男性専科クリニック Part 6

その2

説明と同意

 

 野村医師が話を仕切り直す。

 

「じゃあ、山崎さん。村岡さんや宮内さん、それに私や田畑君という、ゲイ同士での肉体的な快感を伴った接触、ここではそれを『セックス』と広く捉えましょうか。その私達の『セックス』と、山崎さん、西田さんの『セックス』で、これまでの経験を踏まえた上での『違い』がお分かりになりますか?

 もちろん、想像で構わないのですが?」

 

「え、ええと……」

「あ、そうか! そういうことか!」

 

 言いよどんだ山崎に被せるように、西田が答えた。

 

「西田さんはお分かりになられたようですね。山崎さんは、どうですか?」

「えっと、その……、もしかして、その、あの、その、もしかして、『お尻を使う』ってことでしょうか?」

 

「そうです、そこなんです!」

 

 医師からすれば、やっと導き出せた答えだったのだろう。

 その声は今日一番の張りのあるものだった。

 

「えっと、それって、その、俺達のケツに、その、男の、チンポを挿れるって、そういうのを、ヤるってことなんですよね……?」

「お尻に、チンポを……、ですか……。なんだかちょっと、想像が付かなくて……」

 

 それなりの遊びをしてきているはずの西田ですらも、その声に戸惑いの見える答えであった。

 性的経験のバリエーションの少ない山崎に取っては、まさに『想像が付かない』世界の話であったのだろう。

 

「風俗でそういうプレイの経験とかは、あられませんでしたか? 女性が相手をしてくれる男性向け風俗店でも『前立腺プレイ』は少し前から盛んになってきてますが、そのあたり、お二人はどうだったのかなとも思っていたんですが……」

 

 恥ずかしそうにしながらも最初に答えたのは山崎であった。

 それもまた、このクリニックでの『恥ずかしがらずに、率直に』との教育の成果であろう。

 

「あ、いえ、その、風俗とかが、ほとんど私は経験なくて……」

「へへ、俺はその、一時期ちょっとその、ハマってました。あれ、最初は単に『変な感じ』だったのが、突然『ああああっ、出るっ!!』みたいになって、なんかこう、不思議な感覚というか。ただ、そのときは四つん這いになったこっちをソープの姉ちゃんが指を挿れて、なんかマッサージというか動かしてるうちに、みたいな感じだったんで……。

 それがその、男の、同性のチンポとかだと大きさとかどうなんだろうかと思っちまいますね……」

 

「お二人とも、ありがとうございます。

 今回のセラピーでは今話題にした、そう、肛門、アナルですね。こちらへの刺激と快感獲得を目指した内容で考えています。このセラピーを経験することにより、お二人にはより深い己の肉体への考察と、快感獲得への展望、それによるさらなる性的能力の高まりを感じていただけるのではと、私は考えています。

 西田さん、山崎さん。率直な意見を聞かせていただきたいのですが、今回の私どものこの提案について、どのように思われますか?」

 

 野村医師が山崎を最初に見つめたのは、一定のプレイ経験のある西田の意見に引っ張られないようとの思慮ゆえのことだったに違いない。

 

「あの、その、よく考えれば昔から、その、同性愛の人がそこを使うっていうのは聞いていたことではあるんですが、自分が、その、そういうふうのをやる、やられるっていうのは、正直頭の中から追いやっていたんだと思います。

 これまでの先生方にお願いしていた治療内容を考えると、そうなってくるのも当然かなあとか、少し思い始めました。

 ただ、どうしても、その、先生達の前でこう言っちゃいけないのかもですが、やはり、その、その、『汚いところ』というイメージが湧いてしまいます……」

 

「ありがとうございます、山崎さん。西田さんはいかがですか?」

 

 医師としても二人の考えを聞いてから、話をするつもりなのだろう。

 

「先生の話を聞いて俺は、いわゆる『前立腺プレイ』とはなんか違うな、と感じました。あれはあくまで『指でのマッサージ』って感じだったんですが、やはり出すとこに挿れるとなると、なんかちょっとなあとか……。あ、先生達やこの前の温泉の二人の方に対して、どうのこうのでは無いんですが……。

 俺も山崎と一緒で、『汚い』とか『臭い』とかがやっぱり気にはなりますね。

 ただ、その、なんというか、興味というか関心というか、そういうのもどこか心の中にあるなあとは感じてます。ソープでやられたときは、ホント『あっ!』っていう感じで出て、それはそれですげえ気持ちよかったですし……」

 

「お二人とも、率直なご意見、本当にありがとうございます。やはり普段、便を出しているところに挿れる、汚さや汚染、臭いのことなど、日常の感覚とはかなり違う行為であることではありますしね。

 当然、私達としてもお二人にそのような心理的な抵抗があられるだろうとの予測はしております。

 そこで今回のセラピーは私と田畑君で丁寧にお話しをさせていただきながら、お二人へのアナルについての感覚的なものを、少しでも変化させることが出来ればなあと、いくつかの段階を設定しました。

 そのため、今回のセラピーについてはこれまでピアカウンセリング理論に基づいて行ってきた、患者さん同士である西田さんと山崎さんでの相互治療では無く、私と田畑君がお二人に直接寄り添いながら、なるべく丁寧に進めていきたいと考えています。

 そのこともあり、たとえセラピーの途中でも『ここから先は駄目だ』と思われたら、すぐに中止しますので、遠慮無く仰ってください。もちろん、これからのセラピーを今ここで中断することも選択肢の1つであり、断ったからといってなにか処遇が変わる、変えるということも絶対にありませんので、その点も正直に今のお気持ちを言っていただくとありがたいです。

 西田さん、山崎さん、どうでしょうか。今回の治療、セラピーを、このまま進めていってもよろしいでしょうか?」

 

 ここまでの1年近い合同セラピーや医師等のマンションでの乱交とも言える秘密の治療、先日のゴルフ旅行など、互いにその性器をしごき、しゃぶりあい、その射精された精液を飲むことすらしてきた野村医師が、真剣な様子で二人に問いかけていた。

 この間、クリニックでの診療中でもかなり互いに砕けた空気を醸し出していたそれとは、今日の医師の気負いというものは違ったものであったのだろう。

 それに答える二人も、どこか背筋を伸ばしたように感じてしまうのは、見間違いと言えるものではないようだ。

 

「その、私は……。先生方の判断を信頼しています。もともと、一番最初の診療内容も、自分に取っては晴天の霹靂のようなものでした。それが今では、自分の逸物の勃起に関してもかなりの自信も取り戻すことが出来、さらには先生達や西田とも、色んなことをして、しかもそのことを『楽しい』『気持ちいい』と感じ、それを言葉にすることが出来るようになりました。

 少しばかり『怖い』という気持ちは正直なところありますが、今回もまた、新しいことにチャレンジして世界を広げてみたい、という気持ちの方が大きいと思います」

 

 10ヶ月前の山崎であれば、このように自分の気持ちとその変化を、医療者の前といえどもきっちりと話すことは出来なかったのではないのか。

 横で聞いていた西田は、そう思ったようだ。

 

「俺も、その、山崎と一緒で、やってみたいなと思いました。何より野村先生が勧めてきたということは、俺達のことを考えての次のステップだろうなんだと思うし、それにまあ、なんというか、『気持ち良さ』とか『快感』ってのに貪欲になることが『いいこと』なんだってのが、ここで学ばせてもらった一番のことだと思ってるんで……」

 

「ありがとうございます。お二人に前向きに受け止めていただいて、とても嬉しいです。

 それではいよいよ、セラピーに入っていきますが、お二人ともよろしいですか?」

「はい、お願いします!」

 

 二人の声が重なったのは、偶然だけではなかったろう。

 説明をしていた野村医師と傍らに佇みずっと会話を聞いていた田畑看護師が、二人の返事に大きく頷いた。

 

「先生の説明を聞かれたお二人の気持ち、僕もなんだか感動しながら聞かせてもらいました。それでは、施術室に移りましょうか」

 

 田畑看護師の促しに、山崎と西田が椅子からその重たげな腰をさっと持ち上げる。

 医師の提案を受け入れた山崎と西田。二人に対するセラピーはこれまで数多くの『行為』を行ってきた広い施術室へと、その場所を移すこととなった。

 

「あ、このベッド使うの初めてですよね!」

 

 山崎が言ったのは、これまでは普通の簡易ベッドが用意されていた施術室に、かなり大きなベッドが鎮座していたせいである。

 今回のために運び入れたのか、それとももともと倉庫にでもしまってあったのか、見るのが初めてなのは西田も同じようだ。

 

「はい、今日のセラピーでは最終的には西田さんと山崎さんが同じベッドの上で、私達からの、その、なんというか、『刺激』を受けていただくことになりますからね。もちろん普通のベッドを並べてもいいんですが、それだとお二人が自由に接することが出来なくなるので……」

 

 田畑看護師の説明を聞き、その膨らみに若干の陰りが見えた二人の逸物が再び隆々とした昂ぶりを見せ始めていた。