入会の試練

その2

 

 翌日の午後、公民館に集まっていたのは日高氏を含め3人の男達だった。

 

 狸腹の日高氏と同じような体格でさらに背の低い一人と、柔和な顔をした幾分か若く見える男が畳の間で待っていた。

 年寄り、との言葉に想像していたよりは若くも思えたが、昨日話してもらった日高氏が一番年上で後の2人は五十代半ばのようだ。

 

 聞けば地域の消防団の現役主体が厄晴れ、数えの42才までという形になっており、この辺りではそこを上がったものは皆年寄りと呼ばれてしまうらしい。

 もちろん、その後も役員などで関わる者も多いため、今日は役職のない男達のみが集まったというわけだった。

 いずれも短躯ではあるが、日々の作業労働で鍛えたと覚しい骨太の身体付きにずっしりとした脂肪が乗っており、まだまだ現役の匂いのする男達だ。

 自己紹介を互いに行えば、小狸に見える方がは重黒木(じゅうくろぎ)昭一さん、若く柔和に見える方が日高好雄さん、とのことであった。

 

 このあたりは日高継生氏、日高好雄氏のように同じ姓を名乗る家が多く、かといって直接の親戚では無い、という家系が多いらしい。

 自然と下の名で呼び合うとのことで、こちらからも継生さん、昭一さん、好雄さんと呼ぶことにする。

 

「まずは勇蔵さんは、この踊りの本質は何だと思うとるのかね」

 やはり話の中心は日高継生氏になるのだろう。

 昨日よりは気持ちがほぐれたのか、取り繕った言い方が抜けてきている。

 

「そうですね、五十嵐さんから聞いたひょう助とおみな=おかめの逸話からは、神隠しか、もしくは権力者による若い女性の拉致か、いずれも地域の女性を理不尽に奪われた男達の悲嘆や怨みといったものが、まずはあったのかと思いました。

 かといって相手が神や権力者であれば、何か直接の申し立てをするというわけにもいかない。

 そのため、狐を神や権力者の象徴と見立て、それにおかめとひょっとこを配して神楽や踊りを奉納すること、あるいは神の名代としての踊り子へと代えることで、そのマイナスに向かおうとする感情を笑いや朗らかさといった行動に転化して、プラスの方向へ向けようとした結果なのではと思っています」

 

 勇蔵の話しに聞き入る3人だが、どこか子どもの学芸会の発表を見ている年長者達、という風情が漂っていることも事実であった。

 

「本当によう勉強しておらるるが、儂らに伝わっとる話からすれば、半分正解、半分間違い、というところかの」

 

「後の半分というのは……?」

 

 狸腹の昭一さんが、ひょいと口を挟む。

「勇蔵さんの説だと、ひょっとこ男が何人も祭りの列に加わり、最後には場を浄めるものすらおるところが説明しきれんだろう」

 五十嵐氏から聞いた話では、そのとき参拝していた村人も一緒に付いて行った、との部分だ。

 

「箒で掃き清める男は神聖な神社としてのエネルギーの回復の象徴、ひょっとこ男が何人も連なるのは、その年その年の本厄の男の数に規定されているのでは?」

 勇蔵も自分なりの推理を展開する。

 どこか謎解きにも似た会話が心地よい。

 

「話は逆じゃよ、逆。それに根はもっと単純なことかもしれんぞ」

 

 六十に手が届きそうな継生氏は、勇蔵の話をからからと笑いながら聞いている。

 その姿はワトソン役の勇蔵が展開するかっちりとした推理を、阿片の煙を漂わせながら楽しむホームズのようだ。いや、見た目から言えば、ポワロのような座り姿であるのだが。

 後の2人も余所者の推測を聞くのが面白いのだろう。少なくともこちらを拒絶する雰囲気は伝わってこない。

 

「これは儂の家に伝わる元々の話、とされているものじゃ。話の中身はうちの会の名前のこととも重なる。

 向こうの五十嵐さんところから始まっとる会の名前と、儂らのところの会の名前を聞いてて、どこか不思議に思わなかったかの?」

 継生氏は話の元となった宮司の子孫らしいが、今は神職は継承しておらず、半農半林を生業とされている。

 

「そういえば、こちらの会は『ひょうとこ会』と仰ってましたね。

 なまりの違いか「ひょう助」が転じたものかと思ってました。

 五十嵐さんのところや踊りの伝授を受けたところは県外含め、『ひょっとこ会』とされていると思いますが……」

 

 この地方の方言にはあまり詳しく無い勇蔵であったためか、ひょうとこ、ひょっとこ、との違いは、せいぜい発音に関する方言上の音便の違いか、あるいは男の側の「ひょう助」から来たものだと思っていたようだ。

 どうやらこの継生氏の話だと、また別の理由があるらしい。

 

「五十嵐さんの方に伝わっとる「ひょう助」というのが郷土史書にも載っとる訳だが、儂らに伝わっとる話とは、もうそこから違っておる」

 なにか、勇蔵の背中にぞわりとするものが流れる。

 

「うちに伝わる話では、女の方の事情は勇蔵さんが想像した内容とほぼ一緒じゃ。

 歴史の中のある時期、この辺りの娘の中から、時の為政者や神と名乗る者への慰め者として、村の維持には影響しないほどの人数が提出されていたのであろう。

 もしかすると生産性の低い村落の中、力無きおなごが、他の地域からの生活に必須なものを購入する資金として売り飛ばされたのやも知れん。

 そのことそのものは、その時代としてはそうそう珍しい話では無かったのかと思うとる。

 それがおそらく、飢饉かなにかで村落の人口そのものが急激に落ち込んだ期間があったらしい。

 ところがその時の為政者、あるいは神とも名乗る者は、その納められるべき人数を一切容赦せず、所帯を持つ女や、あまつさえ腹の中に子を成している者にまで手をかけた」

 

 想像はしていたことではあるが、その時の村民の子孫が目の前にいるともなれば、なにか不思議な感覚を覚える勇蔵である。

 

「そのときの攫われた女の相手の男が祟り神とならぬよう、踊りに封じたのでは無いんですか?」

 

「それだとひょっとこが複数人おるのはおかしかろ?」

「それこそ、先ほど言った厄年の男の人数に左右されていたのでは、あるいは継夫さんの仰る『何人もさらわれたのかも』という娘たちの相手や親もいたのではと思うんですが」

「そこが逆だと言うんじゃよ。厄年の男が踊るとしとるのはあくまでも五十嵐さんの方の神社での話であって、それは向こうの踊りとして形作るときに決められたもんじゃ。それに元の神楽でもわし等の伝承でも、女については『おみな』1人となっておる」

 

「こちらではひょっとこ面の男達の意味合いが市内のものとは違うということですか?」

「まあそういうことになるな」

「では、いったいひょっとこ男の群れは何を差しているんでしょうか?」

 

「それこそが儂達が伝承しておる踊りの真の姿の大事な部分となっとる。

 勇蔵さんは、ひょっとこ共のあの腰の動きは何だと見ておるのかね?」

 

 どうやら踊りの中で特徴的に現される、あの独特の跳ね上げるような腰の動き、あからさまに男女の交合の様を模した動きが鍵のようだ。

 

「男女の交わりを表しているのかと思ってはいますが……」

「攫われた、拐かされた女を思ってのものかの?」

 

 話を聞いている勇蔵から、あっという声が出た。

 

 言われてみれば、狐に付いて行く女を思うのであれば、情交の様を再現している暇など無いはずだ。

 歯を食いしばり、血涙を流し、島に一人流された俊寛のように足摺りをするのが、残された男としての切なる想いであろう。

 

「ではなぜ、あのような踊りに?」

「そこじゃよ、そこじゃよ」

 継生氏はニコニコと笑いながら、ようやく分かったか、といった風体である。

 聞き上手な小坊主に経を教える、ふくよかなお坊様、といったところだ。

 

「儂らの会の名前にもなっとる『ひょうとこ』とは、こちらの言い伝えでは『日を追う男』のことを指しておるのじゃ。

 だれか特定の1人を指すのではなく、村の男達がいなくなった女を日がな一日、それこそ太陽が照らすところを東の果てから日の没する西の山まで、あまねく探し回った行列のことよ」

 

「それならば確かにひょっとこが複数人というのも納得出来ます。今の行方不明者と同じく、男達が複数人で探し回ったものでしょう。

 ですが、あの踊りの振り付けは男女の交合を模したもので無いとすれば、いったい何を表したものなんでしょう」

 

 勇蔵が当然の疑問を口にする。

 

「それもまた、単純に見たままのものを踊っておるんじゃ。ひょっとこが腰を振るとき、片手は前に突き出しておるが、もう片方の手はどんな動きをしておったか覚えておるか?」

「図書館のビデオでもかなりの数を見たんですが、確か腰の動きと一緒に曲げた手を内側に向けて顔を半分隠すようにしていたかと思います」

「では、狐の方はどうじゃったかの?」

「先頭の狐面は低い姿勢で身体の前の綱か棒を、手繰るというか、扱くというか、そんなものだったかと」

「わし等の方では、元々の神楽舞での狐、おかめ、ひょっとこは同じ者を指しとるとなっちょる。つまりは踊りに託されたのは、残された村の男共のみと言うことになっちょった」

「登場人物が男達だけの踊りなのだと?」

「そうじゃな。そして男が自分の身体の前で、棒みたいなもんを扱くとなれば、それを何という言うかの?」

 

「あっ!」

 

 勇蔵が一定の年齢に達した男であれば誰しもが経験している、「ある行為」に思い至る。

 

 継生氏が、してやったり、といった顔になった。

 好雄さん、昭一さんも、にやにやとした助平顔だ。

 

「分かったようじゃな。あれは残された男達が自分の摩羅をしごいて汁を出しているところ、つまるところはせんずりの動きじゃ」

「となると、あの腰の動きは……」

 

 一連の話の流れから、勇蔵にも、複数の男達が列をなし同じ動きをする意味合いが、これまでとはまったく違って思えてきている。

 

「これもまた、勇蔵さんが思った通りじゃな。

 そういった苦難の時代、この村の男達、それも一定の年のいった者達にとっては、連れ合いを一度拐かされてしまえば、後添えの当てなどあるわけも無かった訳じゃ。

 若い者であればそのしばらくの状態を嵐が過ぎるまで待ち、次の世代へと希望を繋ぐことが出来たのやも知れん。

 だが、壮年の男達にとり、毎夜の己の欲望を慰めてくれる相手が突然消えるのは、日々その行く宛を探しながらとはいえ寂しいものじゃったのだろうな。

 そんな時代の中、男達は互いの摩羅を慰め、さらには目合(まぐわ)っておったのよ。

 最後の箒で掃き清める動きは、『みんな分かってることだけど、あくまで内密なことだから』といった、昔風の踊りを見たものへの戒めだったんだと言われておる」

 

 地域の歴史の中の謎解きとばかりに勢い込んでいた勇蔵にとり、へなへなと腰が砕けるような、そんな衝撃だった。

 

 愛する妻と子どもを授かるはずの未来を奪われた男の悲嘆から来る、祟りを防ぐための由来からの踊りと思っていれば、なんともいえぬ結末である。

 時代的に悲惨な拐かし、神隠しが元となっていることは変わらぬものの、たとえ女がいなくなっても男同士で楽しみ、性の欲望を処理していた男達の享楽的な風習を、見たままに捉えたものだったのだ。

 

「はっはっはっ、何か悲壮な物語を期待しておったのかもだが、済まんのう。勇蔵さんがあまりに真剣な面持ちだったので、ちとこちらも悪ふざけの度合いが過ぎた。いや、本当に申し訳ない」

 頭を下げる継生氏に慌てて声をかける。

 

「いえ、そんな、こっちが勝手に陰惨悲壮なストーリーを空想していただけですし、まさかのオチが男同士の衆道の物語だったとは……。

 びっくりもしましたが、さすがにこれは外に漏らすわけにはいかない話のようですね。

 ただ、そうなると皆さんが月に一度集まって練習されている『本来の踊り』っていうのは……」

 

「勇蔵さんはやはり勘がいいようだな。

 思うた通り、会員の男達が集まって、裸で踊り狂い、互いの摩羅をしごき、しゃぶり、目合う●(まぐわう)ための会合よ。

 そんな会でもやはり約束事はあるもんでな。

 一つは会の内部の話はけして外ではしないこと。

 二つ目は、元々の踊りの始まりに従い、厄年を迎えるまでの入会は認められないこと、

 三つ目は踊りの本質でもある、連の中、すなわち会員全員の前で裸で踊り、男としての汁を噴き上げられること、じゃ」

 

 考えて見ればとんでもない話だった。

 踊り連への入会前提で聞かされた話からすれば、明日の入会の儀式とやらで勇蔵がやらねばならぬことの輪郭が見え始めている。

「では、その、明日、会員の皆さんが集まっているところで私がやらないといけないというのは……」

 おそるおそる、尋ねてみる。

 

 これまでは相槌を打つばかりだった柔和な顔の好雄さんが説明に入る。

「はは、こちらも察しがいいようやなあ。勇蔵さんが思うておる通り、皆ん前で裸で踊ってもらい最後には男らしゅう、摩羅から汁を噴き上げてもらうことじゃ。

 なに、連中は皆、こん試練をこなして会におる者ばっかりやかい、眉を顰める者やら一人もおらんかい、心配することはねえちゃ」

 おそらくは人前で話すことが多い継生さんに比べると、この土地独特のイントネーションに富んだしゃべりだ。

 

「勇蔵さんには悪かが、もう話を聞いてもろうた以上、仮にも入会したちゅう形にしちょかんといけんかぃ。一応、儂等3人で見聞しとくと若え者には言うてあるとじゃが」

 好雄さんのしゃべりにつられたのか、継生さんものんびりとしたイントネーションの独特の方言が強くなってきた。

 

「もちろん話を聞かせていただいた以上どんなことでもやりますが、さすがに裸踊りと皆さんの前でのせんずり披露っていうのには驚きました」

 ここは淫靡な雰囲気では無いのだろうと当たりをつけ、わざとおどけた口調で返してみる。

 

「そのためにも今日の見聞をしておこうと思ってな。なに、今日は今日で儂等3人の前でちんぽを扱いて一度汁を出しておけば、明日のみんなの前でのせんずりにも度胸が付くと思ってな」

 

 異性との結婚や家庭を持つことと同時に、同性同士の行為に興奮を覚える地域集団のことは勇蔵も卒論の中で少し触れたこともあり、理解はしているつもりだった。

 今日会ったばかりの男達の前でせんずりを掻くのか、という思いもちらとは覗いたが、逆に堂々とやって目にもの見せてやれ、という気概も半分はあるようだ。

 

「こちらも分かりました。入会のために必要なら何でもすると言った言葉に嘘はありません。私の身体で良ければ、継生さん達の自由にしてください」

「よく言うた! では早速、脱いでもらおうかの」

 

 ここまで来たら後戻りは出来ない。

 

 恥ずかしいという気持ちはあまり湧かなかったが、先ほどから感じているように他人の目の前で勃起させ、さらには射精までできるかの方が心配だった。

 

 早く終わらせてしまおう、という思いも勇蔵にはあったのだろう。あぐら座りの3人の前で立ち上がり、シャツを脱ぎ捨てる。

 

「イくときには名前と年を言うてから、イかねえといけんぞ」

 昭一さんの言葉に大きく頷くと、一気にズボンと下着を下ろした。

 

「勇蔵さんのは、人前でも縮まんで太いままやな」

「あれだけ太いなら、みんなが見てん褒めてくるるやろう」

 

 どこか異様な空間だった。

 

 着衣のままの三人の年上の男達の前で全裸を晒している中年の男という図柄は、日常からは遠くかけ離れている。

 3人の目が股間に集中する。

 そう思った瞬間、勇蔵の持ち物は勢いよく勃ち上がった。

 

「おお、あっと言う間に勃ったなあ」

「エラも太う張って、いいちんぽをしちょる」

「脱ぐとけっこう毛深いな」

 

 いや、普通ならここまでの硬度になるにはずっと時間がかかるはずだ。

 勇蔵とて健康な壮年の男の一人であり、今でも自分の手で慰めるのは週の内数回に及ぶだろう。

 誰に邪魔されることの無い一人暮らしであればこそ、動画や官能的な小説で埒を上げようとするときさえ、じんわりと太くなっていく握り心地を確かめながら、ゆっくり楽しむのが常だった。

 それがまるで、人に見られることで興奮してると思われているのではないか?

 俺はもしかして、本当に見られることで興奮する変態なのか?

 

 頭の中がぐるぐると回る。

 

 そう思った瞬間に、いや、違う、と頭の中のもう一人の自分が反応する。

 おそらくは俺自身の身の内に、このようなあっけらかんとした裸の付き合いというものを『よし』とする性状が元々あったのだろう。

 きっかけはどうであれ、年長の男達に囲まれ、自分だけが素っ裸になっている状況で興奮しているのは、『見られる』ことよりも『見せる』行為への傾倒が己の中にあったのだと、自分なりに分析する勇蔵であった。

 

 3人の前に仁王立ちになる勇蔵。

「見られている状態で果たしてイケるのか?」という疑問は、すでに自分の中で「見てもらうことでイってしまう」という答えを出している。

 

「俺のセンズリ、見てください!」

 

 大声で呼ばわった勇蔵が、すでに勃ち上がっている己の逸物へと手をかけた。

 3人の目が輝く。

 

 右手を逸物の下に据えた勇蔵が、溜めた唾液を亀頭を狙ってたらりと垂らす。

 1人で励むとき、ローションを使ってしまう自分の習慣から、何らかの潤滑油的なものがあったがイきやすいと判断したのだ。

 手のひらで唾液と鈴口から溢れ始めた先走りを、肉棒全体へとまぶしていく。

 

「ふっ、あっ……」

 

 扱き始めた途端に勇蔵の唇から漏れるかすかな声に、目の前の3人がもぞもぞと下半身をいじり出す。

 どうやら勇蔵の痴態が男達にとっても格好の勃起薬になるようだ。

 

「チンポチンポ言いながら扱くと、皆も喜ぶと思うっちゃがな」

 

 昭一さんの何とも言いようの無いアドバイスに、勇蔵は腹を決めた。

 

「チンポ、チンポ、男のチンポのセンズリは、こうしてこうしてこうやって!」

 

 学生時代、宴席の戯れ言として耳にした節が、すらすらと出てくる。

 3人の男達も大喜びだ

 

 素っ裸で膝を割ったがに股姿。節回しに合わせて勇蔵が激しく前後に腰を振る。右手で作った肉筒を動かさず、腰を振ることで己の肉棒を出し入れする。

 ストロークの度に親指と人差し指で作られた輪っかから顔を覗かせる先端は、赤黒く熟した果実のようだ。

 ぶりんと張った亀頭は先走りと唾液にまみれ、手と粘膜、肉竿が擦れるヌチャヌチャと規則的な水音が室内に響く。

 

「チンポ、チンポ、男のチンポ。チンポ一番、気持ちいい!」

 

「勇蔵さんのセンズリ、スケベやな」

「これなら皆も満足するやろう」

「イくときにはゆわんといけんけんな!」

 

 3人の評価は高いようだ。

 その間にも腰を降り続けた勇蔵の埒は、いよいよそこまでというところまで昂ぶっていた。

 

「あっ、イきそうですっ! イって、イって、いいですか?」

 

 なぜか勇蔵は3人への射精寸前の報告とともに、「射精の許可をもらわねばならない」という気持ちになっていた。

 目上の「観察する相手」と「観察される自分」の彼我がそうさせるのか、一言「よし」と言われぬと勝手に射精してはいけないような心持ちとなっていたのだ。

 そこにはかすかに、公民館の畳を汚してしまう、との思いもあったのかも知れない。

 

「勇蔵さんのは、俺っが飲ませてもらおうけ」

 継生さんがスルスルと進み出て、勇蔵の前に膝立ちになる。

 目の前の射精寸前の一物に、ひょいと手を伸ばした。

 

「あっ、継生さんっ! な、なにをっ!!」

「堪えんでええ、俺っが口にイくとええ。たっぷり出せ!」

 

 汁を漏らさぬ「受け」の役割宣言と射精への「許可」が、勇蔵にとっての堰を決壊させ、凄まじい快感の奔流が脊髄を駆け上っていく。

 継生氏が勇蔵の先端をぱっくりと咥え、汗ばみ始めた尻肉に手を回した。 

 口中に納められた肉棒が、唾液と粘膜のぬめり、生身の体温を直に受け、勇蔵の情欲が一気に爆発する。

 

「あっ、イキますっ! イくっ、イくっ! 継生さんっ、ダメだっ! イくっーーー!!」

 

 継生氏の頭を引き剥がそうとする勇蔵の手も、がっしりと腰に回された継生氏側の両手にその動きが阻まれてしまう。

 背中をそらし、噴出の脈動に身を任せるしか無い勇蔵は、継生氏の口中へと大量の汁を放っていた。

 

「さすが若けえ人んとは、旨いなあ……」

 

 何度もしゃくり上げるような勇蔵の噴出をすべて受けきった継生氏が、ごくりと喉を鳴らす。

 継生氏の口と手の支持が外れた勇蔵の身体が、尻餅をつくように畳へと崩れ落ちた。

 

「継生さんの尺八、よお感じたっちゃろ」

「継生さん、俺達ん中でも一番上手やかいな」

 

「はい……。気持ち良かったです……」

 

 3人の前ではそのように答えるしかない勇蔵ではあったが、実際に味わった快感はこれまでの人生でも経験の無いような快感を伴うものだったのだ。

 それが果たして、見る、見られるの関係からもたらされるものなのか、それともこの異常とも思える状況ゆえのものであったのか、勇蔵にも判断が付きかねていた。

 それでも多量の汁を噴出したはずの逸物が未だ萎えず、あまつさえ上下にその鎌首を振り立ててしまっているのだ。

 

「イッてんひとっつん萎えんな」

「明日もそん調子でイッてもらうといいかいね」

「俺っもイきていけど、明日に溜めちょこう」

 

 3人のズボンも前も拳を入れたかのように盛り上がっていたが、明日の連全体での見聞で出すつもりなのだろう。

 

「勇蔵さんには申し訳なかったが、この辺りでこういうことをしだしたのも、男達だけで過ごさざるを得なかった時期に、いかにして村を維持していく気力を出していくか、考えた末のことだったのだと思うておる。男同士の惚れた腫れたは女とのそれ以上に難しいもんでな。それゆえに、皆が集まっての行為で極力個別の関係を作らないようにしていた先人の知恵だと思うておるんじゃ」

 

 射精の後の虚脱感にぐったりとしていたところに継生さんがかけた言葉は、その優しげな風貌と似合った声とともに、この地域の男達皆の思いが詰まったものに勇蔵には思われた。

 

 3人の中では一番若い好雄さんに手伝ってもらい、身なりを整えてその日は公民館を後にしたのだった。