唇が触れる。
互いの舌がおずおずと伸び、絡み合う。
信治さんの瞳に俺の顔が映っている。
それは、初めて知る感覚だ。
俺が感じた快感と、信治さんが感じた快感とが、目線を通して行き交う。
瞳がちらちらと揺れる度に、交互にまばたきをする度に、その快感が2人の間で何度も何度も増幅されていく。
信治さんの言う、「よか気持ちになる」というのは本当だった。
目を閉じ、唇と舌だけで相手の口腔を味わっていたときと違い、見つめ合う互いの瞳に映し出される様々な感情の揺らぎが、全身震えてしまうほどの快感を伝えてくるのだ。
「ああ、すごい……。
信治さん、キスでこんなに感じるなんて、これは、初めてです……」
唇が離れ、思わず漏らした俺の言葉を、信治さんが再び自らの舌と唇で遮る。
そこからはもう、言葉はいらなかった。
互いの左手で相手を引き寄せ、歯を、歯茎を、口蓋を、唾液を乗せた舌先でねろねろと舐め尽くす。
右手は先走り溢れる肉棹を握り締め、互いの腹の間で扱きあげる。
立ち膝のまま、キスをしたまま、一緒にイきたいという信治さんの願いがストレートに伝わる。
思わず腰を引きそうになる快感をなんとかいなしながら、俺は信治さんの目を見つめ続ける。
イく瞬間も目を閉じず、このまま互いに見つめ合ったままで果てるとき、どれほどの快感が全身を駆け巡るのか、想像するのも恐ろしいほどだった。
互いの先走りでぬめる肉棒にはこれ以上の潤滑油はいらなさそうだったが、信治さんがぐちゅぐちゅと溜めた唾液を2人の逸物目掛けてわざと垂らしていく。
「あっ、ああっ、気持ちいいっ、信治さんのチンポとごりごり当たる俺のチンポと、すげえ気持ちいいっ」
「よかな、よかな、俺もたいがな気持ちんよかけんっ、一緒にっ、浩平と、一緒にイくばいっ!」
ぬめり成分の補充は声を上げざるを得ないほどの快感をさらに呼び覚ます。
射精寸前の寂寞感に瞼を閉じそうになる衝動を必死にこらえ、俺はまるで睨み付けるかのように信治さんを見つめる。
「もっとっ、もっと、コイてくれっ、浩平の手で、俺のチンポばっ、コイてくれっ!」
信治さんの方言が、俺の名前を呼ぶ信治さんが、もうたまらなかった。
一言一言が、耳からの快感となって脳髄を蕩けさせる。
「俺もっ、俺も信治さんと一緒にイくっ、イきたいっ、イくよっ、キスしながらっ、キスしながらイきたいっ!」
俺の台詞に信治さんがまた頭を引き寄せる。
唇が、舌が、絡み合う。
視線と、吐息が、交差する。
全身を襲う快感の奔流に、堪えきれない両ひざが、がくがくと震える。
もう、限界だった。
「イくっ! イくっ!」
「んむっ、ンッ、ンンッ!!」
俺にとって、おそらく、生まれてはじめてかもしれない「その瞬間に相手の目を見つめながら」の射精だった。
俺の快感と信治さんの快感が互いを行き来し、何十倍にも膨らみ、はじけあう。
男なら誰しもが理解出来るあの匂いが、ストーブに暖められた部屋中に一気に広がっていく。
互いの汁は鬱蒼と茂る体毛にへばりつき、垂れ落ちることなくその形を留めている。
2人とも呆けたように、その脱力した肉体を預け合えば、胸も腹も、ぬるりとした熱い液体の存在を感じ取っていた。
「すごかった……。
目を明けたまま、キスして、イって、それがあんなにすごいとは、この年まで思ってもみなかったです……」
抱擁を解き、へたり込むように尻を落とした俺が言う。
「へへ、やっぱり浩平もそぎゃん思うたつばいな。
おっも先輩から言われち初めて目ば明けてしたときは、そるまでのせんずりや扱き合いは、一体何だったつかと思うぐらいに感じたけんな。
おっ達の間では、もう目ば明けち色々すっとが普通になっとるけん、浩平にも感じてもろて欲しかったったい。
なんさま浩平が気持ちんよかったならおるもよかった。
まだ何回かはイきたかばってん、立ったまんまはさすがにもうきつかけん、横になってしょうたい」
同じように尻餅をついたかのような姿勢で天井を見上げ、信治さんがまだ太いままの肉棒を弄りながら言う。
俺はにやっと笑い、おそらく信治さんも心に思っているだろう提案をする。
「次始める前に、今信治さんがイった精液、俺、舐めたいです」
「お、おっもそっば言おうて思とったつたい。
なら、最初は俺にかかったつば、舐めちもろてよかな」
布団にごろりと横になった信治さんのあちこちに、2人の間で擦り付けられた汁の名残が見える。
俺は舌を伸ばそうとしたが少し思い直し、汁と体毛を一緒に咥えると、じゅうじゅうとわざと音を立てて粘り気のある白濁した固まりを吸い上げた。
「浩平はいやらしか舐め方ばするなあ
。
おっの汁と、浩平んとと、どっちも混ざっとるて思うばってん、味は違うな?」
「さすがにそこまでは分かんないですよ」
俺の答えに信治さんが笑いながら身を起こす。
交代して俺の身体を信治さんが舐め上げる。
かなり丁寧に汁の痕跡を追っていた信治さんが顔を上げると、そのまま俺の口元へと唇を寄せてくる。
その動作にピンと来た俺が口を大きく開けると、信治さんが頷きながら俺の口を目がけ、すすり上げた雄汁と唾液を混ぜた液体をとろとろと流し込む。
目と目の会話で信治さんの意図を見抜いた俺が、さらに自分の唾液を混ぜ合わせ、信治さんの唇を引き寄せる。
互いの口と唇をぐちゃぐちゃに汚しながら、何度も栗花の匂いのする液体が2人の間を往復する。
最後はおよそ半分ずつの汁をゴクリと飲み込むと、もう一度目を明けたままのキスを繰り返した。
結局、俺達はそのまま2回、計3度の射精を繰り返した。
2度目は信治さんの提案で互い違いに寝そべり、相手のチンポをひたすら舐めしゃぶり上げ、直接放出された雄汁を飲みあった。
もちろん一度目と同じように何度も互いの口と口の間を移動させ、十分に堪能したところで飲み込んだわけだが、その行為そのものがより一層の興奮を誘い、3度目への呼び水となってしまう。
この日最後の射精は、また互いの顔を見つめ合ってイこうということにはなったが、先ほどとの違いは射精に至るまでの全身への愛撫の時間だった。
両手を頭の上に回し、脇をびちゃびちゃと唾液がしたたるほどに舐めまわす。そのこそばゆいような、恥ずかしくなるようななんとも言えないような快感を存分に楽しむ。
乳首をチロチロと舌ですすり、立てた歯で軽く甘噛みしてはビクビクと胴体が震える快楽を相手へと送り込む。
尻穴の周りをねろねろと舐め回されると、昨日今日の快感が再び呼び起こされ、切ないよがり声を上げてしまう。
これは初めてだろうと、唾液を溜めた口に足先を咥えられ、舌で指の間を舐め回されたときには、その生まれて初めて味わう快感に悲鳴のような声を上げてしまった俺だった。
全身、相手の舌が這っていないところは無いほどにまで舐め尽くし、舌に絡んだ相手の体毛を指で何度もこさぎ取る。
互いの汗と体臭、精液と唾液、直会で飲んだ焼酎、そのすべての匂いが渾然一体となり、強烈な媚薬となる。
唇を舐め回し、鼻先を甘く噛み、耳元でわざと唾液を啜る音を響かせる。
おそらくこの交わりは、互いの三度目の射精までに、2時間近くもかけていたのではなかろうか。
この村に育ち、この村の男達との交情を長年続けてきている信治さんの放つ技の数々に圧倒されながら、俺は何とか食らいついていくしか無かったのだ。
先ほどまでの放出した汁の名残と、とくとくと流れ続ける先走りと。手のひらに溜めては擦り付ける唾液と、ぐちゃぐちゃと汁まみれの右手が互いのものを扱きあげる。
ときおり赤黒く膨れ上がった先端をぐりぐりと刺激すれば、身体全体を折り曲げたくなるほどの快感が亀頭から脊髄へと駆け上る。
扱き上げ、亀頭を嬲り、イきそうになれば手を止める。
何度も繰り返す寸止めに、同時にイこうとの思いも重なり、一人での暴発は許されなかった。
イきそうになる度に止まる相手の手のひらの動きを恨めしく思い、ふぐりを握る手に力を込めては痛みで互いの気を逸らす。
何度も何度も、いや、それこそ何十回も繰り返す射精寸前へと追い込まれる快感の蓄積に、とうとう2人は最期の刻を迎えようとしていた。
「最後はまた口ば吸いながらイこごたっけん、浩平も目ば瞑るといかんけんなっ!」
信治さんのどこか必死さすらこもる言葉に、俺はもう従うしか無かった。
顔を寄せ、舌先を唇の間にこじ入れる。
互いの舌の輪郭をなぞるように先端を蠢かすと、もう絶頂は目の前だ。
信治さんも俺も、ぐっと相手の頭を引き寄せ、舐め回す唇同士が離れてしまわぬよう、密着させる。
最後の埒を上げる瞬間、互いに塞ぎあった口からは、呻き声だけが漏れ出した。
「ンンッ! ンッ! ンッ! ンンッ!!」
「んふっ、ふっ、ンンッ!」
上向きに仰け反りそうになる頭を必死に押し付け合い、全身で相手の肉体の律動を感じ取る。
痙攣にも似たその繰り返される衝撃を、互いの身体で受け止めあう。
「んっ、んんっ、んっ……」
「…………っ」
2人とも声を出さぬままの数分が過ぎる。
ゆっくりと離した顔の間には、唾液の糸が橋をかけていた。
信治さんはこの日5度目の、俺は良さんに尻穴を犯されながらの2発とその後の全員から汁をかけられながら自分で扱いて出した1発と合わせ、6度目の射精だった。
さすがに2人とも飛距離を稼ぐほどの量では無かったが、それでも腹の毛を汚すほどにはぼってりと汁が垂れる。
もったいないとこれも互いの汁をすすり、唾液と混ぜての交換を行う。
もう俺は、男同士で汁を飲み合うこの淫靡な快楽から抜け出すことは出来ないだろう。
まだ夜明け前だった。
さすがに少しは寝ておこうと、敷き布団カバーを掛け替えて2人で横になる。
少しだけ抱き合って余韻を味わうが、さすがに一気に安堵と疲労と眠気が襲ってきたのだった。
眠りに落ちる寸前、俺は軽くいびきをかき出した信治さんの横顔を見ていた。
低い響きと一緒に上下する信治さんの胸板に手を添える。
その暖かさが、人肌の温もりがあまりに心地よく、俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。
完