金精様の秋祭り

その2

 

 良さんは足場に乗せた山車の山飾りをはずさせ、大きく焚かれた火にくべる。飾りをはずされた台座の前方は、男揺すりにかけられた男達の汗と汁が染み込んでいるのか、幾分か黒ずんでなめしたような油艶をはなっていた。
 焚火の熱気で夕方の寒気も吹き飛び、男達の生暖かな体臭が辺りに広がっている。当家の良さんは祠から取り出した金精様を祓い清めると台座の木ねじにしっかりと止め付けるのだった。

 

 御輿の台座から突き出すように取り付けられた金精様は、五寸には足りないほどのものとはいえ、幹には血管が取り巻き、張り出したエラは1センチ近くもある実にリアルなものだった。
 直径は4センチほどであろうか、長さの割には太めでずっしりとした形が御神体としての存在感を示している。男達の話によればこの村の男達にとっては適度な太さがある方が鍛えた尻穴になじみよく、怪我をする可能性も低いようだとのことだった。
 3年に一度作り替えられる御神体は、来年の取り替えを前に男達の汗あぶらを吸い取り、ねっとりとした光沢をはなっていた。

 

 儀式そのものは三つの段階に分けられ、男達の最初の汁を絞り出す「ミガキ」、御輿の上での「男揺すり」で祭りそのものは終わりを迎える。最後に直来(なおらい)となり全員の厄落としでもある「白入れ」となっていた。
 ミガキについては俺は「身掻き」のことだろうと思っていたが、良さんから聞けば、戦時中の軍隊での「砲身磨き」から来ているのだろうとにべもない答えだ。
 案外、神事の由来などそんなものであるのかもしれなかったが。

 

 すべての準備が終ると良さんの合図によって、儀式の始まりとなる。いよいよ秋祭りの夜の始まりであった。

 


ミガキ

 

 男達は白沢さんの前の空き地いっぱいにひかれた猫掻きの上に一斉に座り、童男の信治さんだけが山車の前に仁王立ちになっていた。

 

 信治さんは取り付けられた金精様に一例をすると、車座になった皆の見守る中で腰に手を回し、ゆっくりと六尺の立褌をほどく。支えるもののなくなった褌が信治さんの膨らみを残したまま足元にするりと落ちる。初秋の夕暮れに信治さんの昂りが大きな影をくっきりと落としていた。

 

 今年で40になる信治さんの肉体は、がっしりした骨格に成熟した男の脂が乗った、典型的な固太りの体型だ。
 俺と同じように全身を覆った熊のような剛毛が、赤銅色に日焼けした太い首と腕にあいまって、匂うような男臭さを発している。
 六尺に包みこまれ、祭りの間中、前後の担ぎ手の尻で嬲られていた肉棒は松の根のような血管を浮かび上がらせ、見守る俺達に挑みかかるように見事に勃ちあがっていた。子供の握り拳ほどもある亀頭は鈴口の割れ目がぱっくりと筋を刻み、いくら流したか分からない先走りでぐっしょりと濡れそぼっている。

 

 童男の勃起を確かめでもしたように、まずは来年が還暦になるという三人の男達が信治さんの前に進み出た。信治さんは男達の前に膝をつき、目の前にある三人の昂りをいやらしくなであげる。
 60前の男達とはいえ農作業で鍛えた肉体は少しも衰えを見せず、みながみな六尺の前布に見事にそそり勃つ逸物の姿を露わにしていた。三人の男達は待ち切れないように褌を解くと、信治さんの顔の前に全裸で立ちはだかり、各々の使い込まれた肉棒を咥えろと言わんばかりに腰を突き出したのだ。

 

 いくら金精様がそこまでの長さ太さは無いとはいっても、所詮は木で出来た張型である。山車が大きく揺れるときに、勢い余って直腸を傷付けないともかぎらない。そのような事態を避けるために、金精様と信治さんのケツ穴のすべりをよくする潤滑油が必要となるのだ。

 

 本来の目的ならば油でも使えばいいのだろうが、さすがにこの村ではここでも男の精汁が使われるのだった。
 男揺らしの前に参加した男達全員の雄汁を朱杯に向けて洩らす儀式が行なわれる。この男達からの精汁の採取、これこそが「ミガキ」と呼ばれる儀式だったのだ。
 年長の男達から始められるのは重陽の礼儀なのであろうが、最低でも2度の射精をしなければならない儀式において、年齢に依る回復の度合いを考えてのものなのだろう。

 

 もちろんこの村におけるその手の行為がただのせんずりで終るはずもなく、童男役の信治さんが男達の肉棒をしゃぶりあげ、口だけで全員の吐精を導かなければならないのだと言う。
 信治さんに取っては己の尻穴を濡らす汁を、自分自身の口で絞り出さねばならないのだ。都合四十人もの男達の勃起をしゃぶりあげることになるのだが、この村に育った信治さんにとっては、この行為そのものが自らの興奮を一層高めることにもなるのだろう。
 禁欲からの一ヶ月ぶりの尺八は、咥える信治さんにとっても、それだけでイきそうになるほどの刺激として働くに違いない。そして、その刺激が強烈であればあるだけ、手も触れずにイかねばならない男揺すりの儀式を勤め上げることが容易になるのだと思われた。

 

 男達は信治さんの負担をなるべく軽くしようと、自らの手でおのが逸物を扱きあげようとする。信治さんはそれを待つのさえもがじれったい様子で、最初の男の肉棒を咥えこんだのだった。

 

「イくけん、イくっ」
 男の絶頂はアッという間だった。

 

 がくがくと震える尻肉のけいれんがおさまらないうちに、次の男が膨らみきった勃起をすぐさま差し出す。
 何十人もの男達をしゃぶりあげなければならない童男の唾液の枯渇を防ぐため、喉奥に吐き出された雄汁は信治さんが耐えきれなくなるまで口中に残し、尺八の潤滑油として利用されるのだ。

 

 続いての男も、射精寸前まで扱きあげた肉棒を信治さんの口に突っ込んでいった。
 唾液と前の男の雄汁が亀頭と幹にからみつき、途方もない快感が襲うのだろう。信治さんの短く刈りあげた頭を抱え込み、たくましい背中を震わせながら男のほとばしりを放出するのだった。
 
 男揺すりの儀式では参加した男達は最低2回は射精しなければならない。この村での苦楽を共にしてきた男達は、まずは信治さんの一ヶ月の禁欲という、男としての耐えられないほどの苦痛と肉欲の悶えを楽にしてやろうと、快感を抑制することなく絶頂を迎えるのだ。

 

 三人目が済むと差し出された大ぶりの朱盃へと、信治さんの口から男達の雄汁がだらだらと流れ落ちる。あたりに漂いだした栗の花を思わせる猥雑な匂いに、男達の欲情はさらなる高まりを覚える。
 年齢の上の者から順に次々と信治さんの唇を犯していく。最後の7人は、青年団の連中であり、慣れ親しんだ肉棒を一心不乱にしゃぶり続ける信治さんの横顔が陶酔したように紅潮していくさまは、実に見事なものだった。

 

 いよいよミガキの最後となる、青年団でも一番年の若い俺の順番が回ってきた。

 

 俺は意を決し、六尺の結び目に手をかけた。信治さんの目をまっすぐに見据えながら前へと進む。信治さんは俺の目を見てしっかりと頷くと、御神体にも負けないほどの堅さに勃ち上がった肉棒を唇に当て、ぐっと呑み込むのだった。
 
「あっ、いい、いいよっ」
 年も近い信治さんは、俺のこの村での一年足らずの暮らしのウチに、快感のツボをしっかりと心得ていた。
 休むことなく蠢く舌は尿道に沿って肉棒を舐めあげ、軽く立てた歯でエラを引っかかるかどうかぎりぎりのラインで刺激する。その一舐め一舐めが俺の官能を揺さぶり、声を上げさせてしまう。いつもであればお互い楽しみに楽しみ抜いたあげく、最後の瞬間に提供されるようなテクニックが駆使される。

 

 ところが、信治さんが与えてくるこれほどの快感に亀頭の先端から先走りをだらだらと垂らしながらも、俺の射精中枢には発射直前のあの寞とした快感が忍び寄ってこないのだ。

 

 毎月の晦日に若集宿で繰り広げられる宴で慣れ親しんでいるとはいえ、年上の信治さんに奉仕させながら40人もの男達の目の前での射精は、この村に来て一年足らずの俺にはプレッシャーだったのだろう。あっという間に果ててしまうと思っていた割には、時間がかかってしまう。
 信治さんに体力を使わせてはいけない、そう思えば思うほど、焦りが欲望の放出を押しとどめてしまう。時間にしては3分ほどのことなのであろうが、他の男達の性力溢れる放出に比べれば、俺が難儀しているのは明らかだった。

 

 信治さんにも俺の苦悩が伝わったのだろう、手では直接肉棒を触れてはいけないことになっているためか、尻に回された指が俺の尻穴をぬるぬるとくじり始めた。

 

 この村に来て開発された俺の尻穴は、指の腹だけで加えられる切ない刺激に敏感に反応し、ひくひくと収縮を繰り返す。その度に声を上げるほどの快感が尻穴から蟻の戸渡りを通って肉棒へと駆け上がっていく。
 この新たな刺激には、さしもの俺も溜まらず、絶頂へと一気に昂まって行った。

 

「信治さんっ、ヨカっ、ヨカけんっ」
 これで最期と分かったのか、俺の肉棒を信治さんの舌が絶妙のテクニックでねぶりあげる。溢れる先走りを亀頭全体に塗り広げ、鈴口に舌先を差し込まれる。30人近い男達の昂りをしゃぶりあげても枯れない唾液が、だらだらと涎となって信治さんの口の端からこぼれ落ちる。
 信治さんの肉厚の手が俺の尻肉をがっしりと掴み、本格的な尺八を始めた。そのぬるぬるとした感触と喉と舌を使った扱きに、3分も保たずに絶頂がやってきたのだった。