男性専科クリニック Part 2.5

その9

 

09 同時射精

 

 やはり年上の方からだろうと、田畑君の身体を抱き寄せる。

 私や野村医師より背の高い肉厚な身体を引き寄せると、少し上向くような形で互いの首に頭を埋めた。

 これまでの行為で汗ばんだ肌が吸い付くようにぴったりと合わさり、筋肉の上にまとった脂肪が互いの隙間を埋める。

 首に埋めた唇に触れる塩気を含んだ汗とむわっと広がる若い体臭が、ますます興奮を誘う。

 下腹部に当たる逸物に火傷しそうな熱を感じているのだが、こちらのものはリングのせいか、少し体温より低い温度で伝わっているだろう。

 リングに押し出されたふぐりが田畑君のそれを押し上げるように突き上げ、肉棒の先端は先ほどまでのローションの残りと溢れる我慢汁に、ぬるぬると鍔迫り合いを開始した。

 

「田畑君、抱き合ってるだけでも気持ちいいよな」

「はい、山崎さん。チンポも玉も、山崎さんの抱き心地も、全部気持ちいいです……」

「このまま、田畑君は立ったままで、しゃぶらせてくれないか?」

「お願いします、山崎さん……」

 

 私は仁王立ちになった青年の前に膝立ちになり、目の前にいななく肉棒を握り締める。

 野村医師ほどの使い込まれた色素の沈着は見られないが、くっきりと張った雁が見事な逸物は、同じ男としても見惚れてしまうほどだ。

 

「しゃぶるよ」

 わざと声に出し、ちらりと上方に目をやると、上向きに顔を上げた田畑君が襲い来るはずの快感を予期してか、唇を噛んで目を瞑っていた。

 

「うあっ……」

 この間の治療で自分がしゃぶられたときを思い出し、口いっぱいに頬張った肉竿にべろべろと舌を絡ませる。

 裏筋を舐め上げ、鈴口の中を舌先でなぶる。

 

「ああっ、気持ちいいっ! 山崎さんのフェラ、気持ちいいです……」

 唾液を溜め、ぐちゅぐちゅと激しく前後に顔を動かせば、頭上から聞こえる喘ぎ声が激しさを増す。

 激しい出し入れの後には亀頭全体を舌と口蓋で押しつぶすように圧をかける。

 

 いずれも私自身が二人からやられた技の再現だった。

 もっともこれまでの治療では、射精願望を一切我慢することなく、イくことそのものが目的ではあったのだが。

 

「山崎さん、僕も山崎さんのをしゃぶりたい」

 

 田畑君の訴えに、名残惜しくはあったが口を離し、ゆっくりと立ち上がる。

 その私を前にして、田畑君の大きな身体が沈み込む。

 わざと私に見えるよう突き出した舌で裏筋を舐め上げられると、尾てい骨から頭頂へと、脊椎を快感の激流が遡っていく。

 

「いいよっ、田畑君の尺八っ、すごい感じるよっ」

 

 リングで締め付けられ敏感になっているのは、亀頭だけでは無い。

 彼の手が触れる金玉、軽く握られた肉竿、鼻先が触れる陰毛。

 そのすべてが快感を引き起こし、腰全体に射精直前の漠たる感覚があっと言う間に渦巻いていく。

 

「ああ、ダメだっ……。そんなされると、すぐにイっちゃうから……」

「まだですよ。まだまだじっくり楽しんで、一緒にイくんだから」

 

 鎌首を振り立てる私の息子から手を離し、田畑君が立ち上がった。

 暗黙の了解で、マットに横になる二人。

 頭を互い違いに横たわれば、目の前に相手の股間がむわっとした雄臭を放つ。

 

「んぐっ、むぐあっ、うっ、ううっ……」

 

 片手で腰を押さえ、もう片方の手は金玉を揉み合う。

 口に頬張った肉棒が下向きに跳ね返ろうとするイキの良さを、なんとか顎の力で押さえていく。

 先端を咥えたまま口中の圧を下げると、すもものように張り切った粘膜が滑らかに口蓋に滑る。

 

「んあっ、あっ、むんんっ」

 

 玉をいじっていた手を離し、太竿のしごきを開始すると、口の中に広がる先走りの塩辛さがいっそう味わいを濃くしていく。ごくごくと飲み干さないといけないのでは、とも思えるほどの先汁が唾液と混じり合い、口の端からたらたらと漏れてしまう。

 

「ぶはっ、山崎さん、気持ちいいっ。すっごく気持ちいい」

「私もだっ、リングですぐイきそうなのに、リングしてるから保つ感じもして、なんか変な感じだよ。ああ、そこっ、そこいいよっ、もっとしゃぶってくれっ……」

 

「シックスナイン、いいですねえ……」

 つい、口に出てしまったのだろう。

 呟きの主の方を見やれば、足を投げ出して座った野村医師が太鼓腹の下のチンポをゆっくりとしごき、せんずりに興じていた。

 

「野村先生もせんずりかいてるよ。ほら、すごくいやらしい」

「ああ、先生が僕たちを見て、興奮してくれてる……。すごい、すごいです……」

 

「私は右手でないとうまくしごけないんだ。こっちに寝ていいかい?」

 

 互いに顔を見ての扱き合いにしようと体位を変えるとき、扱き合いだとすれば関係ありそうだと田畑君に尋ねてみる。

 

「あ、僕は両手どっちも大丈夫なんで。じゃあ、山崎さんが右っかわに来てもらって、僕、左手でしごかせてもらいます」

「ああ、ごめんね。ありがとう……」

 

 私の左手と田畑君の右手を、体動の邪魔にならぬよう頭の下から回し込む。少し窮屈な姿勢ではあるが、空いたそれぞれの手で、いよいよ二人の扱き合いが始まる。

 

「ヒヤッとするよ」

 

 野村医師がローションを二人の勃起に垂らしてくれた。

 完全に黒子に徹してくれるのだろう。ちょっかいも何も出さず、少し離れた場所にまた座り込んで、二人の痴態を観察するらしい。

 

「おおっ、おっ、いいぞっ、田畑君、いいっ!」

「僕もっ、僕も気持ちいいですっ、あっ、亀頭もそんなされるとっ、ああっ、あっ、あっ……」

 

 交互に乳首を舐め合いながら、チンポと金玉を捏ねくり回す。

 ずるりと亀頭を撫であげ、そのまま手のひらで作った肉筒にじゅぼっと先端を押し込んでいく。

 膣や、もしくは肛門か、狭いところに押し込む快感を与え合い、握り潰すようにくちゅくちゅと亀頭を揉み上げる。

 ぬるぬるとしたローションの質感が、皮膚に、粘膜に感じる快感を百倍にもする勢いで増幅させていく。

 

「はあっ、あっ、あっ、イきそうだよっ、田畑君っ……」

「まって、待ってくださいっ、僕、まだですっ……」

 

 慌てて手を止めた田畑君の胸に顔を埋め、イきそうになる衝動をなんとか堪える。

 二人同時の射精というのは、かなり難易度の高い課題なのだと身に染みる。

 

 こちらが落ち着けばその分相手への刺激は強烈になり、相互に射精寸前の昂ぶりをスレスレにコントロールしていく。

 絶頂の瞬間、そのタイミングを合わせようと、声をかけ、表情を読みながら、手を、唇を駆使していくのだ。

 

「おおっ、イきそうだっ、ちょっと待ってくれっ」

「僕も、イきそうですっ! まだイきたくないっ、山崎さんと一緒にイきたいっ!」

「いいぞっ、それいいっ、もっとコイてくれっ、チンポっ、コイてくれっ!!」

「玉、つぶれるぐらいに責めてくださいっ、気持ちいいっ、山崎さんっ、痛いのが気持ちいいっ」

「うあああっ、いいぞそれっ、玉に触れるとっ、もう、たまらんっ!」

「ダメですっ、イきそうになるっ、イきそうになるっ!!!」

「待てっ、まだだぞっ、まだ我慢しろっ」

「そこっ、いいっ、玉も乳首もっ、チンポも全部、いいっ……」

「乳首、もっとしゃぶってくれ、ああ、そんなにされると感じるぞっ、噛んでいいぞっ、田畑君っ、噛んでいいぞっ!」

 

 あけすけな愛撫の指示と、寸止めの要求。

 互いの性感帯を探り、味わった快楽を何倍にもして返そうと、やっきになる。

 ビクビクと震える逸物と、引き上がろうとする金玉。そのたびになんとか落ち着かせ、また次のしごきへと繋げていく。

 

 何度も、何十回も寸止めを繰り返し、もはや相手の手が、唇が、舌が、どこかの肌に、粘膜に触れるどの瞬間にも、射精への欲望が噴出しそうになってきていた。

 

「そろそろいいかっ? 田畑君っ! イけそうかっ、一緒にっ、一緒にイけそうかっ?」

「あっ、あっ、いいですっ、僕もイきたいっ! 山崎さんと一緒にイきたいっ!」

「よし! もう、イこうっ! 二人で一緒にっ、一緒にイこうっ!!」

 

 あまりの快感につぶってしまいそうになる目を何とか開け、田畑君の目を見つめる。

 彼もまた、こちらを観察し、互いの射精への昂ぶりを見つめていた。

 

「キスをしながら、キスをしながらイってください!」

 

 聞こえてきた野村医師の声。

 そう、ここまで私達は、純粋なキスはしたことが無かったのだ。

 

 突然の医師の言葉に、ハッとしたように田畑君も反応する。

 

 イく寸前の昂ぶりを抱えた二人が、キスをしたら。

 互いの唇に相手の体温を感じ、唇を、歯茎を、口蓋を、互いの舌を、舐め合い、しゃぶりあってしまったら。

 

 そこに想像される快楽の誘惑に抗えず、私は貪るように田畑君の唇を奪った。

 

「ううううううっ、イくっ、イくっ、イきますっ、山崎さんっ、イくっ!」

「田畑君、気持ちいいっ、キスが、すごい、気持ちいいっ、私もイくよっ、イくよっ」

「ああっ、イくっ、イくっ、山崎さんと一緒にっ、イくっ、イくっーーーーー!!」

「あっ、出るっ、出るよっ、田畑君と一緒にっ、イく、イく、イくーーーーーーーー!!!」

 

 互いの胸が、腹が、キスを交わしながらの頬が、抱き寄せる圧力に形を変える。

 下腹部から噴き上がる白濁した噴水が、熱いしぶきをまき散らす。

 

 初めての、強烈な快感だった。

 

 生まれて初めて味わう、同性同士の、イく瞬間を合わせた射精だった。

 

 射精直後の脈動を、相手の逸物を感じながら堪能する。

 呼吸の落ち着きを見計らい、もう一度、ゆっくりと唇を合わせる。

 汗と、雄汁と、三人の体臭が施療室に広がっていた。

 それらが合わさった複雑なその匂いを、私は初めて心地いいものだと感じていた。

 

「二人とも、素晴らしかった。本当に素晴らしかった」

 

 身体を起こした私達の肩を、野村医師が抱き寄せてくれる。

 下腹部に飛び散った軌跡を見れば、野村医師もまた私達と同時に射精していたのだろう。

 青臭い初夏の匂いが、でっぷりとした太鼓腹の下から漂ってきていた。