金色の贄

第一部 第一章

若き猪獣人ゴウホウ・センジは王の寝所へと赴く

その1

 

金色の贄

第一部

月と太陽 贄の王たるは獅子王なり

 

第一章

若き猪獣人ゴウホウ・センジは王の寝所へと赴く

 

その1

 

 王城の主塔、その最上階。

 堅牢な作りの広間に淫風が立ちこめている。

 

 円形の主塔、その四分の一を占める部屋は王城内の居室としては最高の場所に位置する。

 都の北に構える広大な石造りの城はその背面を断崖とその下に広がる湖に接し、攻め入るためには強固な守りを誇る王都内の意図的に設えられた何度も折れ曲がりを繰り返す細道を進むしか達し得ない。

 その最上階にて南面するその部屋は、王都とその商圏である広大な地を一望出来る、まさに「王の間」にふさわしい場所であった。

 

 

「んんっ、むふっ、んっ、んんっ」

 

「あっ、すげえっ、俺のチンポが、しゃぶられてるっ、俺の猪獣人のチンポがっ、しゃぶられてるっ!」

 

 

 見れば堅めの広い寝台に張られた真っ白な布の上に2人の屈強な雄獣人が、肌を隠す薄布一つ身に着けず、互いの筋肉の盛り上がりも凄まじいその逞しい肉体を絡めあっていた。

 

 うわずった声で自分の下半身を見つめるのは年若い猪獣人である。

 ゴウホウ・センジ。

 2mを越す厚みのある肉体は、同世代のものの中でも豊かな方なのだろう。

 股間に反り返る逸物は、これもまた大柄な獅子族をもってしても、口中に収まるものではない。赤黒い先端はざらついた舌の責めに打ち震え、唾液と先走りがだらだらと垂れ落ちる太い肉竿は獅子族の太い手で扱き上げられている。

 若さ故かぼってりとしたふぐりは垂れ下がること無く、吐精には遠い始められたばかりの行為の段階で、しっかりと付け根に張り付くようにしてその存在を誇示していた。

 

 全身の筋肉はまだ豊満な脂肪を蓄えるまでには至ってはいない。それでも頭囲よりもはるかに太い首周りや丸々とした両肩の筋肉の盛り上がりを見れば、上半身の筋量の豊かさを誇る猪獣人の種族特性を差し引いても、いかに日々の鍛錬を真面目にこなしているかが見て取れる。

 明るい栗色の体毛から判断すれば、年の頃は20台前半といったところか。その毛色ももう10年もすれば反射を誘う明るさから落ち着いた濃い土色へと変化していく。おそらくは、いまだ勝利、敗北、撤退といった戦功結果での生体ポテンシャル変更を知らぬ、戦場童貞と呼ばれる世代だろう。

 労働現場に出ることなく、教育施設からの直接入隊組か。季節的に入団後の基礎教育が終わり、各部への配属後数ヶ月といったところではあるまいか。

 この豪華な居室に入ることすらも、初めての経験であったはずだ。

 

 猪獣人の若さに対して、四つん這いになって栗色の体毛に覆われた下腹部より雄々しく勃ち上がった肉棒を一心不乱にしゃぶりあげているのは、その黄金色の体毛の落ち着いた色艶を見れば、50に手が届くほどの壮年の獅子獣人であろうか。

 こちらも目の前の猪獣人と同じく、自分の腹肉を突き上げそうな角度で勃ち上がった雄竿を隠す布も無い。

 いや、一心に若者の太棹をしゃぶり上げている獅子獣人の胸回りには、汗にきらめく胸飾りが光っているではないか。

 細かな装飾を施されたその胸飾りは、金色の体毛をまとった雄獣の胸を正中に沿ってみぞおちまでも覆いながらも、肉体の奥底からの興奮にぷっくりと膨れた乳首は一切隠すことが無い。室内の電灯と外光の双方を取り入れたそれは、数え切れないほどの小さな光の粒を周囲の壁面と天井へと投げ返している。

 

 王城最上階の居室でのそのような行為となれば、場内での権力を持つ者が、見初めた小姓を手慰みにしているのであろうか。

 あるいは暇に任せた貴族とやらが、意図的に若い戦士に自分を弄ぶように指示をし、退廃的ともいえるほどの享楽に身を染めているのか。

 

 否。

 

 獅子獣人の顔に浮かぶのは若い獣戦士が自らの口技に翻弄する様を楽しむ様相とともに、どこか諦めにも似た虚無すら感じさせる表情ではないのか。

 無論、若者がその表情を深く読み込む人生経験が無いことを知った上での油断に他なら無かったのではあるが、王の責務としてみればいささか謗りを受けても仕方のない振る舞いであったようだ。

 その任にわずかな不審を持つことすら許されぬ自分の立場に思いが達した瞬間に獅子獣人の表情は一変し、再び若い猪獣人の猛々しい逸物に、媚び、へつらい、そこからもたらされるはずの快感を心待ちにしている淫猥な中年男のそれへと変貌させる。

 端から見ていれば、一瞬のうちに切り替わったその表情の奥底に気がつくのは容易いことなのかも知れなかったが、王城にて身分違いの者と褥を共にするなど初めてのことであるはずの年若い猪獣人に取って、そこまでの冷静さは求めるべくも無いことであった。

 

 ふてぶてしいまでの肉棹をそびえ立たせ、尊大な面持ちで、それでもどこか隠しきれない不安さも醸し出しながら寝台の上に仁王立ちになっている年若い猪獣人は、前線で戦うべき戦士の1人だ。

 突進力に特化した猪獣人は、鋭敏な嗅覚による索敵をも可能な優秀な戦士族として各国の陸軍隊の中角をなしている。

 

 その立ち誇る猪獣体の前に四つん這いになり、猪獣人の生殖器の先端からたらたらと垂れる先走りをいやらしく舐めすすり、膨れあがったその亀頭を愛おしそうにしゃぶりあげるのは、本来であれば腰までも届くはずのたてがみを煩わしくならぬよう顔の周りの長さに合わせ切りそろえている、この王城の主、獅子族たるライド王であった。

 

 様々な外見を持つこの国の獣人族の中でも非常に稀な獅子族の風貌は、代々の王に伝わる緋色のマントをまとえば、その威厳はとどまることを知らない。

 王命を都へと知らせる訓示式では、バルコニーに立つ王の姿を一目見ようと王宮前の広場には大勢の市民が詰めかけるのだ。

 マントと共に引き継がれてきた輝石が嵌め込まれた錫杖は、午後の光を受けてその内反射率の高さゆえに王都の外れにまでその光を一瞬にして届ける。

 金色(こんじき)の体毛に覆われた王の胸に輝くのはこれもまた歴代の王位継承者に伝わる首飾りであり、その豊かな体躯を反映した長さは厚い胸肉に応じてオペラチョーカーほどもある。

 

 式典で王が身に纏うのは、局部を隠すわずかばかりの黒布と手足先のまといつく毛をおさえる脚絆を除けば、緋色のマント、輝石錫杖、チョーカーの三種のみ。

 豊かなたてがみを託す王冠は無い。

 獅子族が獅子族たるにふさわしい頭部全体を覆うその黄金色の額縁を押さえるべきものなど、王の威厳には必要は無いのだ。

 

 張り出したバルコニーに高々と錫杖を掲げ、豊かな体躯を国民の目に曝す王の肉体。

 内容物の体積で小山のように膨らんだ股間の黒布は今にもこぼれ出しそうな双玉をかろうじて支えている。布色ゆえに遠目には分からぬが、近くによればその内に包み込まれているはずの子どもの握り拳ほどもありそうな亀頭の膨らみとエラの張り具合をくっきりと写し取っていた。

 尻肉の間に引き込まれた黒布は1本の紐へと形態を変え後口の上を通り過ぎ、どっしりとした腰部を一周する細紐へと続く。

 マントと錫杖は儀礼式以外で身に着けることは無いが、チョーカーだけは王としての任命時よりその廃位の瞬間まで、湯浴みのときですらその逞しい胸から外されることはなかった。

 

 今、寝台で一心に若い戦士の節くれだった肉竿を舐り上げるその姿は、三種の遺物を身に付け王城のバルコニーに立つ姿とは、あまりにも隔たっている。

 

 

「センジよ、このひとときは我の肉体すべてがお主のものだ。我をどのように扱い、使おうともお主の自由。

 このライド、戴冠して培いしすべての技術をもってお主の要望に応えるがゆえ、思うがままに振る舞うがよい」

 

「お、俺みたいな若造が、王にこんなことするなんて、どうしていいか分かりません」

 

「ふふ、すでに終えた同期の者より色々と聞いてはおろう。教官からもそれなりに言われてはおるかと思っておる。

 我の口も、尻の間(あわい)も、すべてがお前のものだ。

 好きに嬲り、痛めつけ、お主の征服欲を我の、この獅子の肉体にすべてぶつけよ。それこそがお主に課せられた、ただ一つの命題だ」

 

 

 自ら醸し出す発情フェロモンに反応する猪獣人の肉体の奥底から立ち上る雄にしか出せない性臭が、ぐるりと一回りし獅子王の欲情をも促す。

 昂ぶれば昂ぶるほど、互いの肉体を求めてしまうただの肉欲に支配された二匹の獣。

 目の前の若雄と己のでっぷりとしたふぐりに溜まった雄汁を、いかに快楽に満ちた行為の中、たっぷりと吐き出させることが出来るのか。若者に如何に暴発させず、悦楽の極地の瞬間に自らの体内へとその白濁した雄汁を吐き出させるかを、この数十年の実践で蓄えた知識と技量を用いてコントロールする。

 先ほどまで見られた虚無の気配も、自らを昂ぶらせることで振り切ったようだ。

 

「如何にして、この若き猪獣人が王の体内で、極限の快感と支配心に満ちた瞬間に射精を行いうるのか」

 その一点に集中する王の思考と肉体もまた、変貌を遂げていく。

 

 そこにいるのは威厳に満ちた獅子王の姿では無く、その一つの命題だけが快楽に蕩けるような脳髄の中をどろどろに掻き混ぜ、いかような卑猥な行為すら受け入れるという、ただの発情を迎えた一匹の雄でしかなかった。