雄志社大学柔道部

副主将の受難

その5

 

講義を受けながら

 

 その日、内柴の午前中最後の授業は、同じ柔道部の主将である古賀と同級の吉田も選択している科目だった。サボりがちな吉田も列席しているのは、内柴に対しての何か魂胆があってのことだろう。

 普段は講義室の一番後ろの並びに間を置いて席を取ることが多いのだが、今日は3人が固まり、まるで寄り添うように隣り合わせに座っている。

 

「へへ、シバよお。お前、阿部が用意してくれてた下着、ちゃんと着てきてるんだろうな? しかも昨日からは、あの置き針、乳首に貼られてるんだろう?」

「あ、ああ……。これ、ちょっと動く度に、かなりすげえんだ……」

「どんな感じなんだ?」

「シャツの方はあちこちチクチクするっていうか、なんていうか……。ほら、髪切った後にすぐ洗わなかったりしたら、首筋がチクチクするだろう? あれの強烈なのを、全身で味わってる感じだな。胸の方は、なんかちょっとした動きのときにビクってなるぐらい、強い痛みが走って……。普通に歩いてるときになると、思わず前屈みになっちまう。そうすると、今度は全身がシャツと褌に擦れて、すごいんだ……」

「快感の繰り返しってわけか。それ、お前にしたら、たまんねえだろう?」

「もう1週間近く抜かせてもらってないからな……。朝からおっ勃ったまんま、乾布摩擦もやられるし、もうとにかく、何やらされてもいいからイかせてくれって思うぜ」

「ははは、あくまでお前のために俺達全員でやってやってるんだからな。分かってんだろうな、よ、お前?」

「あ、ああ、もちろんだが……。射精禁止がこんなにキツいもんってのは初めて知ったぜ……」

 

 内柴は食堂での生活が始まって四日目からであったか。下級生の阿部が見つけてきたリネンのシャツと、同生地の反物で作った六尺褌が寮以外で唯一身に付けていい下着とされてしまったのだ。

 どうやらその下着はSM愛好者に日常生活での刺激のために使用されている生地を使用しているらしく、その肌当たりはかなり刺激が強いらしい。シャツは市販のものをそのまま着用させられているが、褌については反物そのものをただ切って締めさせられている。

 体育会、それも肉体鍛錬系の部活として地域の裸祭りや行事に動員されることもあり、六尺の締め方は上の学年の者であれば当然知ってはいるのだが、さすがにきつく締め上げられた前袋の圧迫感と普段からずる剥けの亀頭をざらついた布地に擦られるという二重の刺激は、内柴の股間を否応なしに責め立てている。シャツ単体だけであっても販売しているサイトによれば、常人でも一日フルに着用していることは困難なほどの刺激を与えるようだ。

 ましてや敏感肌の内柴にとっては、全身を小さな針でつつかれるような、とろ火で焙られるような刺激が絶え間なく続くこととなり、それまでは寮にいる時間がメインであった肌の鍛錬という名目が、それこそ24時間にわたって、己の皮膚を管理されることとなったのだ。

 

 部員達が「置き針」というのは、スポーツ選手の筋肉疲労や肩こりの解消に使われる、薬局でも手軽に買える管理医療機器としてのはり治療シールのことだ。

 一見すると磁気治療シールのようにも見える丸いテープの中心に貼られた小さな円形の圧粒子とそこに埋め込まれた短い針が、首や肩、腰や脚周りの圧痛点を刺激し、こりをほぐし筋肉痛を緩和させるのだという。

 

 見た目では陸上の長距離選手などがシャツとの擦れによる擦過傷を軽減させるためにいわゆるニプレスを貼ることがあるが、目的からして違うものであった。

 部員から出たアイデアではあったが、内柴の乳首にはまさにその丸いシールが両方に貼られているのだ。

 説明書には『痛くない』との文言はあるのだが、それはあくまでも通常の皮膚に使用した場合のことだろう。

 敏感な乳首、しかもその先端を押さえつけるようにして貼られたそれが与える刺激は、果たして『慣れ』が生じるものなのか、もともとの提案者である古賀にとってもはなはだ疑問になることではあったのだ。

 

 入浴時も就寝時も与えられる刺激から逃げられない内柴の乳首は、夕食後、部員達の前で慰み者になるそのときに限り針の圧から解放されることになる。

 一日中、刺激を与え続けられた乳首はぷっくりと膨れ上がり、指先が、いや、吹きかけられた息の生むわずかな風の動きにさえ、極度に敏感な反応を示すのだ。

 

「まあ、乳首もチンポも、24時間天国を味わえるってわけだ。俺達に感謝しろよな、シバ」

 

 左に腰掛けた同じ3回生、81キロ級の吉田克彦が、どこか嗜虐性に満ちた笑顔で内柴に話しかけている。

 

「お前のチンポ、講義始まる前からギンギンにおっ勃ててるし、ホント、いい度胸してるよな」

「し、仕方ないだろっ! もうずっと抜いてなくて、刺激ばかりされてるんだ……」

「主将の古賀が提案して、お前もそれを受けたんだ。もちろん今さら嫌とかは言わねえよな?」

「あ、当たり前だ……。俺も男だ。耐えきってみせるさ……」

 

 講義室としてもかなり古い形状の円形教室の席はすり鉢状の段差となっており、それぞれの席の列は前も背側も木の板が張り巡らされている。

 たとえ学生が下半身を露出をして授業を受けていたにしても、それこそ真後ろから覗き込まない限りは分からない造りだった。

 

「あの先生、ひたすらしゃべって板書するだけで質問とかしないからな。講義の間、俺達でたっぷりシバのチンポ、鍛えてやろうぜ。上半身はさすがに見られちまうから、下半身ばっかりにはなっちまうが……。なあ、俊彦」

「あ、ああ……。シバも堪えろよ」

「2人して、いったいなにするつもりなんだよ……」

「へへ、俺と俊彦で、シバのチンポと金玉、ずっと揉み続けてやるからよ。もちろん、褌の布越しにやってやるから、いい感じの刺激も味わいな」

「そ、そんなことやられたら……。こうして座ってるだけでも、俺、先走り出ちまってんのに……」

「さすがにジャージまで濡らしちまったら目立つからな。俺様がちゃんとタオル持ってきてやってるんだ。どれだけ先走り溢れても構わねえけど、射精は絶対すんなよな」

「声、出ちまうよ、俺……」

「そこを我慢するのが、我が柔道部が誇る副主将様だろ? なあ、俊彦。そうだよなあ?」

 

 内柴の尻の下にタオルを敷く吉田。

 尻を上げるその小さな動作に伴う身体のわずかな動きだけでも、身に付けた下着の繊維と縫い目の荒さにひくひくと身をよじれさせるほどの刺激を受けている内柴なのだ。

 

 主将の古賀に対しても下の名前で呼ぶ吉田は、どうやら内柴に対してもある思いがあるらしい。

 3回生の中では1人積極的に寮での責めに加わり2回生らに指示を出しつつ、内柴を責める役を買って出ている。

 

「シバ、お前のでっかいチンポと金玉、俺と俊彦でずっと揉んでやるんだ。感謝しろよ」

 

 あまりにも理不尽な吉田の言い様であったが、『敏感性の内柴のために部員全員で刺激を続け、その克服を行う』という名目の下では、その荒々しい言動もまた正当化されてしまう。

 どこか酔ったような口調で言う吉田もまた、己の股間を昂ぶらせているに違いない。

 そしてそれは、主将であり内柴の右隣でそのデカい尻を押しつけるようにして座っている古賀の下半身もまた、同じような状態であった。

 

「俊彦、俺がシバの亀頭を布越しに揉んでるからよ、お前は玉をやってやれよ。阿部が見つけてきたこの布、すげえらしいしよ」

「あ、ああ、そうだな……。シバ、さすがにイくと匂いで分かっちまうだろう。溜まってるだろうが、吉田が言うように、絶対イくなよ」

「わ、分かってるよ……」

「お、講義始まるぞ。堪えろよ、シバ」

 

 退屈な、と言ってしまえば身も蓋もないだろう。

 後期高齢者に近い教授の話は自著でもある教科書をひたすらになぞるもので、多くの学生が机につっぷして睡眠の時間としてしまっている現状でもあった。

 その中で、一番後ろの柔道部員3人の周囲だけが、ある意味熱を帯びた空間となっていたのは言うまでもない。

 

「んっ、くうっ……」

「声、出すんじゃねえ」

 

 うつむきかげんの内柴の唇から、漏れ出る音はまだかすかなものだ。

 教室の外から聞こえる学内のさざめきや、中頃の席あたりから響く軽い寝息の方がまだ音としては目立っている。

 それでも必死の人間の口から漏れるそれは、周囲の注意を惹きやすいのもまた事実なのだ。

 

「声出すなって言ってるだろう。まったく副主将様は、我慢が利かねえなあ」

 

 小声で叱る吉田の声に、どこか喜色すら浮かんでいるように聞こえるのはうがち過ぎだろうか。

 びくびくと震える内柴の逸物。

 その先端を揉み上げる吉田の手のひらの動きは、言葉に含まれる棘よりもはるかに繊細な動きで、内柴の粘膜を翻弄していく。どくどくと溢れ出る先走りで濡れそぼった荒い布は、乾いたときとはまた違った刺激で、深く切り込まれた内柴の鈴口を、裏筋を、責め立てるのだ。

 古賀が揉み上げている金玉もまた、流れ落ちる先走りでじっとりと湿り気を帯び、まとわりつく布の荒さと先走りのぬめりが、その鶏卵ほどもある大きな双玉の持ち主に強烈な快感をもたらしている。

 

「はあっ、ぬんっ、あっ、くうっ……」

「吉田っ、ちょっと緩めろっ。シバの奴、限界だ」

「堪え性ねえなあ、まったく……。よし、亀頭はしばらく休ませてやるからよ。その代わり、金玉、俺と俊彦で片方ずつキツめに揉んでやろうぜ」

「あ、ああ、それならシバも耐えられるだろう……。シバ、大丈夫か?」

「頼む、少し、少しだけでいい、休ませてくれ……」

「亀頭は休ませてやるって言ってるだろう。金玉は継続だ。分かってるな、シバ?」

 

 ささやき声でありながら高圧的に命じる吉田の表情は、嗜虐の喜びに歪んでいる。

 古賀もまたそれが分かりながらも、止める術を持たないでいた。

 いや、内柴の親友と自負し、幼なじみのライバルとして一緒に成長してきたからこそ、吉田と同じく己の中に灯る昏い喜びに、抗うことが出来ないでいるのだ。

 

「はあっ、玉だけでも、感じちまうっ……」

 

 前屈みになってなんとか刺激を逃そうとする内柴ではあったが、がっちりと身体の両側面に座られ、握力に秀でた2人から逃れることは不可能である。

 ましてや刺激に反応する体動のたびに、上半身を覆うシャツが、乳首に貼られた置き針が、下半身を覆い尻肉を割る麻布の褌が、その肌を、粘膜を刺激し続ける。

 

 内柴の身長の割には大きさが目立つ睾丸が、古賀の分厚い手のひらに柔らかく揉まれている。その揉み具合の柔らかさを心地よく思えば、ぎゅっと力を入れた刺激へと変化する。ころころと転がすような吉田の手の動きは、かと思うと玉を引き抜くような動きへと変わる。

 玉を潰されるような、引っこ抜かれるような痛み。一瞬にして脊髄を駆け上がる突然の痛みが、快感に悶える脳を掻き回す。

 布越しとはいえ金玉へと加えられる刺激は、その両玉をいたぶる手の持ち主が違うがゆえに、予測も付かない動きで内柴を翻弄していく。

 

「はっ、はっ、はっ、はあっ……」

「玉責めも効くだろ? おう、チンポの方はだいぶ休ませてやったんだ。おら、そろそろ亀頭責め、再開するぞ」

「待ってくれっ、もう、もう少しだけ……」

「チンポにしたって、だいたい先っぽだけ揉んでんだ。イく刺激とは違うだろ? 気持ちいいだけなんだから、我慢しろって」

「そ、そんな、あっ、あああっ……」

 

 最初のインターバルまではある意味『雑な』動きをしていた吉田の指先が、自分でも要領を得たのか、より内柴に快感をもたらす動きへと変化してきていた。

 亀頭全体を先走りにぬめる布地で擦りあげていたそれは、裏筋にあてがった親指の腹だけをゆっくりと焦らすようにして蠢かす動きへと変わる。

 裏筋から鈴口の切れ上がりに爪先と布地を押し込むようにしての刺激は尿道の溝にすら入り込み、内柴の逞しい背中を震わせていく。

 見事に張った兜のえら周りを輪にした指先で回転しながら責め上げていく動きが、その見事な逸物の持ち主を悶絶の境地へと追い込むのだ。

 

 吉田の指先と濡れそぼった布地に浮かび上がる内柴の巨根をちらちらと見やる古賀もまた、無意識のうちにか己の手の動きを熟達させているようだ。

 両玉を揉み上げていた動きは片方ずつの玉への圧力と弛緩、表面の撫で上げと指先をめり込ませるようなきつい動きを交互に行い始める。

 亀頭責めの快感と、玉を潰されそうになる痛みと。

 玉責めと同じく2人の手によるそれは連動が取れていないがゆえに、内柴にとっては常に新鮮な刺激を送り続け、痛みすら快感へと蕩けた脳髄が変換せしめていくのだ。

 

 無論、責め手の2人もまた、周囲から隔絶された空間の中で、それぞれの股間を最大限に膨れ上がらせ、とめどなく湧き出る先走りがジャージの布地の色を濃く変色させてしまっている。

 自らの興奮に気付かないほどに、内柴への行為に没頭している2人であった。

 

 亀頭と玉への責めは、男同士ならではのツボを得た緩急の幅の広いものだ。それは停止といきなりの再開を繰り返しにより全身をビクビクと引きつらせて堪える内柴を一時も休ませることなく、講義終了の時間までたっぷり100分もの間、続けられたのであった。

 

「シバ、大丈夫か、歩けるか?」

 

 古賀がふらつく内柴の背中に手を回す。

 力を入れすぎた状態が長く続き、鍛えられているはずの両足に力が入らなくなっていたのだ。

 

「今日は午後の昼練禁止日だし、2コマ連続で一緒の講義あるな。昼からもたっぷりいじってやるから、覚悟しとけよ、シバ。タオル、もうお前の先走りでびっしょりになっちまったから、新しいの用意せんといかんな。ま、俺らの股ぐらも、すんげえことになってるがよ」

 

 週に一度、学期毎の特定の曜日について、過度な練習の規制と講義出席時間確保のため、この大学では昼からの体育会の練習を禁じている。

 各種目で国の強化選手に指定されたものならそうでもなかろうが、一般の部員達に取ってはやはり学位を落とさないようにとの大学側が講じる精一杯の施策でもあった。

 

 にやりと笑いながら言う吉田の言葉に顔を引きつらせている内柴ではあるが、副主将としてのプライドが邪魔するのか、あるいは鍛錬への思いが強いのか、その唇から拒否の言葉が出ることはない。

 そういう吉田も、また古賀さえも、己の股間が内側からの水分によりじっくりと湿っているのを分かってはいるのだが。

 

 細かく震える内柴の肩。その背中をぐっと力を入れて抱いてやることだけが、主将である古賀が出来ることであった。