俺と親父の柔道場

その6

 

「失礼します!」

 

 道場、入口で一度正座して、頭を下げる。

 たとえ裸でも、身体に染みこんだ動作は変わらない。

 

「来たな。さっそくだが、そこに横になってくれ」

 

 親父と爺ちゃん、2人とも俺と同じ素っ裸だった。

 体毛剃るってことで、俺と親父は分かんないことも無かったけど、爺ちゃんまでってなんでなんだ。

 俺のそんな疑問が分かったんだろう。爺ちゃん、ゆっくり答えてくれた。

 

「御藏と禄朗だけに剃らせるわけにはいかんだろうよ。儂も2人が動けんときには『お役士』として『お務め』せにゃならんのだ。代移しの今日、儂もお前達と一緒に、剃る分は剃って、奉納しとかんとな」

 

 ああ、そうなんだよな。

 これまで親父が仕事やなんやらで帰れないときとか、確かに爺ちゃんが『お務め』やってたんだ。

 この『お役士渡し』っての終えても、親父も爺ちゃんも、その任を完全に下ろすわけじゃなくって、あくまで俺がメインになるってだけのことらしい。

 藤堂の家に生まれた男は、ずっとこうやって、神さんの前に精液出してきたんだろうな。

 

「藤堂緑朗、神様の前で、横にならせてもらいます」

 

 俺、神さんの前だとなんか神妙になるっていうか、そういう育てられ方したっていうか。

 俺と親父、2人して一緒に畳の上に敷かれたシートに横になる。

 まずは爺ちゃんが親父と俺を剃って、最後に爺ちゃんを剃るんだろうな。

 着替えのときとか、家でも素っ裸でうろうろしてるときとかもあるので、恥ずかしさは特に無いんだけど、上から身体をじろじろ見られてるって思うと、なんか『クル』もんはあるよな。

 

 うちの男3人、毛深さで言えば爺ちゃんが一番、次が俺、親父は脇と股間、すねを覗けばほとんど生えてないかな。

 着替えのタイミング合えば別に隠すもんでも無し、互いの裸とか見慣れててどうってことないけど、爺ちゃんみたいに全身覆われてるって感じもかっこいいし、親父みたいにあるとこだけ茂ってるってのもいい感じだとは思う。

 俺とか胸と腹にちょろっとあったりするのがかえって中途半端って思ってたんだけど、どうなんだろう。

 

「昔はそれこそ全身の体毛を剃って奉納しておったらしいが、儂の頃にはもう頭と脇と、股座だけになっとった。今日もその形でいくが、いいか?」

 

 爺ちゃんが聞いて来た。

 俺と親父、両方にだろう。

 

「うん、もう、覚悟はしてる。学校でも頭は言われるだろうけど、家のことでって言えばみんなもああそうかって思うだろうし」

「俺も職場では神社のことは皆知っているし、もともと短いしなんとも無いはずだ」

「じゃあ、始めるぞ」

 

 爺ちゃん、床屋さんで見るようなバリカンもって、まずは親父の頭に当てた。

 じーっていう音が耳に届くけど、仰向けで天井見てるからあんまり分かんないんだよな。

 しばらくして脇、股間って進んで「下も刈るぞ」って爺ちゃん言ってる。とりあえず、短くしといて最後に剃り上げるみたい。

 

「次は禄朗だな」

 

 親父の方が終わったのか、俺の頭にもバリカン当たった。

 中学までは丸坊主にしてたし全然違和感無いんだけど、横になったままって爺ちゃんやりにくくね? とかは思ったりで。

 頭上げたりしているうちにこっちも終わって、腕、頭の方に上げて脇の下をざっとやられる。ちょっと引っ張られて痛かったりもしたけど、声上げるほどじゃなかったな。

 

 最後にチンポ周りをやられると思うと、さすがにドキドキだ。

 はじめは臍下をやられて、その後に爺ちゃんにチンポ持ち上げられて、股の付け根んところとか、金玉とか。

 脇のときみたいに引っ張られると痛ってなるけど、これもなんとか堪えてバリカンは終わり。俺も親父もよく勃起しなかったよなって思う。

 

「儂にもバリカンかけてくれ」

 

 って、爺ちゃん。

 親父と俺でやったけど、頭はもともと坊主だったので、脇と股座をちゃちゃっとやって、3人分の体毛をまとめて三宝に敷いた和紙の上に載せておく。

 俺と親父の黒々とした毛に、爺ちゃんの白い毛が混じってる。

 

「いよいよ、最後だな」

 

 親父が言うと、シートの上に3人が集まる。

 今度は2人が正座してんので、俺も倣って座ったんだ。

 

「頭から行くかいの」

 

 これも爺ちゃんが声かけた。

 石鹸を水で濡らしてこすったのを、互いの頭に塗りつけていく。

 剃刀を当てて、今度は爺ちゃんの頭を俺と親父が剃っていった。

 剃り終わって手拭いで拭き上げたら、つるつるになった爺ちゃん、けっこういい感じ。

 親父、俺って具合に左右から2人で剃りながら仕上げたら、3人のつるつる坊主の出来上がり。

 

「脇は切りそうで怖いだろう。片手で引っ張りながら剃るといい」

 

 脇は皮膚のたるみがちょっと怖くて、俺がためらったのが分かったんだろうな。親父がアドバイスくれる。

 こっちは面積狭いせいか親父と爺ちゃんに両側から剃られて、なんか変な感じ。

 くすぐったいの我慢してると、剃った後親父に撫でられて、なんか声出そうになった。

 

「最後は大事なところだ。今度は禄朗から剃ってやるので、足を開いて立ってみろ。がに股みたいな感じで広げて、両手を頭の上に上げておけ」

 

 やっぱり爺ちゃんの仕切り。で、言われた通りに両脚押っ広げて、シートの真ん中に立つ。

 ちょっと腰を落とした感じで股を割って両手を頭の上で組めば、全身見てくれって晒すようなもんだよな。

 

「俺が前をやる。親父さんは後ろを頼む」

 

 えっと、前ってのは分かるんだけど、後ろってまさかな?

 と思ってたら、やっぱり爺ちゃんが俺のケツっぺた広げるようにして、石鹸液を塗りつけてきた。親父は親父で、俺のチンポと金玉周りを石鹸まみれの手で泡立てるようにして塗りつけてく。

 

「元気出てきたな」

 

 やばい、と思ったら、もうダメだった。

 ケツ穴周りを爺ちゃんの指が這い周り、チンポと金玉は親父からぬるぬるした刺激喰らったら、勃たないなんてことにはならんわけで。

 

「勃ってる方が動かしやすい。そのまま萎えさせるな」

 

 親父に言われなくても、もう出さない限り萎えるはずねえじゃん、とか思った。

 ちらっと見たら、親父のも勃ってんだよな。

 俺のをいじってて興奮って、どう考えるといいんだろう。

 

 じょりじょり、しゃりしゃりって、剃刀の刃が当たってる。

 なんとも言えないその刺激、チンポ周りはそうでも無かったんだけど、金玉とケツの辺りをやられるときは、なんかすげえ感じちまったんだよな。

 

「先汁、出てるぞ」

「仕方ねえだろ、若いんだから」

 

 だから親父、目の前の状況を一々解説すなってんの。

 一応自分で『若い』とか言っちゃったけど、親父も爺ちゃんも先走り出てるっぽいし、悪かったかな。

 

「よし、剃り上がりだ。俺と親父さんの前で、ぐるっと回ってみろ。両手バンザイで、脇も剃り残しないか、よく見えるようにな」

 

 親父の台詞に従う俺。

 あぐらかいた2人の間で、両手上げてぐるっと回った。

 爺ちゃんほどでないし、ちょっとだけ生えてる胸毛と腹毛が、逆に恥ずかしい感じで。

 こんなだったら、全部剃ってもらった方が、親父みたいな感じでよかったかなとか思ったり。

 

「……お前も、貫禄、出てきたな」

 

 親父が、俺の全身眺めて呟いた。

 からかう感じじゃない。

 たった今、気が付いた。そんな感じ。

 なんか、俺、ドキッとした。

 俺の年で『貫禄』とか言われたら、普通は『そんな老けてねえよ!』って言い返すようなことなんだろうけど、ここでのそれは、たぶん違うと思った。

 俺、親父に褒めてもらったような気がしてた。

 

「よし、一丁上がりだな。次は俺のチンポ周りを、ロクと親父さんとで頼む」

 

 親父、俺の戸惑いには全然気付かなかったようで、のっそりと立ち上がる。

 さっきの俺と同じように、がに股で俺達の前に全身を晒す。

 上背は無いけど、その分みっしり筋肉詰まってる感じで、俺、またちょっと、ドキドキしちまう。

 

「尻回りは危ないからな。禄朗が前をやってやれ。儂が尻穴の方を剃るからの」

 

 爺ちゃんがそう言ってくれて、俺、ちょっとホッとしたというか、なんちゅうか。

 親父、毛深い方じゃ無いんだけど、それでも陰毛と尻穴周りは黒々としたのが生えてて、尻の方は脇と一緒で、ちょっと剃るのが怖いんだよな。

 神前だし、怪我とかさせたらダメな気がしてたし、金玉も怖いけど尻穴周りよりは剃りやすそうって思ってたんだ。

 

「親父、剃るぜ」

「ああ、頼む」

 

 親父も両腕頭の上に上げて、完全無防備状態。

 俺のを剃ってるときからカンカンにおっ勃ってるので、わざと強く握って左右上下に動かしながら、根元の毛を剃り上げていく。

 俺、親父の先端からも先走り流れ出てるのを見逃さない。

 

「親父だって、もう濡れてんじゃん」

「握られて動かされてんだ。当たり前だろう」

「だったら俺のときだって、わざわざ言わなくていいんじゃね?」

「ああ、そうかもな」

 

 って、なんかこう、親父の冷静っぽいのが腹立つのはなぜなのか。

 

「玉、剃るぜ」

「切らんようにだけは、頼むな」

 

 太股の付け根とかはやりやすかったけど、金玉の表面って臍下に比べても段違いに剃りにくかった。

 

「玉を一つずつ握りこんで、表面の皺を無くすと剃りやすくなるぞ」

 

 爺ちゃんのアドバイスに従って、石鹸でぬめる手で親父の方玉をぐいっと握りしめる。

 なんか親父、一瞬腰を引こうとしたと思うけど、尻穴剃ってる爺ちゃんががっしり腰を押さえてて、どうにか堪えた感じ。

 

「あ、確かにこれだと金玉がつるってなって、剃りやすいや」

「年寄りの言うことも、たまには役立つもんじゃろう」

 

 爺ちゃん、余裕だよな。

 親父を見上げたら、ちょっと上向いて何かに耐えてる様子。

 これって、悪戯心でチンポシゴキ上げたら、あっと言う間にイッちまうんじゃないかな?

 といっても、俺の股間も同じようなもんなんだったけどさ。

 

「済んだよ」

 

 爺ちゃんの方が先に終わってて、俺もなんとか親父の股間、剃り上げた。

 俺と同じように親父もぐるっと回って、全身の剃り残しないかの確認。

 

 最後は爺ちゃんだったんだけど、俺達2人と違ってケツ毛もチンポ金玉周りも、腰や太股の体毛と繋がってて、どこまで剃ったがいいかの判断には迷っちまったな。

 親父と爺ちゃんに聞きながらなんとか剃り終えたけど、結局3人の中では一番時間かかっちゃったと思う。

 それだけ毛深いってことなんだけど、ちょっとうらやましくある俺だった。

 

 3人とも、全身綺麗に拭き上げて、素っ裸&剃り上げた坊主頭でもう一度神棚を前に立つ。

 親父が、さっき刈り上げた髪や体毛を乗せた三宝を、神棚に供える。

 3人一緒に拝礼して、まずは『お役士渡し』の準備が整ったんだった。

 

「さて、ここからは御藏と禄朗、お前達2人でやらんといかん『お役士渡し』じゃ。儂は退散するので、明日の朝まで、しっかりとやり遂げるんじゃぞ」

「親父さんも、とも思うんですが、やはり私1人の方がいいんですか?」

 

 ? 親父が『私』なんて言うの、久しぶりに聞いた気がする。

 職場の人と話すときに、すんげえ昔、聞いたような記憶しかなかった。

 それだけ厳粛な儀式ってことなのかな。

 

「儂からお前にはもう『渡して』おるからな。今回はあくまでお前から禄朗への『渡し』になるんじゃ。なんの、儂も外でお前等の声でも聞きながらセンズリに励むんで、ことが全部成ったら、ちいっと相手してくれればそれでええからの」

 

「分かりました。禄朗、親父さんに、頭下げとけ」

 

 俺、親父にならって、爺ちゃんに深々と頭を下げた。

 なんか、これだけで『藤堂の男』って感じたのは、俺が単純なせいなんだろうか。

 

 爺ちゃんが出ていって、道場の入口の引き戸が閉まる。

 爺ちゃん、さっきはセンズリとか茶化して、いや、実際にセンズリはするんだろうけどさ、たぶん一晩中、俺と親父の様子が心配で外の板の間で聞き耳立ててるんじゃないかな、とか思ったんだ。

 

「ロク、いよいよだな。『お役士渡し』、やることは2つあるっていうのは、覚えているか?」

 

 親父が聞いてくる。

 

「さすがに忘れちゃいねえよ。確か1つは体力を分かち合うってんで、俺達2人で柔道の稽古するってこと。もう1つはその、精力を分かち合うって、その、2人でさ、なんていうか……」

「ああ、そこまで分かってくれてれば、いい。さっそく稽古からだ。普段は直に柔道着を着るが、今日だけは褌を締める。昔、相撲大会で絞めてたが、締め方、覚えてるか?」

「ごめん、ちとうろ覚え」

「俺が手伝うから、ぎちっと締め上げるぞ。稽古中に射精すると危ないからな」

 

 普通、柔道やってて射精とかしないんだけど、って反論しかけて、確かにこすれて感じることもあるし、その後に控えてること考えるとあり得ない話しじゃ無いよな。

 俺と親父、用意してあった六尺褌をきりっと締め上げることにした。

 

「毛剃りで勃ったまんまだな」

「親父だって、そうじゃんかよ。何発か抜かないと萎えないなんてのは、親父だってそうなんだろう?」

「お互い様、だな」

 

 親父、このとき、ニヤって笑ったんだ。

 なんかその顔が、すげえスケベって言うか、男らしさ満載って言うか。俺、ちょっともやもやした気持ちになってた。