縄の味

岐跨村の男達 Part 2

その4

 

「うむ、ところで重吾殿。留吉と雷蔵殿に縄を打ってから、どれほどの時が過ぎたか分かられますかな」

 突然亮造が目の前の責めとは明らかに違う話を問いかけてきた。

 重吾はとまどいつつも

「留吉殿に縄をかけるときに線香に火をつけまして、あれから三度(みたび)継ぎ差し、じきに四本目が終わりますゆえ、そろそろ一刻(いっとき=2時間ほど)となりましょうか」

 

「うむ、雷蔵殿が今宵は線香をも燻(くゆ)らすとされたことに、理解は及びなさったかな?」

 

「え、あ、ああ! そのような理由でございましたか!

 浅学にて、ただいま亮造殿から言われるまで、露ほども思ってはおりませぬでした!」

 

 人体への長時間の緊縛は、亮造が縄をかける際に宗平と重吾に何度も念を押していた「血の巡り」に障るのだという言葉を思い出し、重吾は日頃は焚かぬ線香に雷蔵が拘った理由にはたと思いいたったのだった。

 

「うむ、留吉と儂のみであればつぶさに様子を見ながらもう少しは楽しむかとも思うが、宗平と雷蔵殿の口、儂の尻と三処を責め続けられておれば、さすがにあまり長きときは危ないのでな、そろそろ留吉も雷蔵殿も汁止めの縄を解き、気をやったのちに縄を解こうかと思うておるのだが」

「教えていただかなければ、このまま2人を責め続けてしまうところでございました。ご忠告、感謝いたします」

「なに、雷蔵殿との交わりにおいても今宵のようなゆるゆるとした責めはされたこともなかろう。村の男の中でも肌に縄打たれることのみで気をやれるのは、儂が見たとことこの留吉ぐらいのもので、そうそう味わうことも無かろうしの。ゆくゆくは宗平も縄打ち、打たれる喜びを楽しめるようになってほしいものとは思っておるが……」

 

 立志の年を過ぎ、新棒として留吉との相棒を組まれた宗平にしても、神子時代の暮らしの中でどこかそのような栴檀(せんだん)の芽を神代に見られていたのだろう。

 縛られた留吉の乳首を嬲り、ときには口を吸うその様は堂に入っており、本人の嗜好にもこの相棒組の有り様が合致している様が見て取れた。

 

 この間、責め役の三人の手と口は一時も止まることなく、留吉と雷蔵を情欲の炎でなぶり尽くしていた。

 雷蔵はすでにその姿勢とひたすらに亀頭を責め続ける重吾の手の平のぬめりに、がくがくと膝を振るわせていた。

 留吉は胸と逸物、尻穴を柔らかく、あるいは激しく責められるその刺激に根元を括られた巨大な肉棹の先端から垂れ落ちる先汁が、社殿の板張りに手の平ほどの水の溜まりを作るほどであった。

 

「これまでの責めで気をやってしまっておれば縄を解いた途端に精汁を噴き上げることもあろうが、本日は二人とも初めての行いということもあり、そこまでにはなっておらぬとは思うが。

 万が一、汁が漏れるようであれば、そのまま手で受けてその汁もろとも先端を揉み上げてやれば、さらなる極楽へと連れてゆくことも出来るであろう。

 逸物もふぐりも、縄を解かれてしばらくのうち、血の戻りかけの時分がとりわけ感じやすくなっておる。

 儂はこのまま留吉の尻をくじりながら玉を強く揉み上げるので、宗平は留吉の、重吾殿は雷蔵殿の縄を解いたら、とにかく二人の逸物を力を込めて扱き上げ、よい気を遣らせるよう努めるのだぞ」

 

 亮造の細かな指示はさすがというもので、2時間近く焦らし上げた互いの相棒の吐精を叶えるため、その姿勢を正していた。

 

 留吉は雷蔵の横に立ち、その手ばかりを細縄の結び目へと運んでいる。

 重吾といえば、雷蔵を留吉の下から横に外し、不安定だった姿勢からの解放を図る。こちらは雷蔵の股間のまえに膝立ちとなり、目の前での噴き上げを堪能するつもりなのであろう。

 

「留吉も、雷蔵殿も、覚悟はよいか?

 縛られた後のイきようは、これまで味わったことの無いほどの身の内の炎を燃やす。

 どのように声を上げてもかまわぬので、これまでの責めに耐えた己を誇り、よい気を遣るのだぞ。

 それでは、お二人とも、縄を解かれい!」

 

 これまでのあまりの興奮の持続に留吉も雷蔵もその真っ赤に染まった太首を盛んに上下するだけであった。

 そこへ亮造の檄を受けた宗平と重吾が玉の裏側で留めていた結び目をしゅるりと解く。

 途端に流れ始めた血流とともに、じんわりと戻ってくる皮膚表面の感覚を味わう間も無く、ぬめり汁を手にした二人の厚みのある手の平がこれまでとはまったく違う早さと圧を持ってその太棹を扱きはじめた。

 

「あああっ、あがっ、あがぐっあっ イっ、イくっ、イくっ!」

「ああっ、駄目だっ、イくっ、イくっ!」

 二人の断末魔の声が天井へと響く。

 

 留吉の中の張り型を腹側に押し付けるように動かしながら、亮造もこの夜はじめて聞くような張りのある声で叫んでいる。

「よしっ、イけっ、イけっ、よい気をやれいっ!」

 

「イきますっ、イくっ、イくっ!」

「あっ、出るっ、汁がっ、汁が出るっ!」

 少し紫がかった濃い赤みを呈している二人の先端から、障子紙も破ろうかとするほどの勢いで汁が飛んだ。

 幾度も幾度も、震える雁首の先から放出されるその粘液は、留吉のそれは足下の床へと直接に注がれ、飛び散る様は米の研ぎ汁をまき散らすかのようだ。

 雷蔵の最初の汁は遠く一間も先へと放たれ、数度目からは重吾がその口で受け止め吐精の最中の亀頭をも舌と唇でぐちょぐちょと舐め回していた。

 悲鳴のような二人の呻き声がやっと落ち着いたのは、現代の時間で2分も過ぎた頃であったろうか。

 

 

 

 5人の男達が籠もる社殿の熱気はまだまだ昂ぶりを示したままである。

 留吉と雷蔵のかくやとも思える吐精を目の当たりにした宗平と重吾は、それだけで漏らしそうになる己をなんとか堪え、留吉をゆっくりと釣りから下ろし、二人の縄を肌をなるべく擦らぬようにゆっくりと解いていく。

 

「お湯の用意もお願いしておったと思うのだが、よろしいかな」

 御客の来る日、すなわちほぼ毎日のことではあるのだが、神代二人は湯の準備を欠かしたことは無い。

 当然、その習いを神代の経験もある亮造も分かっての問いであり、手桶に湯を入れてきた重吾は重ねた布を浸して熱い蒸気を立てるそれを留吉と雷蔵の縄目の残る肌に当てる。

 

 さすがに己の重量をそのまま空中にてそのまま支えていた留吉の方はいまだ横たえたままの身体の胸を荒く上下させていたが、雷蔵はすでにあぐらへと座り直し、宗平が組んだ白湯を口にしているところであった。

 

「留吉は動けるようになるまでにはもう少しかかるかのお。

 して、雷蔵殿は本日の縛りはいかがでござったかな?」

 亮造の再び落ち着いた声での問いに、雷蔵が一言一言を噛みしめるようにして答える。

 

「いや、腕を縛られ同じ姿勢で長い間立ち続けるというのがあれほどの責めになるとは思ってもおりませんでした。

 正直亮造殿が時のことを言っていただかねば、あのまま崩れ落ち、宗平殿や重吾殿にも情けない姿を見せてしまうことになっておったと思いまする。

 そしてあの、細引きを解かれた後、重吾殿の手によって埒を上げさせてもらったときのあの感覚はなんと言えばよいのでしょうな。

 まるで己の男としての根元すべてを引き抜かれたかのような衝撃と、そのえもいわれるような心地よさはもう、なんともしがたいものでした。

 玉も揉まれ、竿も扱かれていることも分かってはいるのですが、どこか薄膜一枚張ったような、まるで己のものでないものを扱かれているような、かといって、その悦楽は普段の数倍にもなるような、なんとも初めての心持ちでございました。

 このような行いを用意していただいた亮造殿、留吉殿、宗平殿には頭が上がりませぬ」

 

 最後はいつもの雷蔵らしい軽口でもあったのだろう、いつの間にか起き上がった留吉も、その大きな身体を揺らしながら笑っていた。

 

「これまでも相棒によってはかなりきつい責めも受けてきたのですが、今年の宗平殿、亮造殿との組のように、互いに縛り縛られ、かつ相穿でもこのように身体全体が浮くような釣り責めをしていただいたのは、私にとってもはじめてのことでございました。

 少しでも身体を揺らせば倍の痛みとなって返ってくる釣りであり、もし汁止めの細縄が無ければ、その痛みに悦楽を感じる私はおそらくあのままで汁を垂れ流していたことでありましょう。

 それをお分かりになられている亮造殿のお考えと、宗平殿のこちらを覗き込むような目線での責めに、もう途中からは気も頭も回らずに、ただ先汁を垂れ流す肉塊へと成りはてていたような気がしております。

 最後の吐精では、何も支えるものなき中空でのそれがあのような妙味に満ちたものであるとは、この私にも思いもよらぬことでございました。

 今少し休めば、重吾殿、宗平殿、亮造殿のお相手もまた出来るかと思いますので、もうしばらく待っていただけますでしょうか」

 

 いつもは口数少ない留吉がこれほどまでに一気にしゃべるのは、年の近い重吾にしても驚くことであった。

 亮造はなにか覚えがあるのか、にこにことした好々爺の顔へと戻り、話を継ぐ。

 

「留吉殿も雷蔵殿も、日頃とは少し違う心持ちになっておることに気付いておられるか。

 縄の後、いっときは人は気もそぞろとなり、その後は今の二人のように普段よりは陽の気が増すものも出てくる。

 これは人に依っての違いもあるが、縄で止められておった血が脈が再び戻ったときに起こるものと言われておってな。

 人によっては縄に酔うなどと言うモノもおるが、そこは果たして人ごとにまた違いもあろうしな。

 して、宗平、お主殿は今日のような普段の儂ら以外での縛りも初めてであったし、どのような心持ちになられたかな。

 なに、なにも遠慮することはなし、言ってみらせい」

 

 宗平がその大きな身体を丸めながら答える。

「まずは普段と違い、初めての雷蔵様の肌に縄を打つということそのものに緊張いたしました。ここしばらくで留吉さ、いえ、留吉殿や亮造殿へ縄をかけることはそうでも無くなってきておったと思うのですが、初めての雷蔵殿へは、どのあたりまできつく締めてよいのかの勝手が分からずにかなり亮造殿に見ていただいたなと思うております。

 留吉殿の責めにあっては、乳首を転がす度に留吉殿の身体が小刻みに震える様が、なんとも愛おしく、その願うような目を見てしまうと、思わず口を吸わずにはおれませんでした。

 こればかりは自分が縄を打たれたときとはまた違う心持ちを初めて感じたように思いまする」

 

「私も雷蔵殿の堪える姿を見て、同じような気持ちを抱きました。おそらくは苦しい姿勢で辛かろうにとの思いと、もっと責めを強くしていっそ悦楽に負けた雷蔵殿を見てみたいという、相反する気持ちが己の中に湧き出てくるのを否めませんでしたな。

 それこそが雷蔵殿から教わった誰にも嗜虐と被虐の心持ちがある、ということなのでしょうが……」

 

 重吾の率直な心情の吐露に、周囲も深く頷く夜更けである。

 

「さて、留吉と雷蔵殿もまだ一度きり、儂らにいたってはまだ一度も汁を抜いておらぬが、この後はどのようにして楽しむかの。

 まだ夜四つ(夜10時頃)を過ぎた頃合いであろうし、せっかくの相穿でこのまま休むのももったいない気もするしなあ」

 亮造が結論は分かっているだろうと言わんばかりに年若の四人へと問いを投げかける。

 

「それはもう一番若い宗平殿の意見によるもので良いのではないでしょうか」

 これもにやりと笑いながら答える雷蔵も、すでに分かっての横槍のようだ。

 

 促された宗平は若者らしい率直さと貪欲さが混じり合い、壮年の男達を少しばかりたじろがせる言葉を紡いだ。

「では、この五人、互いに相手を変えながら、最低でも五回は気をやることで終わりにするということでいかがでしょうか。

 こちらでの香のせいか、おそらく気をやってもまたすぐに互いの逸物も硬くなるやと思われますし、出来れば私は前と後ろと、一人様二発ずつでも楽しみたいと思うのですが」

 

 60を過ぎた亮造は目を見開いて驚いたふりをしていたが、まんざらでも無さそうである。

 雷蔵と留吉は、待ってましたとばかりに床の用意を始める。

 

 暁(あかつき)九つ(=午前0時頃)の鐘が聞こえるにはまだ少しばかりのときがあるなと、頭の隅で考える重吾にとっても、これから数時間の交情にまた胸を躍らせていたのだった。