禄朗がバタバタと家を飛び出た藤堂家。
テーブルで向かい合う梓郞と御藏。
「それで、今朝の『お務め』は、どうじゃったんだ?」
「奉納するまで、やり始めから7分ぐらいはかかったな。前は2分もあれば、あっと言う間にイけたんだが……」
「さっきの話だが、やはりもう、禄朗に『お役士』を渡さんといかんと思うのか?」
「回数にはまったく問題は無いんだがな……。特に夜の3回に時間がかかってきてる。この前の徹夜明けのときは、小一時間近くかかっちまった。ロクには悪いが、あいつの将来のことを含めて、藤堂の男としての選択肢を知らせとかんといかんだろうし。親父さんも全然ダメになってから俺に『渡した』わけじゃなかっただろう? あのときと同じだよ」
「何も無ければ来年は『二竿落とし』もあるしな」
「ああ、あれも身体も心も準備しとらんと、たまったもんじゃないだろう」
「儂がお前に『渡し』たのは、禄朗が生まれてすぐのときじゃったな……。あのときは驚いたじゃろう?」
「前知識が無かったのもあって、確かに驚いたな……。だが、『務めの香』のせいか、嫌だとか気持ち悪いとかの気持ちより先に、正直、親父さんと肌を合わせる快感に酔っちまった」
「藤堂の男は本来なら精通後、すぐに『教えて』おいて、しばらくしてから『渡す』のが当たり前じゃったんじゃが、養子のお前には悪いことをした。考えてみれば、儂も今のお前と同じ気持ちだったわけだな。自分の肉体の衰えにどこか怯えてしまい、まだ大丈夫なうちに、自分に課せられた使命を誰かに半分渡してしまいたかった……」
「俺の考えもまさにそれなんだ。そうすることで、この『お務め』は引き継がれてきたんだろうし、ロクの奴も、いつかは分かってくれるだろう」
当時のことを思い出しているのか、テーブルの下、無意識に股間をいじる御藏。
梓郞もまた、ズボンの前を小山のように盛り上がらせている。
「路子のときも……、悪かったな」
遠い日を思うような梓郞の眼差し。
「親父さんも俺も、きつい時期だったんだ。『お務め』を続けるためにはああするより他は無かったんだろうし、親父さんのことをどうこうは思ってませんよ」
「恨まれて当然のことを、儂はやったんだぞ」
「親父さんは親父さんで、悩んだ末のことだったんだろうし、恨んでなんか……。俺自身、あのときは親父さんにもひどいことをやっちまってた」
「まあ、あれはあれで『よかった』んだがな」
「親父さんがそう言ってくれるのが、今にして思うと救いなのかもな。普通に考えたら、赦されることじゃない」
「それを言えば、藤堂家の『お役士』そのものが今の世に許されるもんじゃなかろうて。うちの禄朗や、藤原(ふじはら)の方も沙吉(さきち)の代で、もしかするとこれも途切れるかもしれんな」
「それはそれで仕方ないが、入り婿の俺としても、途絶えさせちゃいかんという気にさせちまうのが、歴史ってもんなんだろうなあ……」
「ああ、そうじゃな……。で、お前は思い出して勃っとるんか? それとも、まだ出したりんのか?」
梓郞がニヤリとその唇を歪めた。
視線の先の御藏の股間は、張りつめた布地に内容物の昂ぶり見て取れ、そのまま大人の握り拳以上の膨らみとなっている。
字面だけを追えば猥雑とも思えない2人のやりとりは、言葉の端々に浮かぶ性的なものを示しているのか。
椅子に座ったままの御藏の前に、梓郞が進み出る。
「久しぶりじゃが、手伝ってやろうか?」
「いいのか、親父さん……」
かすれた御藏の声に、官能の響きが滲む。
両脚を開き、ズボンの前を開ける御藏。
その前に膝をつき、御藏の顔を見上げる梓郞。
「たまには儂に飲ませてくれ」
「ああ、親父さん……。頼む。ロクに話をすると思うと、もうおっ勃ってしまうんだ……」
「儂もお前に『渡し』をせんとと思ったとき、たまらんかったぞ」
御藏が開けたズボンの前に、梓郞が手を伸ばす。
下着の前開きから引き出された逸物が、むわっとした体温とともに外気に晒された。
見事に剥け上がった亀頭が先走りにてらてらと濡れ光り、すでに吐精を済ませているのか、体臭とともに濃厚な性臭もまた梓郞の鼻を襲う。
「さっきの『お務め』も、たっぷり出したようじゃな」
「朝が濃いのは、親父さんも分かってるだろう」
果たして、藤堂家の代々の男達が道場に勧請した神社祭神『五十猛尊(いそたけるのみこと)』に毎朝毎夜奉納していたのは、実に己の逸物から絞り出した『精汁』であった。
かつては早朝深夜、藤堂家の裏山を占める神社社殿にて行われていた行為を、道場建立の際に勧請した主神を神棚にと、場所を移したのは梓郞の代である。
早朝の夜明け前後に一度、夜、日付が変わる前に三度。
その行為は続けられていた。
藤堂家の男子のうち、『お役士(おやくし)』という任を負った者が、社殿もしくは道場へと籠もり、己の精を放ち奉納するのだ。
神話に言う五十猛尊(いそたけるのみこと)の、父神である建速須佐之男命(たけはやのすさのおのみこと)との同行行脚の中、各地に様々な植物を植えた行為を模しているのであろう。
神々が植えたその植物たるものが、須佐之男命の体毛であったことが、御神体である男の陽物を模した金精木と、それを納める箱に敷き詰められる藤堂家の男達の体毛であることに表れていた。
林業、食物、海からの漁労物の豊穣を願うその神事において、直接的な生命力の贄として、健康な男子の精汁をいつの頃からか神前へと供える形へとなっていったらしい。
朝の『お務め』を終えた御藏の股間から漂う性臭は、藤堂の男にとってある意味当然のものであった。
御藏の滾った逸物を取り巻く茂みに鼻を埋めた梓郞が、躊躇なくその先端を口に含む。
見事に勃ち上がった肉棒は指1本が埋まるほどの鰓が切れ上がり、先端に開いた鈴口はくっきりとしたエッジを見せている。
根元からうねる血管は太竿を取り巻き、その異形は老松の太い根か、あるいは山椒の摺り子木にも見まがいそうな、凶悪な様相を見せていた。
「匂いも味も、たまらんな」
さも美味そうに、竿を、先端を舐め回す梓郞の瞳もまた、欲情に潤んでいる。
「ああ、親父さんの口、相変わらず上手いな……。もう、イきそうなぐらいだ」
「回数は大丈夫、というのはホントらしいな」
「親父さんも、まだまだそう変わらんだろう?」
「はは、図星を言われたな。後で儂のも頼む」
「願ってもねえよ、親父さん……」
くちゃくちゃ、びちゃびちゃと淫猥な水音が響く。
唾液と先走りと、十分な潤滑油を得た梓郞の手のひらが、肉棒を激しく扱き上げる。
「イ、イきそうだっ、親父さんっ……。いいのか、このまま、出して、いいのかっ?」
天井を見上げるように顎を突き上げた御藏の目は、あまりの快感にぎゅっと閉じられている。
太魔羅を口に含んだまま、梓郞の手の動きが激しさを増す。
それは、このまま口に出せ、そう言わんばかりの梓郞からの返事であった。
「イくぞっ、親父さんっ、イくっ、イくっ!」
跳ね上がろうとする肉棒をなんとか押しとどめ、その喉奥に強烈な勢いで噴出する粘ついた白濁液を、一滴もこぼさぬようと飲み込む梓郞。
およそ1分に近いほどの律動の後、まだ固いままのそれからそっと口を離した。
「相変わらず、すごい量と濃さだな、御藏……」
「親父さんがしゃぶってくれたからだろう。すごくよかった」
「連続して出すか?」
「いや、親父さんもイきたいんだろう? 俺にしゃぶらせてくれ」
「じゃあ、頼むとするかな」
御藏の代わりに梓郞が椅子に腰を下ろす。
ズボンと常用している越中褌はすべて脱ぎさってしまい、下半身を剥き出しにした梓郞の前に、御藏が跪く。
「ここも白いのが増えたな、親父さん」
「まあ、70近いんだ。そう言うな」
「でも、チンポは元気だ。俺のよりデカいしな」
「お前さんのの方が、俺は形は好きだけどな……。ああ、もうたまらん。始めてくれ、御藏……」
胸毛と繋がった腹と下腹部の体毛を見れば、藤堂家の3人の男達の中で一番毛深いのは祖父である梓郞であろう。
御藏の言葉通り、白いものの割合が多くなった茂みが、むっちりとした胸と腹、股間をもっさりと覆っている。
「しゃぶるぞ、親父さん」
頭上からの返事を待たず、御藏が梓郞の逸物を咥え込む。
梓郞のそれは、親指ほどの太さの尿道海綿体の目立つ肉竿が亀頭の手前でグイと角度を変えた、これもまたある意味凶悪な面相をしている。
「こいつで抉られるのは……、たまらなかったな」
御藏の言葉は、その全容を受け入れたことのある者の台詞だ。
「過去形で無くとも、まだまだ現役じゃぞ」
「分かってるよ、親父さん」
「無事に『お役士渡し』を終えた暁には、禄郎の目の前で、これを入れてやろうか」
「ああ、親父さん。そんなこと、言わんでくれ……」
「言われると興奮するんじゃろう? ほれ、またお前のがいなないておる」
梓郞の右足が跪いた御藏の股間へと伸び、その足裏が再び屹立した逸物をゴリゴリと踏みしだく。
痛みにも似た刺激さえ欲情へと繋がる御藏の被虐心を、梓郞が煽っていく。
「ああ、親父さん、たまらん……」
「もっときつくしゃぶれ、御藏。儂の足でもう一度、儂と一緒にイけ」
唾液と先走りが奏でるかすかな水音、上下から聞こえる荒い息遣い。
「うっ、出るぞっ!」
「んんっ、んっ、んぐっ……」
口中に、足裏に。
2人が濃厚な汁を噴き上げたのは、それから幾時もかからぬうちであった。
………
「夜に話をするとして、実際の『お役士渡し』はいつヤるつもりなんじゃ?」
「あいつが守れるかは分からんが、三、四日ほど溜めさせて、金曜日にでもと」
「どこまでヤる気じゃ? なんといっても、禄郎はすべてが初めてじゃろうし」
「全部だ。そう、俺が親父さんからあの日受け継いだもの、全部だ」
「そうか……。儂からも、途中でちとアドバイスでもしておこう」
「親父さん、頼みます……」
身繕いを整えた2人が、再びテーブルで向かい合っていた。
都合3発の雄汁が発射された居間には、男なら誰しもが記憶にある『あの匂い』が、濃厚に漂っていた。