薬売りの男達

その3

 

先用後利

 

 富山の薬売りのやり方は、「先用後利」と言って、商品先渡し、料金の支払いは後で、という商いである。
 今でこそ気軽に街のあちこちでカードや通帳が使えるようになってはきたが、一昔前までは常に現金を懐に携え、歩いていたものである。そのため、この商いの仕組みでは、掛場先や薬の問屋からの信用がすべてに優先したのだ。
 薬売には昔から言う清廉さが何よりも求められ、賭博や女遊びはきつく戒められていた。禁を犯したものは仲間内でも軽蔑され、最悪の場合は売薬としての権利を剥奪されるほどのものであったらしい。
 また、今では組合の指導で毎週の休みの徹底や家族持ちの月に一度の帰省などが進められてはきたが、以前はまさに盆と正月だけが家族の元へ帰れる休みだったのだ。

 

 働き盛りの男達が同じ屋根の下で一年のほとんどを過ごし、若衆は掛場回りの仕事だけではなく、家事や洗濯と言った帳主の細々とした世話を女房がわりに立ち働く。
 となれば帳主と若衆という絶対的な関係の中で、健康な男達の下半身に溜ったお互いの欲望のはけ口が身近な存在へと向かうのは、ある意味自然の摂理であったとも言えよう。
 雄司さんの話も、男同士の肉体的な接触を求める純粋な思いとして、売薬の家に生まれた男達に脈々と受け継がれてきた「血」というもののせいかもしれなかった。

 

「坊っちゃん・・・。私みたいなおじさんでいいがですか」
「伸さんやから、伸さんがいいがです。それにもう坊っちゃんは止めてください。年下なんだから、雄司でいいですよ」
 「息子を頼む」と代を継いでくれた先代の言葉とともに、「雄司さんを売薬として指導するのは自分しかいない」という思いが頭をよぎる。
 私は雄司さんの顔をぐっと引き寄せると、自分の唇を雄司さんの唇に押し付けてしまった。一瞬身体を固くした雄司さんが、次の瞬間には厚い舌を私に押し入れ、びちゃびちゃと淫猥な音を立てて、それだけで勃起してしまうような口接を繰り返した。
 ずるずると二人の身体が畳の上へと崩れ落ちていく。雄司さんは風呂上がりの石鹸の香りと、わずかに感じるビールの匂いを発散させながら、私の下半身へと手を伸ばしていった。

 

「ああ・・・」
 抱擁のせいで、いったん離れていた雄司さんの手が、再び越中の上から私のものを捉えた。年甲斐もなくおっ勃った魔羅の先端が洗い晒した生地に擦れ、思わぬ快感を呼ぶ。越中の前垂れをはねのけ、魔羅とふぐりをゆるやかに包んだ晒しを爪立てた指でまさぐられる。前袋への刺激は、雄司さんの太い指の動きにつれて下腹部全体へと伝わり、いつの間にかあふれ出た先走りの染みが、晒し木綿の生地へと吸い込まれていった。
 先代とは年齢の差もあり、後年はどちらかというと私が攻める側に回っていたのであったが、年若い雄司さんは積極的に手を出してくる。今日ばかりは雄司さんの欲情に身を任せてみようと、私は全身の力を抜いた。

 

 座布団を枕に横たわった私に、雄司さんが覆いかぶさるようにのしかかる。雄司さんの視線が、木綿地を押し上げた私の下半身へと移動しまた戻ってくる。男臭い顔が間直に迫ると同時にずっしりとした重みが全身にかかり、二人の肉体が一部の隙も無いように密着する。
 舌と舌が庭先のなめくじの交合のように絡み合い、お互いの唾液が混じり合う。唇の端から流れ落ちた涎を雄司さんがべろりと舐め上げ、そのまま首筋、胸へと伝い降りた。

 

「あっ・・・」
 永年の嬲りで快感に勃ち上がるようになってしまった乳首に雄司さんの唇が触れた瞬間、私は思わず声を漏らしてしまった。
 片方の乳首を存分にねぶり回すと、もう片方へと唇が移る。一日の労働で伸びた不精髭が胸をなぞり、それだけで私の身体はひくついてしまう。もう片方の乳首が唾液を潤滑油にくりくりと揉まれると同時に、越中を突き上げた私の魔羅が雄司さんの下腹部でゆっくりとこね回される。お互いの魔羅がごろごろと下半身に転がる感触が何とも言えない快感を呼び起こした。
 性急さの見られないゆっくりとした愛撫に、雄司さんのこの世界での経験が見てとれるのだった。

 

 雄司さんの唇が少しずつ私の中心へと向かい動いていく。脇腹を爪先でまさぐられ、臍のくぼみに舌が差し込まれる。身をよじるようなくすぐったさが、ある時点で快感へと転化する。
 私の突き出た腹の向こうから一度雄司さんが顔を上げる。中年男のすけべさを丸出しにしてにやりと笑うと、雄司さんの顔が私の越中に沈んでいった。

 

「んっ、んんっ」
 布越しとはいえ、やっと与えられた直接的な魔羅への刺激だった。雄司さんは晒しに包まれた私の魔羅に顔を押し付け、股ぐら全体の匂いを楽しむかのようにゆるゆると蠢かす。
 鼻や唇、頬の凹凸が絶妙な刺激となり、勃起が右へ左へと揺れ動く。張り付いた木綿の感触が茂みやふぐりの表面までさわさわと撫でまわし、思わぬところにまで快感がさざなみのように広がる。
 ひとしきり自分の顔で私の感触を味わった雄司さんが、魔羅を根元から先端に向かい軽く噛み上げていく。布越しのむずがゆいような切なさが更なる刺激を期待させる。私は雄司さんの頭に手をやり、びくびくと反り返る自分の魔羅へと押し付けてしまう。

 

 直に咥えて欲しい・・・、そんな私の願いをわざと無視するように、雄司さんは布越しの亀頭をぐっと口に含んだ。べろべろと舐め回す舌の動きはあまりに切なく、のけぞるような快感を運び込んでくる。
 雄司さんの唾液と私の先端から流れ出す先触れの液にぐっしょりと濡れそぼった越中の生地が、亀頭と魔羅にずるずるとまといつく。亀頭から離れた雄司さんの唇が今後は逆に、ふぐりに向かって竿の形をなぞるように降りていくのが分かった。

 

「ああ、雄司さん、いい・・・」
 睾丸の形を確かめるように、ふぐりが生暖かい口中に含まれた。片方ずつの睾丸をこりこりと軟口蓋の間で転がされると、軽い痛みともつかない快感にでっぷりと太った身体を震わせてしまう。
 越中の布越しにべろべろとふぐりの皺まで伸ばすように舐めあげられ、魔羅は握り締められたまま、私の身体の上下動のみで扱かれている。その何とも言えない切なく焦らされるような刺激に、私はだらしなく口を開き、声にならない喘ぎを漏らすだけだった。

 

 ひとしきり股間を嬲った雄司さんの唇がねっとりと糸を引きつつ離れていった。されてばかりでは、と、雄司さんの下半身に伸ばした私の手は、やんわりと制されてしまう。雄司さんが私の身体をくるりとうつぶせに返すと、その肉厚の身体がゆっくりと背中にのしかかってきた。
 いつの間にか雄司さんの腰を覆っていたバスタオルも外れ、かつて久志さんの太魔羅を挟み込んだ私の尻肉に、ごりごりとした太さと熱感が伝わってくる。勃ち上がった自分の魔羅を、ゆっくりと私の尻に擦り付けながら、雄司さんの唇が私の肩甲骨の膨らみをなぞるように蠢く。まるで私の性感帯を一つ一つ探し当てるような、ゆっくりとちりちりとした愛撫が全身に広がった。

 

 ゆっくりと、あくまでゆっくりと、雄司さんは私の全身が開いていくような小刻みな刺激を続けてくる。お互いの魔羅はおっ勃ったまま、先走りをとろとろと流しつづける。
 萎えることを許さないように延々と続けられるその行為は、私が初めて若衆として先代と久志さんに嬲られたときの刺激を思い出させた。
 これほど嬲られてもまだ越中に包まれたままの魔羅が、雄司さんの重みを加えられ畳と腹の間でごろごろと擦られる。雄司さんの唾液と溢れ出た先走りでぬるぬると晒しに擦りつけられるその刺激に図らずも気を遣りそうになってしまい、あわてて重たい腰を持ち上げた私だった。

 

 雄司さんの焦らすような刺激になりふりかまわなくなった私は、自らの手で越中の紐を緩める。うつぶせのままでは何ともやりにくく、立ち上がった。雄司さんが膝立ちのまま、私の腰に手を伸ばしてくる。やっと直に、との思いが私の魔羅を年甲斐もなくびくびくと蠢かせる。
 先ほどまでの布越しの刺激にこれ以上大きくなりようもないほど膨らんだ亀頭が、雄司さんの顔を映さんばかりにてらてらと先走りにまみれて光っていた。
 雄司さんの手のひらがふぐりの底から尿道をぐいぐいと圧迫しながら扱き上げる。左手の親指は裏筋を押し上げるように何度もさすり、右手は亀頭の膨らみを押しつぶすように刺激してくる。
 のけぞるような快感に、亀頭の先端にぷっくりとした先走りが浮かび、継ぎから継ぎへと溢れてくる。雄司さんは私に見せつけるように大きく舌を伸ばしてきた。舌先が大粒の露を掬い取るように、すっと鈴口を舐め上げた。

 

「う、うむ・・・」
 つい、声にならない喘ぎが漏れてしまった。
 さんざん焦らされた逸物に、雄司さんの舌がねっとりとからみついている。雁と鈴口の境目をねろねろと弄り上げられたかと思うと、上口蓋に亀頭を擦りつけるように下側から突き上げる。膨れ上がったエラに軽くひっかけた歯が痛みを感じさせない程度にこりこりと亀頭の周りを蠢いた。
 顔自体は前後に動かさず、雄司さんは舌の動きと唇、ときには歯を軽く当てながら私を追い詰めていく。
 たっぷりと含まれた唾液がだらだらと口の端から流れ落ちるが、それすらもふぐりを揉みしだく右手の潤滑油になる。
 焦らしに焦らされて、やっと最後の瞬間を迎えさせてもらえるような快感だった。この快感を中断させたくない、頂点へと昇りつめたい、その本能的な思いと、自分一人だけで逐情しては、という思いが私の中を目まぐるしく交差する。その心の中のいさかいを楽しむかのように、雄司さんの唇と手の動きが一層速さを増して、私を攻めたててきた。

 

 軟口蓋に擦りつけられ、舌先が強い弾力を持って亀頭をねぶりまわす。ふぐりが揉みほぐされ圧迫から逃れようと金玉が動き回る軽い痛みさえ快感を呼ぶ。唾液と先走りでぐちゅぐちゅと扱かれる魔羅は、もう限界だった。

 

「あ、ああ、雄司さん、もう、イく、イくが・・・」
 膝ががくがくと震え、前かがみの姿勢のまま倒れこみそうになる。私は雄司さんの頭を抱えたままその喉奥深く、溜まりに溜まった雄汁を噴出した。思わず引こうとする私の腰が、雄司さんにがっちりと押さえつけられる。尿道を白濁した汁が通りぬける度に、腹筋が痙攣するように緊張する。立ったままの射精など、数年振りのことだった。
 射精の瞬間までざらついた舌で鈴口を舐め回されるその刺激は、生まれて初めて味わうもので、大量の汁が漏れ出したに違いなかった。

 

 雄司さんは唾液と私の汁を練り合わせるようにして、口一杯に頬張った魔羅をぐちょぐちょと責め上げる。イッた直後の亀頭をねぶり上げられるあまりにすさまじいまでのその刺激に私は悲鳴を上げそうになり、力づくで雄司さんの頭を下腹部から引き離したのだった。

 

 ほとんど尻餅をつくようにして、私の身体が畳の上に転がる。二時間近くをかけてじらしぬかれ、最大限の快感を味わいながら放出した虚脱感が心地よく私の重たい身体を包んでいる。

 

 大の字になり、荒い息をつく私の下半身に雄司さんが手を伸ばし、流れ落ちた汗と雄汁とでぬるぬるになっている後口をゆるゆるとまさぐってきた。
「一段落したら、今度は僕が・・・、伸さん、いいがですか・・・?」
 雄司さんの太短い指が触れるたびに、私の尻穴が切なげに蠢くのを感じる。
 新しい帳主の言葉に答えるかわりに、毛深い固太りの肉体をぐっと力を入れて抱きしめた私だった。

 

 久志さんと先代が、そして先代と私が。代を経るごとに続く薬売りの男達の系譜が、私と雄司さんとの間でまた一つ紡がれようとしている。

 

「私のときもそうだったんですが、初日に男同士、契ってしまうのがどうも売薬の習わしのようですなあ」
「伸さんも初めての日に、親父達にやられたんですか・・・。まあ、これが本当の先用後利って奴かもしれませんね」
 いたずらっぽく笑いながら後ろをまさぐる雄司さんの指が、二人の汗と流れ落ちた汁で存分に潤っている私の尻穴でくちゅくちゅと卑猥な音を立てる。先ほどから太腿に押し付けられている雄司さんの太魔羅が、熱く、堅く、自らの欲望を開放しようとしているさまが、不思議といとおしく感じられる。もこもこと蠢く雄司さんのボリュームのある肉の感触と、しばらく使っていなかった後口の快感への期待に、私の逸物にも再び芯が入り始めた。

 

「確かに、払うのは後でいい、って言えなくもないですがね」
 自分で言った冗談が可笑しかったのか、屈託無く笑う雄司さんを目の前にして、私は少し照れてしまい、いきなり唇を奪ってしまった。

 

 そんな二人の姿を、神棚の上から神農さんの像が見つめている。
 男達の交わりを何十年にも渡ってその目にしてきたその薬と商売の神様は、もう若いとは言えない二人の男の行く末を「困ったものだ」と微苦笑しながら見守ってくれているような気がした。

 

 

方言指導および取材協力

富山在住 K氏