捕手の泣き所

その3

 

「どんな味がする?」

 

 先生達は声を揃えて俺に訊いた。

 

「特に味はしないみたいです。思っていたよりサラッとしてるような……」

 

「そうだろう? 自分の先走りを舐めることはあまりないだろうし、ましてや他人のものを舐めたことなんかまずないだろうから、初めての経験じゃないかね?」

 

 確かに言われてみればそうだ。

 だが、全然嫌な感じはしなかったし、汚いとも思わなかった。むしろ成熟した男の体から分泌される秘密の液体を味わうことで、自分も男の仲間入りをしたような喜びさえ感じた。

 

 茂田先生の説明によれば、カウパー氏腺液というのは無味無臭で、ほとんどの成分がルチンであるという。

 

「ルチンて、あのカタツムリが這ったあとに残っているネバネバしたやつですか?」

 俺の質問に対して先生は

「そうだよ。よく知ってるね。だから自然界にはよく活用されているんだ」

 と、感心したように答えてくれた。

 

「しかも、この粘液はアルカリ性でね」

 先生は続ける。

「メスの膣内が酸性だから、雄の出す精子にとっては過酷な環境となる。

 そこで先走りのアルカリ性が膣内の酸性状況に作用して精子の進む道を中和し、生きたまま精子が卵巣まで到達できるように環境を作ってやりながら膣内に付着するわけだ」

 

 大学の髭先生も補足した。

「単に挿入しやすくするためのローションの役割だけじゃないわけだ。尤も、せんずりのときに我々みたいに完全にローション代わりに使っている男も多いだろうが」

 そう言うと、まだまだじっとり濡れている自分の亀頭にひっきりなしに滲み出ている我慢汁を掌でぐるぐるとこね回し、亀頭に塗り付け始めた。

 

「おおっ、気持ちいいなあ。大君もセンズリするとき自分の先走りを塗り付けないか?」

 

 それが当然だろう?と言わんばかりにぬらぬらした亀頭を誇示してくる。もうたまらないって。俺はずっと禁欲生活なのだ。

 

「いやあ、そんなに見せつけるようによがって、大君に気の毒ですよ。先生」

 

 そんな事を言いながら、茂田先生は真っ赤に勝ち誇る大学の先生の亀頭に、何と自分自身も垂れ放題だった先走りを掬い取ると、さらに上から塗り付け始めた。

 

「ああっ! 茂田先生! い、いかん。他人に塗り付けられて、そんなこと、されたら、ああっ い、いいっ!」

 

 全くもう、俺に悪いみたいなこと言っておきながら、いやらしい光沢を湛えた男らしい亀頭をぐりぐりと手のひら全体で弄ぶ姿を見せつけるんだ、先生達は。

 

 目の前でこんないやらしい姿を見せつけられて、俺はついつい自分のちんぽを扱いてしまう。

「先生! ヤバイっす。 俺も出したくなりますよ」

 

 それを聞くと、茂田先生は、「我が意を得たり」と言うようににこやかな顔で

「よし、狙い通りだ」

 そう言って、シャーレを俺の亀頭に被せた。

 

 あっと言う間に透明な夥しい粘液が、まるでカタツムリが大群が通り過ぎたようにべっとりとシャーレに付着していた。

 

「これで検査のサンプルが採れたぞ」

 

 先生は大事そうにシャーレに蓋をしながら

「カウパー氏腺液は、量が少ないからな、採取するのに苦労するんだ。だから意図的に君に性的な興奮を与えて沢山出してもらう必要があったんだ」

 あんな場面を見せつけておいて、あっけらかんと説明する。

 

 大学の先生が口を挟んだ。

「尤も、そんな必要がないくらい、部屋に入って来たときから、だらだら出してたけどな」

 そして、二人の先生達は愉快なことこの上無し、みたいな笑みで笑い続けた。

 

 サンプルは無事に検査室に届けられたが、その後、先生達の勃起して、粘液塗れになったペニスはどうなったか知りたいでしょ?

 

「茂田先生、狙い通りに採取できたのはいいとして、コイツはどうしてくれるんです?」

 大学の先生は自分のいきり立った息子を困った顔で見下ろした。

 

「真中君の前だと、目の毒だから、先生、私の診察室で続きをしましょう」

 茂田先生ときたら、俺の顔をニヤニヤして見ながらそんな事を言うんだ。意地悪にも程がある。

 

 と言うわけで、先生達は悪だくみを思いついた不良少年そのものの表情で、部屋を出て行った。

 

 当然、その日は悶々として過ごすことになり、枕を涙で濡らして、いや、先走りで濡らして明け方までなかなか寝付けなかったんだ。

 

 

[体液の検査 その2]

 

 翌日。

 

 昨日は夕食を食べないようにと言われていたから、必死に我慢した。あんなにいやらしい亀頭を二つも見せられた上、飯も食べていない。だが、空腹感の辛さで性欲が少しは紛れたようだった。

 

 朝飯も無し。

 つまり、胃の中と腸を空っぽにしておくらしい。

 胃の検査は関係ないだろうから、やはり下腹部ということで、腸とか腎臓のダメージを見るのかと思い、訊いてみたら、

「前立腺の検査」

 という答えだった。

 

 当然、前立腺も睾丸の近くっちゃ近くだし、ダメージを受けてないか検査するのは分かる。

 だが、検査の方法を聞いて、ドギマギしている最中だ。

 

 前立腺。

 それは、睾丸で作られた精子にゼリー状のタンパク質の液体を混ぜて精嚢に送り込むための器官。

 膀胱のすぐ下にあり、三つのパートに分かれて、膀胱からペニスに続く尿道と精嚢からペニスに続く精子の道が二又になっているのを両方の液が混ざらないようにしている。

 つまり、尿意を催したときは、精嚢からの道を塞ぐように尿道側前立腺が大きくなり、逆に射精のときは膀胱からの道を塞ぐように精嚢側が膨らむわけだ。

 

 だから、老化や病気で前立腺の筋肉がコントロールできなくなると尿道が圧迫されっぱなしになり、尿が出にくくなったり、キレが悪くなって漏れたりする。おっちゃん達がよく言う「キレが悪くなった」って言うのは、前立腺のせいである。

 

 でも、実際はその働きはまだまだわからないことが多いらしい。

 もちろん大切な器官であることには変わらないので、もし炎症を起こしていてはほっとけない。

 

 茂田先生からそう聞いて、納得はしたが、検査の方法がちょっとね。

「肛門から指を入れて、入れた指を膀胱の下あたりで、くっと曲げて前立腺に当たるようにする。その時に痛みがないかどうかをみる」

 

 先生がそんなことを言うんだ。

 

「そのとき、前立腺のすぐ上にある精嚢まで圧迫されて、意志とは関係なく射精してしまうこともあるが、気にしないように」

 

 わあ。そんなことまであるのか。

 だが、検査だし、今更拒否なんてできないよな。

 

 本当のことを言うと、ちんこをしごくこと以外で射精なんて気づいたときにはもうせんずりで射精を覚えていた俺にとっては、夢精の経験すらなかったから、正直な話、ものすごく興味が湧いてきてたんだ。

 

 茂田先生は医療用の手袋をはめると、俺にこの間みたいに仰向けになって股を広げるように指示した。

 

 二回目ともなると、もう恥ずかしいという気持ちはなくなるもんで、むしろ見てもらいたいというか、何をされるのか期待しているというか、大胆に股間を見せるポーズをとれる自分に驚いていた。

 

「いつものように、睾丸を触診するよ」

 

 先生はゆっくり蟻の門渡りの辺りから、徐々に左右の玉の付け根に指を這わせ、そこをじっくりと押さえた。

 

 言うまでもなく、先生が触る前から俺のちんこは勃ちっぱなしとなっているのだが、これも、もうお約束という感じで、男なら当然刺激されてこうなるよね、という暗黙の了解があるから、全然恥ずかしいとは思わなくなっていた。

 

 茂田先生も「おおっ、またか」といった表情で、

「今日も元気だなあ」

 と、俺のちんこの先を指でピンと弾いた。

 

「昨日は、刺激が強すぎたかな? 射精禁止の身には辛い夜だったんじゃないかね?」

 何だかちっとも同情してないような言い方で俺に訊いてくる。

 

「茂田先生、ひどいですよ。

 先生達、あんな風にいやらしいところを見せつけるんだもん。

 夜中じゅう痛いくらい勃起しっぱなしで、抜かずに眠るのが大変だったんですから!」

 

 憤慨して答えると、

 

「はは、そりゃ悪かった。あれからお互いのちんぽをしゃぶりあってなあ」

 

 もう、そんなこと言わなくていい!

 本当は興味津々だったけど。

 

「まあ、無事に退院したら、そのときは二人がかりで可愛がってあげるよ」

 

 俺は期待にあちこちを膨らませながら、

「本当ですか?約束ですからねっ!」

 って、念を押すように睨みつけた。

 

 先生の手は左右の玉を片方ずつこりこりしながら、ちんぽの付け根を押し込んだ。

 

「わかった。わかった。そんなに元気なら私が触っても痛みは感じてないんだな」

「はい、とくに金玉の痛みは無いですね」

 

 5日目にもなるし、いつもの触診に慣れたからか、とくに意識せずに先生の温かい手の温もりを楽しんでいた。

 

「特に腫れている様子も無し。では、前立腺の検査に移るよ」

 

 先生は俺のケツの下に枕を当てがうと、肛門が見えやすいようにもっと腰を持ち上げろって言うんだ。

 

 ちんこや金玉と違い、ケツの穴が他人に丸見えになるっていうのはまた全然別の恥ずかしさがある。

 

 ちんことかなら、お互いにトイレや風呂場でぶらぶらさせて、自然に見せあう感じになるけれど、ケツの穴ってわざわざ人に見せるもんじゃないよな。親にさえ見せたことないのに、ましてや赤の他人に曝け出すなんて。

 

 しかし、そんな躊躇している時間など与えてくれないのが茂田先生。

 あっと言う間に俺の両脚を持ち上げて、俺のケツの穴を部屋中に公開した。

 

 そのポーズを保つようにと言うと、自分の指にローションのようなものを垂らし、俺の中心部に向けてゆっくり近づけてきた。

 いよいよヤられるっ!

 そう思った瞬間だった。

 

「あ、ああっ、冷てえ。!」

 ローションの液体が思いの外ひんやりと穴を刺激したので、俺は思わず叫んでしまった。

 

「大丈夫だよ、ひやっとしたかな。痛くないように、最初は肛門の周りをゆっくりほぐすからね」

 

 先生の人差し指がけつ穴のすぐ周りを、ヌルヌルと時計回りに這い回る。

 少しずつ穴の中心に近づきながら優しく押したり撫でたりしているのが頭の中で想像できる。

 ああっそんな、焦らすようにいやらしく動くのはダメだ!

 声が出てしまう。

 

「先生、! あ、ああっ! だ、だめだって、変な感じで、ああっ!」

 自分でもわけが分からないような感覚が襲ってきた。

 

「もっと力を抜いて、ケツの穴を開くように意識して。リラックス」

 

 それから、じわじわと穴の入り口、いや、出口のギュッと窄んだシワが集まってる部分に指を置くと、ほんの少し、柔らかな力でツンツンと突き始めた。

 

「お、おぁっ。気持ちいい!」

 

 茂田先生は俺の叫び声など聞こえないように

「いいかね、少しずつ入れるよ」

 と、ゆっくりほぐすように、クニクニと器用に曲げ伸ばしながら、数ミリの単位で窄まった穴に指を入れていく。

 

「おお、さすが、若いなあ、綺麗な穴をしとる」

 俺のケツの穴の中が先生の太い人差し指を収めてしまったらしい。

 

「ぐわあー! 何か変な感じです、異物感があります」

 

 初めての感覚にどぎまぎしながら、俺は目をつぶっていた。

 

「私の指の第一関節が入ったよ。痛いかね?」

「い、痛くはないですけど、変な気持ちです」

 

 茂田先生はさらに、優しく撫でるように穴を穿る。

 

「ああ、あの、ああっ、そんなに指を動かすと!」

 

 不意な動きに思わず腰を引いてしまう。

 

「じっとしてなさい。少しずつ挿入するよ」

 

 茂田先生の太い人差し指はなおも未開の奥地を突き進んで行く。

 

「うわはあっ、それはあ! 先生っ、入って行きます。ムズムズする。何か、何か出ちゃいそうな」

 

「大丈夫、大丈夫。

 そのために腹の中を空っぽにしてるんだ。それに痛くはないだろう?

 ほら、もう指の半分くらい入ったよ。

 おお、それにしてもすごいな。ぐんぐん締まる。

 私の指を凄い力で締め付けているよ。ちょっと抜きかけると、がっちり咥え込んで離さない」

 

 もう、肛門の異物感がだんだんと別の感覚になって来ていて、先生が指を少し出し入れするたびに、無意識に肛門の筋肉が引き締まり、意志とは関係なくケツに力が入ってしまう。

 どうやら先生もその動きを指に感じているらしい。

 

「ほほう、こりゃ凄いな、若いだけあって、穴の締まり具合が強烈だ。

 しかも、内側のひだひだが纏わり付く。

 ああ! これが指ではなくて、ちんこだったら、どんなに気持ちいいだろうなあ」

 

 なんて凄まじいことを言いながら、ぐいっと押し込んだ。

 

「ぐはあ! それ、何かすごいです」

 

 茂田先生はここで指を止めて言った。

 

「よく、頑張ったな。痛くないだろう?

 これから、指を上向きにして、指先を前立腺辺りの壁に当てながら、グッと押すからね。

 痛かったら、すぐに言いなさい」

 

 最初は小刻みな動きで、しかしだんだん大胆な動きにかわり、だけどガラス細工を扱うに慎重に宝の在り方を指で探る。

 

 そのうち、何かを掴んだらしく、くいっ!

「あわわわ、あっ」

 くいっ!

「ひいっ」

 くいっ!

「いいいっ!」

 当り始めた。

 

「よし、分かった。ここだな、宝の在り方は」

 

 くいっ!

「あひっ。先生なんか、なんか出ちゃいます」

 そう言い終わる前に、

 

 とろぅ……。

 

 白い粘り気のあるアレが、俺の鈴口に実をつけて、ちんこの裏側に甘露を垂らした。

 

「おお、悪かった。ギリギリで止めようとしたが、やはり当たりが強かったかな。まあ、仕方ない、ずっと精嚢に溜まっていただろうし」

 

 茂田先生はゆっくりと気を遣って指をケツの穴から抜き、手袋を外した。

 

「あ、あ、あっ」

 

 抜くときも思わず声が出てしまった。

 

 それを先生は勘違いしたのか、または勘違いしたふりをしたのか、

「そんな切ない声を聞いたら、自分のを抜きたくなるなあ。また入れたくなっちゃうじゃないか」

 と言いながら、ゆっくり垂れている俺のアレを何と、自分のちんこの亀頭に塗り広げたんだ。

 

 先生はズボンを急いで脱ぎ捨てた。

 

 それから、俺の両足首をむんずと掴み、上に高く広げて上げる。

 

「たまらんっ! 悪いが、射精させてくれ、我慢できん! 君のケツの中とは言わん。ケツの穴の周りにぶっかけていいか?」

 

 俺はいいですとも、嫌ですとも答える間も与えられず、茂田先生は俺のケツの穴に自分の亀頭の先をズンズンと当ててきた。

 

 もっとも、たとえ言えたとしても、きっと絶対に嫌だとは言わなかったけどね。

 

 「中には出さんからな、だが、この穴目がけて俺の種を放出する。ちょっとの間我慢せい」

 そう言いながら、先生の先っぽが熱くなっているのが分かるほど、俺のケツの穴にアレを体当たりさせるんだ。

 

 ズバン! ズバン!

 

 そりゃ、俺はキャッチャーだが、こんな場所まで投げ込まれることは無い。

 白いボールなら受け止められる自信はあるが、白い液体をケツの穴の真ん真ん中にうまく受け止められるだろうか?

 

 ここは、キャッチャーとしての腕の見せ所だ。

 

 何故か変な闘争心が沸き起こり、先生のでかい亀頭をストライクゾーンで穴に当たるように、腰を浮かせたり、沈めたりする。

 さらにはケツの穴を広げたり窄めたりして、先生の亀頭がもろにそこに当たるように動いた。

 まさに正捕手の名にかけて、失敗は許されないもんな。

 

 すると、先生。

 

「ああっ、す、すごいぞ、ぴったり当たる! 穴の中に吸い込まれそうだ!」

「先生。いいすか! 俺のケツの穴にあたるでしょう?」

「いいっ! もうだめだ、出していいか?」

 

 グイ、グイと激しい腰使いが一段と早くなったかと思った、その瞬間。

 

 ビシャーッ! ビシャーッ!

 

 勢いよく、リズミカルに、大量の精液が俺のケツの穴の真ん中にぶち当たった。ケツの穴にシャワーを当てられたように。

 その温かい雄の命は穴の中心のみならず、当然、俺のケツから太もも、腰の下に当てていた枕からシーツまで、夥しい量の流れとなって滴り落ちていた。

 

「真中君、びしょびしょにしてしまったようだ。申し訳ない。後始末が大変だなあ」

 

 先生はそういいながらタオルで俺のケツを丹念に拭き始めた。 

 

 ケツの感覚でどのくらいびしょびしょなのか、なんとなく分かるような気もするが、見えないからそんな大惨事になっているとは、知らなかった。

 

 先生は俺の顔を見ると、俺の手を取り、ケツの穴のあたりに持っていき、

「どうだ? おねしょしたみたいに濡れちゃったろ?」

 

 べっとりと手のひら全体に精液をつけたんだ。

 

 うわあ。すごいなぁ。先生。

 

「先生は、いつも、こんなに量が多いんですか?」

 俺は先生の精液でべっとりと濡れている手のひらをくんくん嗅ぎながら訊いてみた。

 

「そうだよ。人の二倍から三倍は出るだろうな」

 そう言うと、俺の手のひらに付いている自らの汁を舌で舐めとった。

 

「わしの精液は昨日検査したばかりだからな、綺麗なもんだよ。

 大人の健康な男の精液の味はどんなものか、君も体験してみるといい」

 

 そして、先生自らケツから流れ落ちている自分の雄汁をすくい取り、俺の口の中に垂らして微笑んだんだ。

 

 俺としては、嫌がるのも失礼だと思ったし、自分以外の男の精液の味はどんなものか、興味があったから、舌の上で味わってしまったんだよなあ。

 

「うん。嫌な味じゃないです。生臭いけど、気持ち悪くはないかなあ」

「君みたいな若い男の子はもっと、ねばっとしていて、臭いも強烈だろう? 中年になるとそんな感じになるんだよ」

 

 なるほど、自分でせんずりをして出したやつをいたずら半分で舐めたことがあるが、確かに俺の方が臭いも色も濃くて、味も先生のより甘ったるい感じだったなあ……。

 

 なんて考えていると、

「これで、尿と、カウパー氏腺液と、前立腺の検査は終了だな。あとは一番大切な精液の検査だけだな。

 それは、うむ、明日やるかな?

 もう一週間以上と出してないと、気が狂いそうだろう?」

 

 明日か。

 

「それで、異常なければ退院ですか?」

 

 俺は何故か、半分退院したくないような気持ちになっていた。

 

「いや、退院はしてもいいが、すぐに練習は無理だろう、さらに二、三日は自宅で様子を見て、野球は身体を慣らしてからだな」

 

 そして、先生は、キャッチャーを続けるんなら、男として金玉について知っておいた方がいいことを話し始めた。

 まだ、精液の匂いが残る雄臭い部屋の中で。

 

 

[精巣の役割 その2 色と形と大きさ]

 

「マンドリルの話は以前したね。覚えているかな。

 実は、精巣が子孫繁栄のための大切な要素となっているのは猿の例だけではないんだ」

 

 茂田先生はいろいろな種類の分厚い本を鞄から出してきた。

 

「まずは植物からかな」

 

 先生は植物の標本図鑑をパラパラと捲り、蘭の花の写真を広げた。

 

「パフィオペディルム。蘭の一種だ。

 蘭は英語でOrchidという。これはギリシャ語のオーキスから来た言葉で、このオーキスという言葉は睾丸を意味する」

 

「へえ、蘭が睾丸とどう繋がるんですか?」

 俺は植物と男性の金玉とが結びつかず、不思議に思った。

 

「何故蘭が睾丸のイメージかというと、蘭の塊茎(球根の一種)が、睾丸と同じ形をしているからなんだ」

 先生は地下に埋まっている蘭の塊茎の写真を見せた。

 

「なるほど、確かに一つひとつの大きさや形が睾丸とそっくりだ。ラグビーボール型で」

「大くんの睾丸はこんなもんじゃないがな。野球のボールくらいはある」

 

 俺の玉の話ではなく、蘭の話の続きをお願いした。

 

「だが、私は蘭の塊茎が似ているというだけではなく、別の理由もあるのでは? と考えた」

 

 先生はこんどは蘭の花の写真を開いた。さっきのパフィオペディルムだ。

 

「胡蝶蘭やカトレアでも良いが、この蘭の種類が一番分かりやすい」

 

 そう言うと、蘭の花の本をまだ下半身が剥き出しのままになっている先生の金玉の隣に置き、俺に比べさせた。

 

「この、パフィオペディルムの花の特徴は何だと思う?」

 

 俺はすかさず答えた。

「花の下の部分の花びらが袋みたいで、それが垂れ下がってますね」

 

 先生はその垂れ下がった一部の花弁と自分の垂れ下がってますね金玉を交互に指差し、

「分かるかな?」

 と質問してくる。

 

 俺はすぐに納得した。

 

「なるほど。金玉の袋か!」

 

「そう。蘭の花の雄しべがまるで陰嚢の中にあるみたいなんだよ。

 ある意味まったく哺乳類の雄と同じだ。

 だから、この花の特徴からも蘭は金玉に似ているから、睾丸という名になったんじゃないかと、思っている」

 

 そう言いながら、先生は自分の睾丸が入った陰嚢をゆっくり撫でながら、俺に見せつけた。

 

「植物だと雄しべから出る花粉。人間だとペニスから出る精子。似ているだろう?

 性の営みは生物界みな同じ形だというわけだ」

 

 先生は自分のちんこの根本から雁首にかけて、ぎゅうっと歯磨き粉の残りを搾り出すように強く握りながら、亀頭まで何回も扱いた。

 鈴口にプクッとさっきの射精の残りと思われる、白い雫が現れる。

 

 先生はそれを人差し指の先に移すと、何と俺のケツの穴にねじ込んだ。

 

「おわあ! 先生、何するんですか!」

「大丈夫だ。妊娠はしないから」

 

 そういう問題じゃあ無い!

 

「さっきは、びしょびしょにしてしまって、後始末が大変だったな。シーツも取り替えねばならないし。こんなんだったら、今度射精するときは君の体内にする方が楽だなあ」

 

 いやあ、先生とんでもないことを仰る。

 

 話は続けられた。

 

「つまりだな、雄しべの花粉を昆虫に付けて雌しべに受粉してもらうために、花はいろいろ魅力的な色や形になったわけだ。

 それが睾丸がずっしり入った陰嚢に似ているということは、金玉の形とは、もしかしたら非常に魅力的な形なのではなかろうかな?」

 

「はあ」

 

「猿の場合もメスを引き付けるために目立つ陰嚢に進化しただろ?」

 

 俺はだんだん先生のいいたいことが分かってきた。

 

 目の前にその魅力的な先生の金玉がたわわに下がっている。

 

 手に取りたいという気持ちになる。

 

「金玉がなぜ体の外側に出ているのかは知ってるかね?」

 

 それは俺でも知っている。

 

「体の外側にある方が睾丸が冷えて精子が作りやすくなるからですよね」

 

「もちろんそれもあるだろうが、私はそれにプラスして、見せるために外にぶら下がっているという結論に達したのだ。

 ペニスが外に出ているのは、精子を送り込むためにホースの役目が必要だからなのは分かるな」

 

 俺は先生のちんこが再びその体積を増してきたのに気づいた。

 

「だが、ある学説によると、ペニスの大きさが変わり、目立つようにいきり勃つようになったのは、敵が来たときに威嚇するためだという説と、変化したものを見せつけて立場の優劣を示したり、メスにとって雄としての能力を誇示したりするためのものだという説が出てきたのだ。

 だとしたら、睾丸にもその役目があるだろう、というのが私の考えなんだよ」

 

 先生は張り切って話し出したが、それに呼応するようにちんこと金玉がひときわ巨大になったと感じたのは目の錯覚だったのだろうか?

 

「中国でも日本でも、男根のことを陽物と呼んでいた。

 決して陰部ではなく、陽の当たる物という意味だ。隠すべき物ではなかったのだよ。

 私は日本の祭における、六尺褌が、何故越中褌よりも、明らかに男性の股間を強調するような締め方なのか、不思議に思っていたのだが、あれは男根をより魅惑的に魅せるために考案された締め方だという結論に達した。

 祭りの夜は無礼講で、男女が淫らに交わってもお咎めがなかった。

 そのため、男性は自分のペニスを際立って見せるように六尺褌一丁で神輿を担ぎ、女は男性の股間を見て選べるようになったわけだ」

 

 確かにキリリと締めた六尺褌の男ってかっこいい。

 

「あれはペニスと金玉を袋に包み込み、大きさを見せつけているわけだ。

 同じことが中世のイタリアや、イギリス、フランスなどにもあった」

 

 先生はまた別の本を目の前に持ってきた。

 最初の絵はヘンリー8世の肖像画、それから、映画ロミオとジュリエットのワンシーンの写真。

 

「14世紀から16世紀にかけて、ヨーロッパ貴族はどんどん豊かになった。それに伴い、男性の服装も煌びやかになったんだな。

 その当時は今のズボンみたいなのは無くて、片脚ずつ股の付け根のところで結んでいたんだ。だから股間を守るものが何もなく、袋状の物を被せ、あてがっていたのだね」

 

 俺はすぐにキャッチャーが着けるファウルカップを想像した。そうしたら案の定先生は、

「もし、大君がその頃そこにいたら、さぞかし生地を沢山使うことになったろうなあ。は、は、は」

 

 先生だって特注になるでしょうよ。と、言いたいところをぐっと我慢して、話の続きを聴く。

 

「この股の袋状の物を英語でコッドピース、フランス語ではブラゲットと呼んでいた。

 そして、それは単に股を隠す物ではなく、この映画のように、おしゃれな装身具として発達するんだな。

 ロミオとジュリエットでも、男達はみなやっている。日本語では股袋(またぶくろ)と言うんだ」

 

「股袋! 何かいやらしいなあ」

 

「そうでもないんだよ。時代が進むにつれ、男どもはこぞって股袋を立派にするための工夫を考えるようになった。

 派手な飾りはもちろん、金属製の縁取りをしたり、袋の中に詰め物を入れて、男性のシンボルを大きく見せたりしながら、他人の気を引いたんだ。

 女性はもちろんのこと、男性に対しても自分の男らしさの誇示をするために」

 

「先生、それって詐欺じゃないですか?」

 

「は、は、は、そうだな。

 いざベッドインとなったらまったく違ってたりしてな。

 だが、それでもペニスをより巨根に、玉をより大きく見せることはもてるための大切な要素だったのだよ」

 

「だから、陽物なんだ。だから隠さずに堂々と見せてきたんですね、世界的に」

 

 先生によれば、日本でも男の全裸というのは恥ずかしい事とか、汚らわしい事とかのイメージは無くて、むしろ自然な事であり、越中褌一丁で町をぶらぶらしたり、その越中の脇から金玉がポロリと顔を覗かせながら胡座をかいてる親父など当たり前の事だったらしい。

 海岸にいる漁師なんか、夏は全裸で過ごしていたという証拠もあるくらいだ。

 

「だから、君も金玉が人よりでかくても、何も気にせず多少不便でも堂々と、むしろ見せつけるくらいの気持ちで過ごしてほしいと、私は思っている」

 

 と言うと、引き出しから不思議なものを出した。

 それは袋状の物で、ガーゼで作られていた。

 先生は自分のでっかい玉と、これも標準よりは太そうな竿の両方を袋の中に器用に収め、紐で背後に結んで固定した。

 

「ほら、自家製の股袋だ。風通しもいいし、大切な所を怪我したとき、これで包めば便利なんだ」

 

 ガーゼの生地で作ってあるだけに、先生のちんこや金玉が黒っぽくガーゼ越しに透けて、めちゃくちゃいやらしかった。

 

「君にも作ってあげなくちゃな、退院したら必要になるかも知れん」

 

 そう言って、先生は妙に楽しげにメジャーで、俺のちんこの長さや亀頭の円周、金玉の縦横の長さ、それに玉の円周を測り始めた。