男性専科クリニック Part 2.5

その3

 

03 セッション開始

 

「今日のセッションの流れを説明しておきますね」

 三人に椅子を勧めた田畑君がA4の紙を渡し、解説を始める。

 

「最初は前回のグループセラピーでやった、握手とハグを着衣から上半身脱衣、その後全裸でやって互いの対人緊張をほぐしましょう。

 その後、EVDを使って山崎さんのペニスの完全勃起を補助します。いつもの治療だとここから射精へと私達がお手伝いしてましたが、今回は先ほどの山崎さんのお話を参考に、先生が少しプログラムを変えて、新しいやり方をやってみたいと思ってます」

 

 EVD(External Vacuum Device)とは、私の治療に使われている陰圧式陰茎勃起補助具の略称だ。

 田畑君が日に灼けた顔をさらに赤くしてるのが分かる。

 なにかとてつもなくいやらしいことをやる、いや、やらされるのかとも思ったのだが。

 そもそも一人で受けるセッションが初めてなので、そういう意味では定番の流れがあるかどうかも分からないのだが、新しいやり方、という田畑君の話と雰囲気に、私がちょっと頭をかしげたのが分かったのだろう。

 野村医師がすかさず捕捉をしてくる。

 

「ああ、セッションの具体的内容はまた後ほど。田畑君も自分でしゃべるのはちょっと恥ずかしいでしょうから」

「助かります。さすがに自分で説明するのは恥ずかしいですよ、これ」

 

 二人の様子から、やっぱりかなりのことをやるんだなと、自分の中でも妙な期待が湧き上がってくる。

 このクリニックの門を潜る前にはまったく思いもしなかったような感情だった。

 

「ではセッションに入って行きましょうか。最初は互いに服を着たままでの、挨拶から握手、ハグの流れをやっていきましょう。前回も言いましたが、ここでは相手の目をしっかり見る、名前をしっかり呼ぶ、握手、ハグにしっかり力を込める。ここが重要です」

 

 野村医師の説明に、まずは田畑看護師とのハグとなった。

 

 3つの椅子を寄せていた場所から立ち上がり、スリッパを脱いでマットの上に田畑君と向かい合って立つ。

 

「田畑君、よろしくお願いします。私、山崎は田畑君と握手と抱擁をしたいです」

「山崎さん、田畑です。握手とハグをしっかりとしたいです」

 

 互いに挨拶を交わした後、視線を合わせながらしっかりと握手をする。

 最近はビジネスシーンでも増えてきたこともあり、ここまでは特にどうということもなく出来てしまう。

 もっとも若い田畑君のほんの少し汗ばんだ手のひらとその握力には、ぐっと来るものもあるのだが。

 

 一歩前に出て、田畑君との距離を詰める。

 互いに手を伸ばし相手の背中に回すと同時に、少し首を左に傾けて肉体同士を近づける。

 田畑君の身体から発する熱気を感じた瞬間、二人の胴体が密着した。

 

「山崎さんの体温が伝わってきます」

「ああ、田畑君の体温も気持ちいい……。首も熱くって、若い人を抱いてるんだなって分かります」

 

 西田とのセッションで何度でも、「気持ちいい」「感じる」などの自分が抱いた気持ちを極力言葉にして相手に伝えるよう言われていた。

 全裸の身体を見て見られ、互いのチンポをしゃぶり合い、射精の瞬間さえ間近で見ているのだ。「恥ずかしい」という気持ちは無くなっていたと思う。

 それでも普通の日本人に取って、思ったままのことを口に出すというのはなんとなく面はゆいものだ。

 

「着衣でのハグはそのくらいでいいでしょう。いったん離れてください」

 下腹部に当たる田畑君の股間の盛り上がりに気付いたとき、野村医師から声がかかった。

 

「次は私と、よろしくお願いします」

 野村医師と同じ内容を繰り返す。

 中年同士の太鼓腹がぶつかりあうが、互いの股間の熱さを感じとれるぐらいにはなんとか密着しようと、腹を引っ込めながら先生の背中を引き寄せる。首筋にかすかに漂う医師の体臭を満喫出来たのは言うまでもない。

 

「抱き合ってるだけでも気持ちいいでしょう?」

「二週間が待ち長かったですよ。先生たちとこうしていられると、とにかく気持ちいいです」

 語彙力の無い自分を恥じるばかりだ。

 野村医師と田畑看護師のハグを見るのも、十分に刺激的だ。

 

 三人がそれぞれとのハグを終えると、今度は上半身の服を脱いで同じことを繰り返す。

 グループセラピーのときには着衣からいきなり全裸だったのだが、今日は私一人ということで時間にゆとりがあるのだろう。段階的に進めていく形らしい。

 

 外国ならいざ知らず、半裸の男同士が抱き合ってる姿は自分の周辺ではまず見かけることの無い光景だ。

 パターン化しないようにと、今度は野村医師と田畑君、私と野村医師、最後に田畑君と私との順番になる。

 抱き合ったとき、いや、抱き合う前から二人の股間が盛り上がっているのが目で、田畑君にあっては抱擁したときの股間に加わる圧力と熱とで、伝わってきた。

 

「田畑君、すごく固くなってますよ」

「山崎さんとこんなことしてるから、当然じゃないですか。僕、先走り多いんで、染み出してきそうです」

「その、後で田畑君の先走り、舐めたいですよ」

「そんなこと言われると、ああ、もう、たまらないです」

 

 自分でも、なんということを言ってるんだと思う。

 古い言葉だと「破廉恥」などと言われてしまう言葉だろう。

 それでもこれまでの治療やセッションで「自分の感じた思いを素直に口に出す」ことの心地よさ、大事さを分かってきてる私だった。

 

 いよいよ、すべての服を脱ぎさってのハグになる。

 これまでの治療やセラピーで互いの勃起したチンポを、握り、しゃぶり、精液を口にしてきた間柄ではあっても、あらためてきちんとした挨拶とハグというのは、毎回どこか緊張してしまうのは、いったいなぜなんだろう。

 服を脱ぐことそのものには抵抗は無くなってきていたが、それでも面と向かった二人の目を見つめることにはドキドキとした鼓動が伴っている。

 

 全裸になった三人が、円を描くように向かい合う。

 田畑君は、そのむっちりとした肉感を日焼けした肌がいっそう強調しているかのようで、しっとりとした肌の質感も相まって思わず手で撫で回したくなるような肉体だ。

 野村医師にあっては170は無さそうな上背に、太い手足、突き出た太鼓腹が私以上に中年の熟成された肉体のパーツとなっているのだが、色白の肌を彩る全身を覆った漆黒の体毛が、とてつもない淫靡さを醸し出している。

 私はと言えば、かつて相撲部だったときの名残は腰や尻回りのデカさには残っているかと思うが、まさに不摂生な中年男そのままでの情けない身体を晒している。それでも元々骨太であった体格が幸いしてか、ゴルフで一緒になった連中などから「いい身体してますね」と言われるのは、ありがたいことだった。

 

 じんわりと太さを増してはきていたが、それでもうなだれたままの我が息子に比べ、野村医師と田畑君の逸物はすでに隆々といきり勃ち、臨戦体勢と言ってもいいほどだ。

 自己申告であったとおり、田畑君にいたっては先端からとろりとした透明な液体がシーツに届くかのように糸を引いている。

 

「田畑君は相変わらず元気がいいな」

「山崎さんと先生とハグして立たないなんて、失礼になるじゃないですか」

「えっと、光栄です、と返せばいいのかな」

 

 ははは、と笑う田畑君の笑顔にホッとする。

 私をリラックスさせようとの野村医師の言葉だった。

 

「最初は山崎さんと田畑君、その後が私と田畑君、最後に山崎さんと私、で行きましょうか。山崎さん、田畑君、それでいいかな?」

「はい、もちろんです」

「僕もいつでもOKですよ」

「それでは、始めてください」

 

 野村医師に促され、田畑君と正対する。

 目を見つめ合う。

 互いに挨拶の口上を述べる。

 右手を出し合い、しっかりと握り合う。

 手のひらに、相対した身体の前面に、互いに相手の体温を感じあう。

 

 その心地よさ、安心感が、「触れる」という行為によって何倍にも拡大されていることが実感出来る。

 

 先を促す医師の言葉は無い。

 二人のペースで事を運べという、無言の指示。

 

「田畑君、裸同士だが、君と抱き合いたい」

「はい、僕も……。山崎さんと肌を合わせたいです」

 

 二人が近づき、互いの背中に腕を回す。

 田畑君の顔が近づくと、ぶつかる寸前にこちらの首筋に顎が埋まる。

 胸と腹、腹と股間、少しずらした太股。

 肉感的な田畑君の肉体と、だらしなく太った私の身体が密着する。

 私の下腹部に、先走りでぬめりかんかんに勃起した田畑君の肉棒が、その熱を伝えてくる。

 

「固くて、熱いよ。田畑君……」

「これだけで、もうイきそうなくらい、気持ちいいです、山崎さん……」

 

 田畑君が厚みのある腰を、わずかに横にスライドさせる。

 その動きに合わせ、ぬるついた先端が私のヘソあたりを這い回る。

 二人の腹の間に挟まれた逸物の異物感そのものが、自分が抱いている相手が同性なのだということを、強烈に主張してきていた。

 

「もっと抱き合っていたいんだろうが、そろそろ私も楽しませてもらっていいかな」

 野村医師の苦笑まじりの言葉に慌てて身体を離した。

 私の下腹部から田畑君の逸物に、先走りが糸を引く。

 

「今度は私と田畑君がやりますから、山崎さんはこれまでよりぐっと近くに寄って見てください」

 

 正対した野村医師と田畑看護師。

 天を突くかのような田畑君の大薙刀と、抜き身の太さが大木をも瞬断しそうな野村医師のそれ。勃起した双剣が互いに相手を刺し貫こうかとばかりに、ひくひくと上下に揺れる。

 

「お二人のチンポ、すごいです」

「ゴロゴロとぶつかると、気持ちいいんですよ」

 

 野村医師が静かに答える。

 挨拶、握手と進んだ二人が抱擁のために一歩ずつ前に出る。

 

「山崎さん。もっと近くに、私達の呼吸が分かるぐらいのところまで、近づいてください」

 

 握手をする相手、ハグする相手となればどれだけ近づこうとも大丈夫なのだが、なぜか見つめる対象として近づく相手については、あまりにその距離が小さくなるとどこか抵抗が生まれてしまう。

 これがいわゆるパーソナルスペースというものかもしれない。と、妙に冷静に考える自分がいた。

 それでも、セッションの間は医師と看護師の言うことは絶対だという、前回のセラピーでの原則があった。

 色白剛毛の肉体に、灼けた肉感的な肌に、ほんの少し動けば触れんとするばかりまで近づくと、抱き合おうとする二人の顔を間近に見ることになる。

 

「先生、こんなに正面に先生見るのは久しぶりです」

「今日は田畑君と山崎さんの肌と、両方味わえるかと思うと、私の愚息もいきり勃つよ」

 

 吐息混じりの二人の切なさそうな声は、実に官能的だ。

 二人が背中に手をかけ、お互いの身体を引き寄せる。

 世代も体型も、体毛も肌の色も違う二人の男が全裸で抱き合ってる。

 野村医師の体毛が、滑らかな田畑看護師の肌を撫でる。

 田畑君の肉竿が、野村医師のそれを斜めに押さえ込む。

 二人の腹が吸い付くようにその形を歪め、脇腹と胸筋に肉の塊が移動する。

 

 互いの体温を存分に堪能したのか、ようやく二人の身体が離れた。

 色白の肌と日に灼けた褐色の肌、その間に二本の糸が透明な橋を架けた。

 

「近くで見ていてどうでしたか?」

「息遣いや熱気が伝わってきて、すごかったです。なんと言えばいいのか、圧倒されたって感じで……」

「ふふ、山崎さんと田畑君のときも、私からはそう見えてたんですよ」

 

 笑いながらいう野村医師の股間は、勃起したまま、こちらをその1つ目で睨んでいる。

 

「さあ、このセッションの最後は、私と山崎さんですよ」

「……、はい、野村先生。お願いします」

 

 ほんのりと上気した野村医師の肌が私を誘う。

 田畑君と位置を入れ替え、医師の正面に立った私の逸物が、ゆっくりと頭をもたげ始めていた。

 私の股間に視線をやった野村医師が、満面の笑みで挨拶をしてくれる。

 

「野村です、毎回山崎さんには新鮮な気持ちで接してほしいと思ってます。今日も頑張ってください」

「山崎です。先生方にはいつもお世話になってます。今日もよろしくお願いします」

 

 力強い握手。

 

「野村先生……」

「山崎さん……」

 

 野村医師のずっしりとした身体をかき抱き、その体毛を全身の肌で味わう。

 西田にマッサージされたときと同じように、真空ポンプを使わずに、私の息子が起き上がってきた。

 

「大きくなってますよ。誰も触ってないのに」

「はい、なんだか不思議な感じです」

「この後のセッションも、楽しみながら取り組みましょう」

「はい、本当によろしくお願いします」

 

 つと身体を離した二人。

 田畑君が近づき、三人でもう一度抱き合う。

 鼓動と鼓動が溶け合い、互いの腰から突き出す三本の逸物が触れあった。

 

「さあ、次のセッションに進みましょう。いつものEVDを使いますが、今回はこれまでとちょっと違う使い方でやってみたいと思います」

 

 野村医師の言葉に、すでに吸引は要らないのではとでも言うように、私の息子がぐんと反り返った。