戌亥武之進、闇に逃げる

その6B(グッドエンド)

 

「敵か? 黒爺?」

 

 黒虎の緊張を察した武之進が囁く。

 黒虎の背中の筋肉が緩み、その体重が一気に武之進の上半身にかかる。

 

「ど、どうしたと言うのだ、黒爺よ……?」

 

 黒虎の背中が細かく震えていることに気が付いた武之進が、心配そうに声をかける。

 

「助かったのですよ、武之進様……」

 

 忍びの者としてはあるまじき行為であったのだが、それは武之進は知らぬこと。

 なんと黒虎はこのとき、我が身と主君の上に舞い降りた幸運に、身体が震えるほどの笑いを堪えていたのだ。

 

 黒虎の鋭い耳に聞こえたのは、雀よりも一回り大きな花鶏(アトリ)の鳴き声であった。

 

「アトリは夜が明け、日が昇らないことにはその鳴き声を披露しませぬ。またこの時期には、山深くよりも人家の近くにてよく群れ、さえずる鳥でございまする」

「いったいどういうことなんだ?」

 

 野鳥の知識にまでは詳しく無い武之進に取っては、当然の疑問だった。

 

「昨日のうちに思いの外、追っ手との距離がとれていたのか、それともあの雨で追跡を諦めたのか……。

 いずれにしても、懸念していた夜明け前の襲撃を回避出来たということです。また、山も抜けつつあり、それはもう熊谷家の領近くであるということでもあります。

 さすがに一睡もしておられぬ武之進様には少々きついでしょうが、日のあるうちに熊谷の領地にたどり着けるはずです。もう大丈夫でございますよ。無事にあなた様を熊谷様の元に御案内するという、源三朗様との約束が果たせます」

 

 明日の朝を迎えることは、もう出来ぬかもしれぬ。

 

 その思いから始めた男同士の交情であった。

 いや、迎えることの出来ぬ朝を思ってであったのやも知れぬが、こればかりは外の光の届かぬ岩穴の奥にあっては、時の経過が分からぬのは当然であった。

 黒虎の鋭敏な耳が捉えたのは、まさにその『朝』を告げる、鳥の鳴き声であったのだ。

 

「そうと分かれば……。先ほど、我が身もイく寸前まで昂ぶっておったのじゃ。お主の逸物もまったく萎えてはおらぬ様子。このまま、その……」

「もちろんですとも。2人してときを合わせて拉致を上げましょう」

「頼む、黒爺。無事ということが分かり、私の摩羅も歓喜にいなないておる」

 

 2人とも先ほどまでの体勢を崩すことなく、黒虎の長大な逸物が武之進の奥深くに差し込まれたまま、密やかな会話をしていたのだ。

 周囲の状況を把握をした黒虎と、安心した武之進の思いが一つになる。

 

「では、再び動かしますぞ、若っ!」

「あっ、あっ、ああああっ、よいぞっ、黒爺っ! 心地よいっ、心地よいぞっ!!」

「よおございますでしょう。心よおございますでしょう。我が逸物を、その尻で十二分に味わいくださいませ」

「あっ、よいっ、よいぞっ! 当たるっ! 黒爺のものがっ、私の奥に当たるっ! 抜くときもっ、入れられるときもっ、どちらも心地よいぞっ、黒爺っ!」

 

 黒虎の、肉体の重みと、飛び散る汗と。

 武之進の尻肉の緩みと緊張、逸物の先端からとろとろと流れ落ちる先汁と。

 悦楽と、喜びと、全身で二人で味わう交わりから来る快感が、そのすべてを覆い尽くし、互いの肉体をひしと抱き合わさせる。

 

「どうですか、武之進様? このまま精を放てそうでございましょうか? 足りぬのであれば、私の手で、武之進様の逸物を扱きますがゆえに」

「よいっ、よいっ! このままっ、お前に入れられているだけで、精を放ちたいっ! もうすでにっ、漏れそうになっておるっ! 汁が勝手にっ、勝手に雄汁が出そうになっておるっ!!」

 

 握られもせずに、扱きもせずに、ただ尻奥を突かれる愉悦が、武之進の最期の刻を引き寄せている。

 

「ふふふふ、汁が上がってこられましたか。ですが、まだまだでございますぞ、武之進様っ! もっともっと悦楽を極め、その後にて男の精を噴き上げなされ」

「ああ、止めるな、止めてくれるな、黒爺っ……」

「それにまた、武之進様は、このような責めは、まだ経験がございませぬでしょう」

 

 何を? と武之進が問う前に、老虎獣人のざらついた舌先がぽっちりと膨らんでいる武之進の右乳首を舐め上げた。

 

「ああああああーーーーー、なんだこれはっ? なんだっ、身体がっ、身体が勝手にっ、びくびくと震えてしまうっ!」

「お父上と似て、乳首も感じられるようでございますな。指でのそれは済ませましたが、舌でのねぶりは初めてでございましょう。

 では、腰の動きを止め、乳首のみをねぶってみましょうか」

 

 父である源三郎との記憶を呟けば、さらに武之進の全身のひくつきが大きくなる。

 

「ああっ、そんなのダメだっ、黒爺っ! 父君もっ、やられていたのかっ! 黒爺にそんなことやられたらっ、私はっ、私はっ、おかしくっ、おかしくなってしまうっ!!」

「もはや憂うべきことはござりませぬ。我が手の中で、狂い果てていただきとうございます」

「ひああああっ、あっ、あっ、あがっ……。胸がっ、胸がこんなに感じるとはっ……」

「お父上も我が責めに幾度もよがり狂っておいででございました。そのような痴態を我が前でのみ晒していただけること、影の者としてこれほどの喜びはございませんでしたぞ……」

 

 父親源三郎との交わりについて、畳みかけるように囁く黒虎。

 

「ちっ、父上もっ、爺にやられてっ、爺に責められてっ、このような喜びを味わっておられたのか……。たまらぬっ、黒爺っ! 我はもう、たまらぬぞっ!!」

「私も、武之進殿の穴の心地よきことっ、たまらぬことでございますっ!」

 

 黒虎の言葉通り、後顧の憂いの無くなった二人が、岩穴の天井に響く悦楽の声を上げ続ける。

 

「イかせてくれっ、爺っ、お前の逸物、乳首、口吸い、なにもかもが我に悦楽のみを与えているのだ。

 このまま、このまま、イきたい……。我が汁をっ、雄の精髄をっ、お前に抱かれながら、出したいのだっ……」

 

「さすがにもう我慢がなりませぬか、武之進様。それでは私とともに、男としての快楽の境地を極めましょう。

 もうお止めはいたしませぬ。

 存分に感じ、存分にその汁を噴き上げなされっ!!」

 

 黒虎の宣言とともに、その腰が再び大きく動きだす。

 

 武之進のまだ成長途中の逸物が、幾分か白いものの混じる黒虎の腹の毛で擦られ、その先端が刺激される。

 これはもう人と比べてもかなりの成長を見せ始めているふぐりが、黒虎の根元でぐりぐりとつぶされんばかりに転がされていく。

 

 乳首をねじり潰そうとするかのような黒虎の指先に、仰け反るようにしてその快感を伝える武之進の肉体に、びくびくと痙攣のような動きが混じり始める。

 まだ幼さの残るその顔に、黒虎の頭が近付き、その唇に己の舌を絡ませていく。

 

「おおおおっ、黒爺っ、当たっているぞっ! おぬしの太き魔羅がっ、私の奥にっ、当たるぞっ!!」

「私ももう、堪えきれませぬっ! 武之進様にっ、私の汁をっ、汁をっ、たっぷりと入れとうございますっ!」

 

 二人の限界が近付いてきていた。

 扱かれもせぬ武之進の逸物は、その先端から先汁を撒き散らし、黒虎の巨大な逸物が、武之進の奥深くで鈴口をカッと開こうとしている。

 

「ああああっ、イくぞっ、黒爺っ!

 私はっ、私はおぬしの魔羅を受けっ、イくぞっ!!

 イくっ、イくっ、イくっーーーーーーーーーーーー!!!」

 

「おおっ、締まりますぞっ!!

 武之進様の尻穴がっ、締まるっ、締まるっ!

 おおっ、我もまたっ、武之進様の中にっ、出るっ、出るっ、ああああっ、出るーーーーっ!!!!」

 

 老虎獣人と若き犬獣人は互いの身体を強く引き寄せ、その肉体は一部の隙も無いほどに密着する。

 がくがくとした吐精の瞬間の互いの痙攣を我が物としたその悦楽は、二人の間を巡り合い、その快楽を何十倍にも増幅した。

 

「ああっ、ああっ、黒爺っ、黒爺っ……」

「武之進様……」

 

 ひしと抱き合った二人が、互いの口を再び吸い合っていた。

 明日の生を確信したものたちの歓喜が、確かにそこにはあった。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

「熊谷様の城下が見えて参りましたな」

「このような賑わいは、私は初めてだ。黒爺は来たことがあったのか?」

「源三郎様と源之進様と、両家の結びの際に訪うたことがございましたな」

「ああ、そうだったな……。父と兄上亡き中、再び熊谷殿は私との『契り』を為してくださるだろうか……」

「戌亥家が包囲された折、熊谷様が駆けつけられぬ御自身を涙して悔いておられたとは聞いております。おそらくは武之進様との『契り』もまた、心よく引き受けてくださりましょう」

 

 盟友家となるための『契り』は数年前に、戌亥源三郎と源之進、また熊谷家総領である熊谷勇剛(くまがやゆうごう)とその息子、熊谷勇一郎(くまがやゆういちろう)との間で結ばれていた。

 源三郎と甲子丸の壮絶なる最期の様子は、おそらくは既に熊谷家にも伝わっていると黒虎は確信していたが、それゆえに当時は元服も済ませていなかった武之進に関しては、新たな『契り』を必要としていると判断しているのだ。

 

「黒爺……。その『契り』とは、どのようなことを致すのかは、私も兄上から聞いたことがある。熊谷様は黒爺よりも、いや、山の熊よりもさらに大きく逞しいお方とのこと。私に『それ』が、務まるであろうか」

 

 この時代、家同士の友好関係を構築するには互いの心身をともに味わった後にこそと、両当主及び嫡男による、肉体的な交情を行うことが常となっていた。

 戌亥家と熊谷家においても、当主と嫡男の4名による肉体を交えたその『契り』は三日にわたって行われ、同時に長男であった源之進の後見に熊谷勇剛を当てる儀式でもあった。

 その寝室は熊谷家と戌亥家、両家に仕える庭の者達の密かな監視の中、親同士、親仔同士、仔同士、二人、三人、四人でと、ありとあらゆる交わりが幾度も繰り返され、噴き上げられた大量の精汁は、屋敷を季節外れの栗の花の匂いで満たしたのである。

 

「確かに熊谷様、またご子息勇一郎様の逸物は、この黒虎のものですら太刀打ちできぬほどの太さ大きさを誇っておられます。ただ、源三郎様、源之進様のときとて、それは同じこと。

 熊谷様もまた、他のものとの交情にどのような配慮が必要かは十二分にわきまえておられる方だと、私は両家の『契り』を拝見しながら、感じておりました」

「それはまた、天井裏からなのか?」

「はい、武之進様。おそらくは熊谷様とそのご子息の、武之進様との『契り』もまた、同じように拝見させていただくこととなりましょう」

 

 わずかに唇を歪ませた黒虎の表情を、ちらと見やる武之進である。

 

「……、おぬしに見られているかと思うと、それもまた、たまらぬことであろうな」

「お父上と私との交情を覗き見ていたあなた様のことを知った源三郎様も、また同じ心持ちでおられたのだと思いますぞ」

「ははは。せいぜい熊谷様との『契り』が上手くいくよう、天井裏から見張っていてくれ、黒爺」

「あい分かりました、武之進様。我ら忍びの者は、常に『どこにでもいて、どこにもおらぬ』身でございます」

 

 熊谷家の大門の前、若武者と一人の忍びの者が、その菅笠を脱いだ。

 昨夜来の雨が上がった青空を見つめるその瞳には、すでに復興への意気込みが溢れていた。

 

 

 

 7年の後、我が領地を再びと決起した戌亥家当主、武之進の下には、後に黒虎とともに武之進の二人後見となった熊谷勇一郎の逞しき偉丈夫姿、熊谷家の武士達の姿とともに、黒と赤、黄の忍びの姿もあったという。