昭和39年夏 出稼ぎ親父

その1

 

01

 

 東京オリンピックを数ヶ月後に控え、こんな東武線の端の方にある小さな駅前商店街でさえも、便乗して毎日五輪特売の日などやっている。日替わりとうたっていても大して変わり映えしない総菜屋を尻目に、俺は家路を急ぐ。

 早く4畳半のアパートに戻って、いつもの銭湯が芋の子を洗うような状態になる前に行ってさっぱりしたかった。

 脇道から豆腐屋のラッパが鳴り、目の前を自転車がすり抜ける。夕焼けが、目にしみるくらい真っ赤だ。昨日、大学の講義をまとめるのに徹夜をしたせいかもしれない。

 洗面器に手縫いとちびた石鹸を放りこむと、下駄履きだとかなりうるさい鉄板を敷いただけの廊下を駆け足で抜けた。

 

 俺は22歳、高橋勇太という。

 一応大学生だが、学費を稼ぐために道路工事のバイトもしている。中学生からずっと柔道部だった俺は、力仕事には自信があった。

 山形でも柔道では有名な高校に入り、全国大会まで行ったのが唯一の自慢だが、168センチの92キロじゃやはり小さな方だ。

 東京の大学に入り柔道部を見学したが、あまりにもガタイのでかいやつらばかりで、その迫力に圧倒されて諦めた。柔よく剛を制すというが、やはり身体がでかい方が有利なのだ。

 俺の父親の家系はみんな、ずんぐりむっくりの短足で、笑うと目が無くなるような愛嬌のある顔立ちをしている。

 俺もそのまんまその血筋を受け継いでしまったものだから、東京の大学ではもろに東北から来た芋にいちゃんだった。少しは都会のおしゃれと言うか、流行りのアイビールックなんぞを着こなしたいのだが、なんといったって手足は短いし、太ももはめちゃくちゃぶっといし、胸と腹がやたら目立つしで、全くマンガのようになってしまうのだ。

 

 そういう理由だから、ずっと、ランニングシャツと、パンパンにきつくなったズボンに下駄履きで通している。

 座るとケツは破れそうになるし、股ぐらの生地が擦れて薄くなって、俺の金玉の膨らみがもろに目立つ。椅子に座って股を拡げると、前が大きく膨らんで透けて見えそうなくらいだ。

 そんな野暮ったい感じの学生だから女にモテるわけもなく、また、女に興味もあるわけでも無く、泥まみれで道路工事を手伝っている毎日だ。

 

 カランコロンと音を立てて外に出た俺は急ぎ足で商店街を通り抜けようと、車が行き来しないか左右に目を向けた。

 ふと振り返り目を向けた俺のアパートの二階に、今までには見たことが無かったはずの、妙に懐かしい洗濯物が干してあることに気が付いた。

 

 真っ白な布がひらひらと風にたなびいており、細い紐が付いているのが明らかにわかる。

 すぐにそれが、ああ、越中褌だと分かった。その一枚の白布は、俺が幼い頃から親父が締めていたものと同じだったからだ。

 

 親父。

 冬でも夏でも部屋の中では常に越中褌一丁で、のっしのっしと歩く親父。

 前袋の膨らみがいつも俺の目の前で揺れていた。

 時々脇からじゃがいもよりでかい金玉がごろっとはみ出ているのも気にせず、ごろんと寝てしまう親父。

 股ぐらや腋の下から立ち上る男の体臭が、夏になると更に蒸れて部屋中に漂う。

 いつしか自分も同じように、親父から越中を譲り受け、締めるようになった。

 

 そんな思い出がぐるぐる駆け巡り、しばらくぼうっと二階を見上げていた。

 ああ、こんなことしてる場合じゃない。混み出す前に銭湯に行かなければならないのだ。それでも銭湯に行きすがら、どうしても気になって仕方がないのは、あの越中褌の持ち主のことだった。

 今まで一度も見たことがない。

 最近越して来た人なのか?

 どんな人が締めているのだろうか?

 

 知らず知らず、褌の持ち主と俺の父親を重ねている自分に、そのときは気付いていなかった。

 

 

02

 

 銭湯から帰ってみると果たしてあの越中褌は、ベランダとは名ばかりの手すり付きの窓から消えていた。

 その部屋は一階の俺の部屋の丁度真上に当たっている。

 部屋の番号はすぐに分かったし、郵便受けの表札がまだ新しく、汚い字で「相座(あいざ)」と書かれてあるのを確かめた。

 その表札の二文字に、俺はさらに興味が湧いた。

 下手くそではあるが堂々と書かれているその「相座」という変わった姓が、山形県独特の苗字であることを知っていたからだ。

 俺の生まれた村上地方から少し離れた、もっと北の方に多い。

 もしかしたら、同郷の人かもしれない。

 高鳴る胸に、その日はあれこれ考えて眠れなかった。

 

 どうやって褌の持ち主の顔を見ることができるか?

 偶然会うのを待たなければならないのか?

 それとも、いろいろ理由をつけて思い切ってドアをノックする?

 しかし、どんな理由で?

 味噌が足りなくなってしまったので、すみませんが少し味噌貸してください、とでも言うか?

 ばからしい、こんな風体の俺が自炊するなど、一目見た途端に嘘だとばれるだろう。

 

 俺が毎日褌のことを考えていたせいか、それこそ夢の中にまで越中の持ち主が出てくるほど、鮮やかな洗い晒しの褌が気になって仕方なかった。

 自分が朝、新しい越中を締めるたびに、あの越中褌の持ち主の顔や身体付き、そしてその中身の形状に至るまで想像してしまう。

 もちろんそれは、俺の親父のイメージにどうしても結びついてしまうのだ。

 顔や身体が親父とそっくりと言われた俺は、朝勃ちで太く変化した自分の一物を握り締めながら、思い出の中の親父の勃起したものと、二階のまだ見ぬ男のものとを、重ね合わせた。

 だがやがて、あのとき俺のちんぽが硬くなっていたのは、朝勃ちのせいばかりではなかったことに気付くのである。

 

 そんな想いが膨らんで、自分の手に負えなくなってきたある日。

 幸運、いや僥倖?

 そういうものは案外と早く、向こうからやってくるものだ。

 

 大学も夏休みに入り、しばらく経ったその日は朝から今年一番の最高気温を記録し、照りつける日射しが路面のアスファルトを柔らかくするほどの天気だった。

 出掛ける度に、二階の窓を見上げることが、いつしか毎日の恒例になってしまった。

 

「今日は洗濯して干してから、働きに出かけたな」

 深く青い夏の空に、白い越中褌が気持ち良さそうに舞っていた。こちらまで清々しくなるような光景で、それはこの暑い朝の辛さを和らげてくれる。

 

 俺ももうじき終わる予定の道路工事の最後の仕上げをする為に、新しい越中に自分の一物を収めた作業着姿だ。

 昼飯になる頃には全身汗だくで、シャツやニッカポッカは白く塩を吹いていた。小便するために越中から竿を引っ張り出すと、汗でびっしょり濡れた褌の中から蒸れて熟成された俺の雄の臭いが、たちまちに上ってくる。

 午後からの仕事もきつくなるだろうと恨めしく太陽を仰ぐと、出来たばかりの東京タワーのさらに向こうに、黒い雲が立ち上るのを捉える。

 一雨、来るか。

 それは目に焼き付いて離れない、今朝の青天に浮かぶ越中の白さを曇らせてしまう予感だった。

 

 案の定、夕方近くになると俄かに掻き曇り、大粒の雨が激しく頭を、肩を、地面を容赦なく叩きつけてきた。作業員もみんな慌てて、近くのプレハブ小屋の中に避難する。

 やり過ごせばまた作業に戻れる、そう思っていたが、夕立の筈なのに一時間たっても一向に止む気配がない。それどころか、溜まった水が川のように流れだし、どんどん掘り返した穴に入っていく。

 結局、その日の作業は中止となり、各々解散となった。俺は一目散にアパートに走る。

 びしょ濡れになった作業着を脱ぐために、ではなく、二階に干してあったあの一枚の褌のために。

 

 

 不安は見事に的中していた。

 夏の空気に昼前には乾いている筈だった白い晒は、激しい折檻にあったように無残に地面に叩きつけられ、泥まみれによじれていた。

 俺はそれを拾うと、急いで部屋に戻る。自分の着替えも疎かに、まずは水を張った金だらいでざっと流し、それでも染み込んだ汚れを洗濯板でゴシゴシと洗い落とす。

 何回も何回も締めたのだろう。前垂れからケツの部分は生地が薄くなっていて、薄手のガーゼのようだ。俺は破けないように細心の注意を払いながら、優しく揉み洗いに切り替えた。まるで雨の中に捨てられて、ぐったりしている子犬をいたわるように。

 

 あらかた泥が落ちると、丁寧に絞り、部屋の中に吊るして乾かすことにした。

 向こう側が透けるほど薄くなった生地を見ているうちに、いったいこの部分がどれほど男の竿や玉を包み込んだことだろう、そしてそれはどんな形をしているのだろう、どんな顔の持ち主なのだろう、などと、いつもの妄想を始めてしまう。

 むくむくと自分の中心が形を変え、熱くなっていくのを感じながら。

 

 

03

 

 すっかり日が落ち暗くなっても、長引いた雨のせいか、越中は乾かなかった。

 今朝洗濯してから出て行ったということは、汗をかいて帰ってきたときにさらさらになっている清潔な褌に取り替えたいと思っての事だと、容易に想像できる。

 帰ってみると自分の褌が物干し竿から消えているのも、またぐっしょり濡れてしまったのも、具合が悪いだろうと同情した。

 

 何とか乾かす方法はないだろうか?

 学生の一人暮らしだ。電気アイロンみたいな気の利いたものなどない。

 いっそのこと、自分が持っている洗濯済みの越中を代わりに持って行くか?

 しかし、人の使った下着など気持ち悪くて、快く受け入れてもらえるわけなどないではないか。

 頭の中がぐるぐると回る。

 

 思案しているうちに、ガンガンガンと錆びた階段を上っていく音がして、真上の部屋に入る様子が伝わった。

 彼もこの雨で早めに帰って来たのか?

 これまでは夜中の帰宅だったから、初めて俺が起きているうちに帰って来たことになる。

 さあ、どうする?

 やっと巡ってきた褌の主人との遭遇だぞ。

 勇気を出して、行けよ。

 自分の越中でもいいじゃないか、変な顔されたらその時はその時だ。

 

 俺は決心をした。

 箪笥にしまっていた、なるべく新しめの越中と、まだ乾いていない彼の越中を別々に紙袋に入れ、二階に上がる。

 ドアの前でふうっと一回深く息を吐いた。

 心臓がばくばくしている。誰かが近くで見ていれば、その鼓動さえ目で分かるのではないか、と思うほど胸の筋肉が前後に揺れる。

 

 力を込めて握りこぶしを作る。

 白くなるほど緊張した手の甲がドアを叩く。一回、二回、三回。

 

 このまま踵を返して下に降りようかと考えられるくらい時間が経ってから、ガチャ、とドアを開ける音がした。

 ゆっくり開いたその向こうには、いかにも人の良さそうな中年親父が、きょとんとした表情で立っていた。

 

「あ、あ、あの、あのですね。えっ、あ、あの」

 何を言ってるんだ俺は。

 しどろもどろで会話にならない。

「あの、下に住んでるんですが。あの、これ」

 馬鹿みたいだ。一体何を伝えたいのか、これじゃ分かる筈がない。

 

 それでも親父さんは何故かニコニコして、中に入りなさいと招いてくれた。

「いえ、その。いいんです。これを届けに来ただけですから」

 二つの紙袋を差し出した。

 

 これじゃまるで説明したことにならない。

 紙袋の中はいったい何なのか、何故越中を持っているのか、何故二枚あるのか、どういう事情でそうなったのか・・・。ゆっくり落ち着いて話せ、勇太!

 

 しかし、今、俺の目の前にいるのは、俺が一物を握る度に想像していた男そのままの姿だったのだ。

 

 少し禿げ上がった頭のすぐ下に、垂れそうな八の字眉。優しく見つめる眼差しと団子みたいに大きく丸い鼻。無精髭に囲まれた口もとはずっと笑っている。

 太い首から汗が垂れ、それは分厚く広い胸の谷間に入っていく。その水分が胸から腹にかけて溜まったのか、濡れた道を作っている。

 白いシャツの上からでもはっきり分かってしまう二つの突き出た乳首が、窮屈そうにシャツの生地を押し上げている。せせり出た丸い腹の肉が負けじと生地を押し上げ、和太鼓の皮のようにピンと張らせている。

 下は雨を吸い込んで色がすっかり変わったニッカポッカだったから、まだ着替えもしていなかったことが理解できた。

 

「あの、すみません、まだ、濡れたままなのに、突然来て」

 錯乱した頭に言葉が繋がらない。

 

 親父さんは、手招きして俺を呼んだ。

「そんなところに立ってたら話もできないだろう? まあ、座って、落ち着いて話しなさい。どんな用で来たんだい?」

 親父さんはガス台の前でやかんを火にかけると、お茶っ葉を急須に入れた。

 

「あの、あ、雨、大丈夫でしたか? まだ濡れてるみたいで」

「ちょうど着替えようとしてたときにノックされたから慌てたよ。ニッカも脱いで下ろしたときだったから、慌ててまた履き直したよ」

 どこか懐かしい抑揚とリズムは感じるのだが、東京での初対面というこの場面が、互いに標準語を使わせてしまう。

 

 上半身に張り付いていたシャツを脱ぎにくそうに剥ぎ取り、ぐるりと伸ばした腕にしかめ面が見えた。新しそうな湯のみと縁の少し欠けた湯のみを並べて、こちらを振り返る。

 あっと、息を飲むほどの逞しい胸板だった。

 もちろんパンパンに張った筋肉ではないが、昔何か運動していたことが分かる筋肉に中年の脂が程よくついた、官能的な肉付きの、豊かな胸だった。

 濡れたシャツの内側から、この時期の気温と体温に蒸された体臭が胸やら腋やらから立ち上り、部屋を染める。

 俺はその男臭さだけで、自分の一物が勃起し始めることを心配した。

 

「す、すみません、変なときにおじゃましたみたいで」

 正座した俺はすっかり恐縮した。無論、勃起を悟られないように座りなおしたのはいうまでもない。

「いや、構わないさ、訪問客が男で良かったよ。これが女だったら絶対にドアを閉めてたね」

 親父さんも座ろうとした。

 

「おっと、ニッカがびしょ濡れだったんだ」

 ハッと気づいたように、座る体勢から立ち上がって、カチャカチャとベルトを外す。

 一気にニッカを下ろし、俺に取っては期待通りの、例の越中一丁の格好になった。

 

 

04

 

 部屋の中の空気が一気に変わった。

 緊張感でこちこちになっていた気持ちが一変し、俺に取っては妖しく淫靡な空間となり、おそらく親父さんに取ってはくつろぎにも似た雰囲気へと、この場のありようが変化していく。

 

「悪いずな、こげなあかっこで、代わりの服がの、皆、洗濯すてなず」

 下着姿になり腰を下ろした親父さんは初対面の緊張も取れたのか、思った通りの山形弁丸出しになっていた。

 

「うわあ、懐かしげなあ。そげな言葉さ、久しぶりに聞いたず」

 俺も自然にお国言葉になる。

「ありゃ、ぼんずも東北け? どこからさ来たんだかした?」

「やっぱりなし、親父さんと同ずさ、山形だべしたあ」

「そないなあ、あれえ、奇遇だなしたあ」

「親父さんは、んだかしらねが、寒河江(さがえ)け?」

「おお、そだよ。よくさ、わがりやしたが」

「相座(あいざ)したな、苗字さ、寒河江だべしたあ」

 同郷というだけで、これほど饒舌になるものなのか、二人の間のやり取りが突然火が点いたかのような勢いで流れ始める。

 

 安心したのか、親父さんは満面の笑みになり、ずりずりと俺のすぐ近くに寄れば、どっかと胡座をかき、座りなおした。

 膝と膝が重なるくらいの近さに、親父さんの体温と体臭を感じる。

「ぼんずも、窮屈だべした。ほれ、楽さなれはあ。脱げ脱げ」

 すっかり上機嫌になった親父さんは俺のズボンに手をかけ、ベルトを外そうとする。

「なあに、男同士だずう。こっぱずかしさねえべ。俺ばかりが、こげさかっこだがしたら、かえって居心地よがねえず?」

 大胆に股をこちらに向け自分の越中を指差しながら、にやにやする。

 俺も覚悟を決めて、ランニングシャツとズボンを丸めて脱ぎ捨てた。

 

「おったまげたなず、ぼんずも越中さ、締めんのけ?」

「んだ、俺の親父もよ、締めてたがの、俺もよ、ちんまいときから締めてるず」

 俺も親父さんの方に向き直る。

「ほだかした、ほんず、ええこと言うのう。んだけどよ、さっきの雨でよ、干しといたわしの越中がのうなってはあ。困りよったあ。だからよ、こいつさ昨日から締めたまんまのよ、小汚ねまんまのですまんのう。男臭えべ?」

「んだなことねえ。そったら褌さ見てたらよ、俺の親父さの臭いがしてよ、なんだか切ねえ気持ちになるべしたあ」

「そうけ、ぼんずのとっさんはいくつになったさ?」

「俺が大学さ受かって、東京さ来る直前によ、肺炎で死んだず」

「んだか、そりゃ、悪いこと聞いたのう」

「んや、気にしてねえず。お袋がよ、親父の遺言だずってよ俺ば大学さ出してけろはって。そいでよ、俺の家は天童だからな、お袋は温泉で働いてる」

「大学さ出してもらえて、ぼんずは幸せだの」

 久しぶりの地元言葉を話せたせいか、それともどこか死んだ父親と重なる目の前の親父さんのせいなのか、俺はなぜか泣きそうになるのをぐっとこらえて、話を変えた。

 

「あっ、ほんに忘れとった。これさ届けに来たんだしたずう」

 がさごそと紙袋を卓袱台の上に置いた。

 中から、まずは乾かぬままの親父さんの越中を出す。

「さっき親父さんが言っていた越中よ。俺の部屋の前の路地に落ちてたんだ。汚れていたからよ。洗濯したけ、乾かなくてよ、申し訳ねえす、まだ濡れててなあ。んだからよ、代わりに俺の越中をよ、締めてけろはあ。人の下着、あまり気持ちよぐねかもしれねが、こらえてけろな」

 そう言いながら、二つ目の俺の越中も取り出した。

 

 親父さんの目が、不思議にうっすら濡れて見えた。

「ぼんずは優しい子だな。ありがてえす。二枚しかないから、締める越中がのうなって困っていたしよ。ぼんずの越中さ汚ねえことないした。むしろずっと締めていてえ」

 親父さんは俺の越中を両手で拝むように受け取ると、それで涙を拭いた。

 

「ほんずもいい身体のう。日焼けもして、もち肌で、よく肥えてなあ」

 親父さんは俺の腕やら、肩やら、胸から腹、ももまで、ぴたぴた叩いたり、ゆっくり撫で回したりしながら褒め称えた。

「高校までさ、柔道部でしたっけえ。んだども今さ単なるデブでしたあ」

 

 親父さんに触られただけで、俺の一物が越中の前垂れを押し上げるほどに大きく変化してしまう。突き出ようとする小山を悟られないよう、俺は前垂れを引っ張って直した。

「そうか、柔道やってたならいい身体のはずだのう。越中も締め慣れてるのう。ぼんずのような逞しい身体には、越中が似合うのう」

 

 親父さんは俺の締めている越中の前垂れをぐっと掴み、上に持ち上げた。

 

「あっ! 親父さん!」

 突然前垂れの下が露わになり、俺は慌てた。

 先ほどからの勃起によって、先走りが見事に晒しに大きな染みを作っていたのだった。

 

 親父さんは何ごともなかったように俺の前垂れをまた下ろし、今度は自分の越中の前垂れを俺に見せつけるように持ち上げた。

 

「おお!」

 思わず唸ってしまう。

 そこには俺以上にとてつもなく大きくなった膨らみがあり、その先端には黒々とした巨大な染みが広がっていた。その染みはどんどん滲み、親父さんのでかい亀頭の形を浮き上がらせていく。

 亀頭の傘の部分はもちろん、その下のくびれから鰓にかけて、いやらしくはっきりと形を浮き彫りにしていた。

 鈴口からはみるみるうちに雫が朝露のように薄い生地を通り抜け、ついには、生地の外側に丸い露の玉を溢れださせながら、金玉の方にゆっくり垂れていく様子を見せつけている。

 

 自分の呼吸が、鼓動が、荒くなっていると気づかれてはいないか、恥ずかしく思える。同時に、ヤカンからしゅうしゅうと蒸気が吹き出す音が聞こえ、結果それに助けられた形になった。

 

 親父さんは自分の越中の前が激しく突っ張っていることを隠そうともせずに、いや、むしろ見せつけるように俺の目の前をゆっくりと通り、台所にヤカンを取りに行った。

 沸き立ての熱い湯を急須に注ぐと、立ち昇る湯気が親父さんの越中から立ち上る臭いを含んで、俺の顔にもやもやとまとわりついた。