男性専科クリニック Part 5

その1

 

その1 予約電話

 

「あっ、先生っ、いいですっ! き、気持ちいいっ!」

「相変わらず、亀頭も敏感だな、田畑君」

「だって、先生っ! そこやられるとっ、ああっ、感じますっ!!」

「まだだぞ、ひたすら感じてからイかないと、もったいないだろう」

「そんなっ、こんなのずっとやられたらっ、変になりますっ! ああっ、あっ、ああああっ!!!!」

「手足を縛られてからの亀頭責めはたまらんだろう。もっと楽しみたまえ」

「あああっ、ダメっ! 先生っ、ダメっ、ダメですっ!!!」

 

 マンションの高層階の一室、キングサイズのベッドの上で2人の男が裸体が絡み合っていた。

 仰向けに大の字の恰好で手足を拘束されているのは、30代半ばのずっしりとした身体付きをした青年だった。日に灼けた肌にはうっすらと汗が浮かび、肉感的なその陰影をよりはっきりとしたものとして見せつけている。

 青年の右側に肉体を寄せ、利き手で青年の逸物を執拗にいじっているのは、丸い腹の突き出た毛深い中年の男だ。全身を覆う黒々とした体毛はなめらかな青年の肌とは対を成し、好色そうな目つきのまま、その厚みのあるぼってりとした舌先で若者の乳首を舐め上げていた。

 

 青年の両手両脚は傷を付けないためか、タオルを挟んだ拘束具でベッドの四隅へと伸びる紐と繋がれており、一定の緩みのためわずかに身体を動かすことは出来ても、中年の男の責めから逃れることはまったく出来ようも無い。

 

 乳首を、脇腹を、ペニスを、睾丸を。

 たっぷりと潤滑油にまぶされた中年の男の手と指先が、あるいは唾液を湛えた舌と唇が、青年の全身の性感帯をひたすらに愛撫し、撫でさすり、舐め、つつき回す。

 その一挙手一投足に敏感に反応するのは、若さだけのせいではあるまい。

 それほどまでに、中年男の示す性技とその技量は卓越したものであった。

 

 青年の肉体を余すところなくいじり、舐め回している中年の男は、40代中頃といったところか。

 毛深く茂った体毛とでっぷりとした腹の目立つその男の職業は医師であり、自らの名を冠した『男性専科 野村クリニック』にて、主に男性の性的機能回復のための診療を行っている。

 

 ベッドに横たわり勃起したまま多量の先走りを垂れ流している青年は、野村のクリニックに勤務する看護師であり、互いに肌をさらしている医師と同棲をしている、田畑という若者であった。

 筋肉の上に脂肪の乗った厚みのある肉感的な肉体はぐっしょりと汗ばみ、ベッド上での2人の痴戯がそれなりの時間を経ていることを伝えている。

 青年の逸物がヌルヌルとしたローションでの刺激を受け始めてから、すでに2時間近くが経とうとしていた。

 

「もうっ、もうっ、先生っ、ダメっ……」

 

 よがり続けた喉は枯れ、かすれた声が寝室に響く。

 ローションを使っているのか、その響きに絡むのは青年の下半身から聞こえる淫靡な水音だけだった。

 

「あっ、あっ、もうっ、もうっ……」

「我慢したまえ。もうダメだ、と思ってからがいっそう感じるだろう」

「そんなっ、先生っ、イかせてっ、イかせてください……」

「さすがに一切扱かずに2時間は、久しぶりだったかな」

「もう、触られるだけでっ、僕っ、僕っ……」

 

 先ほどまではびくびくと反応していた青年の肉体が、もうその体力すら奪われたのか、医師の手指の動きに反応するのは、ひくつく逸物と足の爪先の蠢きだけになっていた。

 野村医師の話から考えると、この数時間、青年の肉体はひたすらその亀頭と乳首、敏感となった肌を責められただけであり、射精へと直接の刺激となるべき上下運動は与えられていないようだ。

 粘膜組織への快楽のみを与えるその行為は、青年の心と肉体を限界にまで昂ぶらせていくが、吐精という形での止めを刺すことは無い。

 

「どうしたね、田畑君。もう声も出なくなったかね?」

「先生っ、いじわる言わないでくださいっ……。イきたいです……。出したいです……」

「ふふ、さすがに亀頭責め大好きな君でも限界か。で、フィニッシュは、手と口と、どちらがいいかね?」

「口でやってもらって、最後は手で……」

「声が枯れるまでよがっておいても、君は存分に楽しむタイプだなあ」

「先生の教え子ですから……」

 

 田畑青年の答えには、息も絶え絶えになりながらもどこかユーモアを忘れない性格が表れていた。

 返す野村医師の言葉を聞いても、2人の普段の生活が思い起こされる。

 

「じゃあ、最後にたっぷりしゃぶってやるから、私の尺八を堪能したまえ。その後は手コキで、しっかり絞り取ってあげよう」

 

 そう言いつつも、医師の唇はまずはたっぷりとした量感を湛えた青年の睾丸へと向かった。

 逸物をねぶり尽くす前に、ふぐりに染みた青年のエキスを味わうつもりなのだろう。

 

「あっ、玉もっ、金玉も気持ちいいっ!」

「汗と性臭がたまらんよ、田畑君。玉を責められてもいいだろう?」

「ひあっ、先生っ! それっ! 玉がっ、玉がすごいっ!」

 

 田畑青年の右の睾丸を、野村医師が口中にすっぽりと含む。

 べっとりと這わせた舌で厚みのあるふぐりの表面をずるずると舐め回し、口中の圧を下げながら吸い上げる。軽い痛みを伴った、気の遠くなるような快感が青年を襲う。

 

 右、左、右と、何度も唇と舌が移動し、それこそ唾液と垂れ落ちた先走りでぐちゅぐちゅになったふぐりを、医師の体毛に覆われた厚い手が揉みほぐす。

 あらゆる刺激が、青年の体内の白い液体を沸騰させていく。

 

「そろそろかな」

 

 医師が小さな声でつぶやくと、今宵初めて、その唇が青年の先端へと到達した。

 

「んっ、んんっーーーーーー!」

 

 医師の唇が、先走りとローションにぬめる亀頭を咥え込む。

 舌先が裏筋を舐め上げ、切れ上がった鈴口をざらざらと往復する。

 田畑青年が仰け反るようにその胸を反らし、手足の指先が空気をつかみ上げるように収縮する。

 

「あっ、あっ、あっ、あっ……」

 

 じゅばじゅばと音を立てるのは、わざと聞こえるようにやっているのだろう。

 唾液を溜め込んだ医師の口と青年の肉棒との摩擦が立てる卑猥な水音は、責めを受けている青年の聴覚をすら犯していく。

 

「いいですっ、先生っ! 気持ちいいっ!」

 

 先端を吸い上げ、根元から雁首の手前まで、ローションをたっぷりと取った手で激しく扱き上げられる。

 射精への予感に張り付きそうになるふぐりが手のひらでぐいっと引き下げられ、根元をくびられながらも、痛みを感じさせる前の絶妙な力を込めてゴロゴロと揉まれている。

 そのわずかな時間で、青年の快楽の堰が一気に破られようとしていた。

 

「あっ、先生っ! イきそうっ、イきそうですっ! イッていいですかっ! イっちゃいますっ、イっちゃいますよっ!!」

「イきたまえっ、田畑君っ、イきたまえっ!!」

 

 身体を上にずらした医師が青年の乳首を舐め上げ、伸ばした手で激しく逸物を上下に扱き上げる。

 粘膜同士の刺激から、突然の荒々しい動きを味わうこととなった逸物が、ついに最期の刻を迎える。

 

「ああああっ、イくっ、先生っ!イッて、イッていいですかっ? ダメだっ、僕っ、イきますっ! ダメだっ、イくっ、イきますっ、イくっ、イくっーーーーーー!!!!」

 

 ぶしゅぶしゅと、音すら聞こえそうな射精だった。

 

 最初の一撃は仰向けになった青年の頭上を遥かに越え、ヘッドボードを直撃する。

 幾度もの噴き上げは、青年の顔、野村医師の顔を汁まみれにしながら、次第にその到達距離を短めていった。

 

「それにしても、たっぷり出したなあ……」

「先生に散々焦らされたんだから、当たり前ですよ」

「少し動かないでおきたまえ。全部舐めてしまうから」

「はい、先生……」

 

 宣言通りに、野村医師の舌が青年の全身に散った汁をすすり上げていく。

 最後に青年の顔を舐め回すと、口中の汁を唾液と混ぜ合わせる。

 

「先生の顔の、僕が……」

 

 医師の顔にかかった自らの雄汁を舐め上げる田畑青年。

 すすった汁を飲み込まず、医師と同じく唾液と混ぜ合わせている青年の意図を、もちろん医師の方も見抜いていた。

 

「んんっ、んっ、んっ……」

 

 唇を寄せ合う2人の口中にある粘性の高い液体は、その独特の匂いで男なら誰しもが『ああ、あれか』と思い到るものだ。

 混ぜ合わされた精液と唾液が2人の唇を何度も往復し、半量ずつに分けられていく。

 そのやり取りを堪能した2人が、目と目を見つめ合いながらごくりと喉を鳴らした。

 

「君のはいつも美味いな」

「先生と飲みあえて、すごく嬉しいです……」

「私のは、どうしたい?」

「直接飲みたいです」

「じゃあ、口でやってもらおうか」

 

 射精後に訪れるはずの倦怠感も、30代という若さにてカバーすることが出来るのだろう。

 拘束を解かれた青年が、横たわった医師の股間に頭を寄せる。

 毛深いそこから立ち昇る、汗と体臭が混ざったなんとも言えないその匂いを、深く息を吸い込んだ青年が満喫する。

 

「先生のも、すごい……」

「君を責めてる2時間、勃ちっぱなしだったからな」

「すぐイかせてあげますよ」

「お手並み拝見といくか」

 

 片手を肉竿の根元へ、もう片手を黒毛に覆われた金玉へと伸ばす。医師のふぐりは青年の手におさまらぬほどの容積を湛え、揉み上げる手の動きにゆらゆらと揺れていた。

 いきなり青年の口が医師の亀頭を捉え、ずるりと呑み込んでいった。

 

「おおっ、いいぞっ! 田畑君っ、いいっ!」

 

 勃起を維持していたとはいえ、直接的な刺激を受けることがなかった医師にとっては、まだゆとりがあったのだろう。医師の上げる声には、切迫感は感じられない。

 やっきになった田畑が、舌と唇、手の動きにいっそうの拍車をかける。

 

「おっ、おっ、あっ、あああっ!」

 

 トーンの上がった医師の声に、青年が反応する。

 一気にイかせてしまおう。

 その思いがさらに手の動きを加速する。

 

「あっ、出すぞっ、田畑君っ! 君の口にっ、出すぞっ!!」

「出してくださいっ! 先生っ!!」

 

 田畑青年が声をかけ、咥え直した途端だった。

 

「出るっ、汁がっ、出るっ、出るっ!!!!!」

 

 喉奥にぶつかる白濁液を、田畑青年がごくごくと飲み上げていく。

 跳ね上がりそうになる肉竿をなんとかなだめながら、射精中の亀頭と先端を舐め回すその刺激が、中年医師を悶絶させる。

 

「おおおおっ、田畑君っ、イッてるときはっ、ああああっ、ダメだっ……」

 

 存分に絞り尽くしたのか、青年が濡れそぼる医師の逸物から口を離したのはおよそ数分も経ってからだったろう。

 ねぶり上げ、残液までも吸い取り、すべての汁を舐めとった逸物には、体液の残渣すらも見えないほどだ。

 

「ごめんなさい、先生。全部飲んじゃいました」

「口移しで飲み合いを愉しみたかったが、仕方ないな。こっちにおいで」

 

 青年を抱き寄せた医師が、その唇を奪う。

 口中の残り香を味わうかのような濃厚な口接に、若者の肉体が蕩けるように弛緩していく。

 医師の毛深く豊満な胸に顔を埋めた青年が、中年男のぷっくりと盛り上がった乳首をぺろりと舐める。

 

「さすがにずっと君を責めっぱなしだったので、ちょっと疲れてるよ」

「明日の診療もあるので、今日はもうお仕舞いですかね?」

「どうせ、この前の温泉のことを思い出して、興奮してるんだろう?」

「だって先生、あれ、すごかったですよ」

「まあ、確かにな。西田さん山崎さんだけでなく、まさか露天風呂で別の2人と知り合うなんぞは想定外だったしな」

 

 会話にはどこかまだ色事への期待が滲んだまま、2人の会話が進んでいく。

 

「あのとき、村岡さんと宮内さんのこと、先生なんか考えがあったんですよね? なんか言おうとしてたでしょう?」

「よく覚えてるな。ああ、あのとき、なんだか2人の関係性に少し一方的なものを感じてな……。話しっぷりからは村岡さんは性的なことに積極的に見えながら、宮内さんとの関係ではえらく従属的なふうに聞こえてしまったのだよ」

「僕にはそこまで分からなかったです」

「まあ、診療に結びついてくれると色々話しも聞けるとは思うが、どうだろうな……」

「あのときの雰囲気だと、たぶん予約入れてくれるんじゃないかなっては思いますけどね」

「西田さん、山崎さん達のような性の指向対象が異性から同性へと広がる過程ではなく、最初から同性同士っぽかったのでうちでの診察にもそこまで抵抗は無いだろうし、そういう意味ではもし受診してくれれば治療効果も早く出るとは思うんだがな」

「まあ、電話待ちってことではあるでしょうけど」

「ああ、それに期待しよう……。といっても、君も色んなことを期待してるんだろう?」

「それ、先生もじゃないですか?」

「そう言われると、そうだと答えるしかないか」

 

 くすくすと笑う2人。

 時計を見れば、まだ時間はそこまで遅いわけでも無い。

 野村医師がぐっと体位を変え、野村青年にのしかかる。

 

 せめてもう一戦。

 

 医師の思いを、青年は素直に受け止めていた。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 

 翌日、昼過ぎに鳴った電話を取る田畑看護師の耳に、聞き覚えのある声が届く。

 

「ああ、そちら野村クリニックさんですか? お忙しい時間にすみません。

 先日、○○温泉でお話しさせていただいた村岡というものですが……。ああ、田畑看護師さんですか。ワシです、村岡です。この前話し聞かせてもろて、ええ、今度受診させてもらおうかと思っとるんですわ。

 あ、やっぱりうちん奴と一緒の方がええと……。はい、なるべく一緒に伺うようにしますわ。当日は、ビタミン剤とかは取らないで? はい、そっちも了解ですわ。はい、はい。では、よろしくお願いします」

 

 どこか関西のなまりにも聞こえる村岡からの電話を受けた田畑青年の頬が、うっすらと紅潮していた。温泉での出来事を思い返しているのか、若さゆえのその期待と興奮を、責めるわけにはいかないだろう。

 特別診療日となっている翌週の金曜日、午後の予約枠にチェックを入れた青年が、野村医師に報告しようと、いそいそと院長室へと向かった。