『金精の湯』秘境温泉物語

その7 〆湯

 

「北郷様の全身もほぐれたようですね。では、本日最後の湯に入りましょうか」

 

 時間にしてみると一時間も経ってはいなかったのだろう。

 赤瀬さんから声がかけられた俺は、すぐには起き上がれないほどの快楽の余韻に浸っていた。

 宿守りによる2人係りでの『揉み療』とやらは、俺の身体と心を文字通りの意味でとろけさせてしまっていたのだ。

 

「これ、俺のところに来る前に、朝熊君でもやってこられたんですよね?」

「はい、そうですよ。西山様も『イかせてください』と何度も仰ってましたが、北郷様と同じように我慢していただいています」

 

 若い朝熊君や日高君に取って、あの刺激を受けながら射精を禁じられるというのは、俺や豊後さんとはまた違った苦しさがあったのではなかろうか。

 もちろん、それ以上の快感を味わっていたのは間違いないとは思うのだが。

 

「乳首と亀頭に塗った温泉水、この元の温泉から20倍ほどに濃縮したものを、私たちは『魔剋湯(まかつとう』と呼んでいます。北郷様、乳首と亀頭はどんな感じですか?」

「あ、刺激されていたので逆に気づかなかったんですが、なんかこう、疼いているというか、痒みのようなというか、そんな感じがしてます。熱を持ってる、という感じもします……」

「最後の入湯後、就寝前にもまた塗らせてもらいますね。毎日続けることで、北郷様も私たちのようなぷっくりとした乳首になれますよ」

 

 昨日までの俺なら、この説明そのものを腹立たしく思っていたのかもしれない。

 だが、この温泉で半日を過ごした俺の頭の中は、熟れた野苺のような宿守りの男たちのような乳首に自分のものが変化するというそのことに、異様なまでの興奮を覚えていた。

 

 

 再び、いや、今日だけでも三度目の脱衣所だった。

 集まった俺たち4人の顔は一様に上気し、みなの股間も締め直した越中褌の前垂れを突き上げている。

 

「その、日高君や朝熊君も、大変だったろう?」

「もう、僕、たまらなかったです。黄田さんと緑川さんに責められて、何度イきそうになったか……」

「俺、白山さんに『イかせてくださいっ!』って何度も懇願しちゃいました。その度に『駄目ですよ』って言われて、我慢して。もう何度繰り返したか、分かんないっすよ」

 

 さすがに若い2人に取っては、射精欲の方が大きかったのだろう。

 俺自体は自分で扱いてイきたかったのは山々だったが、なんとか堪えることが出来てたんだと思う。

 

「私も年甲斐無く、イかせてくれって声が出てしまったよ。みんな、同じなんだな」

 

 頬を赤らめ、照れたように言う豊後さんに、どこか色気すら感じてしまう俺だ。

 

「初めての『揉み療』はいかがでしたか。汗もかかれたかと思います。さあ、今日最後の入浴です。洗体は夕食前に皆様済ませていますので、部屋でかいた汗を流して、ゆっくり湯に浸かりましょう。ああ、水分補給も先にやっておきましょうか」

 

 四方さんの穏やかな声が浴室天井に響く。

 温泉の香と、その低い響きが、俺たちの心をまた溶かしていく。

 勧められるままに柄杓2杯の飲泉を済ませ、掛かり湯をした皆がざあーっと流れる湯の音を聞きながら広い湯船に浸かった。

 

「お部屋での施術はいかがでしたか?」

 

 四方さんが訪ねてくる。

 

「その、なんというか、あれほどの快感を同性から受けるなんて、考えてもみませんでした。そして、温泉を煮詰めたものってのを塗られた乳首とチンポの先っぽが、なんかじんじんしてるんですが……?」

「私もこの年になって射精があれほど待ち遠しいものと思ったのは、実に久しぶりだったというか……。まるで10代の頃に戻ったような自分の逸物に驚いた、というのもありますな」

 

 さすがに若者2人は感想を求められても答えられないようで、俺と豊後さんの赤裸々な告白が浴室に谺する。

 

「ちょっとお尋ねしたいんですが、皆でも話したことなんですが、どうにもこの温泉の匂い成分というか効能に、頭がボーッとしてしまう、ということがあるんではないですか? 男性機能の強化という点はすでに実感しているところではあるのですが、正直、宿守りの皆さんの肉体や行為に関しての自分の反応が、どうにも昨日までのそれとかなり違うように思うのですが……」

 

 聞きづらいな、と俺が思っていたことを、豊後さんがうまく言葉にしてくれていた。

 宿守り側の返事がどうなるか、朝熊君も日高君も聞き耳を立てている。もっとも夕方の話が無ければ、若い2人にはそこまで変化を感じ取れないことだったのかもしれなかったが。

 

「さすがに東尾様、北郷様あたりはお気づきになられたかと思います。

 明日にでもお話ししようかと思っておりましたが、せっかくのお尋ねなので、ここにてご説明させていただきましょう。

 東尾様が仰る通り、この『金精の湯』には初めて入湯するものの気と身体を緩ませる効能があるようなのですな。

 なにか科学的な成分があるのかと問われると答えようが無いのですが、この湯を使うお客様の様子を見ていると、どうにもそういう効果があるのだろうと思うしか無いのでございます。

 ただこれにつきましては、重なる入湯により身体の方が『慣れて』くるのか、温泉に接し始めたたごく数日のうちにしか、感じ取れないもののようでございます。

 私どもにいたってはもう何年とこの温泉のうちでの暮らしでございますので、もうたとえしばらくこの地を離れ、再び立ち戻ってもその効果を感じることはほぼ無くなってしまっております。

 皆様方におかれましても、数日、遅くとも最初の7日『慣らしの湯』の期間が終わる頃には、茫洋とした心持ちも晴れてゆかれることかと思いますので、しばらくは身と心を湯に任せ、ゆったりと過ごしていただきたいと思っております」

 

 やはりそうだったのか。

 豊後さんと顔を見合わせる。

 まあ、そうは言っても、だから何だ、という訳でもないのだが。

 

「その、それって、僕たち洗脳されてるとか、そういうことなんですか?」

 

 おそるおそる、といった体で聞くのは一番若い日高君だ。

 自覚は無さそうだったゆえに、話の内容に逆に驚いてしまったのだろう。

 

「どちらかというと心の抑制や先入観に囚われること無く、物事に対して素直になってしまう、という感じなのではないかと私どもは判断しております。

 私たち自身にとってはもうかなり昔のことなので、なかなかしっくりくる説明が難しいのですが、皆様の意思に反して何かを命じることが出来る、などということではございませんし、そのあたりは皆様ご自身でも分かっていただけるのではないかと思っておりますが、いかがでしょうか?」

 

 宿長がこちらに問い返したのは、宿守りである自分からだけの説明ではいけないと思ってのことか。

 日高君や皆にも聞いてもらいたくて、俺は自分の考えをぽつぽつと話し始めた。

 

「確かに『意に反して』という感じではないかな。

 どちらかというと、この温泉の湯気に包まれた中にいると、宿守りさんたちの言葉に素直に従うのが一番いいことなんだ、そう思えてくるし、そしてそれが間違ったこととは思えないし……。

 さっき俺が言った『男同士での行為』ってのも、言われてみると別に嫌悪感を持つ必要ないよなって、思えてきたし……」

 

「あ、俺もそんな感じです。あの、色々測ってもらったときは勢いでなんか話してしまったんですが、あの後、なんか逆にすっきりして自分のチンポ、堂々としてって言うか、普通にしてていいんだなって思い始めて……。それもなんだかここの雰囲気とか、男ばっかしってのがあるかもですが、なんか、素直になれたなって、俺、自分でも思ってました」

 

 この温泉に来るまでは、自分の逸物の大きさに自信が無かったのであろう朝熊君が、胸中を明かしてくれる。

 そう思う背景に『逸物が大きくなる』という効能があることは、彼に取っては仕方がないことだろう。

 

「それにしても、体毛豊かな人と肌を触れあわせることが、あんなに気持ちいいとは始めて知ったな。50近い私でもよがり声を上げてしまったんだ。日高君や朝熊君はどうだったかね?」

 

 だいたいの答えを四方さんから引き出して、頃もよしと判断したのだろう。ざっと手にすくったお湯で顔を洗いながら、豊後さんが質問の矛先を変えてきた。

 

「えっと、やっぱりその、すごかったです。僕の上に黄田さんが覆い被さるように乗ってきて、胸と胸、股間と股間をすり合わせるように全身を使ったマッサージをしてくれて……」

「ああ、あの温泉を濃縮した液体も使ってかね?」

「はい、あれ、すごいですよね。ヌルヌルしたローションみたいな感じで胸と腹、股間をヌルヌルにされたんです。それで上になった黄田さんが、ずるずるって身体を動かすたびに、胸も股間も、その、僕の亀頭が、腹と腹でつぶされるような感じで筋肉と体毛で擦られていくんです。乳首にはぷっくりした黄田さんの乳首が押しつけられて、ぬるつきと絡み合う毛の感触と、それに……」

「それに、どうした?」

「ああ、思い出しただけでもイきそうになります。その、黄田さんの乳首とペニスの先のぶっといピアスがゴリゴリって当たって、もう、僕、ホントにどうにかなりそうでした」

 

 答える日高君の手が、自分の乳首をいじっていた。

 おそらくは無意識のうちに指が伸びているのだろうが、ここにいる湯治客みなが『自分もそうしたい』と考えているのも明らかだった。

 

「たまらん話だな……。朝熊君はどうだったのかね?」

 

「俺は白山さんと赤瀬さんがやってくれて……。

 最初は立ったままで、夕飯前の風呂のときのように2人が俺を挟んで立って、前後からサンドされたんです。後ろから赤瀬さんが俺の胸に手を伸ばしてきて、乳首をいじられながら、おっ勃ったチンポは白山さんが素股で股ぐらに挟みこんでくれて……。

 もうそれだけでたまんないのに、白山さんが後ろの赤瀬さんごと抱くようにぎゅっと手を回して。

 俺、職場でもかなり身体がデカい方だったんですけど、なんだか2人の肉の間に埋もれたみたいになって、その圧迫感がたまらないって言うか……。

 そのままの圧力で俺の身体を揉みほぐすみたいに揺さぶられて、チンポには白山さんのでっかい金玉が当たってすごく熱いし、乳首をいじられながら首筋を赤瀬さんにべろべろやられて、もうよがりっぱなしでした」

 

 日高君、朝熊君と続いた話に俺の股間も熱くなる。

 ただでさえイかず勃起の状態が半日以上も続いているのだ。俺たち4人の逸物が、せつなそうにその頭を揺らしてしまうのは仕方が無いことだった。

 

「やっぱり、その、ここでもイッちゃいかんのですよね?」

 

 朝熊君が宿守りたちに聞くのは、許可さえ出ればすぐにでもぶっ放したいという思いからだろう。

 

「皆様には申し訳ないですが、最初の一週間、この『慣らしの湯』の間は射精はしないようにお願いします」

 

 申し訳ないとの枕はあるが、俺たちにとっては拷問を受けるにも等しい返事だった。

 

「一週間っ?! 普通でもそんなに溜めたこと、無いですよ、俺……」

 

 素っ頓狂な声を上げた朝熊君が、あわてて周りを見回した。

 期せずして自らのマスターベーションの頻度を伝えてしまったと、後から気づいたらしい。

 

「まあ、私の年になるとそんなもんかとは思いますが、この状態での一週間とは、ちと厳しくはありませんか?」

 

 さすがに豊後さんともなれば、丁寧な返しだ。

 

「おつらいことかと思います。しかしこの最初の一週間が、ここ金精の湯の成分がまず皆様の心身に行き渡るための下準備が必要かと考えております。

 初めてこの湯に接する皆様にとって、この『機』は本当に一生に一度しか無いのです。

 この七日間で、温泉の湯と『気』をみなさんの肉体の隅々にまで届けること、そのために体内の男としての精髄を昂ぶらせ、循環させること、そのための我慢と思って堪えてください。

 私ども宿守り一同も、皆様と同じ苦しみを味わうことで、せめてもの罪滅ぼしとは思ってはいるんですが……」

 

 頭を下げる四方さんと宿守りの姿に、俺たちは何も言えなくなった。

 

「だいぶ身体も温まられたと思います。のぼせるのもあれなので、湯船の縁に腰掛けてもらっていいでしょうか」

 

 雰囲気を察してか、宿守りの中では四方さんについでの年になる紫雲さんが、少し身体を冷やす提案をしてきた。

 皆の額から、玉のような汗がしたたり落ちている。

 洗い場の床からは少し高くなっている浴槽の縁に腰掛け、全身を窓からの夜気を含んだ風に当てるのは心地よい。

 座り込んだ俺たち4人の前に、それぞれの担当となる宿守りたちが腰を下ろした。

 

「各部屋での『揉み療』で温泉成分を濃縮した液を胸と股間に塗られたのはみなさん覚えておられますか?」

 

 茶野さんからの質問だが、先ほどあれだけの行為を受けた後で忘れるはずがない。

 

「その、なんか今でも乳首と亀頭がじんじんしてて、つい、手が伸びてしまいます」

 

 日高君の答えは実に素直なものだった。

 

「あれの説明をきちんとしておきましょう。

 皆様はすでに、濃度の違う2種類のものを味わってこられたと思います。

 

 一つは成分を5倍ほどに濃縮した奴で、これはもうとろりとしたぬめりのある化粧水、ローションのようなものと考えてもらって大丈夫かと思います。私どもはこれを『魔剋水(まかつすい)』と名付けております。

 温泉の特徴であるアルカリ性は中和しつつ、海藻成分や薬草などにより、ぬめり感は一層高めていますので、肛門など内粘膜を使った行為にも最適だと思います。

 亀頭や腸壁などの粘膜にはじんわりとしたソフトな刺激が持続し、男としての気の精髄を一層高めてくれるものとなるのです。

 

 もう一つの、揉み療の最後に皆様の乳首と亀頭に塗った、私どもが『魔剋湯(まかつとう)』と呼ぶものは、元の温泉水を20倍ほどに成分を濃縮したものとなります。

 こちらはアルカリを少し残した形で仕上げておりまして、今の皆様の乳首、亀頭ともに熱を持ってかすかに腫れたように感じておられるのではないかと思います。

 これはこの後、就寝前にももう一度、各担当のものより塗らせていただきますが、これによりいわゆるピーリング効果と呼ばれるような、皮膚表面の新陳代謝が大きく促進されます。

 

 まあ『一皮剥ける』という言葉が一番妥当かと思いますが、これを毎日続けることで、皆様の乳首と亀頭はますます熟したような柔らかさと、刺激による増大が見込めるのです」

 

「その、僕の乳首も宿守りの皆さんのように、苺みたいに腫れて大きくなるんですか?」

 

 素直すぎる日高君の質問に、宿守り唯一のひげ面の四方さんが破顔する。

 

「南川様、お嫌ですか?」

「嫌ってわけじゃ無いんですけど、なんか恥ずかしいかなって。ただ、皆さんの乳首ピアスには、ちょっと憧れたりしてます」

「このピアスも乳首増大をした後だと感度が上がって、貫通のときの刺激だけでも射精してしまう人がいるほどなんです。もちろん、肥大した乳首自体も亀頭と変わらないほど刺激に敏感になりますから、私も含め、乳首の刺激だけで射精することも可能になりますよ」

「それは、すごいというか、うらやましいというか……」

「うらやましく思っていただけて、幸いです」

 

 四方さんが赤子も笑うような満面の笑みで、俺たちに話しかける。

 一人一人の許容度の違いはあったかもしれないが、このような話題を自分たちが進んでやるようになるとは、昨日までの俺たちでは考えられないことだった。

 それでも、それすらを不思議と思わぬほどの自己変革が、すでに俺たちの中の共通体験となっている。

 男同士、同性同士で互いの肉体を刺激しあうそのことに、なんら違和感を持たない会話が続いていく。

 

「さて、本日はこの『魔剋湯』、皆様の乳首と亀頭には一度の塗布しかしていませんが、それでもこれまでより刺激に対しての感度はすでにかなり上がっているはずです。

 温泉で温まった粘膜に私どものテクニックで刺激を与えてみますので、昨日までの自分と確実に肉体が変化していることを実感されてください」

 

 床に膝立ちになった赤瀬さんが、俺の乳首にその唇の狙いを定めたようだ。

 4人それぞれに腰掛けた俺たちの眼前で、宿守りたちがその顔を胸へと近づけてきた。

 

「ああっ、黄田さんっ!! 乳首、感じるっ! す、すごいっ!!」

「緑川さん、それはたまらんよっ。ああ、そんな舌先でつぶされるようにされると、声が出てしまう……」

「ひあっ、あ、赤瀬さんっ! 駄目だっ、そんなしたら、俺、感じすぎるっ!!」

「ああああああっ、イきそうになるっ! 俺、白山さんが乳首舐めるだけで、イきそうになりますっ!」

 

 突如俺たちを襲った官能の嵐に、浴室があえぎ声の博覧会となる。

 宿守りたちの舌が、歯が、唇が、乳首の先端を、根元を、乳輪のかすかな膨らみを、舐め上げ、舐め回し、歯の先で軽くひっかき、あるいは先端を軽く上下の歯でつぶすように刺激を受ける。

 その微妙な感触の違いがおそるべき快感となって、俺たちの脳髄を焼き切っていくのだ。

 

「ここで下半身も同時にいじってみましょう。『魔剋水』をたっぷり使います」

 

 遠くに四方さんの声が聞こえるのだが、特に大声を出しているわけでも無いのに耳奥にその柔らかな言の葉が染みこんでいく。

 のけぞるようにして天井を見ていた俺の逸物に、赤瀬さんの手が伸びてきた。

 

「んんっ、んんんんんっ!!!!」

「あっ、ダメっ、チンポ駄目ですっ、ダメっす!!!!」

「これは、たまらんっ! ダメだっ、一気に漏れそうになるっ!」

「ひーっ、黄田さんっ、許してくださいっ、そこダメっ、ダメっ!!!!」

 

 乳首責めで上がっていたよがり声が、一気にに悲鳴のような雄叫びへと変わった。

 ぬるつく魔剋水を溜めた手のひらでずりずりと刺激される先端は、直火を当てられたほどの熱と腰を引きそうになるほどの強烈な刺激に晒される。

 

「堪えてっ、我慢してくださいっ! イッてはダメですよ。イく前のその快感を巡らせて、男としての『気』を肉体の隅々にまで行き渡らせるんです!」

 

 赤瀬さんの毛深い左手が俺の金玉をぬるりとつかむ。

 柔らかに揉み上げられるその刺激と、強烈な亀頭責め。乳首をコリコリと噛みつぶされるような三所攻めに、俺はもう、喉を枯らすような悲鳴を上げるしかなかったのだ。

 

 身体の全面を4人の宿守りに預けていた俺たちの後ろ、湯船の側から、茶野さんと紫雲さんがさらに両胸を揉みしだくようにして責めに加わる。4人の間を六人の逞しい男たちが行き交いながら、男としての『精』の循環を促してくる。

 

「そろそろいいでしょうかね。皆様、よく我慢されました」

 

 四方さんの声にて、やっと夜の入湯のメインとなる儀式が終わりを迎えることとなった。

 荒い息を吐く俺たちに、やはりそれぞれの巨大な逸物を振り立てた宿守りたちが、湯飲みに注がれた温泉の湯を運んでくる。

 

 ああ、これを飲むことで俺たちの心と肉体が変われるのだ。昨日までと違う自分に生まれ変われるのだ。

 心に響くその声は、果たして宿守りたちから言われたものなのか、俺の頭の中だけに聞こえるものなのか、あまりの快感の奔流に疲れすら感じている俺には、もう判断が出来ないほどになってしまっていたのだ。

 

 湯と浴室内の熱気、さらには己の身のうちから噴き上がる欲情の炎に灼かれた俺たちは、いつの間にか脱衣所で身体を拭かれ、就寝用か、宿守りたちの手によって、新しい越中を締め込まれていた。

 

「事前の手紙でもお伝えしていたように、この『慣らしの湯』の期間中は私ども宿守りの担当も皆様のお部屋で休ませていただきます。心身、体調の変化が激しい時期でもありますので、気になることなどありましたら同室のものにすぐにお尋ねください。

 明日の朝は5時起床、裏手の井戸での禊ぎの後、朝の入湯を行います。その後は朝食となりますが、少しずつ皆様にもお声かけをさせていただき、お手伝いをお願いすることになるかと思います。

 それでは何か、質問などはございませんか?」

 

 あくまでも柔らかな四方さんの口調に、俺はもう疲れと眠気で頭がぐらぐらしていたんだと思う。

 

「特に無いようでしたら、それぞれのお部屋にてお休みください。

 日に三度の入湯だけでもかなり体力を消費しているはずです。ゆっくりとお休みください」

 

 時間としてみるとそう遅くもない。22時を回ったぐらいであったろう。

 5時起きは通常の生活ではかなり早いものかもしれないが、日に何度もの温泉療法ともなれば、布団に横になればあっと言う間の高鼾になるはずだ。

 俺はふらふらになりながら、担当の赤瀬さんの大きな身体を支えに、自分の部屋へと戻ったのだった。

 

 

「北郷様。お疲れでしょうけど、本日最後の行が残っております」

「ん、なんだっけ……?」

「北郷様と私の乳首と亀頭に、『魔剋湯』を塗り込んでおくのです。夜のうちにもまた温泉の効能が、北郷様の局部をより敏感なものと変えてくれるでしょう」

「ああ、そうだったな……。かなり、俺、眠く、て、赤瀬さん、頼んでいい、で、ですか……」

「はい、北郷様。褌を外して布団に横になられてください。私がたっぷりと、塗り込めておきますから……」

 

 俺は半分夢うつつの状態で、赤瀬さんとの会話をしていたんだろう。

 褌を解き、とにかく上を向いてねようと横たわる。

 まずは乳首、その後に肉棒の先端を、赤瀬さんの指がぬるぬると這い回る。

 幾度も与えられるその快感の小さな疼きを聞きながら、俺は深い眠りへと落ちていった。