男性専科クリニック Part 5

その2

 

その2 宮内と村岡

 

 毎週末、村岡昭一(むらおかしょういち)は宮内寛(みやうちひろし)のマンションに顔を出す。

 もともとそれほど離れた場所に住んでいるわけではないのだが、週末同棲のような今の形が2人の付き合い方には合っているようだ。

 平日は互いに束縛せずそれぞれに動き、週末は極力顔を合わせるよう互いに努力する。

 金曜の夜から月曜の朝までを共に過ごす時間は、2人の長い付き合いの中で、次第におだやかに過ぎ行くものとなっていた。

 

「昼間、この前の野村センセんとこ、電話しといたで」

「予約はいつって?」

「来週の金曜の午後って言われたけど、寛も休み入れれるんか?」

「ああ、大丈夫だろう。2人で行ったがいいって言われてたしな」

「なんか、ワシのインポに付き合わせて、悪いな」

「いやさ、昭一が元気になってくれりゃ、そりゃ嬉しいし」

 

 夕食は鍋だったのか、湯気で潤った室内は熱気を保ったままだ。

 がっしりとした白髪交じりの短髪の男が宮内、禿頭の丸い腹の突き出た男が村岡である。2人とも室内では、いや宮内のマンションではいつもそうなのか、ラフな部屋着を身に付けていた。

 ソファに座った宮内の太股に村岡が頭を預け、くつろいでいる。

 

「あの先生と看護師さんの2人、インポのワシから見ても、スケベだったなあ」

「ああ、田畑君だったか? 看護師さんのむちっとした身体付きもすごかったし、野村先生の毛深い身体もすごくいやらしかったよな。出るとこ出れば、2人ともかなりモテるんじゃないかな」

「あの2人はホモなんじゃろうが、患者さんの2人はちっと違ごうとった感じじゃなかったかね?」

「うん、自分もそう思ったな。西田さんと山崎さんだっけ? あの2人は家族もあって、元々ノンケさんっぽい感じだったと思う」

 

 2人の推測は見事的中していたのだが、この時点では、それが2人に分かるよしも無い。

 

「お医者さんと看護師さんは、もうバリバリホモって感じがしたが、どうなんだろう? 昭一はどう思った?」

「なんかもう、一緒に住んでるみたいな話ししとったんじゃなかったか? ワシが見とった感じでは、完全に付き合っとるように思っとったが?」

「タチウケ、どっちがどっちなんだろうな」

「若い方がタチ、センセの方がウケ、どうだ?」

「んー、なら自分は逆に張っとくか」

「勝ち負け決まったら、どうする?」

「高級料理、負けた方のおごりで」

「高級って、このあたりそんなもんようあらへんやろ」

「餃子とラーメンでも、おごりはおごりだろう」

「よし、乗った!」

 

 会話を聞けば、普段は支出については割り勘のようだ。

 それもまた、年も近い独身男2人の長い付き合いの結果として、互いに慮りながら構築してきたものなのだろう。

 

「まあ、あんな感じだと患者さん2人の方は『元ノンケ』って奴になっとったとは思うけど、それはそれであそこのクリニックの『治療』が凄まじいってことなんやろなあ……」

「昭一も、そこを期待してるんだろう?」

「まあ、ほら、前に店でもらった勃起薬飲んでみたとき、けっこうきつかったからな。薬に頼らんでインポ治るっちゅうなら、これほどありがたいことは無いだろうし」

「期待しておこうかな、俺も」

「ただ、寛も一緒に来いっちゅうのが、ちと分からんでな」

「温泉のときみたいな感じで、一緒にスケベやろうと思ってるんじゃ?」

「うーん、治療は治療でしっかりやってもらえるんじゃなかろうかって思っちゃおるんだが、色気やスケベだけでお前も呼ばれたとは、あんまり思わへんのだがなあ……」

「まあ、行ってみりゃ分かるさ。俺だって、昭一がビンビンにおっ勃つなら嬉しいしさ」

「ギンギンにならんでも、寛にいじってもらったりしゃぶってもらったりしたら気持ちいいんだぞ」

「そりゃ分かってるけど、ほら、こっちも気持ちの問題っていうかさ」

「なんか、すまんな。ワシがインポで」

「ほらほら、そんなふうに考えるとますます勃たなくなるって」

「なら、ちっと血液循環良くしてもらうかな」

 

 繰り言を長々と話しても、との思いもあったのか、村岡が笑い話へと会話の方向を変える。

 テレビを見ていた頭の向きを変え、宮内の股間に顔を埋めた。

 

「寛のここ、相変わらずええ感じやな」

「そんなやられると、勃ってくるぞ」

「勃たせてなんぼやろ、お前さんのは」

「昭一って俺の取りえって、チンポだけと思ってるんじゃないか?」

「まあ、そこに期待するとこは、大きいわな」

 

 夕食後の寛ぎの時間から、どこか淫靡なそれへと、室内の雰囲気が変わり始める。

 

「ちとしゃぶらせてくれ」

「ああ、頼む……」

 

 部屋着にしているスウェットを膝下へとずらせば、半勃ちになった宮内の逸物がぼろんと飛び出てくる。

 標準的なものよりは幾分大きめに見えるそれに、村岡が顔中を押し付けて食事での体温上昇により蒸れた匂いを堪能する。

 

「昭一の髭が当たるのが気持ちいい……」

「無精髭や。このザラザラがいいんやろ?」

「ああ、金玉に当たるのが、すごくいいよ……。焦らすなよ、しゃぶってくれ」

「お前さんの尺八するんは、体勢整えんと出来んじゃろ」

 

 それまでソファに横たわって太竿を舐め回していた村岡が床に降り、宮内の股間の前に膝立ちになる。

 正対してこそ、その大きさを満喫出来ると踏んでのことだ。

 

「目の前で見ると、やっぱりデカいわ、お前さんのは」

「でも、楽々挿れるんだろ?」

「真顔で言うな。ワシかて恥ずかしいわい」

 

 最初のうちは互いに後ろを責め合っていた2人だが、互いの指向が分ってくる中、宮内がタチ、村岡がウケの分担が決まっていったのは、宮内の『年上の村岡を犯してよがり声を上げさせたい』との思いが強かったからだった。

 元来相手の喜ぶ様を見たがるタイプの村岡としては、『宮内が感じてくれる』ことを優先したのは当然のことだったのだろう。

 30年近い付き合いの中、村岡の体内奥深くに注ぎ込まれた宮内の精汁は、それこそ膨大な量となっているはずだ。

 

「相変わらず寛のはいい形しちょる」

「眺めてないで、しゃぶってくれよ」

「目でも楽しませろやい」

 

 どこか軽口のようなやり取りは、何十年も付き合ってきたせいでもあろう。

 色事と日常が連続したものとして普段の生活に溶け込み、かといって完全な『空気』へと変わってしまったわけでも無い。

 そんな付き合い方が、互いに心地よい過ごし方だと思い合っている2人である。

 

「あっ、ああっ……。昭一がしゃぶってくれてる……」

 

 ずるり、と村岡が舐め上げた宮内の逸物は、その経験値からすれば色素の沈着も目立たず、根元から描く上反りのゆるやかなカーブと切り立った亀頭冠のエッジも鮮やかな、まさに『銘刀』とも評されるものだった。

 完全に勃起すればうねる血管がまといつきゴツゴツとした印象を受ける村岡のそれとは異なり、どこか伸びやかな、年齢に合わない若さすら感じさせるものだ。

 尿道海綿体の膨らみはその根元から裏筋まで親指ほどの太さで盛り上がり、後背位であれば相手の前立腺をえぐるほどの働きを見せることになるだろう。正常位であれば上向いた先端がその役を成すこととはなるが、そのためには幾分か浅い挿入で相手を喜ばせることになるのは明白であった。

 

「ここがうまく当たるんだよなあ」

 

 その膨らみに舌を這わせ、村岡がつぶやく。

 

「全部がばっと咥えてくれよ」

「だからじっくり愉しませろって言うちょるだろうが」

 

 せっつく宮内の言葉に村岡が笑って返しながら、本人もまたしゃぶりたくて仕方が無い目つきをしている。

 

「ああ、やっぱり昭一の尺八は絶品だな……」

「だーれと比べとるんじゃか」

 

 週末は共に動くことがほとんどなのだが、平日は互いに束縛することもなく、それぞれの交友範囲の中での色事には目くじらは立てない付き合い方をしてきている。

 もともと2人とも相手を『自分のモノ』とする感覚が薄く、『自分が惚れてる相手がモテるのはいいことだ』的な考えは共通していた。

 宮内の方は流行りのSNSを使っての相手探しに、村岡は性的サービスを伴ったマッサージの利用など、それぞれいそしんでいるのだ。

 

「先汁、すごい量だぞ」

「昭一が焦らすからだよ……」

 

 先端から溢れ出す宮内の先走りは、少しでも口を離すと流れ落ちるほどの量で太竿を濡らしていく。

 困ったような口調で言う村岡であったが、透明な液体をすすりあげるその表情は水辺にたどり着いた砂漠の旅人のように満足気だ。

 

「キス、しよう」

 

 宮内の言葉に村岡がぐっと上半身を持ち上げ、顔を寄せていく。

 端から見れば、50代中庸の男達の口接はどのように思われるのか。

 ちらと村岡の頭によぎった疑問は、宮内の激しい舌の動きに、たちどころに霧散していった。

 

「ちゃんと、しよう」

 

 キスを堪能した宮内が、再び村岡に声をかける。

 この程度の触れ合いのまま終わり、互いに射精へと到らぬままに過ごすことも増えてはきていたが、宮内にしてみれば、今日はそれなりに濃厚な接触をしたい気分だったらしい。

 村岡もまた異を唱えずに、寝室のベッドへと一緒に移動する。

 部屋着を脱ぎ捨てた2人がもつれ合いながら、硬めのマットレスに倒れ込んでいく。

 

「この前のセンセのところに行くって思って、寛も興奮してるんだろう?」

「昭一だって、なんか期待してるだろう。治療と言いながらセックスまがいのことやってるみたいだし、2人で来いっていうのも『そういうこと』なんじゃないか?」

「週末は予行演習だわな」

「練習しないといけないほどご無沙汰だったつもりは無いんだけどなあ……」

 

 上下に身体を入れ替えながら、戯れ言に興じる2人は楽しそうだ。

 行きつけにしている飲み屋のマスターからは『30年も付き合っててまだセックスしてるなんて、あんた達ぐらいよ!』と言われることも、また嬉しい2人なのだ。

 付き合い始めた頃に比べればはるかに回数は減じているが、それでも週末のうち1度は肌を合わせることが、2人の『普通』になっていた。

 野村医師のクリニックへの通院は、たとえそれが村岡のインポテンツの治療としても、どこか性的な刺激と結びついていることを前回の温泉での出来事から予測している2人である。

 そしてその憶測は、見事に的中していくはずだ。

 

「あっ、あっ、寛っ……。そこっ、いいっ、気持ちいいぞっ……」

 

 気が付けば仰向けになった相手の両脚を持ち上げた宮内が、剥き出しになった村岡の尻穴をねろねろと舐め回している。

 村岡もまた太股の付け根を両手で支え、宮内の舌が届きやすいようにと尻の割れ目を大胆に見せつけていた。

 

「挿れて、挿れてくれっ、寛っ! もう、たまらんっ!」

「そう焦るなって……。ほら、もっと尻上げてっ!」

 

 ベッドに付いた両膝をぐっと開き、腰の位置を調節する宮内。

 狙いを定めたその先端が、みっしりと村岡の尻を割り始める。

 

「ああっ、入ってくるっ! 寛のがっ、入ってくるっ!」

「初めてじゃああるまいし、ほら、こんなのはどうだ?」

 

 突き入れた腰をぐるりと回す宮内。

 弓形に反った肉棒が、村岡の体内を掻き回す。

 

「あっ、もっとっ、もっとしてくれっ! もっと突いてくれっ!」

 

 より強い刺激を求める村岡の声に、宮内がその腰の動きを早めていく。

 

「ひっ、いいっ、いいぞっ、寛っ! もっとっ、もっとっ!!」

「よくばりだな、昭一は」

「あっ、いいっ、それっ、いいっ!」

 

 せり上がり、横に振り、円を描く。

 突き入れ、引き出し、小刻みな出し入れを繰り返す。

 宮内のわずかな腰の動きに村岡が敏感に反応し、そのよがり声は寝室の天井に谺する。

 

「昭一のチンボ、すげえ先走り出てるぞ」

 

 感想を含まず目の前の事象のみを伝える宮内の言葉は、勃ちを気にする村岡のプライドを慮って、いつの間にか身に付いた話法だ。

 

「気持ちいいっ! 寛のチンポ、気持ちいいっ!」

 

 平時よりその体積を増してはいるが硬度は伴わない村岡の先端からは、太鼓腹を伝い横腹を流れ落ちるほどの先走りが溢れていた。

 勃起こそしないものの、村岡が味わっている快感が相当のものだと思えるその有り様に、宮内はどこかホッとしたような感覚を得ているのだ。

 

 感じているフリをしてくれているのではないか?

 村岡のEDが発症した当時、宮内もまた、内心では不安に思うことも多かった。

 それでもその後の村岡の話や、実際に身体を交えたときの反応から、だんだんと『快感を存分に感じているが、勃たない』という状況が飲み込めていったのだ。

 まだ互いに若さを残していた当時の宮内に取って、『気持ちいいのに勃起しない』という状態の想像がつきにくかったのは致し方のないことだった。

 

「いいか? 俺のチンボ、いいのか?」

「いいっ、いいっ! 寛のチンポっ、気持ちいいっ! もっとっ、もっとやってくれっ!! もっとワシの腹ん中、掻き回してくれっ!」

「こうか? これがいいのかっ?」

「いいっ、寛っ、いいっ! もっとしてっ、もっとっ!」

 

 速度の緩急、挿入深度の浅深。

 何十年も身体を交えたものだけに分かるその巧みなコントロールが、村岡を追い詰めていく。

 

 向かい合った姿勢のまま抜き差しを浅く行えば、最大限に膨らみきった亀頭が前立腺をえぐる。

 ストロークを伴った大胆な出し入れに括約筋が揺さぶられ、弛緩させようと意識的に緩めている村岡が思わず力を入れてしまうような刺激が重なっていく。

 

「昭一のケツっ、すごい締まるっ! このままだとっ、イくぞっ、中に出しちまうぞっ!」

「イッてっ、イッてくれっ、寛っ! ワシの中に、イってくれっ! ワシも漏れるっ! 寛のチンポで突かれてっ、ワシも出るっ!」

「イけっ、昭一っ! トコロテンでっ、イけっ!」

 

 ガツガツとぶつかる男達の腰の間に、粘性の高い汁がまみれる音が絡んでいく。

 股座に張り付いた宮内の睾丸は持ち主の腰の動きの激しさに揺れ動き、その奥で作られた白濁液がふつふつと湧き立ちながら、吐精の瞬間を待ち構える。

 

 絶え間ない刺激に、柔らかいままの村岡の先端から垂れ落ちる先走りに、白いものが混じり始めた。

 とろとろとしたその放出は、村岡の腰深くにとてつもない快感を生んでいく。

 

「昭一っ、俺もイくっ! イっていいか? いいかっ? 昭一っ!」

「寛っ、ワシのケツに出せっ! 寛の汁でっ、ワシのケツっ、一杯にしてくれっ!」

「あああっ、イくっ、イくっ、イくっ! 昭一のケツにっ、俺っ、イくっーーーー!!!」

 

 がくがくと震える腰を村岡の尻に押し付け、その奥底へと噴き上がる精液が尿道を通る感覚にひたる宮内。

 肉と粘膜に包まれた逸物が感じる熱感とその脈動が溶け合い、村岡もまた自分の直腸へとぶつかる飛沫の勢いすら感じとっていた。

 

「久しぶりに昭一もイッたな……」

「なんか今日は、ワシもすごかった。寛と一緒にあの先生のところに行くと思うと、興奮してな……」

「それだけでも治療効果ありましたって、報告しなきゃ」

「いや、それで治療はいらんとか言われたら、残念な気持ちになるわいな」

 

 体重を預けた村岡の胸の上で、2人の会話が続いていく。

 さすがに2度3度ということはここ数年は無くなっていたが、事後の余韻を味わう術は2人の年齢からして学んできているのであろう。

 

「ちょっとワシ、便所、行ってくる」

「ああ、俺はシャワーしてるから、出したら一緒に流そう」

 

 トイレと浴室が別設えになっている宮内のマンションはある意味ではゆとりのあるものではあったが、尻を使った交わりの前後ではユニットバスの方がいいよな、とも思う宮内である。

 

「来週、2時に来てくれってことだったが、時間は大丈夫か?」

「どっちにしろテレワークだし、昭一も昼から休み取るんだろう? 昼飯一緒に喰って、シャワー浴びて出るぐらいでちょうどいいんじゃないか?」

「ああ、ならワシも昼ちょうどぐらいに着くように動くので、飯は待っといてくれ」

「OKOK。で、明日はどうする?」

「昼はゆっくりして、夜は飲みにでも出るか」

「ああ、先週出て無いし、いいかもな」

「日曜はどうする?」

「家でゆっくりしたいな……。映画とか、何か面白そうなのやってればいいんじゃないか?」

「せっかくの休みなのに、寛はホントに家が好きだわなあ」

 

 互いの身体に残った石鹸の泡を流し合いながら、週末の予定を決めていく2人。

 村岡と違い出不精でもある宮内とは、なかなか旅行にとの雰囲気になることも少なかった。

 その分、先日のゴルフ旅行は久しぶりの枕の違いによる興奮と、野村医師達と知り合えた『特別な』ものだったのだ。