月待ちの講 如月

その2

 

「保典さんはあぎゃん飲みよらすばってん、よかっですかね?」

 先月と違って普通の飲み方になってしまった感じの酒席で、信治さんに尋ねてみた。

「なーん、あん人はあぎゃんなってからが長かったい。照れ隠しもあってあぎゃん飲みよらすとだろばってん、いやらしかこつもたいがな好いとらすけんな。ちゃんとよかこつもさすけん、心配せんちゃよかばいた」

「いや、心配はしとらんとですが……」

 

 俺の質問は信治さんには「楽しみにしてたスケベなことをこのまま本当にやるのか不安になってきた」とでも受け取られたのだろう。

 大声で笑う信治さんに何事かと回りも耳を寄せ、「浩平はおとなしかごてしとるばってん、みなでいやらしかこつばすっとば早よから待っとらすてたい」とおもしろおかしく吹聴されるのにはまいってしまう。

 まあ、OBの連中にはそれくらいに思われていた方が団員の若手一番としてみるといいのかもしれないとも思えたのだが。

 

 保典さんや茂さんに酒を注ぎにいけば、よろしく頼むとの握手とハグとともに背中をばんばん叩かれる。

 働き盛りでもある男達にとって新しく村の成員となりつつある俺は、居住定着事業の成功例になってほしい対象であるとともに、貴重な労働力としても、みなで育てていこうという思いもあるのだろう。

 二人からは「よく来てくれた」「田舎で色々面倒なことがあるとは思うけども、みんなでなんとかやりくりしていくので協力してほしい」などという話しを何度も聞かされることになった。

 

 義久さんは実の弟だという朋久さんと仲よさそうに話している。

 昭則さん道則さんと同じく、この夜に二組の兄弟が互いのチンポをしゃぶりあい、扱き合い、果てはその噴き上げた汁さえも口にするのだ。そんな思いに、俺は自分の股間が張り詰めていくのを感じていた。

 

 先月より少しばかり食事宴会の時間は長かったと思うが、それでも飲み食いは2時間ほどのものだったろう。全体でも、そろそろ、という雰囲気になってきた。

 昭則さんの合図で長机をどかし、俺と信治さんで先月と同じように布団を用意し、広間の西側に敷き詰める。

 酒やつまみ、軽食は部屋の端に移動した机の上に残しておいたが、おそらく遅くまで飲みながら楽しむ算段のように思えた。

 

「みんなして腹もくちたごたっし、酒もようよう回ってきたろたい。そろそろアキミチのいつもの踊りば見たかばってんな」

 保典さんが大声で昭則さん、道則さんに声をかけた。

 男達はストーブの効いた室内の気温と焼酎のお湯割りも手伝ってか、宴席の間に全員が褌一丁の姿になっていた。

 この村の男達は様々な行事神事で身に着けることになる褌を普段遣いにしているものも多い。

 大柄な昭則さん道則さん兄弟とOBの保典さんは越中褌、それ以外の参加者は俺も含めて六尺姿だ。

 

 入村からこちら青年団の連中からは、便利だから締めてみろ、祭りのときには締めるので慣れておけと、何本もの褌を貰うことになった。

 農作業中汗をかいてもズボンを脱がずに新しい褌を締め直すことの出来る六尺褌の便利さに気付かされ、俺もいつのまにか家では越中褌、仕事や青年団の集まりでは六尺褌と、二種の褌を締め分けるようになっていた。

 

 保典さんの声かけに参加者がみな、大柄な兄弟を囃し立てる。

「よかぞよかぞ、久しぶりに見しちくれ」

 義久さんも楽しそうに野次を飛ばしていた。

 

 隣の信治さんに保典さんの言う「踊り」とは何ですか、と尋ねても「見とっと分かったい」と笑いながらも答えは教えてくれない。

 雰囲気的には裸踊りや宴会芸のようなものの披露かな、という感じなのだが、この村での男同士の裸の付き合いに自分が慣れすぎてしまったのか「裸踊りといっても、普通のところの民謡踊りぐらいの感じかなあ」などと思ってしまうのだ。

 

 敷き詰めた布団の上に皆が腰を下ろしている前に、昭則さんと道則さん兄弟が越中褌の前を盛り上げたまま立ち並んだ。

 青年団内で一位二位、いや、村内でも一番二番の体格を誇る2人が、そのずっしりと重たい肉体を布きれ一枚身に着けただけで晒している。その様は男の肉体に情欲の発露を見いだした俺の目にとっても、実に魅力的に映ってしまう。

 

 兄である昭則さんの方がわずかに背は低いが、体重にいたってはどっこいどっこいだろう。道則さんの話しでは冬場に入ると肥えてしまうらしく、夏場よりも10キロ近く重くなったとのことだった。

 兄弟で体質も似るのか、昭則さんにしても俺が入村した昨秋から比べると一回りは厚みが増したように見え、180センチ前後の身長に120キロ近い体重の2人であれば、その立ち並ぶ姿はまるで寺の門前の仁王像のような迫力に満ちていた。

 

 2人とも飲んでる間に周りから相当いじられていたのだろう、張り出た腹をも越えるような股間の昂ぶりが越中の前垂れを突き上げている。

 弟の道則さんは青年団の内でも図抜けた巨根の持ち主であり、20センチを優に越える長さはもとより、片手では指が回らないほどのその太さは、いざ口でこぶろうにも持て余すほどだった。

 一方、兄である昭則さんの逸物は俺が見たことがある逸物の中でも平均は上回っているとは思うのだが、兄弟ということで比べられてしまう道則さんのものや、その巨体との相対的な大きさも相まって、実際の大きさよりは過小評価されてしまっているようだ。

 周囲は否定するのだが、昭則さん本人もどこか道則さんの並外れた逸物の大きさにコンプレックスを感じているのか、しきりに「俺(お)っのはこまかけん」と言うのが口癖になっていた。

 

「よおっ、待ってました!」

「御両人!!」

 俺以外のものに取っては見慣れた芸が始まるのか、皆が一斉に手を叩き、野次を上げる。

 2人が揃って、ずいと前に出る。

 周りの男達も思い思いの楽な姿勢を取っている。

 ここだけ見れば、ごく普通の飲み方の余興のようだった。

 

「昭則、道則の兄弟合わせ、春歌、行きます!」

 

 道則さんが大声で呼ばわり、2人ともに締めていた越中褌をはらりと取り去る。プロレスラーか相撲取りかを思わせる図体が2人並んだ様は迫力ものだ。巨体豊かな素っ裸は圧倒的な肉量を伝え、股間はすでに臨戦態勢だ。

 それまで褌の前布を突き上げていた逸物は遮るものの無くなった自由を謳歌するように、ビクビクとその先端を揺らす。団内一の巨根を誇る道則さんの逸物と、硬度だけでは負けまいとばかりに勃ち上がった昭則さんのそれは、思わず手と口を差し伸べたくなってしまうほどに、いやらしく蠢いていた。

 2人がそれぞれに、これまた厚い手のひらで己の肉棹をみっしりと握りしめると、鰓の張った亀頭は赤黒く腫れ上がり、先端にはぷくりと露が浮かんだ。

 

「みなさん、手拍子お願いします。それでは、春歌ナポリ民謡、お聞きください!」

 

 演し物は俺が学生時代にも寮やサークルで歌わされた春歌だった。当時も宴席での猥談の果てにやらされていた覚えがある。

 宿中に聞こえるような2人の胴間声に一斉に拍手が起こり、皆の手拍子も始まった。

 

「あーさーもビンビン、ひーるーもビンビン、

 よーるーもービンビン、いーつーもービンビン

 あーさーもビンビン、ひーるーもビンビン、

 よーるーもービンビン、いーつーもービンビン」

 

 大声で歌いながら堂々と皆の間を練り歩く2人に、あちこちから手が伸びる。

 大きな西瓜ほどもありそうな尻肉を揉み上げ、まだゆったりと垂れ下がるふぐりを揉み上げる。

 隙あらば嬲ろうとする何本もの手を受け流しながら、歌も動作も動揺することなく2人きっちり揃っているのは見事なものだ。

 

「しーごーけー友よー、おーれーはーイくぞー

 サンタールーチーアー、サンタールチーアー、

 しーごーけー友よ-、いっしょ(一緒)ーにーイくぞ-、

 サンタールーチーアー、サンタールチーアー」

 

 前半の「ビンビン」では、その長大な太棹をぐいぐいと上下に跳ね上げ、後半の部分では一拍子に付き2回のペースで迫力ある扱き上げを見せつける。

 節毎の跳ね上げも毎回左右に身体の向きを変えるのだが、その向きや肉棒の跳ね上げる角度さえ、あるいは後半の扱き上げのスピードと維持する砲身の向きも、2人の所作がきちんと揃っている。

 出し物としても時間をかけて練習してきたことが、見ているだけの俺にも伝わってきた。

 

 歌う2人も羞恥心などというものとは無縁のようで、堂々と、そして高らかに歌い、男達の前で2人揃って踊れることを心底楽しんでいるようだった。

 最初は罰ゲーム的なものかとも思っていたのだが、そんな自分の考えがなんと浅はかだったのかと、情けなく思えてしまう。

 それほど立派な一つの「芸」として成り立っているもののように見えたのだ。

 

 俺が学生時代に教わったものとはいくらか歌詞も違っていたが、春歌とはそんなものだろう。有名なイタリアの歌にどこかの誰かがそれっぽい歌詞を当てていったのだろうが、歌われるその場その場の勢いや、歌う者の気分で変わっていくというのもまたおもしろいものだ。

 学生時代には股間に当てたビール瓶や一升瓶を「ビンビン」のところで大きく上下に揺らし、「イくぞ」のところで腰を前後に突き出して踊っていたと記憶している。

 その卑猥な動作を、素っ裸になって自分のおっ勃った肉棒を振り回しながら、本当に扱いてしまうところが、実にこの村のものならではと思える演し物だった。

 

「しばらく見とらんだったばってん、道則んとはまこて太かなあ」

「2人して、なんもかんも揃えておって、よお練習しとるとばいなあ」

「あれだけ肥えたっちゃ、身体の太さにチンポの見劣りせんていうとがすごかばい」

「昭則んともいさぎ硬かごてして、先走りん汁もたいがな出てきとっていやらしかな」

 

 評する男達の感想にも揶揄や侮蔑の意は感じられず、単純に2人の肉体の有り様とその修練の成果を自分の興奮の物差しにして楽しんでいるだけのようだった。

 道則さんの巨根も昭則さんの硬度も、現役の青年団員同士であれば月に一度は目にし、あるいは手にし口にする逸物だが、年に数度の祭りなどでしか目にしなくなるOBに取っては、久しぶりに目にすればやはり驚愕してしまうもののようだ。

 

 歌詞としては一番だけではあったが、結局それを4回繰り返し、最後は参加者みんなで歌い上げて出し物は終わった。

 熱演した2人には拍手とばちばちと尻肉を叩く荒っぽい祝福が浴びせられ、喉も渇いたろうとコップには何度も冷たいビールが注がれていた。

 

 ひとしきり場も賑わった後、いよいよ月待ち講の本番になるらしい。

 大口開けての笑いで目尻に少し涙すら滲ませている保典さんが、皆を促すように前に立つ。

 

「昭則も道則もお疲れさんでしたな。久しぶりに見させちもろて、たいがな笑わせてもろたばい。

 盛り上がったところで、今日は一晩中、せんずり大会にすって思とっとたい。

 最初はアキミチと義久さんとこの兄弟せんずり対決で、早よイかせた側が勝ちてすっとでよかろかいな」

 

 全員で一斉にやるのかと思っていたらそうでもないらしい。

 今夜の初せんずりは、二組の兄弟同士が行う勝負として始めるというのだ。

 保典さんも実の兄弟が目の前でやる色事に興奮するタイプなのではなかろうか、と俺が感じたのも、そう外れてはいないだろう。

 信治さんから兄弟としての存在を知らされてたときから俺自身もぼんやり期待していたシチュエーションでもあり、とにかく大きな拍手を送った。

 

 こういうことに慣れているのか、同じくOBの茂さんからルールの説明がある。

 

 ①兄弟でじゃんけんをし、勝った方が負けた方の逸物をどんな方法でもいいので射精させる。

 ②対決の勝敗は、アキミチ兄弟か義久朋久兄弟か、どちらかの代表が早くイった側の勝ち

 ③周りはどちらの兄弟が早くイくか事前に投票し、勝った人は負けた人のを後のせんずり大会でイかせる

 ④イかせる際には手と口を駆使し、ケツは使わぬこと

 ⑤最初の兄弟対決ではローションの使用は禁止、その後の観客側の射精では使用可

 

 これが男同士の性的な接触の無い集団であれば、勝ち負けの基準が逆になるのでは、などとも思えておもしろい。

 この村では相手の肉棒をいじることが出来、イかせることが出来るのは、勝った側の役得なのだ。他人の太棹を握り、扱き、しゃぶり上げることを楽しみとする、この村の男達の間ならではのことなのだろう。

 俺と良さん、篤志さん保典さんが義久さん兄弟の、茂さんと信治さんが昭則さん兄弟の勝ちに賭けている。

 

 義久さん朋久さんのじゃんけんでは義久さんがグーで勝ち、弟である朋久さんがイかされる方に。昭則さん道則さん兄弟では、兄の昭則さんがイかされる方にと決まった。

 義久さんとは今日が初めて裸の付き合いになるので分からなかったが、昭則さん道則さん兄弟については白沢さんの祭りや先月の月待ちのときの2人を見ていると、普段の色事では昭則さんの方に被虐側で興奮するようなかすかな気配も感じていた。

 義久さん朋久さんの絡みが初見になる俺にとって、二組とも見所のある勝負になりそうだ。

 

 立ったままイくのがいいか横になってのがいいかとの話しでは、朋久さんも道則さんも横たわってイかせてほしいとの希望だった。

 朋久さんからは立ったままイくのもいいが、膝ががたついてちょっと快感が失せる、などという話しも出て、それならと二組とも布団に横になってのせんずり競争となる。

 厳密に言えば自分で扱く「せんずり」とは意味も違ってしまっていたが、基本は手で扱いて射精する、あるいはさせられることを指しているのだろう。

 周りも見れば兄弟対決を目の前に自分のも一度抜いておこうというのか、皆褌を解きはじめている。

 俺も慌てて六尺を解き、畳んで部屋の隅に置いておく。

 どこか異常とも言える室内の雰囲気に、先ほどから立ちっぱなしの俺の股間も前袋に沁みるほどの先走りをとろとろと垂れ流していた。

 

「そろそろはじむるばってん、4人とも準備はよかごたるな。アキと朋久は勝負だけんそんまま出してよかばってん、後(あと)ん者(もん)は見とってせんずりすっとはよかばってん、こっから先はイくときは杯に出すごてしてはいよ。後で皆で回し飲みしょうごたっけん、よろしゅう頼むな」

 いつの間にか、七日籠もりのときに俺の精汁を集めるのに使った大きな朱杯が用意してあった。

 俺自身はいったん出された精液を、射精後に時間をおいて飲むのにはまだ少しばかり抵抗があったが、これが相手が自分の口の中でイッてくれたときや、出した直後のまだ体温を保っている汁を相手の腹などからすすることなどはなんら躊躇無く出来るのが不思議なものだ。

 この二ヶ月ばかりの経験ではあるが、この村の男達に取っては、己のものも他人のものも、気持ちよく出した精液を口にするということは、どのような形にしろ喜ばしいことなのだろう。

 俺もそんな境地に立ってみたい、という、どこか皆をライバル視するような心持ちになってしまっていたのだ。

 

 横になる、という縛りがあるだけなので、イかせる側がどのような体勢を取るのも自由らしい。

 昭則さんの開いた両足の間には道則さんが自分の膝を差し入れ、兄の重たい腰を持ち上げるような体勢を取っている。先月の月待ちで俺が取らされた姿勢でもあるが、あの腰を浮かせた体勢でイかされると快感が何倍にも増幅するように思えるのだ。

 朋久さんの方はと見れば年長の義久さんが右側に横たわり、手での扱き上げと乳首を中心に責めるようだ。その体勢からしてみれば、兄弟での濃厚なキスが見られるのではと、俺は内心かなりの期待と興奮をしていた。

 

「そっじゃ、はじむっけんな。用意……、スタートっ!」

 保典さんがスターターになり、いよいよ二組の兄弟によるイかせ合戦が始まった。