この恰好からでいいですかね?」

「めんどくさいから、褌は外してもらってていいですかいの。しゃぶりたいときにパッと出来る方がええんで」

「村岡さんって、褌姿には『上がる』のに、『ヤル』ときはすぐに外しちゃいますよね」

 

 笑い声を上げながら、甚兵衛が六尺を解く。

 ざっと丸めて白布を脱衣籠に放れば、すでに勃ち上がった巨根がびくびくと先端を上下に揺らしていた。

 

「相変わらず、甚さんの、デカいな……」

「いつでもしゃぶってもらっていいですからね」

 

 全裸になった甚兵衛のその還暦近い肉体は、衰えを知らぬかのように鍛えられていた。

 肌艶もまだ40代と言っても通用しそうなものだ。整えられた下腹部の体毛は、その逸物をなんら隠すことなく、かえって存在感を際立たせるかのようにうっすらとけぶっている。

 

 村岡の数ある男経験の中でも、この甚兵衛ほどの巨根には、なかなか遭遇しえなかった。

 そこだけは年相応に色素の沈着した肉棒に、うねうねとした血管がまといつき、老松の太い幹のような貫禄すら感じさせる。わずかに根元から湾曲した肉棒はその太さのままに、先端の重みすら感じる亀頭をしっかりと支えている。

 爪先を差し込むことさえ出来そうな深い切り込みを呈する鈴口、幾分かのシミを抱えた亀頭の張りも申し分ない。

 でっぷりと垂れ下がったふぐりも村岡のものと遜色無い大きさでその存在感を示し、少しだけ左の玉の位置を下へとしていた。

 たいがいの男好きであれば、思わず『握り』『揉み』『しゃぶりたくなる』逸物もまた、この『回春堂』の売りでもあったのだ。

 

 被術者が横を向けばちょうど咥えやすい高さにベッドが調整してあり、その分、マッサージを行う側の腰の負担も少ないのだろう。合理的でもあり、甚兵衛の股間を間近でじっくりと眺めることも出来るそのやり方は、村岡にとっても都合がいい。

 

「甚さんのを扱いたりしゃぶったりしている間、ワシのを同じように扱いたりしゃぶったりして興奮させろ。ただし、イカせるような強い刺激でなく、あくまで快感をずっと感じられるような奴でな」

 

 村岡が甚兵衛に指示を出す。

『王様ごっこ』と本人が言っていたものは、行為の内容を村岡が命令するプレイを端的に表したものだった。

 

「はい、村岡様」

 

 村岡へと返す甚兵衛の口調が改まる。

 過去にそうしたやり取りとプレイを繰り返してきた証左なのか、2人ともすんなりとその世界へと没入していく。

 

「まずはワシにしゃぶらせろ」

 

 大きめのプラムのような甚兵衛の亀頭を、村岡が口に含む。

 膨れ上がった甚兵衛の亀頭は、その巨大さから、口内に収めることが出来るのは見事に張った雁首の部分からせいぜい1センチほどだろう。

 村岡は舐め心地のよい亀頭をしゃぶり上げ、滲み始めた先汁をたっぷりと味わった。

 

「いいぞ、足の指を一本ずつしゃぶって、ワシを感じさせてみろ」

「チンポの根元を握って、パンパンに張らせた亀頭をローションで責めろ」

「金玉をつぶすぐらいの力で握り、ゴロゴロとワシの玉を揉め」

 

 次から次へと村岡が命令を下していく。

 その内容は明らかに被虐的な要素を、受ける側が責め側へと命令するという、なんとも矛盾したものであった。

 長い付き合いでもある甚兵衛は、命令する側とされる側の関係性を見出すことに興奮している村岡の性癖にも気付いていたようだ。

 

 村岡と宮内が付き合い始めたとき、まだ他店の見習いであった頃か、商売を抜きにして数回3人で楽しんだこともあった甚兵衛ではあるが、ここ最近の2人がどのような行為を行っているか、比較出来ているわけでもない。

 それでも村岡の話すこぼれ話から、普段とは違った刺激を求めているのだろうとの想像は逞しくしているのだ。

 

「おお、いい、気持ちいいぞ。そろそろ最後だ。甚兵衛、ワシの胸に乗り、ワシの顔の前でお前のチンポをシゴキ、そのままワシの顔にぶっかけろ。その後、ワシのをシゴいてイかせろ」

「はい、村岡様。村岡様の顔に私のザーメンをぶっかけ、その後に村岡様の逸物をたっぷりと扱いてイかせます」

 

 復唱する甚兵衛の姿に、ますます村岡は興奮するようだ。

 ぼってりとした太さのまま先走りを垂れ流す自分の柔らかなペニスを扱きながら、馬乗りになった甚兵衛の股間を凝視している。

 

「ああ、すごいぞ……。甚さんが……、甚兵衛が、ワシの目の前でセンズリこいて、ワシに汁をぶっかけようとしている」

 

 先端が村岡の顔に向くようにと無理に剛直を押し下げながら扱く甚兵衛の右手が、猛烈な速度で上下運動を繰り返す。

 村岡の唾液とローションで濡れ光る肉棒が、ぬちゃぬちゃとした卑猥な響きをまき散らす。

 直前にシャワーを浴びたとはいえ、その豊かな体躯から醸し出されるなんとも言えない性臭が、村岡の官能をより一層昂らせていく。

 

「ああ、村岡様! もうもちません。このままだと、私は村岡様の顔に、顔に、出します、出てしまいます!」

「よし、いいぞっ! イけっ! ワシの顔に、たっぷりぶっかけろっ! 熱い子種を、ワシにかけろっ!!」

 

 芝居とも思えない、甚兵衛と村岡の迫真の言葉だった。

 口調はともあれ、片手では握りこなせないほど最大限に膨らみ切った甚兵衛の逸物が、最期の刻を迎えようとしていた。

 

「あっ、ああっ、出ますっ! 村岡様っ、出ますっ、出てしまいますっ! 出して、出していいですかっ、村岡様っ!!!」

「よしっ、イけっ! ワシの顔にかけろっ! 甚兵衛っ、イけっ、イけっ!!」

「出るっ、出るっ、ああああああっ、村岡様の顔に、出してしまう!!!!!!」

 

 甚兵衛の先端の切れ込みがぷっくりと割れる様を、村岡が目の当たりにする。

 次の瞬間、大量の白濁液が村岡の顔面を直撃した。

 

「うあっ、出るっ、たくさん出るっ!! 村岡様の顔にっ、私の汁がっ、汁がいっぱいかかって、汚していくっ……」

「おお、熱いのが、甚さんの熱いのがワシに、ワシに……。すごい匂いが、濃いのが、ワシの顔に……」

 

 感極まった村岡が首を起こし、ぐいと甚兵衛の先端を咥えた。

 出した直後の亀頭を舐めまわされる甚兵衛の押し殺した声が、施術室に漏れていく。

 

「今出した自分の汁を、そのままワシのチンポに塗って、扱け。ワシがイくまで、手を止めるな。強く扱いて、ワシを気持ちよくイかせろ」

「村岡様のチンポを扱いて、イかせます。気持ちよく、イってください」

 

 べとべとになった自分の顔を拭った手のひらを舐めながら、村岡が甚兵衛に最後の命令を出す。

 ベッドから降りた甚兵衛がのしかかるように村岡の上体を抑え込み、その厚い舌先が村岡の乳首を襲う。自らの雄汁とローションにまみれた手のひらが、横たわったままの村岡の肉棒を握りしめ、激しい動きで射精への欲望を増大させようとしていく。

 

「おお、いいぞっ、もっと、もっと扱いてくれっ!」

「村岡様のペニス、芯が入ってきています。握り心地がいつもより大きく感じますよ」

「気持ちいいっ、甚さんの手が、手が、気持ちいいっ!」

 

 自分の精液が滴る村岡の顔をべろべろと舐め取り、そのままキスをしながら村岡の口中へと流し入れる甚兵衛。

 小豆ほどにも膨らんだ目立つ乳首を、唾液を塗りつけた指先でちろちろといらっていく。

 村岡の興奮を途切れさすまいとするそのテクニックは、さすがに何十年もこの業界をわたってきた確かな技術に裏打ちされていた。

 

「ああっ、イくぞっ、イくぞっ! 甚さんっ、ワシのをっ、ワシがイくところを見ててくれっ! 甚さんに、甚さんに見られながらイきたいっ!!」

「見てますよ、村岡様の射精、しっかり見てます。イっていいですよっ、気持ちよく、出してくださいっ!!」

「ああっ、イくっ、ワシの、ワシのチンポが柔らかいままでっ、イくっ、イくっ、イくっーーーーーー!」

 

 雄叫び、とはこういうものだろう。

 そう広くもない施術室ではあったが、村岡の最期の声が鳴り響く。

 その噴出はどろどろと溢れ出るかのように続き、よりいっそうの絞り取りをと動く甚兵衛の大きな右手を濡らしていった。

 

「たくさん出ましたね……、村岡さん」

「甚さん、いつも上手いから……。甚さんの精液もらいながらの射精、すごくよかったですわ……」

 

 いつの間にか、互いの口調が戻っていた。

 このスムーズな流れが長年の付き合いの成果なのだろう。

 依頼すればたいがいの行為を行える甚兵衛の店ではあったが、命令口調での指示や後口での性交を望まなかった村岡の性癖を、客と施術者という境を越え共有している甚兵衛の懐の深さもまた人気の秘密であったと言えようか。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 

「今日はお疲れさまでした。私も気持ちよかったです。村岡さんのまたのご予約、お待ちしてますよ」

「溜まったら、またお願いしますわ。では、また来月ぐらいにでも」

 

 見送られ玄関を出る村岡の顔色は明るい。

 宮内公認の、いや、もともと互いを束縛しあわない関係が作れることをよしとした宮内との付き合いの中では、まさに『リフレッシュ』を味わった村岡である。

 下半身に感じる心地よい余韻と、まだ日の高い昼間の空気を浴びながら、村岡は今日の施術の内容をどのように宮内にいやらしく語って聞かせることが出来るのかを、内心で楽しんでいたのであった。