疱瘡会

 

「今から浩平さんの毛剃りば始むっけん、褌ば取って裸にならんな」

 俺は禊ぎを終えた男達の前で、唯一身に付けていた褌を外す。

 村の男達の中でも毛深い方の俺の全身の体毛が、祭りの準備という名目で眉毛だけを残して剃り上げられることになる。

「よか身体ばしとるな、そのまんま、横になってはいよな」

 良さんの声に素っ裸の俺は、青いシートの上にその毛深い肉体を横たえた・・・。

 

 

「ほうそうえ」、という言葉は御存知だろうか。漢字で書けば「疱瘡会」となる。

 日本でも一昔前まで、天然痘は流行り病の最たるものだった。

 全国各地で疱瘡=天然痘の病苦祓いのために、様々な儀式儀礼が行われていたようだ。「疱瘡会」とはその祭事を指す、この村での呼び名である。

 

 地域によっては病害虫の厄災を祓う虫送りや厄払い、無病息災を願う夏越しの祓えなどと同一化しているところも多い。梅雨の時期前後に茅野輪くぐりなどを主に行われ、原形は子どものための祓いの祭だったのだろう。

 疫病を振りまく存在としての疱瘡神を、ときには村の外に追い出し、ときには討伐して祓い清める。

 討伐に当たる主神は名のある神社であれば各々勧請された神格であることがほとんどだが、独立した神事とされるときには単独神を呼び出すことも多い。

 この討伐神は他所からの病の侵入を阻止するという、道祖神・塞ぎの神としての性格を合わせ持っていることもあり、こちらは道祖神からの引き合いで性神としての性格を持つこともあったようだ。

 そして、これがまたおもしろいことなのだが、全国的に離れた地域で行なわれている疱瘡祓いの儀式でも、なぜか疱瘡神を討伐するとして祭られる対象が、中国伝来の鐘馗様と鎮西八郎為朝の二つの祭神に集中しているのだ。

 

 俺は田山浩平、百六十七センチの九十キロ。脱サラ後に九州の山あいの村で田舎暮しを始めた37才だ。

 地方の農村では最近増えてきた過疎化対策のための移住者の募集があり、運よく当選した一昨年の秋口から俺の田舎暮らしが始まり、一年と半年が過ぎた。

 この地域も山村の過疎地に違わず、嫁の来手が極端に少ない。俺を含めて7人の青年団の男達にも、結婚している奴は一人もいない。

 逆に言えば俺自身が村に取って、青壮年労働者としての貴重な戦力として受け取られていたのだった。

 そして、女性との接触がほとんど無いこの地での男達の性欲の発露が、同じ男の肉体へと向けられていったのも仕方のないことなのだろう。農作業で鍛えられた男達の肉体は一様に逞しく、30代から40代という男盛りの色気と精力を匂うようにまとわりつかせていた。

 

 この村の疱瘡会は毎年6月の朔日に行なわれている。

 昨年は初年ということもあり周りに教わるばかりだった田畑の世話に忙しく、準備に携わることも出来ずにほとんど観客として見ていたぐらいだった。

 今年はさすがに少しは慣れてきて、田植え前には圃場の豊作を祈る白山下ろしも行い、持ち回りでこなしていく田植も終わった時期だ。

 儀式としては梅雨を迎えるに当っての農耕儀礼の一つでもあるのだろう。

 毎月の月待ちの行事と同じく、その運営はやはり青年団を中心に男達だけで行なわれ、神楽や本祭を含む神事として受け継がれている。

 

 祭りで討伐神である鐘馗役を務めるのは青年団の信治さん、疱瘡神=疫病神役には俺が当たることになった。団のまとめ役の良さんは鐘馗様に神刀を渡す神様役での参加だ。

 鳴り物ともなるとさすがに7名の青年団員だけでは手が回らず、笛、鐘、太鼓を3人の古老にお願いしている。

 昨年の神楽を見てはいるものの本格的な参加は初めてというのに、今年はえらい出世である。新参者に入村三年のうちには一通りの行事を経験させておこうという、村側の思惑があるのも間違いなかった。

 

 もちろん神楽そのものの花形は鐘馗役の信治さんなのだが、疱瘡神として村に災いを振りまくことになる俺の方も重要な役どころであり、映画で言えばダブル主演といったところだろう。

 神楽と言っても舞と所作で演じられるような形ではなく、弁士のついた劇のようなものだ。特に俺が演じる疱瘡神は毎年の演者の即興的な振り付けを含め、人間味溢れるものとして演じられる。

 さすがに鐘馗役には威厳を持たせるための所作や舞もあるが、物語そのものは疱瘡神のおどけた様子や、鐘馗様に無様にやられる姿に観客が腹を抱えて笑うような、まさに祭りの出し物として継承されているのだ。

 年も明けた春も早いうちから、農作業を終えた夜、三々五々と集まってくる青年団の連中と一緒に動きを教わり、練習を重ねてきていた。

 

 祭りの日の当日、夜も明けやらぬ早朝にいつもの青年団の連中が公民館に集まってくる。神事の際には若衆宿となるこの建物の裏手の井戸で禊ぎを行い、心身を清めて神事へと臨む。

 七人全員が禊ぎ前後の装束である越中褌を剥ぎ取り力仕事で鍛えた尻を晒す姿は、これまで何度も連中の肉体を味わってきたにもかからわず、相変わらずの圧巻だった。

 

 禊ぎを終え宿に入った青年団の連中は、六尺に締め直し、鐘馗役の信治さんと俺の準備にかかる。大面を含めて20キロ近い装束をまとうことになる信治さんは後回しになり、祭り開始直前まで褌一丁で過ごす。

 まずは疱瘡神役の俺の準備が始まった。

 

「今から浩平さんの毛剃りば始むっけん、褌ば取って裸にならんな」

 

 昨年の神事を見、世話役の良さんにも聞いていたのだが、疱瘡神役の俺は眉以外の全ての体毛を剃られ、全身に疱瘡のあばたを表す四十八の斑点を描かれるのだ。

 禊の後に締めていた六尺を俺は一人するするとほどき、あぐらで見守る男達の前に何一つ隠すことなくすべてをさらけ出す。全裸のまま、畳に敷かれた二畳ほどのシートの上に肉体を横たえる。

 頭は昨日、床屋で剃り上げてもらっていたが、団員の中でも一、二を争うほどの毛深い俺の身体を、まるで「剃り甲斐があるな」という感じで良さん達がすけべそうに撫で回す。

 これまで様々な行事や村の祭りの度に男同士の肉の交わりが伴っていたことから考えても、今回の疱瘡会の祭りでもそれと似たようなことが行われることは明らかだ。そして、この村で一年半を過ごしてきた俺自身の肉体が、気心の知れた男達の手でいじくられ、ついには射精まで導かれることを、嬉々として待ち受けているのだった。

 

 良さんの合図で他の二人が桶の水に石鹸を浸し泡立てる。

 まずは上半身からなのだろう、石鹸のぬめりに覆われた手の平が俺のもっさりと茂った胸毛をぬるぬるとまさぐり始めたのだった。

 

「んっ、んっ、・・・」

 全身をまさぐる石鹸のぬめりと、さりさりと動く剃刀の刺激。堪えようにも堪えきれない快感が無防備に横たえた裸体を襲う。

 出すまいと思っても思わず漏れ出てしまう声に、手伝いをしている男達にも雄としての興奮が伝わってしまうようだ。ちらりと見上げた剃り役の褌の前袋は膨れ上がり、先走りの染みさえ浮かべていた。

 

 肌の上をすべる薄い刃の動きは、傷をつけまいとする繊細さと同時に、なだらかな肉体の表面の凹凸に応じた器用さで無毛の面積を広げていく。

 腕、指の先、脇、胸、腹と進んだ剃刀は中心部分を残して下半身へと向かう。太股、ふくらはぎ、すねと足が終わると、良さんがうつぶせになるように声をかけた。

 背中から続き、おそらくみっしりと繁っているはずの尻肉の間まで剃り上げられる感覚は、男達に幾度も舐められ、肉棒を差し入れられているにも関わらず、なぜか恥ずかしさを感じてしまう。

 全身を覆っていた俺の体毛が、少しずつ少しずつ、石けんの泡との固まりとなって剃り落とされていく。

 

 最後に残ったのは股間周りだ。

 おそらく神楽でペアを組む信治さんにわざと残しておいてあったのだろう。

 胡座をかいた信治さんの両膝に俺の足を乗せる形で横たわる。

 幾度と無く互いの逸物をしゃぶりあい、噴き出す汁を飲み合った信治さんの目の前に、剃られる感触に勃ち上がったちんぽを晒す。そのことそのものには恥ずかしさは無くなっているが、やはりこれまで黒々と臍下から玉周りまで覆っていたものを剃られるとなると、不思議と興奮してしまうものだ。

 これまでの剃られる中で何人もの手で扱かれた肉棒の先端からは、すでに先走りが流れ出していた。

 

「今日は浩平さんとは息ば合わせち踊らんといかんけん、仕上げん剃りはおっがすっけんな。最後はいっぺんイっとくな?」

「このままじゃ勃ったまんまになりそうなので、一発抜いてもらっていいですか?」

 

 我ながらよくもこんなセリフを言えるようになってるのが不思議なほどだが、この村で男同士の空間にいると、もうこれが普通に言えてしまうのだ。

 

「よかよか、剃り終わったらしっかこぶってやるけん、それまでに勝手にイくといかんけんな」

 信治さんの腹積もりとしては、剃り上げた後に手と口で一度イかせるつもりなんだろう。先程までの全身を剃られる刺激とこの後に味わえるだろう快感が待ち遠しく、いきり勃ったままの俺の肉棒だった。

 

 痛いほどに勃ち上がった肉棒を信治さんが握り締め、下側に倒しながら剃るのは下腹部の茂みだ。

 竿の根本からへそに向かって動く剃刀の刃の刺激が、なんとも言えない心地よさを生み出している。

 

「浩平さんのは太かけん、剃りがいのあんなあ。怪我すっといかんけん、よか気持ちになったっちゃ動くといかんけんな」

 信治さんが呟きながら、ガチガチの竿の先端を親指の腹で刺激する。

 先走りをぬるぬると亀頭全体に塗り広げられると、思わず腰が浮いてしまいそうになる。

 

「浩平のつが先汁垂らしよっばい。あらあ、金玉でん剃らるっと、漏らしてしまうどたい」

 男達の視線が一点に集まっているのは仕方があるまい。

 俺自身も、腰奥深くから噴き上げようとする滾りを抑えるのに精一杯なのだ。

 

「信治さんっ! あんまりされると、出てしまうっ!」

「玉も剃らなんけん、もちっと我慢してはいよな」

 笑いながらもどこかのんびりした口調の信治さんだった。

 

 下腹部と竿の根元が終わったのか、睾丸周りにたっぷりと石鹸の泡が乗せられる。

 表面のシワを伸ばすためだろう、根元を信治さんが締めるように握り込み、2つの玉がぷっくりと突き出される。

 

「ここも剃らるっと気持ちのよかばってん、まだイくといかんばい」

 おそらく過去に何度か疱瘡神役をやってきているからこその言葉なのだろう。玉の膨らみに刃が当たる。

 信治さんの言う通り、表面をこそぎ落とすようなその刺激は、実に強烈だった。

 

「ああ、信治さんっ、それ、そこっ、感じるっ、感じるよっ」

「まだイくといかんけん、堪えちはいよ」

 信治さんの分厚い手のひらで転がされる玉と剃刀の刺激に、俺はもう限界だった。

 

「よーし、終わったばいっ! 最後はおっが扱いてやっけん、気持ちよう、イきなっせ!」

 

 剃り終わりの合図と同時に、信治さんがそれまで剃刀を握っていた右手で俺のちんぽを扱き始める。

 もう、ひとたまりも無かった。

 

「ああっ、イくっ、信治さんっ、イくよっ!!」

 噴き上げる瞬間、信治さんの頭が俺の股間に沈んだ。

 

「あっ、いかん、イってすぐはっ、信治さんっ、いかんっ!」

 射精の間中、敏感になった亀頭を信治さんの唾液と噴き出した自分の精液でぐちゅぐちゅと揉みくちゃにされる刺激は、俺にさらに悲鳴を上げさせた。

 

「信治さんもお疲れさんだったな。浩平さんもよか気ばやったごたんな。剃り上がったとば、みんなに見てもらうけん、よかなら立って見せちはいよ」

 射精後の余韻を感じる間もなく、良さんが声をかける。

 全身の体毛を剃り落とされた俺の裸身が、仕上がりを確認するように皆の前に仁王立ちになれと晒されることになった。

 

「若っかモンの肌は艶んよかなあ」

「下ん毛ものうなると、元々太かつのもっと太う見ゆっばい」

「身体もようと逞しゅうなってきとるごたんなあ」

 

 若い者、と言われると本来なら「いやいや若くもないですよ」と返すべき年ではあるのだが、若年層の定住がなかなか進まないこのあたりでは仕方の無いことなのだろう。実際にこの一年半で青年団の中でも30代は俺だけになってしまっている。

 からかわれた体重も、移住したときから比べると5キロほども太ってしまった。

 都会にいるときよりも外食の割合はぐんと減っているのだが、その分、米の消費量は格段に増えている。

 野菜にしろ地のものにしろ、とにかく新鮮な食材だけは豊富にあり、箸を付けるものすべてが旨い。元々の大食らいにこの年にしてまた火がついたようだった。

 

 全身を剃られているときは剃刀の刺激と石鹸の滑りで逸物を扱き上げられ、最後の股間を剃られた後には射精までしてしまった逸物も、今は太さはそのままにゆったりと下を向いている。

 

「つるつるに剃られとるばってん、股ぐらんとは、なんとも荒くたましかな」

 男達が一斉に笑った。

 

「次はあばたば描くけん、また横になってはいよな」

 良さんの言うとおりに、再び素っ裸のまま仰向けに横たわったのだ。

 

「身体ん前ん方に二十五、背中んほうに二十三の赤かつば描くけんな。こそばゆかろばってん、堪えちはいよな」

 

 額から始まり全身に赤い染料で疱瘡を表す斑点が描かれ、疱瘡神役の出来上がりとなるのだ。

 準備としては鐘馗役の信治さんの方が大変なのだろう。疱瘡神役の俺の方は、素っ裸に斑点が描かれる様を軽く楽しまれているような感じすら覚えるほどだ。

 

 疱瘡を表す斑点の場所は厳密に決まっているらしく、絵図を元に塗っていくらしい。赤い色素はてっきり食紅を溶かしたものかと思っていたら、話しを聞けば、なんと紅花を使ったものらしかった。

 先ほどまで剃刀が当てられていた肌に筆先が触れる感覚にぞくぞくとした快感を感じてしまい、またもや股間のものも勃ち上がってしまう。

 素っ裸のまま、身体のあちこちをくすぐるように赤い斑点を描かれる。本来であれば逃げ出したくなるほどの羞恥心が襲うはずの行為であっても、既にこの村の連中の前では特段恥ずかしいとも思わなくなっている俺だった。

 

「最後は大事なとこに塗っけんな」

 想像していた通りか、最後に筆を運ぶ部分は亀頭と肛門だ。

 神楽を演じるときには六尺褌に隠れてしまう部位なのだが、この村では「その後」の儀式、本祭で使用される「大事なところ」なのだ。

 相変わらずの勃起したままの先端に塗られた紅花の色素が、流れ出る先走りに少し薄まるのを見ているだけの俺だった。

 

 これを身に付けろと、青年団の皆がここ一週間ほどでわざわざ汚した六尺褌を渡される。その独特の匂いと黄色みを帯びた染みに、皆の雄汁をたっぷり吸い込んでいることが分かる。

 手に取れば鼻を突く匂いも、離れて見ている観客にはただの汚れた褌としてしか映らぬだろう。

 体裁としての「穢れ」を表すものなのだが、この村での一年半を過ごしてきた俺にとっては、そのすえたような匂いさえも媚薬とすら思えるほどになってきてしまっている。

 そのせいもあり、いかに六尺をきつく締め上げても前袋の中身の昂ぶりがより一層目立つだけで、「隠す」という意味合いには何の役にも立っていない代物だ。

 後は神楽の前半までは着ていることになる襤褸を羽織れば、俺の準備は万端だった。

 

 次は神様役の良さんだが、こちらは劇の途中に出てくる僧侶と終盤の神様の一人二役だ。

 顔に真っ白な白粉を塗り、白髪の長いかつらを被る。まだどこか人間味の残る疱瘡神や大面の鐘馗とも違う、なんとも不気味というか、神懸かった風に装束も調えられる。

 

 青年団の他の連中も六尺姿に合わせを羽織った3人が村人役、残り1人が全体の進行を仕切る弁士となる。

 

 鐘馗役の信治さんの準備はその装束と面の重さもあって、一番最後だ。

 赤を基調とした中華風の厚手の衣装に、これまた勇ましい赤ら顔に黒々とした髭の付いた、顔の二倍ほどもある大面を付けることになる。面そのものも木製の厚みのあるもので、あれを付けて所作や舞、演技をするだけでも大変なことなのだ。

 鐘馗役にはきちんとした舞が用意され、初登場シーンと最後に疱瘡神を成敗する前に舞われる二番が継承されている。

 元々は神楽らしい舞が鐘馗と疱瘡神双方にあったのだろうが、観客に分かりやすい劇形式にいつの間にか変化していったのだろう。

 疱瘡神役の俺は汚れた六尺褌に襤褸を羽織るだけで身軽なものだ。

 鐘馗役は大面をきつく頭に縛り付けられるのだが、信治さんの話では面そのものの大きさ重さを支えるために、それを縛る紐の食い込みがかなりきついらしかった。

 視野も狭いため、かなりの練習と、俺を含めた周りの役者のサポートがかかせないのだ。

 

 俺も春前からは練習に参加しているが、こちらはおどけたり相撲を取ったりという場面が多く、鐘馗役ほどの決まった所作が無い分、楽なものだ。

 これまでも疱瘡神役を何年かやった後に鐘馗役、という流れも出来ているらしかった。

 

 神楽を奉納する白沢神社と言えば聞こえはいいが、宿の奥山の巨石に注連縄を張っているだけのものだ。

 巨石そのものは御神体としての性質もあり、精通後の男しか触れてはいけない女人禁制の場となっている。

 若衆宿で準備を終えれば、巨石の前の広場が神楽の舞台だった。

 劇は四幕構成で疱瘡神の俺は出ずっぱりだ。青年団でも声のデカい奴が弁士を務め、出演者は身体の動きだけで役を演じることになる。

 元々は疱瘡神の復活を封じる部分を演じた最終幕があったらしいが、これはいつの間にか男達だけでやる本祭へと移行したらしい。

 

 午後二時から始まって一時間も無い上演だが、学校もこの日は村の子どもは昼までで帰ってくるらしく、皆どこかうきうきとしていた。

 村民に取っては毎年の疱瘡神がどのように鐘馗様にやられるのか、そこが一番の楽しみなのだろう。その部分は人が違うとやり方も違っていいらしく、鐘馗役の信治さん、台詞を唱える弁士とともに、俺もかなりの練習を積んできたのだ。

 

 参加者と観客皆で柏手を打ち、いよいよ神楽の始まりだった。

 

 疱瘡神の俺はずっと出ているので、見せ場がどこかと聞かれても困るのだが、あえて絞ればやはり最初の道祖神を間に挟んだ村人とのやり取りと、終盤の鐘馗との丁々発止の闘いのところだろう。

 見ている方も鐘馗様が勝つというストーリーは分かってはいながら、毎年の祭りにやはり自分達を苦しめる疫病を退治するという、人々の古来からの願いを託しているのだ。

 

 鐘馗役の信治さんは、三幕の登場シーンの一人舞と、最後の神刀を拝領しての立ち回りが一番の見せ場だ。

 最後は六尺褌一つになる俺と違って衣装も面も相当の重量になり、あれを付けたまま動き回るというのは相当きつい。

 にもかかわらず、観客にその重さを感じさせない信治さんの動きは、農作業で鍛えた肉体と、一人黙々と練習に励んでいた成果なのだろう。

 

 順調に幕が進み、観客の前での最終幕となる第四幕の大立ち回りは、舞台いっぱいを使い鐘馗から逃げ回るのが俺の仕事だ。

 何度もその身体に鐘馗の手が掛かるのだが、そのたびにするりと抜け出すようにして身をかわしていく。

 もちろん実際に走り回るという感じではなく、あくまで劇風にやっていくのだがこれがかえって体力を使うのだ。

 

 神楽の最後、何度も鐘馗から逃げ回っていた疱瘡神がついに捕まってしまう。

 鐘馗役の信治さんも最後の見せ場だ。

 汚れきった六尺一つの俺にまたがり、何度も見得を切る。

 弁士と打ち合わせてきた、恥も外聞もなく、哀れに許してくれ逃がしてくれと泣きわめくのは、俺が考えた演出だ。

 去年の祭りでは最後まで抵抗していた疱瘡神だったが、今年は捕まった鐘馗に怯える情けない役として演じてみた。

 熱が入ったのか、涙も鼻水もここぞとばかりに流れ落ちる。

 迫真の演技に観客から聞こえてくる拍手に、なぜか自分が感動してしまい、一層の涙顔になってしまっている。

 

「このとき、鐘馗の眉、髭は一本残らず立ち上がり、両手に握る神刀は天の光をぴかりと返し、まばゆいまでに疱瘡神のあばたの顔を照らす。その輝きに病(やまい)神が顔を背けた一瞬、神刀がその胸目掛けて振り下ろされるーー」

 轟く弁士の声とともに響くのは、甲高い笛の音。振り下ろされる神刀。

 胸に刺さった神刀の痛みに、俺は両手をぐるぐると空に回し、顔を歪め舌を突き出し、足をばたつかせては、断末魔の苦しみを表現する。

 最後に鐘馗役の信治さんが一段と深く神刀を胸に押し込んだ瞬間に、手足をばったりと落とし、苦悶の表情のままの最期を迎える。

 

 止めを見届け、すっくと立ち上がり、正面を向き直す鐘馗。

 両手を広げ天と四方を見渡し、高らかに疱瘡神成敗を告げる最後の大見得に、観客からの拍手は鳴り止まなかった。

 

 

 青年団や鳴り物の者達も含め、男達が若衆宿に戻ってくる。

 鐘馗役を勤め上げた信治さんの面を外し、衣装を脱がせば、やっとお疲れさまでした、という雰囲気になる。

 裸で過ごしても汗ばむほどの季節だ。

 疱瘡神役だった俺や村人役を勤めた者はもとより六尺姿だったが、神事の際には関わる男達はみな褌を締め込むのが暗黙の了解になっており、上着を脱いだ男達の逞しい裸体が並ぶことになる。

 

「ビールも欲しかろばってん、本祭ば終わらしてからだけんな」

 白粉を落とした良さんの話にみなが笑う。神楽としての奉納が終わった分、緊張としてはほぐれているのだろう。

 皆がやれやれという雰囲気の中、最終幕を演じきった俺だけは、なぜか昂ぶった気持ちが落ち着かない。

 おそらく鐘馗役の信治さんも同じ心持ちなのだろう。どこか上気した顔は鐘馗の面のように赤みを帯びたままだった。

 

「本祭は昔はここんところも劇でしよったて話ばってん、おっが小まかときにはもうありよらんだった。青年団入っちから、男だけで続きばしよるち知って、たいがなたまがったとば覚えとる。浩平は最後まで大変かばってん、こらえちはいよな」

 良さんの話は新参者の俺に対しての説明もあるのだろう。

 疱瘡神としての本当の見せ場は、これから始まる本祭なのかもしれないと思っている俺だ。

 

 劇の最後に神刀で鐘馗に倒された疱瘡神だが、実は物語には続きがある。

 

 一度は退治された疱瘡神が蘇り、再び疫病が村を襲う。もう一度勧請された鐘馗が神刀を振るうも今度は苦しむだけで疱瘡神は倒れない。

 不思議に思った鐘馗に神刀を渡した神から、疫病神の全身の疱瘡を消し去らない限り、何度でも復活するという天啓が下る。

 鐘馗は村人に命じ、米のとぎ汁を用意させ、その白く濁った汁で組み合う度に疱瘡神の斑点を消していく。

 全身の赤い斑点が消えた後、神刀で止めを刺して、本当の意味での疫病退散となる、というものだ。

 

 男達が一斉に六尺を解き、同じく全裸で横たわった俺の周りに集まってくる。

 本来のストーリーでは米のとぎ汁で消すはずの斑点を、男の肉体から絞り出される白汁にて塗り込め、神刀に見立てた鐘馗役の逸物を尻穴に刺すことで疱瘡神の止めを刺す、これがこれから行われる本祭なのだ。

 

「まずは浩平の全身におっ達の汁ばかくっけん、浩平は浩平でテテンゴしてイく寸前までしとかなんけんな。最初はおっが浩平のチンポばこぶってやるけん、最後は信治が浩平の尻に神刀ば入るっけん、よか気ばやらなんばい」

 良さんが手順を説明してくれる。

 男達のせんずりでの汁を浴びながら、俺は自分のを扱いてイく寸前まで昂ぶらせ、良さんが俺のをしゃぶる。最後は信治さんに尻を犯されながら、ぶっ放す。

 この村で一年以上も過ごしてきた俺にとっても、至福のときだ。

 

「みんな、よかごつイって、浩平ば白うしてやらなんけんな。始むっばい」

 男達が一斉に逸物を扱き始めた。

 どのちんぽも何度も咥え、迸る雄汁を飲み込み、幾人かのものは俺の尻の中で何度も汁を吐き出している。

 見上げる視界のすべてが男達の裸体と勃ち上がった肉棒で埋まっているのは、たまらないいやらしさだ。

 

「こんなの見せられて、良さんにしゃぶられたらっ、すぐにイってしまいますっ!」

 良さんの唾液を溜め込んだ口に咥えられた俺から、悲鳴のように声が出る。

 

「最後にイけるとなら、何度でんイったっちゃよかばい」

「浩平なら4、5回はイくるどけん、イってよかたいっ!」

 周りの男達が囃し立てる。

 許可、と受け取った俺が一番早く達してしまう。

「ああっ、もうっ、良さんの口にっ、イくっ、イキますっ!」

 

「おっ、おおっ、イくっ、イくっ」

「俺もっ、イくっ、イくっ!」

「浩平っ、顔に、顔にかけるけんなっ、イくぞっ!!」

 

 俺の射精が合図になったのか、男達の先端から、粘り気のある白濁液が叩きつけられた。

 顔、胸、腹、股間、足にまで、瞬く間に白い粘液が降りかかる。

 俺は全身の斑点をなぞるように雄汁を塗りたくった。

 宿中に立ち込める性臭と汗の匂いに、俺も男達も一向に萎える気配など見えない。

 

「浩平はうつ伏せになって尻ば上げちはいよ。今度は信治の神刀ば受けてもろち、みなの汁で背中のあばたば消すばいっ」

 俺のを美味そうに飲み込み、自分はまだ出していない良さんが赤黒い肉棒を扱きながら指示を出す。

 俺は高く尻を掲げると両手で尻の肉を掴み、膝立ちの信治さんの前に肉穴を広げる。

 

「浩平さんの尻で俺もイくけん、また気持ちよう、イかなんばいっ!」

「ああ、早く入れてくださいっ。もう、待ちきれんっ!」

 自分の身体から立ち登る雄汁の匂いに、興奮を隠せない俺だ。

 

「浩平もみんなの汁と神楽の興奮でだいぶよかごつなっとるな」

 俺が大役をやり終えた昂ぶりのまま本祭を迎えているのと、信治さんも同じなのだろう。溢れる先走りは潤滑油を必要としないほどだった。

 

 探るように信治さんの神刀が穴の周りをなぞる。

 その刺激に思わず気が緩んだそのとき、ぷっくりと太った先端が入り込んできた。

「あっ、信治さんがっ、信治さんのが入ってくるっ」

「奥までいるっけん、よかな? よかな?」

 

「よか、よかけんっ、入れちはいよっ!」

 

 いつの間にか、この村の方言が出てしまった俺だった。その声に興奮したのか、信治さんが一気に貫いてくる。

 指で握って余るほどの太さの肉竿が、ずるりと進んできた。

 腸壁を押し広げられる圧迫感が、男同士でしか味わうことの出来ない快感を伝えてくる。

 一度奥まで貫いた全長が、ゆっくりと出し入れを始めた。

 

 周りの男達も、先ほどの吐精は上澄みだったとばかりに俺の周りで二度目の射精に向けたせんずりを始めていた。

 良さんは俺の頭を持ち上げるように膝を差し入れてくる。目の前に突き出された逸物を、俺は何も言われずとも口にしてしまう。

 先ほどイったばかりの俺の肉棒も誰かの手が差し伸べられ、みなと一緒に射精できるように扱いてくれている。

 

「よかっ、よかけんっ、イくっ、イくばいっ!」

 最初は良さんだった。

 口の中にこれまで何度も味わってきたあの味が広がる。今の俺にとっては最高の興奮剤だ。

 良さんの射精に我慢ならなくなったのだろう、せんずりをかいていた男達が一斉に声を上げた。

 

「あっ、イくっ、イくっ!」

「イくぞっ、イくっ!」

「浩平にかくっけんなっ、イくっ」

 男達の喘ぎ声と同時に、背中に、尻に、熱を保ったままの汁が打ちつけられる。

 目の前での幾人もの射精に信治さんも堪えきれなくなったのだろう。

 汁まみれになった俺の背中に覆いかぶさるように上体を倒すと、これまでのゆっくりとしたテンポと打って変わり、神刀の激しい抜き差しが始まった。

 

「浩平っ、イくけんっ、浩平の尻に、イくけんなっ!」

「俺もっ、イくっ、イくっ!!」

 

 ぐっと押し付けられた信治さんの腰肉を感じながら、俺も二度目の汁を噴き出した。

 

 

 全身を男達のどろりとした白汁で覆われ、斑点を消された疫病の化身、疱瘡神は、鐘馗様の神刀で刺し貫かれ、二度と悪さをせぬよう止めを刺された。

 

 本来の終幕を勤め上げた俺に、再び男達の手が伸びてくる。

 この村の男達にとっての祭りは終わり、これから無礼講となる直会が始まる。

 

 明日の朝まで、俺は何人のものを咥え、その汁をすするのだろう。何人の男達に咥えられ、その刺激に耐えられず咥えた男の喉奥に粘り気のある汁を吐き出すのだろう。いったい何人の男のものを受け入れ、あるいは男達の後口に自らのものを差し入れるのだろう。

 仰向けになった俺の身体に男達が群がり、全身に垂れる誰のものとも分からぬ雄汁を撫で回し、唇を寄せてくる。

 

 神から人に戻った俺と信治さんは、男達に取ってはエネルギーをむさぼるための撤饌だ。

 夜はまだ始まったばかりなのだ。