南方第二騎士団の壊滅と

獣人盗賊団への従属

その2

 

アレク

 

「今夜はケイブ泊まりか。久しぶりにアレクの飯が喰えるな」

 

 豪快に笑うのは南方第二騎士団、副団長のバーンである。

 人の身としては巨大な体躯、はだけた胸元に覗く鬱蒼と繁った体毛は、人族中心の団の中ではとりわけ目立つ存在であろう。

 30代後半という、男としても戦士としても脂の乗り切った年代にしては、目尻の皺がほっとする暖かさすら醸し出している。

 もっともその温厚さ快活さが、もっぱら有り余る性欲の解消に使われているとの噂も絶えない男ではあるのだが。

 

「バーンさん、俺の飯とか、町の宿屋に比べたら謝んなきゃいけないレベルですよ」

「俺はお前さんの豪快な飯、気に入ってんだ。俺らにとって身体は資本だからな。野営地であれだけの飯作ってくれるんだ。これでもいつも感謝してるんだぜ」

「褒めたって何にも出ませんけど、せいぜい美味い飯作れるよう、頑張ります。じゃあ、食料調達にちょっと出てきますので」

「1人で大丈夫か?」

「このあたりは調査済みですし、地図も正確なようです。4時間ほどで日のあるうちには戻りますので、万が一のときはお願いします」

「まあお前さんは鼻も効くからな……。了解した。おい、セオリオにベル。俺達はケイブの掃除と備蓄品の確認整理、周囲の索敵及び警戒鈴の配置をやっとこう」

「了解ッス!」

 

 南方第二騎士団は、獣人とも肩を並べるその近接戦闘能力の高さ、誠実な人当たりで有名な団長ボルグを中心に、槍遣いで精力絶倫、性豪との噂も高い副団長バーン、さらには遠隔攻撃に優れた弓の遣い手であるバルガスの3名を主戦力としながら、総員6名となる機動力、攻撃力、攻守バランスを備えた巡回騎士団であった。

 若い世代の登用においても団長ボルグの指揮下、20代の弓遣いであり衛生兵兼料理番のアレクと近接戦闘を得意とするセオリオが中堅処を固め、さらには入団してまもない10代後半の槍使いベルと、総員6名となるこの分隊は、次世代を担う騎士団員のよき養成部隊ともなっている。歴戦の勇士達に憧れる若い世代3名においても、その向上心、鍛えられた肉体と技術は、同世代の団員の中でも特出したものであったろう。

 騎士団にあっても普段は常駐の警備組織を置けない小規模な町や村などを巡回しつつ、今回のような特別な状況発生時には単独で任務をこなす実力を兼ね備えているものとして、多くの仲間達からも信頼を集めている集団であった。

 

 兵站管理、調理、衛生部門などの任務を兼務するアレクが、宿泊予定のケイブ近くとは言え、1人での行動を任せられるのには、若くともそれなりの力があると他の団員達からも認められているがゆえのことである。20代でありながら、回復系の治療技術、短弓・短剣での戦闘をもこなす、将来の騎士団をしょって立つ存在と目されている。

 主食については定期的に補充されるケイブの備蓄とそれぞれが運搬しているもので充分に足りるのではあるが、新鮮な動物性たんぱくと野菜などの補充にと、近隣の森での狩猟採集を申し出たのであった。

 

「本部からの報告だと、獅子族と犬族の混成集団のようだ。熊族と猪族がいないらしいのは人族の俺達にとってはありがたいが、獅子族がいるってのが気にかかる。用心しとけよ、アレク」

「はい、バルガスさん。こっちにはフェロモン効かないっていっても、近くに寄られると面倒なことになりそうですよね。警戒は怠らないようにします」

 

 アレクを送り出すバルガスの分析と疑問。獣人の属性に詳しい彼のそれが事態を正確に捉えていたことは、後に判明する。

 

………………。

 

「さて、上手いこと兎肉は手に入ったな。後は先ほど見かけた野キャベツと芋類を少し採っておくか……」

 

 森に入り1時間もしないうちに、アレクは偶然出くわした野兎を幾羽か仕留め、血抜きを行う。匂いで他の動物を呼び寄せることにもなるが、食材を新鮮に保つための必要不可欠な処置だった。

 沢で血を洗い流し、近くの緑地で食用となる葉物やハーブなどの収穫も出来たようだ。

 

 何かの気配を感じるアレク。

 

「血の匂いで、寄って来たか!」

 

 想像通り、兎の匂いに惹かれてきたのだろう。少し離れた灌木の茂みに、まずは弓をと身構えたアレク。

 そのアレクに、音も無く近寄った獣人が1人。

 巧みに後ろを取ったその雄獣人が、無防備に晒されていたアレクの喉に、冷たいナイフの刃を当てる。

 途端にむわりとした獣臭に、己の身が包まれたことを知る。

 

「ほい、お前さん、今、もう、死んだぞ」

「な、気配はあちらの方向だったのでは?!」

「お前さん、単独行動してるってことは耳も鼻も人族にしちゃいい方なんだろうが、俺だって風の向きにも気を付けるのは当たり前さね。こっちにはもっと感覚鋭いのと、そして『魔法使い』もいるんでね。まあ、俺の方の手持ちカードが強かったってことで、恨まないでくれや」

 

 背後を取られたアレク。

 軽口のような台詞を吐きながらも、その喉に当てたナイフの刃は軽く押さえ付けたままの1人の獣人。

 

「おう、お前ら! 後は俺だけで十分だ。撹乱ありがとよ! 周囲の警戒と、残りの連中の動き追っとけ!」

「御意!」

 

 背中の獣人が声をかけると、やはり後方、少しばかり離れた距離のところから2つの返答が聞こえる。

 気配を探れば、そのうちの1人は遠ざかっていくようだ。

 

「複数の者に尾行されていたとは、情けないな……。私も名誉ある南方騎士団員の1人だ。死も恐れてはいない。殺して何か奪う気なら、早くやれ。人質として他の者への被害を拡大させるつもりなら、この場で舌を噛み切ろう」

「ああもう、まったくお前さんたち騎士団員ってのは、堅物揃いだねえ。もうちょっと人生楽しまないと、損だぜ」

「ヒトの喉に刃を突き付けておいて、人生の楽しみも何も無いだろう」

「若いのにけっこう豪胆だね、あんた。まあ、手っ取り早くイくか。こいつを嗅ぎな、ほれ」

 

 背中の獣人の左手が、突然アレクの鼻先へと突き出される。

 抱きかかえられた格好にて味あわされていた獣臭に加え、とてつもなく強烈な性臭がアレクを襲う。

 

「な、なんだっ! こ、これはっ!!」

「オレ様のな、その、なんだ、雄汁、精液って奴だ」

「あ、なんだ、身体の力が……」

「さっき出したばっかりの奴なんで、けっこう『効く』だろ? ま、おとなしくなってくれて良かったぜ。血を見るのは、あんまり好きじゃねえんでな……」

 

 がくりと膝をつくアレクを、獣人が思わずその両脇を支える。

 

「ああ? お、お前は、犬獣人……、な、なのか……?」

 

 獣人の全身をようやく目にしたアレクが問う。

 背後からの襲撃時に感じた圧力から、犬獣人にしてはかなり大柄だとは感じていたが、アレクの目の前にいるその姿は、明らかに彼の知るそれとはシルエットからして違っていた。

 

「はは、戸惑うよな、そりゃ。俺にもよく分からんが、犬系の先祖返りで、かなり珍しいみたいだぜ。一応、狼族って言われちゃいるが、俺にも詳しいことはよく分からん」

 

 古代におけるアラスカン・マラミュート種をベースとしているとはいえ、犬獣人の身体バリエーションが多いのは獣人類の中でもある意味特徴的なことだ。

 それでもアレクを襲ったその男の、特徴的なマズルの長さと白色体毛が一切見られないその外見は、騎士団員としての教育を受け一定の知識のあるアレクにとっても、その見聞の中に無いものだったのだ。

 

 一般的な犬族を凌駕するその体格は、成人の平均体重100キロ近い犬族に対して、アレクを襲ったこの個体においては150キロ、ほぼ1.5倍もの体躯を誇っていた。上背もまた、犬族平均よりも高いはずのアレクを、20センチ近く上回っている。

 獣人類がその進化の過程において、犬族よりも人族の体型をより重厚なものとして進化を分かつ過程にあるこのとき、人族の平均近いアレクよりもはるかに巨大なその狼獣人の存在は、類縁の犬獣人と比べてもまさに『異質』なものであった。

 

 獣人集団との接触が多い南方騎士団においては、対拷問、尋問訓練として、獣人の体液を摂取することすらもその訓練内容に取り入れられている。

 他の獣人族とは違い、希少種である獅子族によるフェロモン操作が人族にのみ効果が無いことは周知の事実であった。しかしその人族に対しても、獅子族、熊族、猪族、これら3種族の唾液、精液、血液等の体液を直接摂取した場合に、他の獣人達が獅子族への隷属・上位自我が生じることと同様の現象が起きうることは、一般にはあまり知られていないことであったのだ。

 人口比としてごく少数の存在であり、各国のお抱え軍人としての生育環境がほとんどとなる獅子獣人のそれを摂取する機会こそなかったが、人族への効果ありとされる熊獣人、猪獣人の精液の経口及び性的な拷問等で使用される肛門粘膜からの摂取体験は、若年者であっても騎士団員としては当然の経験なのであった。

 

「熊獣人の体液でも、こ、これほどまでの効果は無い、は、ず……」

「へ? 熊野郎の経験あるってのか、お前さん? ああ、そういえば、ここら辺りの騎士団員さんは、掴まったときの訓練も色々やらされてるってことだったな……」

「私なんかを隷属させて、いったいどうしようと言うのだ……」

「お前さん達みたいな人族の中でもガタイのいい連中は、俺達にとってもかなり『そそる』んだよ。この前行った村で、食料や備品の備蓄はたんまりいただいたからな。あのときは戦利品の運び出しがあったんであんまり『楽しいお遊び』が出来なくてな。まあ、そんな訳で、お前さん達に、うちの連中の欲求不満の解消に、ちょいと色々付き合ってもらおうと思ってよ」

「そ、そんなことで、こ、この私が……」

「そう言いながら、お前さん、もうガチガチにおっ勃ててるんだろう? うちは俺のも珍しいみたいだし、牛に犬、そして珍しい獅子族もいるんだ。ほらほら、想像しただけで、『ヤられてみてえ』って考えちまうだろ?」

「ば、馬鹿なっ! そ、そんなこと……」

「言葉が弱々しいぜ、あんた。まあ、ちょっくら1発、あんたの口かケツでイかせてくれよ。俺の汁、直に味わえば、お前さんの考えもだいぶ変わってくると思うぜ。その後のことは、そっから考えることにしようか」

 

 四肢に力が入らないのか、狼獣人の手によってアレクの騎士団用ベストと腰布が剥ぎ取られていく。

 178センチ、120キロのアレクが軽々とその身を扱われるのは、150キロを超す狼獣人の豊かな体躯と膂力があってのことだろう。

 

「や、止めろっ、こ、こんなところで……」

「ん? こんなところって、そりゃ、ふかふかのベッドがあったらいいってことか?」

「ち、違うっ、違うっ……」

「まあまあ、俺も目鼻は効く方だし、なんならうちの連中ですばしっこい奴が1人、見張ってくれてるはずだ。安心して、ヤられちまえよ。こうなったら、楽しんだが勝ちだぜ、お前さん」

 

 マズルの先の鼻を鳴らし、ピンと立った耳がわずかに揺らめく様は、このような状況でも本能的な警戒を行っている証か。

 先ほどの気配関知からすれば、仲間が1人、この現場を『見て』いることも、この狼獣人の言う通りなのだろう。

 

「それにしてもお前さん、人族としてもいいカラダしてんな。毛があんまり無いっての、俺達からするとマジで『そそる』んだよ。で、俺の、もうしゃぶりたくなってんだろ?」

 

 もともと下腹部のみを覆う黒猫褌状の布しか身に付けていなかった獣人が、腰横の紐をほどく。足下に落ちた布の下から、驚くほど長大な逸物がアレクの鼻先へと飛び出した。

 

「あ、ああ、この匂い……」

「俺の精液、モロに嗅いじまったんだ。なんでも俺の体液、獅子族の奴らにも負けないほどの『効果』があるらしくってな。その汁を鼻に直接ってのは、すげえ効いてるだろ?」

「あ、あ、そ、そんな……」

「もうオレ様のチンポ、しゃぶりたくてしゃぶりたくて、仕方無いよな? なに、これはもう本能って奴だ。お前さんが逆らえなくても、誰からも咎められはしねえさ。さ、舌出して、ベロベロ舐めちまえよ。いっぺん口にすりゃ、楽になるぜ」

 

 獅子族、熊族、猪族、猿族、犬族、それに人族を加え、代表6種と数えられる獣人類(この時代にその事実が明確に伝わっているかは、地域組織によって大きな知の偏りはあるが)。

 それらは遙かなる古代、作出時の方針として、異種族間における、相互性交、受胎、出産が可能となるよう、雌雄性器の形状はベースとなったヒトのそれとほぼ相似形にて造られており、種族間においては相対的なサイズと、人族以外の陰茎骨の存在の差のみにて区別されていた。

 そのため他の種族(同種においても然りではあるが)との交尾の場合、生殖を目的としない場合においては、その可塑性、柔軟性、内部骨格による受け入れ可能サイズの関係にて、相手の肛門を使用することが、挿入側の雄性個体としては通常の選択となっている。

 6種獣人類作出の時点で雌雄個体の肉体的差違も極力平均化されており、それゆえに同性間における性交もまた、日常的に行われているのが実情であった。

 それすなわち、この時代の獣人類全般において、『種別、性別を問わずに相手に性欲を抱く』ことが普遍化していたことに他ならない。

 

「ほらほら、どうした? しゃぶっちまえ。俺は優しいんだ。無理強いはしないぜ」

「あ、うあ、私は、私は……」

「別に命がどうのこうのなんてのは思ってもいないし、あんたらが俺達とちょっと仲良くしてくれりゃ、それでいいんだ。ほら、ほら、もう無理すんな。コトが収まりゃ、みんなあんたに感謝してくれる話だぜ」

「あ、ああ、ああああ……。みなが、わ、私に、私に、か、感謝……、する……?」

 

 アレクの心が折れる。

 その舌が先走りを垂れ流す獣人の逸物へと迫り、両手が反り上がる肉棒をしかと掴む。

 強烈な匂いを放つ熟した果実を、ついにその口が咥え込んだ。

 

「ああ、旨い……。なぜだ、なぜ、こんなに、お前のペニスが旨いんだ……」

 

 アレクの、逞しい騎士団員の蕩けたその表情には、蕩けたその眼差しには、目の前の猛々しい逸物しか映っていないのか。

 

 討伐の対象の性器をしゃぶる。

 そこには騎士団としての矜恃もすべてを捨てた、1人のオスとしての姿があった。

 獣人からの甘言もあっただろうが、その体液に侵された脳髄からの本能への訴えが、ついに理性の壁を押し流したのだ。

 

「おう、やっと素直になったか……。ああ、やはりあんたらの尺八は気持ちいいな……。俺ら同士だと、喉の位置が遠くて、この締め付けを味わう感触がちょっと違うんだよ……。おお、いいぞ。もっとしゃぶって、その柔らかい唇で、俺様のを扱いてくれ……」

 

 じゅばっ、ぐちょっ、じゅばっじゅばっ。

 

 亀頭全周に鰓が反り上がった狼獣人の逸物を、さも旨そうにしゃぶり上げるアレク。

 その口中に長大な全容を収めることは不可能なのか、子どもの握りこぶしほどもある亀頭とその下数センチまでしか呑み込めてはいないのだが、それでもその先端はぐいと締まった喉奥の筋肉に到達しているのだろう。

 

 アレクの頭を己の下半身に押し付け、空を見上げる狼獣人。

 半開きとなったマズルの端が歪み、白い牙が午後の日に燦めく。自らが感じる快楽を存分に堪能する様は、2人の周囲に淫蕩の気配を溢れさせていた。