重森大介氏 三太 共作作品

単身赴任の記憶から

 

「ハァ、ハァ・・・」

 正に天にも昇る心地だ。

 男の口が俺の男根を吸う。男の喉の奥を俺の男根が突く。俺の男根を口で弄びながら、男の手は俺の両乳首、陰嚢、蟻の巣渡、菊門とあらゆる性感帯を弄る。

 もう男に身を委ねるしかない・・・。

 

 その時が来たようだ。俺は男の頭を両手で挟み、俺の男根への刺激をしばし止めさせる。

 

「ピシッ」

 音を立てて俺の男根は俺の腹を叩く。

 俺の男根は熱り勃ち、はち切れんばかりとなっている。

 男は俺の目を捉えると、また俺の男根を咥えようとするが、まだ射精したくない俺は、首を横に振る。

 すると男は今度は全身を舐め回す。

 俺は全身を弄る男からの奉仕に、男根への刺激とは違う刺激に身を委ねる。

 射精に至ろうとするあの瞬間を何度も何度も味わったうえで射精したい俺は、はやる気持ちを抑えながら男の愛撫に身を任せる。

 もうダメだ。イキたい。今すぐにでも。

 男の頭を再度両手で挟み、口を男根に持っていく。男は俺の男根を吸い始める。

 まもなく俺は男の口内に俺の精を放った…。

 

 

 山田一平は今年50歳になる。

 生まれも育ちも東北地方のある田舎町。家族は嫁と二人の子供がいる。

 一平は生まれつきなのか体が大きい方で、いわゆる骨太な体型だったため、ポジションはずっとキャッチャーだった。バッティングは決して得意ではなかったが、守備には自信があった。

 小学校3年から始めた野球を高校、大学と続け、家から車で30分ほどの中核都市に本店を構える銀行に就職し、やがて28年が経つ。

 今年の定時異動で本店の幹部への栄転を打診されたが、その前に武者修行として東京支店で一年間の単身赴任を命じられた。

 慣れない一人暮らし、まして一平にとっては初めての都会暮らしは何から何まで初めてのことばかりで、戸惑うばかりの毎日だったが、なんとか1か月が経過した。

 仕事も通勤にも少し余裕ができはじめたが、しばらくグラウンドに立っていなかったこともあり、運動不足の解消も兼ねて宿舎の最寄り駅の一つ前の駅からのウォーキングを始めた。

 その途中で見つけたのが、「富士見湯」だ。この「富士見湯」が一平にとって自らの"男"の部分を再認識させる場になるとは、予想だにしなかった。

 

 一平は父が転勤族だったため、幼少期を母と姉二人の女ばかりの家族に囲まれて育っていた。

 その環境が左右したか、思春期を過ぎた頃には、自分の性向は男だということをすでに認識していたように思う。

 男に惹かれる自身の性向に悩んだこともあったが、それについては別の面で昇華することが出来ていた。

 

 一平が育った東北の地。

 そこには古くからの風習が根強く残る土地柄もあって、地域で男連中が集まる時には、なんの羞恥心もなく局部を晒し、お互いのモノを自慢しあうことすらあったのだ。

 さらにはそれが高じて射精に至ることも少なくなかった。

 また、産土神の神事では下帯姿や全裸で奉賛神事を執行することもごく普通にあり、男の裸や局部に触れたいという、本来は秘められていたはずの一平の性的な欲求はほぼ満たされていたのだった。

 

 もちろん、そういう機会に集まる男たちのほとんどの行為は、単に男同士の戯れやじゃれ合いであり、一平が感じる同性愛的な興奮とは違っているものだったのだろう。

 一平の若さ漲る性欲は朝勃ちや入浴時など、日に2度、3度と自慰で処理することが日常であったが、それでもその時に思い浮かべるのも地域の男たちとの戯れの場面だった。

 

 30歳も過ぎても独身だった一平だったが、女には興味がなく、当然のように結婚も強く意識していなかった。それでも世話好きな近親者から見合いを勧められ、流れに任せ結婚することとした。

 結婚後、妻との夜の営みは女との性交渉というより、自らの性欲の処理であり、その分、自慰行為はほとんどなくなっていった。

 とはいえ、妻はパートナーとして、人として深く信頼し、愛情を注いだ。結婚して20年近くになるが、いわゆる幸せな時期を過ごすことができたといつも感謝していた。

 

 そんな一平に舞い込んだ単身赴任。

 それまで、地元を離れたことはもちろん、一人暮らしすらしたことがなかった一平は躊躇したが、この先の身の振り方を考えると断るわけにもいかず、一年という期限も限られていたため、応じることとした。

 二人の娘にもまだまだ金がかかるうえ、自宅の住宅ローンも抱えていたこともあった。

 

 駅側で見かけた「富士見湯」の看板には派手な色合いで『今日の疲れを癒すサラリーマンのオアシス 富士見湯』と書かれていた。その色使いと周囲を彩るネオンの灯りに、風呂の利用客が街灯に集まる昆虫のようだと一平には思えたものだ。

 

 入口のドアを開けると自動支払機があり、所定の料金を払い、札を受け取るとフロントで室内着とタオルを受け取るシステムだった。

 案内に従い、ロッカー室に向かう。

 スーツを脱ぎ、シャツを脱ぐと褌一丁の一平の姿が現れた。

 

 一平はいつの頃からか、褌を愛用していた。

 白の晒しの六尺褌だ。

 下着として褌を締めることは一平にとってはごく当たり前のこととなってしまっていて、締めていることをまったく気に留めることもなくなっていたのだ。

 ロッカー室の一平は、さらりと六尺褌を解くと、いつものように三分の一ほどに折り畳み、肩にかける。

 そのまま局部を隠すこともなく浴場に向かった。

 

 一平は自宅では風呂にはいると軽く褌を洗い、体を流すのも、風呂上がりに汗を拭くのもその褌で済ませていた。最後に脱衣場の水道でもう一度褌を洗い、そのままベランダの物干し竿で乾かすことが常だったのだ。

 

 初めて「富士見湯」を利用したその日は、いつものように褌を洗い、体を洗い終えると、褌を鉢巻にして頭に巻き、その姿でサウナに入った。

 汗が滴る。

 そういえば、汗をかくのも久しぶりだった。

 ひと汗流すと、着替えも持たずに入った一平は、固く絞った褌を締め直す。スーツを羽織ると富士見湯を後にした。

 そうした一平の一連の挙動をじっと見つめる男がいたことに、一平は気づかなかった。

 

 翌朝、いつもの朝勃ちで目覚めた一平は、固く勃ち上がった己の男根を鎮めるように扱き、多量の白濁液を放出した。すっきりした一平は身支度を始める。

 その日も帰り道に「富士見湯」に立ち寄ろうと、新しい褌とTシャツを鞄に入れ、仕事に向かった。

 

 その日の帰り道、前日と同じように「富士見湯」に立ち寄った。

 まるで何年も通っているかのように体を洗い、サウナに入った。前日もそうだったが、サウナには一平以外誰一人といなかった。

 その日は、一平が入った後、すぐに一人の男が入ってきて、一平の真正面に腰を下ろした。

 一平は褌を鉢巻にしていたため、陰部は晒したままだった。

 

 後から入ってきたその男は、一平の正面で手にしていたタオルを尻の下に敷き、股を大きく広げて座っている。

 特に気にもかけていなかった一平だったが、その男のある変化に気づき、はっとした。

 その男の男根は徐々に膨らみをもったかと思うと、まるで生き物のようにピクピクと鼓動し、完全に勃起したからだ。

 

 一平の男根は素直に反応した。

 同じように勃起した男根を隠す術もなく、一平とその男は、ピクピクと鼓動を刻むお互いの男根をお互いに晒しあった。

 男は立ち上がると一平の隣へと場所を移す。一平の太ももに手を乗せ、こちらの反応を確かめる。

 一平はなすがままにするしかなかった。

 

 男の手は、一平の男根を握ると、扱き始めた。

 男のもう一方の手は自らの男根を扱いている。

 やがて男は一平の男根を頬張った・・・。

 

 

 その男の名は北村浩一、50歳。一平と同い年だった。

 浩一は高校卒業後に中国地方から就職のために上京し、真面目に働いたが、折からの不況でリストラにあい、職を失った。

 結婚を考えていた女とも別れ、途方に暮れる日々を送ったが、ある日、新聞で『介護職求む。高待遇保証』との広告を見て一念発起し、介護福祉士の資格を取り、介護の現場でがむしゃらに働いた。経営者に認められ、1年ほど前に同じ傘下にある別の施設の運営を任されたことをきっかけに新しい住まいに引っ越した。

 金銭的に余裕もあったので、マンションを購入した。

 一人暮らしには贅沢だったが、これまで頑張った自分への褒美だと思った。元来、サウナ好きというのもあり、風呂はほとんど銭湯や温浴施設を利用していたので、マンションに移った際に通い始めたのが「富士見湯」だった。

 

 浩一はかつては金が入るとほとんどを女に貢ぐほどの女好きで、リストラされるまではほとんど金を貯めることもなかった。

 介護の仕事に就いての後は金銭的に余裕がなかったこともあり、女遊びはぱったりとやめ、給料は生活費以外をすべて貯金に回し、その額はかなりのものとなっていた。

 いつの間にか50歳近くになっていたこともあり、結婚は諦め、最期も一人でと決めてからは、貯蓄だけが趣味のようなものだった。

 

 それでも漲る性欲は衰えることがなく、その処理は、唯一、自慰行為に耽ることしかなかった。

 物心ついたころから女を漁っていた浩一は、自慰などすることはほとんどなかったが、女遊びを絶ってからは止むを得ず自慰に耽ると、その面白さを覚えた。奥深いものと思った。

 

「富士見湯」に通い始めたある日、いつものようにサウナで汗を流していると、性欲のせいか意識もしていなかったのに勃起した。

 銭湯でも局部を隠したりすることをしなかった浩一は、これまでもそういうことはあったが、男なら誰にでもある現象でもあり、隠したりせず、そのまま放置してきた。

 

 だが、その日は違った。

 ちょうどサウナにもう一人いたある男がそれを目撃した。その男が同じように勃起したことも浩一は気づいていたが、特段意識することはなかった。

 その男はそのうち自らの男根を扱き始めた。

 そして浩一の男根が勃起したままだったため、同じ性向だと思ったのか、浩一の隣に場所を移すと、浩一の足の親指に自分の親指を重ねた。

 

 浩一は相手にせずそのままにしていると、男は今度は浩一の太ももをさすってきた。それでも浩一は放っておくと、突然その男は浩一の男根に手を伸ばした。

 浩一は一瞬ハッとしたが、男にしか分からない部分を刺激するその動作は浩一の性欲を刺激した。

 相手が同じ男だということも忘れ、為されるがままにした。

 

 汗にぬめる男の手で扱かれるだけではあったが、その刺激は次第に快感に変わっていっった。

 やがて絶頂が訪れると、それを察した男は浩一の男根を口に含み、迸る精を口で受け止め、飲み込んだ。

 男は浩一への奉仕と同時に、自らの男根を扱いており、浩一が射精したあとは自らの精をタオルで受け止め、そのままサウナ室から去っていった。

 

 サウナの熱気と思いもしなかった快感に、浩一は呆然としていた。

 自分が同じ男から受けた行為にとてつもない興奮と満足感を得たことに。

 50歳にもなろうとする男が、初めて男同士の性行為に目覚めた瞬間だった。

 

 浩一は一旦水風呂で体の火照りを覚ますと、もう一度サウナに戻った。漲る性欲は一度きりの射精では衰えるどころか、浩一の男根はさらに熱り勃っていた。

 自分で扱いてみたが、さっきほどの快感は得られない。どうしたものかと思っているうちに、さっきの男がまた入ってきた。

 その男は、

「お兄さん、男とは初めてだったみたいだね。それにしてもすごいモン持ってるもんだ。もう一度気持ちよくさせてやろうか。」

 と誘った。

 

 浩一は無言で頷くと、その男は今度はいきなり尺八での奉仕を始めた。

 手は乳首、睾丸、蟻の巣渡、肛門を優しく刺激する。浩一はたまらなく喘いだ。

 浩一は再度男の口内に射精した。

 そして、

「俺、男とは初めてだったけど、すごくよかったよ。女とはもう長くしていないし、忘れてしまったようなもんだけど、男が男にされて感じるなんて思いもしなかったよ。俺、ホモになってしまったかもな。」

 男はほくそ笑んだ。

「またな」

 というと男はサウナから去っていった。

 

 それからというもの、浩一は日々、サウナで男からの行為を期待して富士見湯に通った。

 初めての男ともその後も何度も、また別の男からも何度も誘われた。

 そのまま場所を替えて行為に耽ることもあった。

 後で知ったことだが、富士見湯は男好きが男を漁る発展銭湯だった。

 

 浩一はすっかりホモになった。そして、それらしい男を見つけると、浩一から誘いをかけるようにまでなっていた。

 

 そんなある日、サウナで一緒になったのが一平だった。

 浩一は小さな頃から家業の林業を手伝っていたこともあり、ガッチリした体格だった。

 男を知ってからは、自分と同じような体格の男により欲情した。そしてその前日からこの男だと狙っていた浩一は、一平に狙いを定めたのだった。

 

 こうして二人が出会った。

 二人はすぐに打ち解けた。お互いの環境、理想とする男のタイプも同じ、年齢も近いこともあって、二人はまるでもう何年も前からの知り合いのように打ち解けた。

 

 出会って半月も経った頃、意気投合した二人は一風呂浴びた後、浩一の案内で近くの居酒屋で酒を酌み交わした。

 二人はお互いのこれまでのことや、男好きになったこと、これまで男との遍歴などを語り合い、夜が更けるまで大いに盛り上がった。

 その日はそのまま浩一のマンションに転がり込み、行為に耽ったことは言うまでもない。

 たまたま二人とも翌日は休みだったこともあり、朝目覚めるとどちらともなく誘い、再度男の精を放った。

 

 そんな日々が続き、3ヶ月ほど経ったある日のことだった。

 一平の赴任が一年かぎりということもあり、思い出作りも兼ね、週末を利用して二人で温泉旅行に出かけることにしたのだ。

 

 東京からも近く、人気の温泉宿に部屋をとり、近くを観光する計画を立てた。

 その日がくるまでは、まるで遠足を待ちわびる小学生のように、二人はワクワクしていた。

 

 夏の盛りの暑い日だった。

 駅で待ち合わせ、電車に乗るとすぐにビールで乾杯、四方山話に花を咲かせた。言葉にするまでもなく、お互いがその日の夜のことを待ち侘びた。

 早めに宿に着き、部屋に案内されるとすぐに衣服を脱ぎ、唇を合わせた。

 

 二人は兜合わせが好きだったが、図太い二本の男根は片方の手では賄い切れないほどだった。

 鈴口を接吻のようにあわせ、お互いの前走りを塗りあい、陰嚢を吸いあう。菊門に刺激を加え、すでに知り尽くしたお互いの性感帯をそれぞれが刺激し合ううちに絶頂が近づいた。

 お互いが同時に射精できるようタイミングを合わせ、シックスナインの体勢でお互いの口中にそれぞれの精を放った。

 すっきりした二人は温泉街に繰り出し、観光スポットを巡った。

 

 陽が落ちると宿に戻り、一風呂浴びる。

 その日は一平の勧めで、浩一は初めて六尺褌を締め込むことになった。

 

 一平の手で六尺褌を締めた浩一は、尻への圧迫感に始めは馴染めなかったが、ブリーフにはない股間の感触はやがて快感へと変わった。

 そのまま二人で宿の大風呂へと向かう。

 脱衣場での二人の褌姿は他の浴客の目に止まった。ある者は珍しいものを見る目で、人によっては怪訝な目つきを向ける人もいたが、二人はそんなことをまったく気にすることはなく、まるで子供のようにはしゃいだ。

 

 入浴を終え、褌一丁に浴衣を羽織ると、部屋に戻り、本日二度目となる夕食前の行為に耽った。

 浴衣姿のまま、褌の前袋から熱り勃った男根を引き摺り出し、一平は浩一を、浩一は一平の精を口で受け止めた。

 あたかも食前酒のような精飲を済まし、何事もなかったかのような表情で夕食会場へ向かう二人。

 

 すでに宿についてから2回の絶頂を終えた二人は、美味しい料理に舌鼓を打ちながら、しこたま飲んだ。

 二人とも酒には強く、殻のビール瓶、徳利、酎ハイのコップなどが所狭しと並んだ。

 かなり酔ってはいたが、部屋に戻るやいなや、浴衣を脱ぎ捨てて布団に転がった。

 

 飲んだ後だったが、二人の男根はすでにそれでも熱り勃っており、男根を納める六尺褌の前袋はテントを張っていた。

 先走りで前袋には染みができていた。

 浩一は一平のシミとなった部分をねっとりと舐めた。

 やがて前袋にくっきりと一平の男根が浮き上がった。一平に火がついた。

 褌に収まり切らなくなった男根を引き摺り出し、自らの手で扱いた。

 やがて浩一の男根が重なり、兜合わせが始まった。

 

 浩一にも火がついた。

 二人は褌を解き、一糸纏わぬ姿となった。

 二人の巨漢が交わる姿は、あたかも動物が縄張り争いをする獣のようにも見えた。

 冷房は効いていたはずだが、二人は汗まみれになり、行為に耽った。

 絶頂は何度も訪れ、それはお互いの口中だったり、放った精液を全身に塗りつけたりと、二人は激しく愛し合った。

 

 二人は知らず知らずに眠っていたが、空が白々とし始めた頃、一平は目を覚ました。

 素っ裸のまま、体に塗りつけた精液は固まってこわばっていたが、昨夜の行為を思い出すと、一平の男根はまたそそり勃った。

 そばで眠っている浩一が愛おしく、その寝顔を見ながら自慰をした。

 放たれた精液を浩一の腹に塗りつけた。

 唇を重ねると浩一はようやく目覚め、二人は強く抱き合った。

 一平は浩一の男根を扱いた。

 すでに勃起していた浩一の男根はあまり時間を置くこともなく射精した。

 それを一平は自分の腹に受けると、べっとりと手のひらで塗り広げる。

 濃厚な雄の匂いが漂う中、二人は笑い合った。

 

 まだ朝も早かったので、二人は裸の上に浴衣を着ると温泉に浸かった。

 精液まみれの体を洗い流し、露天風呂に入るとようやく朝陽が差し始めた。

 ふと一平がつぶやいた。

 

「来年の夏はこんなふうにいられないかもな。田舎に戻ればそう易々と浩一とは会えないかもしれないな。来年の3月になるまでは、浩一とたくさんの思い出を作っておきたい。よろしく頼むよ。」

「考えたくはないけど、やがてその日は来るんだな。そのつもりはしておかないとな。」

 誰もいない露天風呂で二人は強く抱き合った。

 

 こうして二人の小旅行は終わった。

 3月までにはまだ時間もある。もう一度、どこかへ出かけようと約束し、駅に着くと二人は別れた。

 

 翌日からも二人は富士見湯で会うと、酒を飲み、浩一の部屋で激しく抱き合った。

 やがて年の瀬を迎える頃になると、お互いの仕事が忙しくなり、会う機会も少なくなっていった。その分、会えた時はより激しく、お互いを求め合った。

 

 二人は何度も体を重ねたが、肛門性交に至ることはなかった。二人とも出会う前にも経験がなかったからだが、あえてしようとも思わずにいた。

 年も明け、二人が遠慮なく会える日々も数えるほどになったある日、浩一は一平に尋ねた。

 

「俺たち、まだ後ろはしてないよな。どうだろう、別れる前の記念に。一心同体となってお互いの体でお互いのモノを感じるのもいいんじゃないかな。お互いの体に烙印を押しておくのもいいんじゃないか。」

「浩一もだけど、経験がないし、これまでも避けてきたわけじゃないけど、確かに烙印を押しておくのもいいかもな。お互い、思い出として。」

 

 お互い納得しあった計画だった。

 

 Xデーが来た。

 二人はいつもになく緊張していた。

 心に反して下半身はすでに準備ができていた。二人とも女との経験はあったし、挿入には問題ないと思っていたが、受け入れ方が分からなかった。

 ネットなどで動画を見たりしてはいたが、いざ自分が受け入れるともなると果たしてうまくいくのだろうか、痛さはどんなものか。

 

 まずは浩一が両足を抱え、菊門を上向きになるように尻を突き上げた。

 一平は先走りを亀頭に塗りつけ、浩一の菊門には準備しておいたゼリーを塗りつけた。

 女との行為のように、蟻の巣渡りに鈴口を添えると滑らすように菊門に辿り着いた。

 少しづつ、優しく、亀頭を押し込んだ。

 浩一の括約筋が強張った。

 一平の男根は跳ね飛ばされた。

 もう一度挿入を試みた。

 

 浩一は力を抜くようにすると、一瞬脳裏をつく痛みがあったが、徐々に浩一の体内に侵入してくる一平の男根を感じた。

 一平は少しずつ浩一の体内に滑り込んでいく。

 亀頭が収まった。

 その後はスムーズに入っていった。

 

 男根の根元まで浩一の中に入るとお互い見つめ合い、抱き合った。

 浩一は痛さを忘れていた。

 嬉しかった。

 一平はゆっくりとピストン運動を始めた。優しく、すこしずつ、その動きを早めていった。

 

 浩一はこれまで経験したことのない快感にみを委ねていた。

 浩一の勃起した男根は一平の動きに合わせ腹を叩く。

 股間がぶつかり合うと「ピタ、ピタ」と音を立てた。

 一平の動きが早く強くなり、浩一の快感も絶頂になっていた。

 

 その時が来た。

 一平は浩一の体内奥深くに自らの精を放った。

 

 浩一は嬉しくて涙を流していた。

 射精が終わると、挿入したまま二人は強く抱き合った。

 今度は浩一が一平に入る番だ。

 

 これ以上勃ち上がる余裕もないほど、浩一の男根はそそり勃っていた。

 一平と同じように、浩一も先走りを亀頭に塗りつけ、一平の菊門にゼリーを塗りたくった。

 一平は浩一を迎え入れられるよう菊門を突き上げた。

 一呼吸つくと、浩一は一平への挿入を始めた。

 浩一とは違い、一平の菊門は容易に浩一を受け入れた。浩一は熱り勃った男根を少しずつ少しずつ一平の体内に収めていく。

 一平が顔を顰めた。

 一瞬痛みを感じたが、それは例えようもない快感へと変わった。

 

 浩一の男根はカリ高だったが、その亀頭冠が腸壁を行き来するたび、一平は脳幹を貫く快感に悶えた。

 浩一は女の膣とは違う肛門括約筋の締まり具合、直腸壁の感触に心が躍った。間も無く絶頂に達すると、止まることを知らないほどの精を一平の体内深くに放った。

 

 お互いの男根とお互いの男の精をお互いの体内に収めた二人は、まさに一心同体となった。

 お互いを受け入れた感触は失せても、その記憶はいつまでも残ると信じた。

 

 3月末、いよいよ一年間の単身赴任を終え、一平が故郷に帰る日が来た。

 お互い別れを悲しんだが、この一年間はもう何年にも及ぶほど密度の濃いものだった。

 十分、満足だった。その充実感とお互いの温もりはいつまでもお互いの記憶に留められることとなった。