最近の学校は職員室が2階にあることが多い。玄関で履き替えたスリッパの音をぱたぱたと響かせながら、一人の営業マンが階段を昇っていく。
山岡三太、33才である。160センチに70キロという短躯にきっちりと分けた短めの7:3の髪型は、その雰囲気をどうしても堅く見せてしまう。真夏というのに紺のスーツに身を包んだ姿は、普段であれば子どもたちで賑わう小学校には、すこし場違いな感じを与えているに違いない。
どうしてこんな暑い誰もいない日に俺を呼んだのだろう。
正直、いくら顧客からの要望とはいえ、わざわざ休みの日にまで仕事をしに、クーラーもない学校に来るのはごめんだと三太は思っていた。それでも俺が今日来たのは、以前から気になっていた先生からの指名だったからだ。
もちろん、いくらこの俺が男好きとはいえ、商売相手に手を出すほどの馬鹿ではない。それでも、客は神様という営業の原則を理由に休み返上で訪販に回ったのは、太め中年好きの自分にとって、理想のタイプとも言える太田先生からの注文だったからだ。
(まったくこんなことなら、支店長の言うことなんか無視して、半袖シャツで来るんだった)俺は吹き出る汗をタオルで押さえ押さえしながら職員室へ向かった。
盆休みに入った学校はクラブ活動もなく、子どもらがいない教室はがらんとして、廊下にはうるさいほどの蝉の声が響いている。職員室の手前まで来た俺は、営業マンらしく身なりをひとしきり整えると、開け放しのドアから声をかけた。
「失礼します。○○社の山岡ですが」
「おお、すまんな、わざわざ休みんときに。確か三太さんだったな。めずらしか名前だったけん、覚えとったたい」
野太い声を返したのは、三太を二周りほど大きくした感じの先生である。
4月の転勤で、この小規模校に赴任してきた太田教諭は、確か5年生の担任だった。専門科目は体育だが、小学校では全科目教えなければならないのは当たり前である。
習字と図画工作が苦手で、校務分掌は生活指導と校内環境整備担当、体育と保健と社会科の主任、48才のバツ1独身教諭。
このくらいのデータは手帳を開かずとも、営業マンとしてのコンピューターが思い出していた。
仕事の虫の多い教員も盆休みの最中ともなれば、日直の先生を残して他に出勤している人がいるはずもない。
ネクタイ姿の営業マンとジャージ姿の先生が誰もいない職員室で、うるさいほどの蝉の声をバックに向かい合って座っていた。
椅子に腰掛けた太田先生のジャージは何度も洗濯を繰り返したのか色褪せて薄くなり、ずっしりした太股に挟まれた股間の陰影をはっきりと見せつけていた。
上着は白いポロシャツが厚みを帯びた肉体を覆っている。肌着をつけていないのか、第2ボタンまで開けた胸元からは、漆黒の胸毛がのぞいていた。発達した胸筋に支えられた乳首が柔らかなポロシャツの布地を押し上げている眺めは、どこか卑猥ささえ感じさせる。
俺の方はといえば、どこから見ても営業か銀行マンにしか見えない格好である。太い首を安物のネクタイが窮屈そうに締め上げていた。
2学期用の社会科のプリント教材の注文を受けると、こんなものしかないが、と太田先生が冷蔵庫の麦茶をすすめてくれた。先生の方も話し相手が欲しかったのか、大学時代の思い出をながながと話し始めた。
タイプの先生の若いときの話というものは結構そそるもので、部活でのセンズリ大会の話などは、思わず誘われてるのか、と期待してしまうほどのものだった。
先生の大げさな身振り手振りをまじえた話に、俺も身体を乗り出したときだった。胸ポケットに入れていたボールペンが袖にでも引っかかったのかぽろりと落ち、ころころと転がっていった。
太田先生が椅子に座ったまま後ろを向きペンを拾おうとしたときだった。ジャージが少し下にずれて下着が見えた。
パンツではない。
「あ、越中?」
俺は思わず呟いてしまう。
「ああ、夏場は暑かけんなあ」
身を起こした先生がその呟きに答えた。
「三太さんは若っかばってん、褌に詳しかごたっなあ。今の若っかもんは褌の種類もよお知らんけんな」
太田先生はその男らしい顔をにっこりと崩すと、うれしそうに話しかけてくる。
俺は思わぬ展開にドギマギした。普通、ノンケの連中は褌の種類など知らぬものなのだろう。この場をどう取り繕うか。先生にそのケがあるかどうかまだ分からない。しかし俺は意を決して言ってみた。この先生にならばれてもかまわない。そんな思いが俺を大胆にする。
「実は、私もですね、越中なんですよ」
「おお、君もな」
やはり、太田先生が嬉しそうに言う。
「こら嬉しかな。そうか君も男だけんな。褌は男らしさの象徴だけんな」
俺は何と返事していいものか、答えに窮してしまった。
「いや、こら俺の学生時代の柔道の先生の受け売りばってん」
そう言う先生の男らしい笑い方に、俺は吸い込まれそうな気がした。もう、どうなってもいい、このままこの先生を抱きしめたい。せめて越中姿だけでも見たい。本気でそう思った。
「お、太田先生」
声がうわずっている。
「いや、その、暑いですね」
「ああ、暑かなあ」
「その、涼みませんか」
何か俺、むちゃくちゃなことを言っている。
「よかな、休みの間はクーラー使わんけんな。かまわんけん、あたも脱ぎなっせ」
そう言うと太田先生は立ち上がって服を脱ぎ始めた。俺はことの成り行きに興奮のあまり気を失いそうになる。
「三太さんも脱ぎなっせ。暑かでしょうが、そぎゃん格好だと」
先生に促されるまま、俺の方も服を脱ぎはじめる。しかし、スラックスを脱ごうとして手が止まってしまった。先生の方はもう越中一丁だ。
体中を覆う剛毛が、その匂い立つような男ぶりが、俺の下半身を反応させてしまったのだ。
「恥ずかしがらんでよかけん。男同士じゃなかな」
そう言われれば何と返しようもない。俺は前屈みになってズボンをおろし、靴下も取ると、とうとう越中一丁になった。
あたりに今まで服で押さえられていた先生のむくつけき男の匂いがたちこめる。
その匂いに気づいた瞬間、俺の肉棒は越中の前垂れを押し上げ、先生の目の前にはっきりとその姿をあらわにしてしまった。
「その、あたも、三太さんも元気になっとっとな?」
先生が言う。先生もなんだか興奮しているようだ。顔が赤い。先生の肉棒も短めの越中の前垂れを突き上げていた。
成熟した男が二人、越中一丁で肉棒を勃起させ、職員室につっ立っている。
窓からは降りしきるような蝉時雨が聞こえるだけで、二人の姿を覗き込むのものなど誰もいなかった。
もはや遠慮はいらなかった。俺はゆっくりと膝をつくと、おそるおそる先生の股間に顔を近づける。
鼻をつく汗の匂い。俺の両手は先生の尻をまさぐり、ジャージをはいていたせいか皺になった越中を口で外そうと試みる。
前垂れの下から顔を押し込み、紐を歯で掴み、引っ張る。はらりと越中が落ち、猛々しいほどの肉棒が飛び出した。
俺は、何ものにも代え難い大事な宝物のように、火傷しそうに熱くたぎる肉棒をゆっくりと口に含んだ。そのままぐっと飲み込むと、くっと声にならない呻き声をあげる。
先生は俺の頭を掴み、何度も何度も喉の奥へと己の肉棒を押し込もうとする。
俺は先生の荒々しい腰使いに涙を流しながら耐えた。
先生はひとしきり俺の尺八を味わうとゆっくりと逸物を抜き取り、しゃがみこむ。太い丸い指で俺の涙を拭き取り、唇を合わせた。
俺達はねっとりと舌をからませながら立ち上がり、暗黙の了解のままに職員室の中央の空いた机へと肉体を寄せていった。
70キロはあるこの俺を、先生は軽々と抱き上げた。机に横たわった俺に熊のように覆い被さり、乳首をむさぼるように舐めあげる。
それだけで達しそうになった俺は、激しい快感から逃れるように身をよじらせ、声をあげる。
「声の聞こゆっといかんけん」
意外なほど強く先生が言い、床に落ちた自分の越中を拾い上げると俺に猿ぐつわをかませる。男の体臭のしみ込んだ越中で口を塞がれ、俺は頭が朦朧とし、麻薬でもこんなに気持ちよくはならんと思ってしまう。
これ以上されたら、失神してしまうのではないか、いや、快感のあまり気が狂ってしまうかも知れない。そんな思いも一瞬のことであった。
先生が口で俺の肉棒を責め始めた瞬間、背筋に電撃が走り、快楽の海で翻弄される。
あやうく少年のように射精するのをこらえ、先生の頭をやっとの思いではずし、せつなそうな目で見つめた。
それを合図と受け取ったのか、先生は机の上の俺をうつ伏せにすると、尻穴を高く掲げるように腰を持ち上げてくる。普段なら年上の男の尻穴を攻める側に回る俺だったが、この先生になら、と、次に来るであろう快感に備えていた。
先生は俺の尻穴に躊躇なく舌を押し込んできた。尖らせた舌が肛門をくじる。皺をひとつひとつ伸ばすように丁寧に舐めあげる。
波のように押し寄せる快感に、俺は思わず腰を浮かせてしまう。そろそろ潮時と見たのか先生は俺を机からおろし、四つん這いにさせた。獣の体位だ。
これから、俺はこの熊のような太田先生に犯されるんだ。先生の太い陰茎で、思う存分犯されるんだ。
俺は自分に言い聞かせることで、さらに興奮の高みへと自分を追い込んでいく。
俺は自分から入れやすいよう腰を上げた。
舌と唇の刺激で十分に柔らかくなり、唾液で光った肛門を目にして、先生は更に興奮したようだった。中腰に構えると、いきなり固くなったままの性器をずぶずぶとめり込ませる。
俺の痛みを感じ取ったのかしばらくじっとしてなじむのを待ってくれている。吐く息の切なさで、俺の痛みが去ったのが分かったのだろう、ぐっと奥まで押し込んできた。
重たい腰の押し引きが繰り返される。俺の出すくぐもったうめき声と、先生の荒い息使いが、誰もいない職員室の中に響いている。
先生が堪えきれなくなりそうなのか、腰を引く。すぽんと性器が抜けた。
また押し込む。
ぎゅうと締め付けた。
快感が尻穴から脊髄を駆け上がり、稲妻のように往復する。俺の肉棒は前後運動の度に腹に打ちつけられ、先走りをだらだらと流し続けている。
早く強く腰を打ちつける先生の荒々しい動きに、俺は叫び声ともつかぬ呻き声をあげてしまっていた。
腰を打ちつけるたびに先生の暑さでだらんとのびた陰嚢が俺の尻肉を叩く。四つん這いの俺の口から唾液で濡れた越中が落ちる。酸欠から解放された俺が大きく息を吸い込んだ。二人は最期のときを迎えようとしていた。
「イくっ、先生っ、イキますっ」
「お、俺も、イくっ、イくけんっ」
俺はとうとう我慢できずに腹筋を痙攣させながら射精してしまった。どくどくと床に雄汁が叩きつけられる。
そのリズムに合わせ急激に肛門が収縮し、先生もこらえきれず、はじけるように俺の尻へと腰を打ちつける。直腸に放出された先生の汁の温度さえ、感じとれるような射精だった。
肉棒がゆっくりと抜かれ、俺はごろんと仰向けになった。先生が大きな肉体をかがめると唇を合わせてくる。
至福のキスだった。
無言で舌をからませ、唾液を交換する。
俺の右手と先生の左手が繋がれたまま、二人して床に大の字になった。息が整うのを待つ。木の床が背中に冷たく、心地よかった。
二人だけの職員室に、蝉時雨が戻ってきた。
完