金木犀

その4

それぞれの章

 

幸雄と勇二

 

 土曜日、勇二はいつものように個室で書類の整理をしていた。高橋先輩の入会から3週間が経つが、実際には夕方ジムに来た先輩と当たり障りの無い会話を2、3回したに留まっていた。もっともそれ以上のものを期待してはいけないことは、勇二にも分かっているのだが、「今度飯でも食ってゆっくり話そうや」と言ってくれた先輩には、いついつどこで、との返事も返せていない。今の俺に真正面から先輩の顔を見つめる勇気があるんだろうか? 勇二の中で疑問符がくるくると回っていた。

 

「失礼します。副支配人、ちょっと話あるんすけど、今、いいすか?」
 トレーナーの佐田幸雄が声を掛けてきた。もう2年越しのバイトトレーナーだから、この神戸支店では俺より古株だった。いかにも体育会、という明るいノリが、職員からも好かれる原因になっている。結構頭も切れ、どっしりとした体格が安心感を与えるのだろう、男女を問わず会員にも人気の高い奴だ。

 

 こいつには支店に転勤になったときすぐに俺が男好きだと見抜かれてしまった。歓迎式の宴会の日に、みんなに飲まされた俺はこいつのアパートに泊まることになった。こいつが「俺、寝るときは素っ裸なんすよ」と言って、布団にもぐり込んできたのは、今にして思えば、俺の性向を確かめるためだったっていうのはよく分かる。
 男二人には狭い布団の中で触れ合う肌と肌との感触に、俺は生来の欲望を押えることが出来なかった。俺のおっ勃ったチンポにあいつの手が伸び、尻肉に火傷するように火照ったあいつの肉棒が押し付けられたとき、俺は副支店長という職務を忘れ去っていた。

 

 それ以来、2週間毎に繰り返してきた行為を思いだし、思わず頭を持ち上げそうになる股間を気にして、俺は椅子に腰掛けるように目でうながす。

 

 相変わらず幸雄の奴、いい身体をしている。午後のトレーニングが一段落して、本人も一度シャワーを浴びてきたのだろう、淡い石鹸の香りが鼻腔をくすぐった。手を伸ばせば届くところにある圧倒的な雄の肉体は、こちらの趣味が無いものでも、どこか肉感的な想いを抱くのではと思うほどだ。

 

「正岡さん、高橋さんのこと、どう思ってんすか。あのままじゃ高橋さん、可愛そうですよ」
「なに突然言ってんだ。高橋さんとは高校のときの部活の先輩後輩だったってのは話しただろ。それ以外に何があるっていうんだ」
「自分に正直になってくださいよ。二人とも回りから見たら恋する乙女の目をして見つめあってんすよ。まったくこっちがたまんなくなってくるんすから」

 

 俺は内心をずばりと指摘され、思わずでかい声を出してしまっていた。高橋さん、タカ先輩、そう、まさに俺の憧れだった人。いや、憧れなんてもんじゃない。俺はタカ先輩に抱かれることを、先輩の肉棒を尺八する自分を想像してセンズリ掻いてた。それほどまでの狂おしい思いが、俺にはあった。

 

「お、お前、まさか高橋さんにまで手を出した訳じゃ無いんだろうな・・・?」

 

 俺は幸雄の剣幕に、ふっと思い付いたことを尋ねる。幸雄なんかに、という思いと、もし、タカ先輩が「そう」であってくれればどんなにうれしいか、との思いが交差する。俺は幸雄の目を見つめながらじっと答えを待った。

 

「副支配人こそ、高橋さんに惚れてるんでしょ。何、迷ってるんすか」
 幸雄は俺の問いには答えず、椅子から立ち上がると机をぐるっと回り込んだ。肘掛けのついた椅子に腰掛けた俺の目の前に立ちはだかる。

 

「正岡さんのコレ、高橋さんのこと話しただけでおっ勃ってるじゃないすか」
 幸雄がすっと身体を沈めると、俺の顔を見上げながら、スラックスの股間に手を伸ばす。好みの男の肉体が側にあるという直接的な刺激と、タカ先輩の話しを聞いた間接的な刺激とで、俺の股間ははっきりと分かるほどに盛り上り、おそらくトランクスには先走りの染みさえ作っているはずだった。

 

「あほ!こんなとこで、やめろ!誰か来たらどうすんだ」
 俺は口だけの抵抗を示してはみたが、あいつがジッパーを引き下げる手を止めようとはしない。このところ忙しくセンズリさえ御無沙汰だったソレが、久しぶりの快感を期待して、跳ね上がるように顔を出した。

 

「あ、やめろ、やめろ・・・」
 幸雄がべろりと亀頭を舐め上げる。俺はここが仕事場だということも忘れ、目をつぶり快感に耐える。ずり下げられたスラックスのせいで股間を丸出しにした俺は、毛深い睾丸から竿を舐め上げる幸雄の舌の動きに腹筋を痙攣させる。
 亀頭と竿のくびれをねろねろと舐めた舌が、尿道口を押し広げるように蠢く。その度に俺の食いしばった口からかすかな呻き声が上がる。

 

 幸雄の唇が竿全体を飲み込み、豊富な唾液を潤滑油にして上下に動きはじめた。右手は唇の動きと連動し竿を扱きあげる。左手が手の平に乗せたふぐりをざわざわと嬲りながら、二つの玉をこりこりと軽く圧迫してくる。
 ぬちゃぬちゃと股間から聞こえる卑猥な響きに、俺は高校時代のトイレでのセンズリを思い出していた。
 その途端、いつもより早い絶頂の予感が、脊髄を駆け上がってきた。

 

「このままだと、出るっ、出るぞっ」

 

 俺が、暴発を恐れ腰を引こうとしたときだった。幸雄がすっと俺の身体から離れ、目の前に仁王立ちになる。射精寸前の刺激を奪われ、思わず肘掛けを握り閉めていた手が自分の股間に伸びようとしたところを、幸雄に制されてしまった。

 

「夜は俺、高橋さんの担当です。今日は副支配人はヒマみたいですよって、言っておきますから、こっから先は高橋さんとやってください。俺も、ちょっと気になってる奴がいるんです。副支配人とはこれっきりにします。俺のこと、何と思ってもらってもかまわないっすから、高橋さんとうまくやって下さい。お願いです」

 

 怒鳴るように幸雄は言うと、自分のトレーニングパンツの前も隆々と突っ張らせたまま部屋を出ていく。俺は先走りのだらだらと流れる肉棒をさらけ出したまま、幸雄の背中を呆けたように眺めていた。

 

 

文男

 

「正岡さん・・・、いや、勇二でいいか、その・・・、仕事上がったら飯でも食いに行かんか」

 

 トレーニングの後、俺は思い切ってジムの副支配人で高校のときの後輩だった勇二を誘ってみた。担当の佐田君が、今日は副支配人暇なはずですよ、と言った言葉が耳に残っている。一度肉体を交えた彼は、それからも変わらず明るく接してくれていた。俺が話す勇二の高校時代のエピソードなんかに興味を持ってくれて、正岡さんも憎からず思ってるはずですよ、とか嬉しいことを言ってくれる。10以上も年下の若者に恋愛指南を受けている俺。ちょっと間抜けかもしんない。

 

「あ、あ、はい。今日は俺の方も別に予定ないですから」
 答えた勇二の顔が何となく火照っているように見えたのは俺の気のせいなのかな。二人でジムを出ると、トレーニングの話しや高校の時の部活の話しをしながら阪神電車に30分ほど乗り、俺は三宮の一軒の店の前で立ち止まった。

 

「あ、ここ・・・?」
「そうそう、高校の時このへん来てたん覚えてるか?。ここも震災でアカンようなってんけど、店はぼちぼち帰ってきてねん。勇二とは久しぶりやし・・・こっち帰ってきてからこのへんウロウロしてへんねやろう?」
 勇二の背中を押すように入った店の中は、夜の9時過ぎというのに大勢の客で賑わっていた。勇二はミックスモダンの大盛り、俺も久しぶりにそばめしの大盛りを頼む。目の前で店員が優雅な手付きで焼き上げてくれる。この店、俺達が高校の時、御用達のような店だった。

 

「先輩、そばめしって懐かしいっすよね。東京じゃこれって全然ないっすよ」
 勇二の使う言葉がいつの間にか、柔道部時代に戻っていた。俺、すんごくそれがうれしい。
「こっちでもあんまりやってるところないよなあ。昔は白飯家から持ってって、おばちゃんに焼いてもらってたんやけどな。量が増えるから俺達にはぴったりだったもんなあ」
 焼きそばを細かく刻み飯を一緒にいためたものだが、関西でも今ではなかなか無い食い物になっちまった。
 高校時代のあんな思い出、こんな思い出が次々と蘇った。

 

「勇二は、酒の方がよかったかな。俺、酒ダメだからごめんな」
「そんな、先輩・・・。先輩、覚えてますか。ここ、俺が最初に先輩に連れられておごってもらったとこなんすよ」
「あ、そうやったなあ、確かお前あんときおごってやるって言ったら、4人前ぐらい食ったんだよなあ」
「はは、一番食う時期でしたしね。先輩、金使わせてばっかりですんませんっした」
 あいつが笑いながら、テーブルに両手をつき頭を下げる。たわいない二人の会話。でも俺、こいつが笑顔を向ける度に懐かしさだけでない感情が膨らんでいってる。俺より二回りは大きなこいつの肉体。俺、それを欲しがってる自分を分かっていた。

 

 腹一杯になった俺達は店を出た。男二人が酒も飲まずに歩く姿を周りがどう見てるのか。俺は正直、勇二とやりたかった。素っ裸の勇二を抱き締めたかった。勇二もそれを望んでるのでは、という甘い期待もあったが、行動に移せない自分が歯がゆかった。知らず俺は口数が少なくなっていった。

 

「タカ先輩、その、よかったら俺のマンションでも来ませんか。あ、もちろんホント、先輩がよかったら、なんすけど・・・」
 何もしゃべらず、早足で歩く俺に気を使ったのか、勇二がおそるおそる、といった風に尋ねてきた。俺にしてみれば願ってもない申し入れだ。二つ返事で賛意を示し、あいつの住いへと向かう。

 

 男らしいさっぱりした部屋。どこかあいつの匂いがこもっていて、俺の肉欲を刺激する。楽にして下さいと、クローゼットのある部屋に案内してもらったときだった。

 

「勇二、これって・・・!」

 

 俺が見たものは忘れもしない、俺がこいつからねだられた道着だった。引退試合のときだ。こいつにはどう考えても合わないサイズ。その道着が上下きっちりと、クローゼットの表にかけられていた。

 

「あ、それっ」
 勇二も忘れていたのだろう。慌てた様子が俺にも伝わってきた。気まずい思いをさせたくなくて、俺、勇二に聞いた。
「大事に取っててくれたんだなあ。ちょっと、袖通していいか?」

 


勇二と文男、二人

 

 先輩を部屋に通したとき、俺、道着のことはすっかり忘れてしまっていた。10何年も前にもらった道着を後生大事に取っていた俺。先輩にまた会えたのが嬉しくて、箪笥の奥から引き出してしまってた。どう考えてみても、変な奴と思われるに違いなかった。でも先輩、何もなかったように言ってくれた。「袖、通していいか」って。たぶん、このときには俺の思いもバレていたに違いない。それは先輩の目が充分に語っていた。

 

 先輩、シャツを脱ぐと上半身裸になる。腕や肩の筋肉はあの当時から変わらない。いや、一層厚みを増した胸板や年相応に出た腹が、男らしさを強調している。
 俺は先輩の後ろに回り、ハンガーから降ろした道着を先輩の肩に通す。さすがに当時のサイズでは肩が張り、腹回りはどう見ても足りなかった。

 

 先輩、くるりと身体の向きを変えると、俺の顔を真正面に見つめてきた。先輩の顔が近付いてくる。俺、一回り小さい先輩になぜか抱き抱えられるような気がした。

 

「高校のとき、お前が俺のこと思ってくれてるのは分かっとったんや。俺、自分が何をするか分かんなくなって逆に遠ざけてしまってた・・・。堪忍な。今度は離さへんからな」

 

 16年ぶりの先輩の笑顔、俺にはすごく眩しく見えた。俺、何にも言わず、先輩の唇を貪るように求め、そのままベッドに倒れ込んだ。
 二人とも、もう、言葉はいらなかった。

 

 唇を、首筋を、胸肉をお互いに舐め上げまさぐりながら、二人とも争うように服を脱ぎ捨てる。先輩の爪先が、唇が、俺の肌をさまよう。その度に全身が痙攣するようにひくついてしまう。
 大きさだけなら、ゆうに先輩を組み伏してしまう俺の肉体は、まるで先輩のおもちゃのようにいいように扱われてしまう。
 時折お互いの身体にぶつかる逸物の堅さと熱さが、雄同士の交わりだということを強烈に思い出させる。

 

 俺の上にまたがり、いったん身体を話した先輩が左胸の乳首に吸いついてきた。普段なら感じない部分が、今では強烈な性感帯にでもなったかのように俺の全身を震わせる。先輩の左手がもう片方の乳首をこりこりと爪先で嬲り、右手が肉棒へと伸びる。俺のモノはこれ以上膨らみようがないほどいきり勃ち、先輩の手のひらを前触れの液でしたたるように濡らしてしまう。
 唇は乳首をねろねろと舐め回した後、俺の下半身へと向かう。脇腹をつっと唾液まみれの舌がつたったとき、のけぞるような快感が背筋を走る。

 

「ん、んっ、んんっ」
 唇を噛みしめ、喘ぎ声を押し殺そうとするが、どうしても声が洩れてしまう。先輩はそんな俺の姿をうれしそうに眺めると、毛深い俺の股間へと頭を沈めた。

 

「あ、ああっ!」
 先輩はいきなり咥えてきた。溜め込んだ唾液でぬちゃぬちゃと扱きあげる。鈴口と竿の間でねろねろと舌を回されると、どうしても声が出てしまう。先輩が俺のをしゃぶりながら、自分の下半身を俺の頭の方へ持ってくる。
 俺は先輩の腰を引き寄せ、先輩の股間の匂いを胸一杯に吸い込んだ。下半身が毛深い俺と違って、先輩の滑らかな肌は高校時代と変わらなかった。その分、俺の目の前に勃ち上がった逸物の回りの茂みが強調される。俺、先輩のチンポを無理やり下向きにさせ、ぶっくりと膨らんだ先端を呑み込んでいった。

 

 ざらついた舌先で鈴口を舐め上げる。尿道に差し込んだ舌先をふるふると蠢かせる。片手は竿をねちゃねちゃと扱き上げながら、ときどきずるりと亀頭を手の平で撫で回すと、お互いの身体がぐっと反り返りそうになるのが伝わる。
 片手で竿を根元に引き寄せ、もう片方の手の平で亀頭をこねあげるようにいじると、先輩は思わず俺のチンポを握り絞めたまま、声を上げる。

 

 ベッドの上を、二人の身体が密着したまま、ごろごろと転がる。お互いの身体をまさぐるかすかな音、シーツの衣擦れ、下半身から響くぬちゃぬちゃという湿り気を帯びた音。そのすべてがこの部屋を卑猥な響きで満たす。

 

 このままだとお互いの喉奥に漏らしてしまう、その寸前だった。先輩ががばっと身を起こし、俺の目を見つめ、一言囁いた。

 

「入れてもいいか?」

 

 俺、初めてだった。でも先輩になら、許せると思った。

「俺、初めてなんです」
「嫌か?無理せんでええから」
「いえ、先輩なら、入れて欲しいです。入れてください」
 先輩の短いセンテンツ。なのに俺のことを気遣ってくれるのが伝わる。
 先輩、俺の太腿を抱え上げると、俺が自分でも見たことのないところを覗き込んだ。先輩の荒い息を感じる。

 

「恥ずかしいっすよ・・・」
 俺がそうつぶやいたときだった。全身総毛立つような感覚が尻の穴から駆け昇ってきた。先輩が俺の後ろをねろりと舐め上げたのだった。初めて経験する行為は、決して不快ではなく、いや、まったく知らなかった快感を味あわせてくれる。

 

「あ、ああっ、セ、先輩っ」
 悲鳴にも似た俺の喘ぎ声を聞きながら、先輩の舌先は肉襞に唾液を塗りこめ、ゆるゆると俺の尻穴を犯していく。皮膚と粘膜の堺目をずりずりと刺激されるそのさまが、俺を狂わせる。
 頃はよし、と見たのか、先輩が俺の後ろに狙いを定める。まっすぐに俺の目を見たまま、先端をあてがう。俺は雑誌で呼んだ知識を思いだし、とにかく歯を食いしばらないようにと、先輩の目を見つめ返す。
 その瞬間、引き裂くような痛みが尻から脳天へと駆け上がった。

 

「ああっ、つっ、つうっ」
「入った、入ったぞ」
 出すことしか知らなかった穴に、入れられているという違和感。雁首が通るときが一番の痛みだった。同時に下半身全体に感じる強烈な異物感が痛みとともに全身を襲う。俺は荒い息を吐きながら、懸命に尻穴の緊張を緩めようとして先輩にしがみつく。先輩が小さく呻くと同時に、俺の尻肉に先輩の腰ががつんとぶつかるのが分かった。全部、入ったんだ。
 先輩が俺の痛みを気遣い、動きを止める。しばらくじっとしていると、直線的な痛みはやがて薄らいできた。先輩の肉棒の温もりが直接体内に伝わってくる、そんな感覚。

 

「そろそろ、いいか、動かすぞ」
 先輩がゆっくりと腰を前後させ始めた。その度に痛みと違和感が交互に俺を責めたてる。しかし、その痛みはどこか痒みにも似たもので、身体の奥底から新たな感覚が引き出されていく。
 内臓が引き出されるような感覚と、ある一点を亀頭が前後する度に伝わる、手が届きそうで届かないような不思議な快感。その二つが交互にせめぎあい、俺の肉体を翻弄する。身体全体で味わう圧迫感がだんだんと先輩との一体感へと変わり、痛みに縮んでいた俺の肉棒に芯を入れていく。

 

 先輩が俺のチンポに手を伸ばし、汗と唾液と先走りでぬるぬるになったソレを扱き上げる。自分自身では勃っているかどうかさえ定かでないはずの肉棒が、先輩の腰の動きに合わせて、ぶるんぶるんと頭を振りたてていた。
 くちゅくちゅと先輩の手が往復する度に、雁首の鰓を越えて敏感な亀頭が擦り上げられる。その身をよじるような刺激と、尻穴をえぐる先輩の肉棒の熱さが俺を昂ぶらせる。尻肉にがつがつと当る先輩の腰、ふぐりがぶつかる音さえも快感を猥雑に刺激する。

 

「あっ、あっ、先輩、いいっす、いいっ」
「俺も、いいぞ、いいぞっ」
 先輩は限界に来たのか、俺の身体に覆いかぶさるようにして腰を使い始める。先輩の脂の乗った腹肉に俺の肉棒が擦り上げられる。汗と先走りのぬめりが、俺の絶頂をも加速する。

 

「俺っ、イクぞっ、イクっ」
「あっ、先輩っ、イクっ、イキますっ、俺もっ、イクっ、イクッ」
 先輩がものすごい力で俺の尻穴深くに雄汁を注ぎ込んだ。俺の肉棒も先輩と俺自身の腹筋に挟まれながら、白濁液を飛び散らせた。ほとんど、一緒だった。

 

 いつの間にか先輩の腰に回していた俺の両足が、ばたんと落ちる。上半身を支えていた先輩の腕が、俺の後ろに回され、唇が近付いてきた。
 優しい、ゆっくりとしたキス。射精した後の虚脱感に全身に感じる先輩の重みが、俺、すごく気持ちよかった。

 

「女房には、今日お前と飲むから梅田にでも泊まるって電話したんや」
「今度は俺が先輩に入れさせてもらっていいですか」
「優しくやってくれよ。俺も初めてなんやからな」
 抱き合ったまま、ゆったりと唇を合わせる。お互いの肉体のぬくみが心地よい。ごろりと俺の上から身体を降ろした先輩が、気恥ずかしさを隠そうと、明るく振舞っている。その優しさが、俺、すごくうれしかった。

 

「汗かいたな、窓でも開けようや」
 火照った身体に秋の夜風が心地よかった。俺は再びベッドに戻り、先輩の胸に顔を寄せる。どこからともなく金木犀の落ち着いた香りが漂ってくる。先輩も気がついたらしかった。

 

「ん、この香り・・・、金木犀やないか?」
「自転車置場のところに木があるんですよ」

 

 その何ともいいようのない甘い香りは、切ない思い出をどこか官能的に飾っている。雄株しかないその植物は、それでもこれほどの香りを漂わせ、人々に季節の移り変わりを知らしめてくれる。

 

 かつてはこの花の香りと先輩の道着から伝わる汗の匂いが、俺の一人遊びの唯一の友だった。今は憧れて惚れ抜いたその本人が、俺の目の前で優しく微笑んでいる。
 俺と先輩の汁から放たれるむっとするほどの栗の花の匂い、二人の汗、そして開け放たれた窓から伝わる金木犀の香り。それらが複雑に混ざり合い、俺にとっての媚薬のように夜気に紛れ込んでいる。

 

 俺は、先輩の身体をぎゅっと抱きしめた。ふと、強くなった先輩の汗の匂いに、俺は二人の、そう勇二と文男の「これから」が新しく始まることを、信じていた。

 

 

当時の原案協力に大変感謝しています
K氏(方言指導、ジム情報)

M氏(ジム情報)