田畑看護師が用意したボードには、泌尿器科などでよく見られる男性の腰の部分を横から見た形の解剖図が貼られている。
「ここの膀胱の出口から尿道を取り巻くようにして、クルミぐらいの大きさの器官があり、それが前立腺です。男性にだけある臓器であり、機能としては、この中で精子と前立腺液が混ざって精液が作られる、そう考えてもらっていいと思います。肛門からだいたい5センチぐらいのところで身体の前の方にある、という感じでしょうか。これからのセッションでは、指でお二人のこの前立腺を刺激していきます」
「俺らの世代では『前立腺肥大』ってよく聞くんですが……」
「そうですね。尿道を取り囲んでる器官なので、ここが肥大すると排尿そのものが困難になったり残尿感が強くなったりします。細菌性のものやそうでないものも含め、原因は色々ですね。昔はこのいわゆる前立腺マッサージが治療の1つとしてよく行われてましたが、最近は受診時のそれよりも普段の生活習慣を見直していく指導の方がやられてるかと思います」
「なんか、そこやっちゃうと精液にも影響出るとは聞いたことがあります」
「はい、前立腺がんなどで摘出すると精液の通り道をも取ってしまうことになるために射精することが出来なくなったり、勃起障害が起きることが知られてます。お二人は検査など、また通常の排尿状態など見ても大丈夫とは思いますが」
「実際に刺激されると、どうなっちゃうんですか?」
「物理的には前立腺液がペニスから流れ出る、また勃起を促す、射精を促すなどの影響があります。また、刺激と反応によってドライオーガズムという新たな快感を獲得することも可能なようですね」
医師の説明が続く。
「ドライ……、オーガズム??」
「まあ、出来る人出来ない人の差が大きいとは聞く話ですが、射精を伴わずに絶頂に達する、というようなことらしいです。よく女性の性的快感に近いのでは、という論調で語られることもあります」
「先生達は、その、ドライなんとかって経験あるんですか?」
「残念ながら私も田畑君も、そこには至っておりませんね。どちらかというと、射精の快感の追求の方に走ってしまっている、ということもあるかもですが……。
まあ今日は、そこを目指しているわけではありませんし、お二人とも前立腺への刺激だけでの射精はまだ難しいかと思ってます。
そこで、最終的には前立腺とペニスへの刺激を同時に行うことで、お二人の中でそこへの刺激と性的な快感受容の結びつきを図りたいと思ってます」
まるで学校の授業かと思うような内容だが、一定の知識を入れた上での施術を好む野村医師の治療方針として、西田も山崎も慣れてきているようだ。
さすがにその股間は横たわってしまったようであったが、それに関しては施術前に深い快感を与えることを前提としているのだろう。
「それでは西田さん、山崎さん、またベッドに上がってください。あ、今度は先ほどと違った姿勢を取っていただきます。田畑君、お二人に説明を」
野村医師の催促で、田畑看護師が椅子からそのどっしりとした尻を持ち上げた。
「はい、先生。
西田さん、山崎さん。今度は四つん這いというか、うつ伏せで膝を立てて、私達の方にお尻を突き出すような体勢でお願いします。少し背中を反らせるようにしてもらうと、肛門と直腸の角度がいい感じになるかと思います。
頭の方は両手で支えるとキツくなってしまいますので、クッションと枕を抱きかかえるようにして預けてみてください」
取らされる姿勢を想像した二人の頬が、ほんの少し赤くなっている。
示されたその姿勢が『アナルを使った同性同士におけるセックス』の代表的な体位だと、本人達も気が付いているようだ。
田畑看護師が先ほどより低くベッドの高さを調整し、二人の中年男が白いシーツも明るいベッド面に、のっそりとその裸体を乗せていった。
「最初に少し、お二人の玉を竿をいじらせてもらって、勃起を促しますね。これも先ほどと同じで、肛門周辺への刺激を快感として学習しやすくするためです」
尻を突き出した二人の股間が、医師と看護師の手でいじられていく。
柔らかく揉まれるふぐり、ゆっくりと扱かれる肉棒が、一気にその容積を増していく。
「あっ、後ろからやられるのも、気持ちいいです、野村先生……」
「田畑君、見えないところから扱かれるのも、すごいなあ」
「股の間からやられるのも感じるでしょう? はは、あっと言う間にお二人とも元気になりましたね。それではまた肛門を刺激していきますので」
後ろからのさわさわとした睾丸への愛撫。逆手になる形でのペニスの扱きは、見る間に二人の逸物への血流量を増加させ、ついには先端に露すら浮かべるほどの勃起を導いていた。
医師と看護師、二人の医療者が再び手袋を装着し、その指先と二人の尻へ、たっぷりとローションを垂らしていく。
「山崎さん、指1本は、もう楽々入りますね。先ほどと比べてどうですか?」
「痛みも、そうそうの違和感も無いですね。もちろん『入れられてる』という感覚はありますが、さっきよりはもっと『普通』な感じです」
「いい傾向です。それでは少しほぐした後、だんだんと指を増やしていきます。ここでも少しでも痛かったり嫌な感じがしたら、すぐに言ってください」
「はい、でも、なんだか、不思議なことに大丈夫な気がしてきてます……」
「あ、それ、俺もです。田畑君の指が、なんか、懐かしい感触っていうか……。変ですよね、俺」
「そんなことないですよ、西田さん。僕、そんなふうに言われると、嬉しいです」
山崎自身にとっても意外なことではあったのだが、横で同じ姿勢を取っている西田からも賛同の声が上がる。
「お二人とも十分に感じてもらってるようですね。いよいよ、前立腺を刺激していきますよ。西田さん、山崎さん、とにかくリラックスして私達の指先の動きに意識を集中してみてください。先ほどと同じく、山崎さんは私に、西田さんは田畑君とのパーソナルな会話にしましょう」
「あ、はい……」
「いよいよか……、ちょっとゾクゾクしてます、俺」
山崎と西田、二人がクッションに顔を埋め、そのでっぷりとした逞しい尻肉を突き出すように高く掲げる。
ラテックスの手袋をつけた医師と看護師の指先が、ローションのぬめりとともに剥き出しになったくすんだ窄まりに、その先端を這わせ始める。
「野村先生、ああっ、それ、気持ちいいですっ……」
「た、田畑君っ、すげえ切ないよ、それ……。焦らさないで、もうズブッと入れてくれ……」
ぬるぬると這い回る指先に、二人の尻が揺すり上がる。
ほぼ同じタイミングであったか、二人の医療者の指先がひくりひくりと蠢く秘口へと差し込まれた。
「あっ……」
「入りましたよ、山崎さん。さっきとは角度が違いますが、大丈夫ですか?」
「はい、痛みはぜんぜんないです。尻を上げてるせいか、さっきよりなんだか先生の指の形とかまで感じやすく思えます……」
「少し周りを広げながら、指を増やしていきますね」
「はい、先生……。あっ、あっ、すごいっ、私の尻の中で、先生の指が……」
尻をくじられている山崎の逸物、その先端が小さな露を浮かべているように見えるのは錯覚なのか。
「西田さん、もう3本の指を動かしても大丈夫ですね。では、ここから前立腺をマッサージしていきます。感じたこと、思ったことを、どんどん言葉にしてみてください」
田畑看護師た担当の西田にかける指示もまた、日頃から野村医師がかける言葉と同じであった。
「あっ、あっ、そこやられるとっ……。なんだ、これっ! なんだこれっ!!」
「どんな感じですか、西田さん? 気持ち悪かったりは無いですか?」
「ええっと、ああっ、金玉の裏が感じてるような、あ、あ、ああああっ……。なんだ、これ! ホント、なんだこれっ……」
よがり声ともつかぬ西田の叫びに、少しだけ山崎の豊満な肉体が緊張したのか。
「山崎さん、お尻が締まってしまってますよ。はい、緩めて、広げて……。そうです、そうです。じゃあ、ほら、これが前立腺ですよ」
「あっ、先生っ、そ、そこっ……。変な感じが、変な感じがしますっ……」
「どんな感じですか? なんでもいいので、とにかく言葉にしてみてください」
「なんか、玉と竿の裏側をすーっと撫でられるような、勝手に身体がびくびくってするような……。あっ、ああっ、ああああああっ……」
「快感とは違うかもですが、敏感に反応してもらってますね……。さて、ここで、ペニスへの刺激も加えていきます。
前立腺からの快感を自覚していただき、それをお二人の肉体に染みこませるのが目的でもあります。もし射精したくなってもなるべく我慢して、堪えられそうにないときにはいつものように言葉にしてください」
こちらは素手のままの医師の右手が臍に張り付かんばかりに勃起している山崎の肉棒へと伸びる。
ローションがたっぷりと溜められた手のひらが下側から当てられ、膨らみきった山崎の亀頭をずるりと包み込んだ。
「うああああああっ、駄目ですっ、先生っ! そんな、そんなのされるとっ……!」
「どう、駄目なんですか?」
悲鳴のような声を上げる山崎に、冷静に質問を重ねていく野村医師。
「あっ、だって、だって、そんな、亀頭とかっ、亀頭責めとかっ、駄目ですっ、あ、ああっ、駄目っ、駄目っ……」
「射精したくなる快感とは違うでしょう? なにが駄目なんですか?」
冷静な野村医師の質問ではあるが、その額には汗が浮かび、眼鏡にはわずかな曇りが見られる。前屈みになった腹を叩く逸物の様子からも、医師自身もかなりの興奮を覚えているらしい。
山崎の方もまた、言葉責めを受けているようないやらしささえ、感じているようだ。
「後ろと前とっ、そ、そんな責められたら、おかしく、おかしくなりますっ……。そ、それに、なんか勝手にイきそうな感じがして……」
「少し前立腺の方を緩めましょう。でも、ほら、亀頭の方は責め続けますよ」
「あっ、駄目ですっ、そこ触られながらっ、亀頭責められるとっ、駄目っ、おかしくなるっ、おかしくなるっ……」
頭をクッションに埋めたまま、山崎の大きな背中が震えている。
何かを堪えているのは確かなのだが、その『何か』が、山崎にとっても言葉に出来ないことなのだ。
「おかしくなってもらうためにやってるんですよ。ほら、前立腺と亀頭と、一度に刺激されると、どちらで感じているのか分からなくなるほど『すごい』でしょう?」
「すごいっ、すごいですっ、先生っ……。おかしくっ、おかしくなりますよっ……!!」
山崎の悶えが、マットレスを通して隣にいる西田にも伝わってくる。
「ふふ、山崎さんの乱れよう、西田さんも興奮するんじゃないですか?」
「ああ、たまらんですな……。そして、俺もっ、けっこう、その、『来て』ます……」
「前立腺と金玉と、両方責められると、もう下半身の疼きがすごいでしょう?」
「ああっ、田畑君っ……。それ、いいよっ、気持ちいいよっ……」
「風俗で経験されてるだけあって、西田さんは前立腺への刺激がもうすでに気持ちよく感じ始めてるみたいですね」
「ああ、あのときは訳も分からずにイっちゃった感じだったけど、今日は、なんかこう、すごく気持ちいいなって。田畑君が、上手いせいかな……。あっ、それっ、いいよっ、いいっ……」
西田には前立腺だけでもかなりの刺激となると、看護師としてはあたりを付けているようだ。引き上がった睾丸を優しく撫でながら、主な刺激は挿入された指先に集中している。
山崎ほどの乱れようでは無かったが、西田もまた田畑看護師のテクニックには相当の快感を感じているのがそのがっちりとした肉体から伝わってくるのだ。
山崎を責めながらも、視界に入る西田の様子も観察していたのだろう。
野村医師から声をかけた。
「山崎さんも西田さんも、前立腺への刺激が段々快感として受け止められるようになってきたようですね。
それではもう一度、仰向けで両足を抱えるような姿勢になってください。まあ、このままお二人の肛門を目の前に眺めさせてもらうというのも、魅力的な状況ではあるんですが」
野村医師の言葉には、いじられている山崎達よりはかなりの余裕のある様子が窺える。
医師と看護師について言えば、山崎と西田をひたすらに責めるだけであり、その痴態を見ることでの興奮はあれど、直接的な刺激が自らの肉体に与えられるわけでは無い。
山崎と西田の方は、二人して素直に身体の向きを変えていくが、昂ぶった己の肉体の炎をどうにか発散させてほしいとの欲望が渦巻いている。
患者と医療者、その立場による違いは、今日の診療の中、果たして交わることがあるのであろうか。
「先生、田畑君……。その、俺、とどめ差してほしいっていうか、その、あの……」
「先生、私もです。こんな感覚初めてなんですが、とにかく、玉の奥が疼いて仕方が無い感じで……」
最初のセッションで感じていたM字開脚姿勢への恥ずかしさは、とうに二人の中から消え失せている。
いや、正確には、二人が初めて本格的に尻穴をいじられることによって生じた燃えさかる情欲の炎によって、それらの感情が焼き尽くされてしまっていたのかもしれなかったが。
山崎の小山のような腹の向こうからの視線が、切なげに野村医師の目を追っている。
西田のがっちりとした腰から勃ち上がる肉棒が、田畑看護師から与えられるはずの更なる刺激に、びくびくとその頭を揺らす。
「先生、西田さんが言われる通り、もうそろそろ射精を前提とした責めに切り替えていいでしょうか?」
野村医師への確認は、目の前の西田の様相にすぐさま応えたくなっている田畑看護師自身の欲求でもあったろう。
「はは、山崎さんも、もういっぱいいっぱいのようですし、そうしましょうかね」
「その、その、次は、もう、イって、イって、いいんですか?」
射精を我慢するようにと言われていた山崎の言葉は、もはや懇願の響きを帯び始めている。
「もちろん、射精直前の快感を最大限に味わってほしいことには変わりありませんのである程度のコントロールはしますが、セッションとしてはお二人の射精を着地点とします。
ああ、そしてこれまではあくまでも施術は山崎さんと私、西田さんと田畑君という一対一でやってきましたが、ここから先はお二人については、その制約は解除します。
身体を寄せ合って、乳首への刺激やキスなどを大いに行ってください。
最終的にはお二人のタイミングを合わせて同時にイってもらいたいと考えてはいますが、これについては私や田畑君のテクニックにも関わってくるものですので、もし上手くいかなかったら申し訳ないです」
医師の言葉は、セラピーの最終局面への誘いであったのだろう。
再び医療者二人が、山崎と西田の股間を前にそのどっしりとした尻をパイプ椅子の座面に預け、その左手の指先にたっぷりとローションを垂らしていく。