カテキョの時間

その1

 

「翔ちゃん、いるー?」

 玄関で声をかけたのに返事が無い。

 午後5時を回っていても、西日の届くコンクリートの階段や踊り場には、夏の名残がむっとした熱気を伝えてくる。

 

 預かっている鍵をガチャリと回し家に入ったものの、家人のいる気配は感じない。

 集合団地の2階にある家だ。

 

「いないのかな? 部屋で待っとこうかな?」

 

 呟いたのは、まだ少年の面影が残る若者だった。

 少年から青年へと移りゆく若葉の時期を具現化したような、がっちりとした体躯に筋肉の付き始めた伸びやかな四肢が見て取れる。

 

 田野島祐也(たのしまゆうや)、来春には高校受験を控えた中学3年生。

 夏休み前半まで水泳部でならしていた若者は、この2年半の鍛錬の中、肩幅の広いがっちりとした体格を作りあげてきていた。

 肉体の成長に伴い、165センチの上背に66キロという、スピード競技にはいささか似つかわしくない骨太さが現れてきたのは、本人の責を求めるものではあるまい。

 

 この春から、夕方、19時から2時間半ほど、毎週の火曜と金曜日に祐也はこの家を訪ねてきている。

 祐也の幼馴染み、野間翔太(のましょうた)を家庭教師として、勉強を教わるためだ。

 翔太の母親が残業で遅くなることを知っていた祐也の母が、持って行きなさいと夕食の惣菜を用意していた。

 手にした夕食を、勉強の前後どっちで食べるかなあと、部活も無くなった今日は、予定時間の2時間ほど前に、翔太の家へとやってきていたのだ。

 

 以前は自分の家も近くの棟に入居していたこともあり、ましてや幼馴染み、家族同士の付き合いの中、この家に訪れてきた回数は数えられないほどだ。

 勝手知ったる我が家のように祐也は玄関から上がり込み、目的である野間翔太(のましょうた)の部屋のドアを開ける。

 

「しょ、翔ちゃんっ?!」

「うわっ、祐也ったらっ、なんなんだよっ!」

 

 団地の2階、そう広くも無い家に、大声が響く。

 双方が驚くのは無理も無い。

 部屋の主、翔太は浅く椅子に腰かけ、投げ出した足は素肌のままだ。

 突然の人の気配に慌てて足を閉じ、前かがみになって両手で股間を隠す。

 

 野間翔太(のましょうた)、祐也の幼馴染みにして2つ年上の高校2年生。

 

 祐也が中学3年になった今年の春から、祐也の両親から頼みもあり、高校受験に向けた家庭教師をやっている。

 本来であれば、祐也が家に来るのは2時間ほど後の予定であったのだが、その間に1人遊びで煩悩を解消しておこうと思っていたのだろう。

 

 下半身を剥き出しにし、ちらりと見えた翔太の股間は猛々しいまでにいきり勃ち、オナニーの最中であったことは明らかだ。

 

「ご、ごめんっ! 早く来ちゃって、その……。母ちゃんがおばちゃん遅くなるって聞いてたから夕ご飯持っていけって……」

「ばかっ、見ないでくれよっ、祐也っ……」

 

 見るな、と言われ、気が付かなかったようにそっとドアを閉めるような繊細さは持ち得ないものこそが、思春期を迎えた若者だろう。

 机の上に投げ出されたような、人肌の色合い面積の多い雑誌。

 下半身の衣服を脱ぎ捨てた翔太。翔太が家人のいないひとときに若い樹液の噴出を存分に堪能しようとしていたことは、自らもまた同じ行為を夜な夜な行っている祐也には、一目瞭然のことだった。

 

「せんずりなんて、俺も毎日やってるし、翔ちゃんもやってても別にいいじゃん」

「いや、毎日やってようがどうだろうが、恥ずかしいだろう、こんなこと……」

 

 脱ぎ捨てていたジャージを拾い上げ、股間にざっくりとかぶせる翔太。

 

「翔ちゃんもせんずりやってるって分かって、俺、なんか安心したって言うかさ」

「なんだよ、安心って……。いや、祐也が家に来たの分かんなかった僕が悪いんだけど……」

「玄関で声かけたんだけど、せんずりが気持ちよくって、夢中になってたんだろ、翔ちゃん。俺も家でやってるとき、弟いるのに気が付かなくて、焦ったこと何度もあるし」

「智くんに見られたことある?」

「たぶん大丈夫だったかと思うけど、よく分かんないや。智の奴もなにも言ってこなかった、見てはいないんじゃ無いかな……?」

 

 予想もしなかった祐也の出現に、若い滾りも一気にその血流を身体の側に戻したのだろう。

 逸物が平常の状態になるにつれ、持ち主である翔太も少しは落ち着いてきたようだ。

 

「なんだか恥ずかしいとこ見せちゃったな……。ごめん、祐也」

「ほら、翔ちゃんってこういうのすぐ謝っちゃうんだから。翔ちゃんが謝ることじゃ無いって! ノックもしなかった俺が悪いんだからさ」

「ああ、ホント、ごめん……」

「だから謝んないでって言ってるじゃん! もう、翔ちゃんったら、相変わらずなんだから」

 

 二人の口調も、平常のそれに戻ったようだ。

 遠慮の無い祐也の言葉も、年上としての翔太の言葉も、二人がともに過ごして来た年月の長さと豊かさを表している。

 

「あ、おかず冷蔵庫に入れとく!」

「ああ、千春さん、作ってくれたんだ。後から食べようか。ありがとうって言っといてね」

「オッケー、冷やしとく」

 

 祐也がタッパーを抱え台所に向かうと、翔太は脱ぎっぱなしになっていた下着とジャージを身につける。

 

「おかずは冷蔵庫入れといた。で、翔ちゃんは、なにを『おかず』にしてたのかなー」

「あ、それっ!」

 

 翔太が座る勉強机の上を覗き込む祐也。

 祐也が入ってきたときとっさに下半身は隠したものの、自分が見ていた雑誌のことはすっかり忘れていた翔太が、慌てて厚みのある雑誌を隠そうとする。

 

「なにこれっ! 男の人の裸じゃん!!」

「こ、これは、その、あの」

「へー、翔ちゃん、ホモって奴だったの?」

 

 再び慌てふためく翔太。

 祐也が入ってきたとき、とっさに裏返しはしたものの、本そのものは机の上に置いたままだったのだ。

 

 翔太に取り、周囲にひた隠しにしてきた己の性的な指向が一気に白日の下に曝された衝撃。

 祐也が幼馴染みであるがゆえに、いや、幼馴染みで互いの家族の付き合いが深いがゆえにか、高校生の翔太にとっては死にたくなるほどの出来事だったのだ。

 

「ねえ、翔ちゃんって、男の人が好きなの?」

 

 雑誌をぱらぱらと見る祐也の口調が揶揄するものでは無く、好奇心によるものと聞こえたのは唯一の救いか。

 とはいっても、動転している翔太がその微妙なニュアンスの違いに気が付くよしも無い。

 

「軽蔑するだろ? 祐也……」

 

 性指向を知られた衝撃は、若い翔太にとって、オナニーを目撃されたことの比では無かった。

 その衝撃には祐也が親に話してしまい、回り回って自分の母親にも知られてしまうのでは、という恐怖にも似た予測も含まれている。

 

「軽蔑とかしないけど、別に気持ちよければなんでもいいじゃん?」

「……、僕のこと、気持ち悪いとか、嫌いになっただろ?」

「なんで?」

 

 祐也の言葉、そのあまりに素朴な「なぜ?」という疑問符は、翔太の予想外のものだった。

 

「いや、ほら、男同士だと気持ち悪いとか、祐也はそういうの無いのか?」

「だからなんで、気持ち悪いとかなるの?」

「えっ、いや、そうだけどさ……」

「それって、気持ち悪がってるの、翔ちゃんじゃないの?」

 

 オナニーを見られたこと。

 ゲイだということを知られたこと。

 それらの立て続けに起きた衝撃にもまして、かけられた祐也の言葉が、翔太の脳天を貫く。

 

 自分が自分を「気持ち悪い」「変」「普通じゃ無い」と思っていたのか。

 呆然とする翔太に、祐也が再び、屈託無く声をかける。

 

「へへ、俺もなんか、この本見てたら勃ってきちゃった」

「なに言ってんだよ、祐也。お前、ホモじゃないだろ?」

「ホモかどうかとか分かんないけどさ、さっきの翔ちゃんがせんずりしてるとことか、もしあのままずっと見てたら、俺も興奮してたと思うよ。だって、気持ちよさそうじゃん。この本に載ってるのも、みんな気持ちよさそうにやってるじゃん」

 

 1ミリも返す言葉の無い翔太だ。

 確かに快楽の手段として男の射精を考えれば、極論すれば相手がどうであろうが、誰であろうが関係は無いのかもしれない。

 ただそれが、これまで自分が弟のように思い、その成長を見つめてきた相手であれば、どうなのかという疑問の頭の中に渦巻いていく。

 

 翔太に取って、祐也は物心ついたときから互いの家を行き来し、互いの遊びと生活をかなりの時間共有してきた幼馴染みであった。

 弟とも見まごうその関係性の中、自らの反抗期でもあった数年前には、その存在を鬱陶しく思うこともあった。

 それでもその憎めない祐也の自由さ、素直さに、自分の心がどれほど癒やされてきたのかを知る翔太でもある。

 

 自分には無い伸びやかさ、素直さに惹かれ、ゲイと自覚してからはオナニーのたびに浮かび上がろうとする祐也の裸体のイメージを、慌てて雑誌のグラビアを見ることで打ち消そうとしたこともあった。

 

 そんな祐也から出た言葉は、翔太をゲイであると、ホモであると認識した上で出た言葉は、翔太の中にあった頑なな「何か」を溶かしていく。

 

「その、祐也はオナニーするとき、どんなの見たり想像したりしてるの?」

 

 それでも自分のことから話題を逸らしたいという願望が、微妙に的外れな質問を翔太の口に上らせる。

 

「俺? 俺、あんまり本とか見ないかな。コンビニであったちょっとエロい本とかは何冊か持ってるけど、ほとんど頭ん中でシコシコしてる」

「どんなこと、想像してやってるの?」

「俺のズリネタ、知りたいんだ、翔ちゃん?」

 

 祐也の言葉はゲイであるからゆえの翔太の関心を揶揄したものではなく、目の前の兄とも慕う翔太に対して、祐也が抱く純粋に快感を共有する「男の仲間」としてのものだった。

 その真意が翔太に伝わったかどうかはともかく……。

 

「知りたいっていうか、興味があってさ……」

「それ、知りたいってことじゃん」

 

 翔太の緊張で凍っていたかのような場が、再びほぐれていく感覚。

 もっともそれは、翔太の側だけが感じていたものではあったのだが。

 

「俺、具体的には女の人とかよく知らないし、でも裸になってる人がいっぱいいるところとか想像すると勃っちゃう。なんか映画で見たようなプールとかでみんな裸になってるところとか」

「その、プールでとか、いる人は女の人?」

 

 おそるおそる尋ねる翔太。

 心臓が奏でる鼓動が祐也にも聞こえてしまうのではと思うほどだ。

 

「女も男も大勢、かな。あちこちでセックスしてたり、女の人が男のチンポ、しゃぶってたり」

「そういうの、見たことある?」

「友達んところのパソコンでちょっと見たことあるけど、外国のばっかりでなんかちょっと違った。でも、すごく興奮はしたけど」

 

 まだはっきりと固まってはおらず、この先も揺らぎながらではあるのだろうが、祐也は翔太のような根っからのゲイ的な指向があるわけでは無さそうだった。

 何事も包み隠さず言葉に上らせることが出来る祐也の性格は、ある意味の残念さを翔太に伝えるものでもあったのだが。

 

「翔ちゃんはやっぱりこの本みたいに、男の人と色々したいの?」

「……、もう隠しても仕方無いよな。僕、男の人が好きで、中学生のときからもうそんなだったんだ」

「せんずりのときは、やっぱり男の人のを想像して?」

「うん、そうだね。男の人のちんちんしゃぶったりとか、相手のをしごいたりとか、自分がしごかれたりとか、そんなの想像して」

 

 ショックから回復した翔太は、逆に露悪的なほどに自分の指向を開陳していく。

 これまで隠してきた反動もあるのだろうが、祐也の受け止めに、初めて会話が出来る相手との認識がそうさせてしまっているのだろう。

 

「その、こういうの、翔ちゃん、好きなの?」

 

 祐也が示した雑誌のページには、スポーツ体型の青年の股間に顔を埋めている、色黒の男が映っていた。

 明らかにフェラチオを示唆した画像が、割れた腹筋、陰毛の茂りも鮮やかなグラビアとなっている。

 

「うん……」

「しゃぶる方と、しゃぶられる方と、翔ちゃんはどっちがいいの?」

 

 これもまた、祐也の純粋な好奇心から来る質問だった。

 そこには能動側受動側、いずれにも肩入れしない祐也の気質が反映していたのだが、高校生の翔太にそこまで気が付く余裕は無い。

 

「その、どっちもやったことないから……。どっちもやってみたいよ」

「俺もすんげえ気持ちいいと思う。女の人とだと男はしゃぶられるだけなんだろうけど、気持ちよさだと、しゃぶってしゃぶられてって方が感じる気がするけど、どうなんだろう……?」

 

 考え込む祐也の姿を、別の生き物を見るような気持ちになっている翔太。

 そこに表れているのは純粋に快感の総量について考えている若者の姿であり、相手の性別などそこまで重要なものでは無いという、祐也本人にとっては当たり前になっている前提を不思議に思う翔太である。

 

 それまで翔太の側、机の前に立っていた祐也が雑誌を持ったまま、翔太のベッドにごろりとうつ伏せに横たわる。

 翔太の枕に顎を乗せ、シーツの上に広げた雑誌を捲っていく。

 

 部屋に遊びに来たとき、いつも祐也が普通にやっている行為・姿勢ではあったが、今の翔太にはドキドキとした内心の昂ぶりを誘因するものだ。

 なるべく普通に見えるような動きをしようと逆にぎこちなくなりながら、翔太もまた、自分のベッドの端に腰を下ろした。

 

「うわ、これもすごい! これってケツをやってるってこと、翔ちゃん? ホモがお尻でやるって、本当?」

 

 祐也が開いたページでは先ほどの青年が横たわり、その上に腰を密着させるように日焼けした男が身体を寄せている。

 

「たぶん、そうだと思う。ただ小説とか読んでると、女の人とのときみたいなセックスするだけじゃ無さそうだけど」

「どういうこと? ホモって、男同士でセックスするんじゃないの?」

 

 もっともな疑問。もっともな質問。

 

「僕も最初はそう思ってたんだけど、こういう本見てたら、お尻に入れるのはみんなじゃ無いっぽいみたいなんだ」

「お尻が汚いから?」

「いや、そうじゃなくって、お尻は洗うみたいなんだけど。いや、なんて言えばいいのかな、ホモのみんながお尻に入れるってわけじゃないみたいなんだ」

 

 二人の会話は、まるでゲイのセックス講座のようになってきていた。

 これもまた、家庭教師としての翔太の役目なのかもしれない。

 

「ごめん、俺、それってよく分かんない。セックスって女の人も男の人も、どっかに入れて射精することなんじゃないの?」

「僕も本、何冊か見ただけで、あんまり分かってないんだけど、ホモの言う『セックス』って男と女の人との間での『セックス』とは、ちょっと違う感じがしてるんだ」

「どんな感じ?」

「たぶんだけど、お尻に入れて射精するのが最終目的って言うより、お互いが気持ちよく射精する、ってのがある感じがしてる」

「??? なに? どういうこと?」

 

 普通の若者が描く「セックス」とは、確かにペニスによる何らかの「挿入」が前提だろう。

 そこに懐疑を抱く翔太の言葉に、雄太が反応するのは当たり前のことだった。

 

「ほら、さっきのページでちんちんしゃぶってるあっただろう。あれもお尻に入れる前の準備ってことじゃなくって、そのまま口だけでイったり、手でしごくだけでイったりって、色々なんだよね」

「ああ、それならなんとなく分かる。『入れる』のが目的で無くって『射精する』のが目的になってるってことなのかな」

 

 地頭がいいのか、祐也の返答はかなりの理解力の表れだ。

 

「僕もまさにそれだと思うんだけどね。……、なんか変な話しになっちゃったな」

「全然変じゃないよ。なんか、すげえ面白い」

「面白いって、僕からすると、祐也の考えの方が面白いよ」

「なんで? なんか普通の人とホモの人の違いが分かって面白いじゃん」

 

 普通の人、という祐也の言葉に少しだけ胸が痛んだ翔太ではあったが、それもまた無知から来るものだろうと思い直す。

 思春期の同性同士の会話として見れば、密やかにされるべき話しだったのかもしれないが、あっけらかんと話す祐也につられ、翔太もまたその口の動きは滑らかになってきている。

 

「祐也って、いつ頃精通した?」

 

 互いに興味はありながら、あえて話題にすることは無かった話題だ。

 この際、と思った翔太がストレートに質問をしていく。

 

「俺? 俺は中1の夏だったよ。翔ちゃんはいつ頃だったの?」

「僕は小5のとき」

「げっ、早くない? それって? 水泳部のみんな、だいたい中学入ってからって、俺でも早い方だった気がする」

 

 心底驚いたような祐也の言葉だ。

 

「部活でそんな話ししてるんだ?!」

「けっこう色々話してるよ。俺の最初のときも、せんずりってこうやるんだって先輩から教わって智が親父と風呂入ってるときにしごいてたらビュッて出ちゃって」

「初めてイったのが、オナニーだったんだ! 僕は、夢精でやっぱり最初はびっくりしたかな」

 

 小学5年生の秋、下着をべたべたする液体で汚したときの翔太は「病気なんじゃないのか?」の驚きから学校の図書館で百科事典を調べるという、子どもらしからぬ動きをする少年だった。

 そこで学んだ男の生理現象そのものに強烈な興奮を覚えたことが、ある意味同性への指向に気が付いた一つのきっかけだったのかもしれない。

 

「俺も初めてイッた後、夢精することもあるんだけど、しばらくして親父から『母さんびっくりするかもだから、朝から出てたら水道で洗っとけよ』って言われちゃって、バレてるんだって慌てちゃった」

「ええ、お父さんもお母さんも知ってるってこと?! それもすごいなあ……」

「まあ、小学校までは親父と風呂入ってて、見てたりしてたし、1人で風呂に入るようになってからそう経ってたわけじゃなかったしさ」

 

「祐也のお父さんって、かなり前に旅行行ったときに一緒にお風呂入ったぐらいだよなあ」

「あれって、もう5年ぐらい前だったっけ?」

「うん、うちのお父さんの病気が分かってしばらくしてからだったと思う」

「ああ、だったよね。あんまり覚えてないけど、翔ちゃんのお父さん、まだ元気だったもん」

「うん、あのときぐらいまでは元気だったんだけどね」

 

 翔太の父親は2年前にガンで命を落としていた。

 祐也の父親とは消防署に勤める同僚として働いているさなか、検診でガンが見つかり、4年にわたる闘病生活を送ることになっていったのだ。

 

 翔太の父のことは、二人の中では特別に忌避する話しでもない。

 翔太に取っては、もう存分に、哀しみに泣いて、理不尽さに怒って、その中で母を支える自分を奮い立たせてきていた。

 祐也に取っては、両親が話す田野島家との関わりを漏れ聞く中、自らの気持ちの揺らぐ時期とはまた別の感情として「普通に接する」術を学んできていたのだ。

 

「翔ちゃん、さっきせんずりやろうとしてたってのは、溜まってる? 週に何回ぐらい、やってるの?」

「僕は3回か4回ぐらいかな、一日おき、ぐらいな感じで。祐也は?」

「へへ、俺、毎日」

「智くんいるのに、いつやってるの?」

 

 祐也とその弟、小学2年生になる智也の存在と、兄弟同室の田野島家の間取りを知っている翔太としては、もっともな疑問だった。

 

「まだ智の奴、親父と一緒に風呂入ってるから、だいたいその時間かな。親父も夜はいたりいなかったりだけど、そんなときは母ちゃんが風呂入れてるし。だいたい30分は入ってるから余裕余裕」

「兄弟いるとちょっと大変だよね。祐也と智くん、一緒にお風呂に入ったりしないの?」

「さっき言った俺の夢精が分かってからは、一緒に入れって言われなくなったかな。智の奴も親父と入るのが楽しいみたい」

 

 それが祐也の二次性徴に気が付いた両親の計らいであることに気が付くほど、二人は人生経験を積んでいるわけではない。

 それでも夢精が見つかった後、ということに、なんとなくの理由を察している祐也のようだ。

 

「ああ、その点は、うちは気楽と言えば気楽かな。母さん、勝手に部屋に入ったりはしないでくれてるし」

「確かに翔ちゃんみたいに好きなときにせんずりかけたら、うらやましいけどさ」

 

 互いのオナニー事情に腹を抱えて笑う二人だ。

 そこにはオナニーを目撃され、己の性的指向をも明らかにせざるをえなかった瞬間の緊張感は、かけらも残っていない。

 

「翔ちゃんって、この本見て勃起するんだよね?」

 

 ストレートな、純粋な疑問と、純粋な質問。

 

「うん、そうだけど……」

「さっきも言ったけど、俺のもデッカくなっちゃってるし、翔ちゃん、しゃぶってくれたりしないよね?」

「え! それって?!」

「だって、エッチいじゃん」

 

 思ってはいたことだけど、思ってはいけないと思っていたこと。

 祐也の方から口にするなどということは、翔太の思い描いていたこととはあまりにかけはなれていた。

 翔太にとっての祐也はあくまでも「弟のような幼馴染み」であり、その裸体を想像する自分を必死に否定してきたのだ。

 あまりにあっさりとその障壁を乗り越えてくる祐也の言葉に認識が追いつかない翔太。

 

「その、いいの? 男の僕で」

「セックスだと入れるところ違うけど、口だったらどっちでも一緒じゃん」

 

 正しい指摘。正しすぎる指摘。

 

「そりゃそうだけど……。本当にいいの?」

「いいもなにも、俺のしゃぶるの嫌? 翔ちゃん?」

「い、嫌とかそんなんじゃ無くって、祐也の方が気持ち悪くないかなって……」

「だからー、何度も言うけど、それって自分で決める理屈じゃ無いじゃん。俺の方はやってほしいって思ってるんだから、翔ちゃんの方の理屈じゃん」

 

 翔太の方が年上ではあるのだが、この瞬間、理屈で勝っていたのは祐也の方だ。

 その言葉に、意を決したのか、今日初めて、翔太の言葉が言い切りの形を作った。

 

「分かった、僕、祐也のしゃぶるよ。祐也に気持ちよくなってほしい」

「やったっ! いっぺん、やられてみたかったんだよな。こういうのフェラチオとか、尺八って言うんだろう?」

「……、そうだね。僕が祐也のをフェラチオするから、感じてほしい」

「うん、お願いします、翔ちゃん」

 

 知らず知らずのうちに会話の中に問いかけと賛同が組み込まれていくのは、いまどきの性教育を受けている若者らしいことだったのだろう。

 翔太と祐也の間に、明確な「合意」が形成されていた。

 

「下脱いで、仰向けになって」

 

 翔太が珍しく指示を出す。

 

「あ、でも翔ちゃんに勃起したの見られのは、ちょっと恥ずかしいな」

「しゃぶってとか言ってるのに、今さら何言ってるんだよ」

「へへ、それもそうだよね」

 

「……やっぱり、デカいよ祐也の」

「へへ、部活の連中、先輩よりもデカいって評判だったんだ」

「こんなデカいの、ちゃんと咥えられるかな」

 

 そう言いながら祐也のペニスに手を伸ばす翔太。

 

「握るよ」

「うん、翔ちゃん、お願い……」

 

 初めて他人の手で握られる快感の壮絶さは、一定の性体験のある男にとっては誰しもが身に覚えのあることだろう。

 自らの手でしごき上げる行為とはまさに段違いとも思えるその感覚が、まだ浅い体験しか持たぬ若者の心身にどのような影響を与えるのか、二人の若者に理解することは想像すら出来ないことだろう。

 

「んんっ、気持ちいいよ、翔ちゃん……」

「すごいっ、固くて熱い……、祐也の……」

 

 平常時にはかろうじて先端が覗くほどであった包皮が、内容物の巨大化に伴い後退し、大人顔負けのズル剥けの逸物になっている。

 先端の鈴口はパックリと割れ、すでに透明な露をたっぷりと湛えている。

 

「しゃぶっていい?」

「うん、翔ちゃん……」

 

 色素沈着の気配の見られない真っ直ぐな肉棒の先端には、これもまた染み一つ無い瑞々しささえ感じるほどの亀頭がぷっくりとしたすもものように膨らんでいる。

 表面張力が崩れ、流れ始めた先汁をすくい取るように、翔太の舌が肉茎から鈴口へとゆっくりとした歩みを見せる。

 

「んはああああっ……」

「祐也のチンポ、美味しいよ」

「んんっ、すごっ、気持ちいいっ……」

 

 舌を伸ばし、肉棒と亀頭を結ぶ一帯をべろべろと舐め回す。

 

「いいっ、それっ、いいっ!」

 

 唾液と先走りを潤滑油とし、縦横無尽に動き回る舌先。

 味蕾のざらつきすらが快感を与える機能として働き、たまに触れる唇の柔らかさと歯の硬さはさらなる快感を呼ぶ。

 

「こっちも舐めるね」

 

 翔太の舌が、肉棒を支える双玉へと向かう。

 二次性徴を迎えた祐也のそこには、まだ柔毛ではあるが、体毛発生のきざしが見えていた。

 白い肌に黒々とした陰影を刻む翔太のそれとは見た目にはかなりの違いがあったが、「生えてる」というだけの共通項を嬉しがる翔太がべろりと玉を包み込むように、そこに舌を這わせた。

 もう少し年齢を重ねればふぐりの表面に人生の皺もより深く刻まれていくのであろうが、昔で言えば元服を迎える年齢である若者のそれは、舌先で確認出来る皮膚もまだ張りがある。

 

 大人への入口に立つ少年が、生まれて初めてその股間を他人の舌にさらしているのだ。

 

「すげっ、金玉も、気持ちいいっ!」

「玉、いいんだ……。僕も祐也のしゃぶってるだけで、興奮してくるよ」

 

 答える翔太のものもまた最大限にその容積を増し、先端からは露の形状すら保てなくなった先走りがとろとろとした透明な液体をシーツへ垂らしている。

 

「こっから、本番」

 

 刺激する側、しゃぶる側に回ることが自信を生み出しているのか、普段見ることが無い目の輝きが、翔太に見て取れる。

 祐也の若茎の先端に狙いを定め、大きく開けた唇でそっと咥えむ。

 

 デカい……。

 翔太のものもまた同年齢集団の中では平均以上のものではあるのだが、祐也のものはその翔太のものすら頭を下げそうな、まるで規定外のオーダー品のような佇まいを感じるのだ。

 その圧倒的な肉感、質感、長さ太さは、先端のプラムからわずかな部分しか呑み込むことは不可能であろう。

 

 若者らしく、シミ一つない亀頭の滑らかさ。

 人の器官からのものだとすぐに分かる、先走りに含まれている塩分。

 若さならではの特権とも言える、今にも噴き上げそうになっている局部の敏感さ。

 

 それらすべてが、翔太の舌と唇、たった二つの武器によって翻弄され、快感の嵐に包まれていく。

 

 じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ、じゅぷっ。

 

 その巨大さに苦慮しながらも、せめて亀頭の快楽だけでも堪能させようと懸命に頭を振る翔太。

 張り付きそうになるふぐりを引きはがすように手のひらの中で二つの玉を転がす様は、端から見ているものがいたとすれば、痛みすら感じているように思えるのではなかろうか。

 左手は指を回しても足りぬほどの肉棒を、根元から亀頭へと、幾度も幾度もしごき立てる。

 精通からある程度の年月は立っているとはいえ、毎日出しても出したりぬほどの精力と体力は当たり前の祐也の年齢である。

 ましてや初めて他人の舌のぬくもりと、唾液のぬめりと味わっているのである。

 いつその若い樹液を暴発させても不思議では無い。

 

「ちょっ、タ、タンマっ! まだ、ダメっ、翔ちゃんっ!!」

 

 名残惜しそうに手と口を離す翔太。

 翔太もまた、他人の股間に直接触れるという、人生初の体験を堪能していたのだ。

 

「祐也ってば、もうイきそうになっちゃった?」

「うん、すごかった……。自分でせんずりするのとは段違い」

 

 そのとおりの、本心だろう。

 肉棒を握っての上下運動だけでさえ、自らの手と他人のそれとではタイミングや当たり所、力の入れ方など様々な要因により、思ってもみなかった快感を味わえるのだ。

 

「どうする? このまま僕の口でイく?」

「うーん、その、翔ちゃんがよければ、翔ちゃんと一緒にイきたい。ダメかな?」

「祐也、ありがとう。僕も嬉しいよ。じゃ、お互いのでしごき合いしちゃう?」

「うん、やりたい。翔ちゃんのイくときの顔、見たい」

「なんか恥ずかしいけど、僕も祐也のイくときの顔、見たいよ」

 

 翔太と祐也、二人の間にくすくすとした笑い声が漏れる。

 どんなことでも笑いのネタになる、というのは、若さゆえの特権でもあるのであろう。

 箸が転んでもおかしい年頃、ということわざは、決して女性だけに当てはまるものでもあるまい。

 

 恥ずかしさとともに、秘密を共有することによる密やかな仲間意識、というものは確かに存在する。

 同性同士が互いの肉体で快感を味わい合うこと。

 常識という多数派を基準とした者達の中では、表に出すことすら躊躇されることを、互いに共有し、楽しむことは、どこか特別な関係が自分達の間にあるような気持ちにさせてくれる。

 自らの性的指向が同性へと向かっていることを自覚していた翔太にとっては、なおさらのことであった。

 

「祐也って、せんずりするとき右手左手、どっち使う?」

「は? なんのこと?」

 

 突然の翔太の質問に、祐也が面食らう。

 

「んっとさ、向かい合って相手のしごくんなら、右手同士か左手同士かの方がやりやすいかなって……」

「翔ちゃん、なんかすごいこと考えてるんだ」

「いや、だってさ……」

「俺、右手でも左手でもどっちも使うけど、翔ちゃんは右でしょ?」

「うん、そうなんだ」

「じゃあ、俺も右でやるからさ」

 

 妙な合意の話しではあったが、男同士での様々な行為を頭の中でひたすらにシミュレーションしてきた翔太にとっては、大事なことだったのだ。

 

「じゃあさ、祐也も膝立ちになって、向かい合って、やろう」

「うん、俺、すごい勃起してる……」

「僕も、先走りが止まらないよ……」

 

 ベッドを軋ませながら互いを真正面に見る形で翔太と祐也が膝立ちになり、相手の逸物に手を伸ばす。

 

「一緒に握ろう」

「うん、翔ちゃん……」

 

 伸ばした右手がそれぞれのペニスを握り締める。

 中学生離れ、高校生離れした大きさに、指が回りきれないほどの二本の肉棒が、若者の指先にみっしりとした肉感を伝える。

 

「あっ、いいっ、翔ちゃんっ、いいっ……」

「祐也の手も、気持ちいいよ……」

 

 合図など待ちきれないように、上下、前後の扱き上げを始める二人。

 他人の手でしごかれるあまりの気持ちよさが、快感から逃げるかのように思わず腰を引かせてしまう。

 

「ダメだよ、腰をもっと突き出して……」

 

 ここだけはオナニーをやり始めてからの年月の差だろう。翔太が主導権を握ったようだ。

 たくましく肉の張った祐也の尻を、左手でがっしりと押さえつける。

 

「翔ちゃんっ、だって、ああっ、すごいっ、すごい気持ちいいっ!」

「僕も気持ちいいよっ! 祐也、もっと、もっとしごいてっ!!」

 

 溢れ出す先走りが、亀頭と肉竿、互いの手のひらを濡らす。

 乾いた皮膚をしごくときとは桁違いの快感が、若者達の脳髄を焦がしていく。

 

「すごいっ、翔ちゃんっ、すごいっ!」

「いいよっ、祐也のもっ、熱いっ、祐也のチンポっ、熱いよっ!」

「イきそうになるっ、そんなされたら、イきそうになるっ!」

「まだだよっ、祐也っ! 待って、まだ待ってっ、一緒にっ、一緒にイこうっ!」

 

 もう数年もすれば互いの快感をコントロールし、よりいっそうの快楽を求めるようになるのだろうが、ともに10代の若者達がここまで突然の暴発を起こさないだけでもたいしたものであったのだろう。

 

 逸物を扱きあう二人の右手。

 とくとくと溢れ出す先走りが上下運動のスピードにこらえきれず、互いの股間に播き散らされていく。

 亀頭同士を重ねて握り、兜合わせにしては裏筋に感じる互いの体温を感じあう。

 剥けきった亀頭を潰さんばかりに握り締め、ふぐりから駆け上がる白い潮(うしお)を堰き止める。

 

 逃げようとする腰をそのたびに引き寄せ、互いに与える刺激を存分に味わい合う。

 

「ああっ、いいっ、気持ちいいっ……」

「もうっ、イく? 翔ちゃんっ、イく?」

「イきそうだよっ、祐也はっ、祐也はっ?」

「俺ももうっ、もうっ、イきそうっ!!!」

 

 相手の顔を正面に見据えてまだ数分のことではあったが、二人の絶頂は近づきつつあった。

 

「どうする? もう、イく?」

「イきたいけどっ、まだイきたくないっ!! 翔ちゃんは?」

「僕も、もっと祐也としたいっ、もっと感じたいっ!」

「じゃあっ、タンマ、タンマっ!」

 

 手を止め、荒い息を吐く二人。

 

「すごく気持ちいいっ、人にしてもらうのって、すごい気持ちいいんだね」

「うん、僕も、こんなの初めて……。イきたいけど、イきたくないって、ホントそうだと思った」

「止めたら、今度はイきたくなっちゃう……。翔ちゃんもだよね、きっと?」

「うん、祐也の言う通り。しごいてるときはまだイきたくないって思うけど、手を離されると、さっきまでの気持ちよさをまた感じたくなっちゃう」

 

「また、やる?」

「しようよ。今度は、最後に翔ちゃんと一緒にイきたい」

「今度は止めないで、最後までイこう、祐也」

「うん、翔ちゃんの、握るよ」

 

 再び握り合う二人。

 

「はあっ、感じるっ……」

「あっ、ああああっ、さっきよりっ、すごいっ!」

 

 射精寸前まで一度昂ぶった肉棒は、簡単な刺激にもびくびくと痙攣するような動きを見せる。

 

「いいっ、祐也っ、いいよっ……」

「翔ちゃんっ、すごいっ! さっきより、チンポっ、気持ちいいっ!」

「いいよっ、いいっ、感じるっ!」

「翔ちゃんっ、翔ちゃんっ、俺っ、もうっ、もうっ……」

 

 手首を駆使し、祐也の巨根を激しくしごき上げる翔太。

 腕全体を使い、スライドの大きな動きで責め立てる祐也。

 二人とも相手の射精を最大限の快感で迎えようと、その握力を緩めることは無い。

 

「翔ちゃんっ、俺っ、もうっ、イくよ、イくよっ」

「僕もっ、祐也も一緒にっ、一緒にイこうっ、ああっ、イきそうっ、イきそうっ!」

「あっ、あっ、あっ、ダメっ、出るっ! イッ、イくーーーーーーー!!」

「僕もイくっ、一緒にっ、祐也と一緒にっ、イくっーーーーーーー!!」

 

 同時だった。

 射精の瞬間、ぶしゅぶしゅとした音さえ聞こえそうな噴き上げだった。

 若い樹液の匂いが、あっと言う間に部屋に広がる。

 

「あっ、ダメっ、翔ちゃんっ、イッてすぐはっ、ダメっ……」

「祐也もっ、そんなしないでっ、しないでっ!」

 

 射精の快感をより深く味わいたいという雄の本能なのか、二人は互いの腰を押し付け合い、握り締めた逸物にさらに圧力がかかっている。

 腹筋と手のひら、ぬめる汗と先走り、大量の精液が凄まじいぬめりをともない、ぐちょぐちょと相手の肉棒を転がし合う。

 脊髄から脳天へと、快感が貫き上がる。

 

「はあっ、はっ、はあっ……。気持ちよかった……」

「翔ちゃんと俺、一緒にイけたよね?」

「うん、祐也と一緒にイけて、すごい気持ちよかったよ」

 

 快感の余韻を味わう二人が、自然とその身体を寄せ合っていく。

 たった一発とはいえ、濃厚な噴き上げに体力を使った二人が支え合うように相手の肉体にもたれかかる。

 下腹に感じる二本の肉棒は、天を突くほどの剛直は和らげ始めていたが、その太さと熱さを減ずることは無い。

 

「……、祐也、僕、祐也とキスしたい……」

「俺も、翔ちゃんとしたい。翔ちゃんとキスしたい」

 

 腰、腹、胸と密着した最後に、二人の顔が重なり合う。

 自然と傾けられた頭。

 教わったわけでも無く、なにかで学んだわけでも無く、それでも若い舌は相手の唇を求め、舐め、舌先を絡め合う。

 

「キスって、こんな気持ちいいんだ……」

「祐也の唇、柔らかいよ……」

 

 唾液の糸が、唇の間に掛け渡される。

 二人の股間のものが先ほどまでの硬さを取り戻すのに、そう時間はかからなかった。