月待ちの講 睦月

その2

 

「一応の決まり事にしとくばってん、浩平さんとは一番上の良さんから順番に、一人頭だいたい一時間ぐらいで自分のよかしこイってもらうとよかけんな。

 しゃぶったりしごいたりゆっくり楽しんでもらってよかばってん、今日はなるべくケツは使わんごてした方が、順繰り順繰り楽しみやすかかて思うとるけん。

 もちろん興の入ってしてしまうとはよかばってん、そん時は終わったらシャワーで洗うてから、またみんなとしてはいよな」

 白沢さんの逆バージョンとしては、やはり口と手をメインに皆の精を抜きあげるということなのだろう。

 もちろん若衆宿の神棚の奥にある男根を模した御神体で若い時分から尻を馴染ませている男達が、後ろを使ったやり口に抵抗が無いのは当たり前なのだろうが。

 

「順番は、最初が良三さん、次がおる、そん次が朋久さん。篤志と道則はどっちが先でんよかかな。最後が信治にてなるけん。

 浩平さんは自分でよかなら何回でんイってもろうてよかばってん、最後まで体力は持つごてしてはいよな。

 一番最後には、お疲れ様てこっで、みんなでまた気持ちようイかしてやろうて思うとるけん、そっも楽しみにがまださなんばい」

 正直に言えば、信治さんと良さんとは祭りの後に家に来てもらったときなどに、数回の手合わせはしてきてるのだが、他の連中とは祭り以来のご無沙汰だった。

 

 籠もりの期間中に他の団員同士の絡みはさんざん目にしたが、自分から積極的に手や口を伸ばすのは初めてになる。

 最初が勝手知ったる良さんで締めが信治さんと言うのは、どこかお膳立てとしても完璧だなと、妙な感動すら覚えていたのだ。

 

 一人目の良さんとの絡みは皆の興奮を誘う意味もあるのだろう。

 車座になった男達の中央に俺と良三さんの2人が肌を寄せ合う。

 褌姿の男達の中でただ一人全裸で過ごし、常に勃起と射精を繰り返していたあの七日籠もりを一度経験してしまえば、衆目の中での色事は快感を増しこそすれ、恥ずかしさに萎縮するなどということは無くなってしまっているのだ。

 

「良さんはどぎゃんしてイこごたっですか?」

「浩平はおっとどぎゃんこつばしたかつな。おっの方は浩平としとるて思うだけで気持ちんよかけん、どぎゃんしたっちゃよかつばいた」

 良さんの相変わらずのゆったりとした何事も強制しない喋り口は、かえってこちらに大胆な提案をさせてしまう。

 

「なら最初はお互いにしゃぶりあって一緒にイきませんか?

 その後も良さんのよかなら、俺の手と口をじっくり味わってもらってもう一度ぐらいはイってほしかです」

「ほう、よかよか、そっでいこたい。他のモンの興奮すっごて、いやらしゅう絡まんといかんけんな」

 それが年の功なのか、他の団員の乱交のきっかけにするという気の遣いようもまた、良さんの良さんらしいところだ。

 

 まずは膝立ちのまま正面に相対し、互いの頭を引き寄せれば唇を近づける。思わず閉じそうになる目蓋を懸命に押し止め、信治さんとの交情で味わった「互いの目を見つめながらの口接」をやってみた。

 良さんもやはり信治さんの言うように、目を開けたままの刺激が好きなのだろう、近づいた瞳に俺の顔が映っているのが嬉しい。

 

「良さんや信治からも、だいぶ教わったごたるな」

「目ば開けて色々すっとのよかとば、浩平も分かってきたごたるなあ」

 周りから聞こえる声も、俺との交情を楽しみにしてくれている期待の表れに思える。

 

 互いの舌を絡め合い、片方が唇全体を舐め上げれば、もう片方は唾液を乗せた舌先で相手の歯の裏側まで刺激する。

 良さんが口の中に溜めた唾液をジュルジュルと送り込んでくれば、俺が自分のそれと混ぜ合わせ、再び良さんの口中へと送り返す。

 何度も繰り返すそれは、おそらくもう先走りで濡れ始めている肉棒の先端から噴き上げるはずの白濁した液体でも同じことをやろうという予告なのだろうか。

 この後に待ち構えるその行為への予感だけで、俺の逸物からとっぷりと透明な液体が漏れ出した。

 

「キスだけでん、いやらしかなあ」

「あぎゃん口吸いば出来(でく)るごてなったつは、信治の教えのよかっだろたい」

 どうやら俺と信治さんの直会が終わった夜のことやその後の交情のことも、皆には知られているようだ。

 おそらくはこの村の男達にとって自分達の間での「いやらしいこと」は、互いに何ら隠すことなど考えもつかないことなのだろう。

 俺はその思いに至ったことそのものが興奮を呼び、良さんに横になるよう促した。

 

 横たわった良さんの六尺の前布に包まれた股間が目の前にある。

 俺はそのゴリゴリとした感触を堪能したくて、布目に亀頭の張りすら浮き上がった逸物を取り出す前にぐっと顔を押し付けてしまう。

 睾丸の横と裏側、太ももの付け根から漂う雄の匂いが一層の興奮を誘う。

 雄にしか出せないこの匂いは、たとえ石鹸のそれと混じり合ってはいても、あの祭りを経験し男の肉体に欲望を覚えることを知ってしまった俺にとっては最高の興奮剤だ。

 

「ああ、良さんの金玉の匂いに、すげえ感じる……。これだけでもイきそうになる……」

 布越しに俺の金玉を揉み上げる良さんからの刺激と相まって、責めているはずの俺の方が、先に声を上げてしまっていた。

 

「風呂は入ってきたとばってん、ごめんな」

 俺からすれば的外れな良さんのどこかのんびりした答えに、いや、そうじゃないとばかりに一層顔全体を肉棒と玉に擦り付ける。

 染み出した先汁を味わいながら、ついに良さんの逸物を引き出すよう前布に手をかけた。

 

 ぶるんと、音がするかのように弾き出たそれは、擂り粉木のような凸凹とした血管を這わせた幹が堅く勃ち上がり、張り出た鰓の段差は指の幅ほどもありそうだ。

 七日籠もりの間によく目にしていたとはいえ、壮年の男の最大限の勃起した逸物の造形は、改めてその生命力と肉欲の滾りを感じさせる。

 俺と違って体毛の薄い良さんの肉体は、尻や背中をまさぐる俺の手のひらに肌の下に潜むがっしりした骨格と筋肉、脂肪を伝えてくる。

 目の前にいななく太棹を舐め上げると、舌先に透明な汁が垂れる。

 こちらの顔すら映りそうなほどに艶めいた亀頭を口に含むと、舌の全面を使ってそのパンと張った膨らみをねぶり上げる。

 遅れじと思ったのか、良さんの農作業に荒れた手でいじられていた俺の肉棹も、ぬるりとした感触とともに、暖かな口中へと吸い込まれた。

 

「んむふぅ、んぐっ、んっ、んっ……」

 

 声にならない声が、互いの肉棒で塞がれた口からこぼれ出てしまう。

 とろとろとした先汁を漏らし続ける先端を舌先でくじる。

 深く咥え込むと、鈴口から棹へと繋がる筋に舌の裏側の襞を当て、ぬるぬると蠢かす。

 互いに相手の責めを受ければ同じことをやり返し、高まる快感は2人の肉体の間を何度も行き交う中で昂ぶっていく。

 

 最初は車座になっていた他の団員も、俺達の尺八勝負にたまらなくなってきたのだろう。ぐるりと取り囲んでいた輪が崩れると、互いの乳首をいじり、股間に手を伸ばし始めた。

 信治さんは昭則さんの巨体を押し倒すと股間に顔をうずめ、見るからに硬そうに勃ち上がった逸物を舐め回している。

 横たわった篤史さんの褌の前袋は内から染み出る先汁に濡れぼそり、両の乳首は道則さんと朋久さんの舌でねぶられていた。

 目の端に映る男達の姿は、これ以上はデカくなりようが無いほどに勃ち上がっていた俺と良さんのチンポがさらに一回り太さを増してしまう。

 真っ白な布団の上のそこかしこで繰り広げられるその様は、まさに男同士の狂宴と言えるものだった。

 

 亀頭を軟口蓋で押しつぶしながら舌の全面を使って裏筋をこねくり回す。

 吸い上げることで口中の圧を下げれば尿道の先走りがじゅるりと染み出してくる。

 金玉をゴリゴリと揉みながら、根元から鰓下まで小刻みに扱き上げる。

 ストーブからの熱気と汗ばむ男達の肉体から立ち上る雄臭に、俺も良さんもこらえきれなくなってきている。

 

「良さん、俺っ、もうたまらんです! イって、イって、よかですか?」

 良さんもいったん口を離し、答える。

「おっも、もうっ、もたんばいっ! しゃぶりながらしごいて、口ん中に出すけんっ!」

 

 良さんの言葉に再び互いの逸物を咥え直す。

 耳への刺激とばかりに唾液を溜めた口の中いっぱいにぐちょぐちょと亀頭を往復させながら、棹を扱く手のひらの上下運動のスピードを上げる。

 口の端から漏れ出る唾液と先走りが混ざった汁が潤滑油となり、さらなる快感を生むのは、俺も良さんも同じことだ。

 

「んっ、んんっ、むんんんっ!」

「ん、むんっ! んんんんーっ!」

 

 逃げようとする良さんの尻肉を抱き寄せた瞬間、良さんの先端から熱い雄の汁が噴き上がった。口の中に感じた一撃目の迸りは、俺の喉奥にかなりの勢いでぶつかってくる。

 えずくのは、漏らすのは、もったいないとゴクリと飲み込んだ瞬間、俺も少しだけ遅れてイってしまう。

「んんっ、イくっ、イくっ!!」

 イってる最中も止まらぬ良さんの舌と喉での刺激に、悲鳴を上げそうになった俺だった。

 

 白沢さんの祭りが終わった夜に信治さんとの交合でやった、精液を唾液と混ぜながら互いの口中への移し合い。

 あれをまた良さんとの相互尺八でもやりたかったのだが、この日初めての射精の勢いに押されてしまい、2人ともこぼすのももったいないと飲み込むしか対処出来なかったのだ。

 

 体勢を対面に戻した良さんの顔を引き寄せると、俺は貪るようにして唇を奪った。

 雄汁を飲み込んだ後に感じる甲殻類の殻を放置した後のような生臭い独特のその匂いが、この村の男達の肉の交わりに馴染んでしまった俺には強烈な媚薬として働いてしまう。

 良さんの唇に残っていた自分自身の精液のどこか苦味を感じる汁を舐めとりながら、目の端に映る青年団の連中の痴態を眺めている俺にとり、もうこの村の男達と何ら変わらぬ男同士の肉欲の発露こそが快感となってしまっていたのだ。

 

「よかなら2発ぐらいはて思とったばってん、おっとはもう祭りんときに散々しとるけん、他んもんとゆっくりしなっせ。後で時間のあったら、またすっとよかけんな」

 

 さすがに一晩中やり続けることを思ってか、良さんの発言は現実的なものだった。

 

 白沢さんの祭りであれほどの吐精を足掛け8日間も続けていたのは、あくまでも神事であるという特別な時間であったためだろう。厳寒の時期に早朝から当屋の良さんと権立である俺は素っ裸になって井戸の水で禊ぎをし、その心身すべてを神の前に供えるという自覚こそが、あれだけの試練をくぐり抜けるには必要だったのだ。

 

 白沢さんの祭りや秋の大祭が日常を大きく逸脱したハレの日の概念だとすれば、毎月行われるこの月待ちの講は、農作業に追われるケの日々の中でもほんの少しだけ互いの心と通わすことの出来る一夜なのだろう。

 決まった休みがあるわけでもなく、農務に追われる日々の中で、毎月晦日の一晩に込められた農民の思いというのもあるのだろうとは、新米農家の俺でもなんとなく分かる気がしているのだ。

 

 俺はもう一度、だらりと頭を下げてはいたが太さは勃起時とほぼ変わらぬままの良さんの肉棒を口に含み、鈴口から垂れる雄汁の名残を堪能した。

 

 一息落ち着いた良さんが、軽く流してくると宿の風呂場に向かう。

 周りを見渡せば、各々それぞれで楽しみながらもこちらの気配は伺っていたようだ。

 信治さんに青年団一の巨体のあちこちを弄られていた昭則さんがのっそりと起き上がり、俺のいる布団へと近寄ってきた。1人になった信治さんは手持ちぶさたのように煙草に手を伸ばしている。

 篤志さん、道則さん、朋久さんの3人は何度も入れ替わりながら、横になった1人を残りの2人が手と口と、さらには足膝まで使いながら責め立てていたようだ。

 そこでも俺と良さんの射精を一区切りと見たのか、みな胡座となっての談笑となる。良さんが風呂から上がってくれば、また組み直しての交情が始まるのだろう。

 

「次はおっとばってん、浩平はそのままでよかな? おっの方はそぎゃん汗もかいとらんけんよかかて思うばってん、信治にチンポはこぶられとったけん、気にすっとなら、シャワーば浴びてくるばってん……」

「いや、俺は別にかまわんですよ。昭則さんの匂いも、俺、好きです」

 大きな肩をすくめながら昭則さんが俺に気を遣ってか言葉をかけてくる。

 俺もそうだが、各々宿に集まる前には風呂は済ませているのではあったが、やはり室内の熱気と肉欲に昂ぶった集団の中ではそれなりに汗もかいてきている。

 特にきつい匂いでもすれば別だが、己の快感を求めて男達がかく汗には特に嫌がる理由も持たない俺だ。

 

「昭則さんは、どぎゃんしてイこごたっですか?」

「普通にキスばしながらしごいてもらうとよかばい。その、おるんとはこまかけん、しゃぶったっちゃ面白なかろたい」

 100kgは優に超える昭則さんの体格との比率では確かに股間のものは小振りに見えるものなのかもしれなかったが、それでも通常の感覚であれば普通の大きさなのではなかろうか。

 信治さんや道則さんの人並み外れたと思うような太さ長さに比べると見劣りするのかもしれないが、少し勢いが落ちた半勃ちのものを握っても、ゆったりとしたその太さは平均以上のものかもとは思ってしまう。

 俺自身、温泉や大きな入浴施設では同性であるがゆえに目にするとは言え、勃起した状態のものを間近で見ることなど、学生時代にふざけていた同じ寮の連中と、この村での男達ぐらいしか経験が無いのだ。

 実際には勃ち上がった昭則さんの逸物を喉奥まで咥えるにはよほどの気合いを込めないと難しいことも、祭りの籠もり神事で嫌と言うほど味わった俺だった。