部品三個の、ど根性

その7 表彰式

 

表彰式

 

「今日は、居酒屋か……。個室座敷ならいいんだが……。

 この前みたいに、スナックで他の客がいる前だとな。勝手知ったる連中ならまだしも、さすがに知らん人の前だと、恥ずかしさも段違いだったな」

 健幸の下に、今日も敷島からの呼び出しがかかる。

 

「おっ、西山社長、お疲れ様ッス!!」

「今日も脱ぎっぷり、勃ちっぷり、元気いいッスね!」

「なんか気持ちよさそうだよな。俺も脱いじまおうかな」

「いいよな、それ。脱ぎ飲みってのも、気持ちいいかもだよなな」

 

 挨拶もそこそこに全裸になる健幸に、若い社員達から次々と声がかかる。

 健和との二人でのドジョウすくい披露以来、若者達の言葉もずいぶんと和らいできていた。おそらくは敷島からの指示は自分が疑われないためにも、「西山社長を辱めろ」という直接的なものでは無く「場を盛り上げろ」といったものだったのだろう。

 

 少し話をしてみれば、同じモノを作る者同士、仕事上での馬鹿話も出来る連中だった。

 乾杯のビールの前というのに、服を脱いだ時点で短小包茎の逸物が固く勃ち上がっている健幸の姿は笑いを誘うのではあるが、それもまた揶揄というよりも男としての元気さを讃える方向へと変わってきている気がするのだ。

 もっともそれは、健幸の昂ぶりがすでに薬によるものでなくなって来ていることを示していることではあったのだが。

 

 若者達に囲まれている健幸の姿を、敷島が眉間に皺を寄せて見ていた。

 

 なにもかもは、数ヶ月前、健幸からなにか製作所で取り組める仕事が無いかと相談が受けたとき、小原社長からの「あいつを落とせ」という命令から始まったのだ。

 

 年端もいかぬ社員達の前で全裸にさせられ、あまつさえ薬を仕込まれ勃起した己の姿を恥じ、それとともに刻みつけられる恥辱と勃起、射精の快感に溺れるように西山を仕上げることが、敷島に任された仕事だった。

 当初は順調に進んでいるように見えた、その調教とも思われる敷島の策略が、アクセントになるかと思い招いた息子健和との一夜によって、なんとも不思議な様相を見せ始めている。

 

 計画通りであれば今頃は、脱がされることだけで勃起し先走りを垂れ流す健幸の姿を嘲笑するはずだった社員達が、どこかその姿に働く者としての共感を、身体を張って仕事を請け負おうとする度量への尊敬を、抱き始めている。

 

 あくまでも健幸側からお願いされた、という形で敷島本人と小原社長へ疑惑が向かないようにと、社員達への手綱を緩めすぎたのか。かといって今さら「もっと辱めろ」などという指示も出せない敷島は、社長の苛立ちを一番身近で感じるがゆえに、その内心ではかなり焦ってきているのだ。

 

 ひとしきり酒と料理も行き渡った後、司会者がマイクを持った。

「今日は敷島専務から、これまで宴会を盛り上げて来てくださっている西山社長の労をねぎらい、表彰状の授与式があるそうです」

 

 いつもなら乾杯からの酌や上げ下げ膳、追加注目の依頼などで忙しく動いた後、余興タイムでの全裸ドジョウすくい、健和との共演以来定着してしまったローションを使ったせんずり射精が一連の流れとなっていたのだが、今日は少しばかり違う次第らしい。

 

「表彰状!! と、言いたいところですが、今回は西山社長に表彰内容を読み上げてもらいたいと思います。では、西山社長、ステージにどうぞ!!」

 司会者が昔の大相撲の千秋楽での名物にもなっていた台詞を使うのだが、若い社員達には通じなかったようだ。

 それでもその指示内容は、敷島が必死になって考えた「西山社長を辱める」ものだった。

 

 司会者にうながされ、ステージへ上がらされる健幸。

 周囲が着衣したまま、一人素っ裸でいること自体には馴れてきているのだが、衆目を集めるこの瞬間には、経営者として長年会社を回してきた自分のことを考えるとやはり躊躇してしまう。

 

「ステージ上がっても、チンポ萎えない西山社長ってすごいよな」

「見られてると、気持ちいいのかもな」

「俺なんかだと、たとえビンビンでも一瞬で萎えちまいそうだけど」

 

 敷島としては、若造に指差して笑われる健幸の姿を演出したいところではあったのだが、ここしばらくの健幸の堂々とした動きに心服しかけている社員達から聞こえるのは、敷島の期待通りのものとは違うようだ。

 

「おおお、社長のチンポ、また先走りが垂れてるぜ!」

「見られて興奮するって、なんかすげえエロいよなっ!」

「なんか、俺、あんなの見てるとムラムラしちまうぜ……」

「へへ、お前も社長と一緒に脱いであそこでおっ勃ったのを披露しちまえよ!」

 

 羞恥心は確かにあった。

 健幸の中に、一人裸を見られること。しかも鍛えた筋肉や若さ溢れるわけでは無い、だらしなく太った腹や、それなりに茂った体毛を人目にさらすことは、普通に考えても「恥ずかしい」という思いは今でも当然存在している。

 

 だが、あの一人息子と同じく全裸でドジョウすくいを踊り、あまつさえ互いの肉棒をぬるぬると刺激し合ったこと。

 男達の目の前で雄汁を噴き上げたこと。

 それらの経験を経た今、他人に裸の自分を「見られる」という行為そのものが、「男としての喜び」「自負心」へと転化していた。

 

 敷島や小原が考えていた「羞恥と快感の結びつき」もまた成立しているのであるが、同時に「堂々とした振る舞いをすることで感じる達成感」もまた、結びついてしまっている。

 ましてやあの日以来、それまで好奇やからかいの目で見ていた若い社員達が、明らかに「一人の人間」として自分を捉え直してくれてきているのを感じている健幸にとり、若者達に「己の生き様」を見せる自分に、健幸はどこか使命感すら感じ始めていた。

 

「これ、敷島専務から西山社長に読み上げてほしいってのことです」

 

 司会者が健幸に一枚の賞状を渡す。

 その文章を読ませることで、健幸の羞恥心をさらに刺激しようとのことなのだろう。健幸が目をざっと通すと、凄まじい内容が書いてある。

 それでも堂々としたたたずまいを少しも崩さない健幸が、賞状を高く掲げ、大声で読み上げる。

 

「それでは、読ませていただきます!

 表彰状っ!

 西山製作所社長、西山健幸殿においては、弊社宴会に毎回参加し、その中年らしい突き出た腹、もじゃもじゃと茂った体毛、平常時であればチン毛に隠れてしまうほどのペニス、そのペニスの小ささの割には巨大な金玉、それらすべてを我が社社員の前に晒し、裸踊りを提供することで、社員一同の日頃の疲れを癒やし、また最近は、その小さく皮に包まれたままのペニスを最大限に勃起させ接待をしていただいていることに、我が社の社員一同、大変感謝いたしております。

 つきましては、この度、西山健幸殿には我が社の名誉慰安顧問として就任していただきその労に応えたいと、ここに表彰いたします。

 株式会社OHARA 代表取締役 小原典夫」

 

「おー、社長っ、かっこいいぜっ!」

「名誉慰安顧問って、すげえなっ!」

「あんなの読まされても、チンポ縮んでないぜっ!!」

 会場に響く、拍手喝采。

 

 読み方によれば、明らかに健幸を揶揄する内容だった。

 本人に読ませることで、わなわなと震える健幸の姿を想像していたはずの敷島の思惑は、ここでも外れてしまう。

 一抹の揺らぎすらない健幸の声の響き、自らの裸体を隠す素振りすら見せぬ堂々としたその姿に、社員達は逆に男らしさを見出してしまったのだ。

 

「ドジョウすくい、早めに踊らせろっ!」

 司会者に敷島が小声で指示を出す。

 会場に広がる雰囲気をなんとか断ち切りたいのだろう。

 

「では続いて、西村社長の十八番の演し物、ドジョウすくいをお願いします!」

「はい、私も待ってました。

 表彰状まで頂いたわけですから、今日も最高の踊りを皆さんにお見せしたいと思います!」

「あ、は、はい。では、社長、お願いします……」

 

 健幸の思わぬ返答に、司会者も驚いたようだ。

 社長の逆鱗に触れぬよう、敷島としては自分で場の雰囲気をコントロールしたかったのだろうが、それもまた失敗に終わりそうだ。

 

 セットされたカラオケからいつもの軽快な節が流れ出す。

 手拭い、五円玉、ザル、腰の入れ物。

 健幸の「正装」に、宴会場が再び沸いた。

 

「ちょっとカラオケ、待ってもらっていいッスかあー」

 

 普段ならそのまま踊りへと流れるはずの進行が、会場からの声で、ふと、止まる。

 

「実は俺、西山社長と一緒に踊ってみたいんスけど、ダメっすかね?」

 

「ええっ?! ええええっ?!」

 

 これには当の健幸からも素っ頓狂な声が出た。

 

「あ、俺もっ! 裸になって構わないんで、俺も一緒に踊ってみたいッス!」

「俺が最初に言おうと思ってたのに、なんだよ、お前ら……。専務っ、俺もいいッスか!!」

「せんずり掻くのは勘弁ッスけど、俺もドジョウすくいは覚えたいな……」

 

「西山社長っ、うちの若いのが、こう言ってますけど、どうです? 一緒に踊ってもらって、いや、教えてもらっていいでしょうか?」

 

 司会者は敷島の意向を聞かず、西山へと判断をうながす。

 

「え、あ、いや、いやいや、そりゃあ一緒に演るのは全然構わないんですけど……。ただ、その、皆さんは脱がなくても……」

 

「おい、みんな! 一緒に踊るのに、俺達だけ服着てるっておかしいだろ? 俺達も脱ごうぜ!」

「俺、脱ぎまーす!」

「ああー、俺もいっぺん素っ裸でやってみたかったんだよなー」

 

「若者達がこう言ってるんです。西山社長、お願いしますよ!」

 

 マイクを持つものとして、司会者も会場の雰囲気を敏感に察知しているのだろう。

 そこにあるのは、純粋な「芸」として西山のドジョウすくいを見ている、一人の職人としての思いでもあったのだ。

 

 声を上げた社員は4人。

 敷島や健幸の反応を待たず、もう堂々と脱ぎだしている。

 

「あ、では少しだけ時間をいただいていいですか。みなさんに踊りの流れとコツだけでもちょっとお教えしておきたいと思います」

 

「了解ですっ、社長! さあ、誰かこの時間を埋めてくれる芸達者な奴はいないかー!」

「あ、俺、カラオケ一曲いいッスか」

「おー、さっそく勇者が現れた。下手くそだったら承知しないぞー!」

 

 司会者もまた自分の仕切りに満足げだ。

 そこにはもう、敷島の口を挟む余地は無くなっていた。

 

 盛り上がる会場の隅で、健幸が楽しそうに4人の若者に踊りの流れと腰の落とし方、尻の振り方、ドジョウを捕まえる仕草を伝授している。

 がなり立てるカラオケをバックに、裸の若者達が真剣なまなざしでその説明を聞いていた。

 

「社長達の準備も整ったようです。それでは社長と我が社代表の4人組、頑張ってください!!」

 

 音楽が流れ出す。

 いつものように、へこへこと腰を振りながら、肉竿を振りかざす5人の男達がステージの下手から現れた。

 

「5人いると壮観だな」

「すげえ、いつの間にか、みんなおっ勃ってるぜ」

「あいつのチンポ、勃つとあんなデカかったんだ……」

「こりゃ、いい出し物だな」

 

 沼田に向かう男達の滑稽な足取りが、股間に揺れる逸物の動きを強調する。

 準備の間に、それぞれが自らの逸物をしごき上げたのだろう。

 剥け具合、大きさ長さはそれぞれの、5本の肉棒が天を突いている。

 おそらくは、勇気を振り絞った若者達の中に「西山社長だけに勃起させてるわけにはいかない」という、共通した心情があったのではないのか。

 

 ザルをすけ、ドジョウを追い回すたびに、振りかざした尻がひょこひょこと上下に揺れる。

 入ったドジョウを捕まえようとザルを地面に置けば、蹲踞の姿勢で膝を割った男達の股間から大小様々なチンポがにょっきりと1つ目を剥く。

 

 踊りが進むたびに起こる拍手と喝采。

 衆人から注目を浴びる快感を、実体験とする5人の男達。

 

「いよいよ、ドジョウ捕まえるぞっ!!」

「あいつらもせんずりでイくのか、どうするんだ?」

 

 健和との二人踊りのときには互いの逸物を捕まえる仕草でしごき上げたのだが、その後、一人だけでの踊りのときには自らの手で包茎チンポをしごいていた健幸である。

 4人の若者が加わった今日の踊りで、どんな扱き上げをするのか、観客である社員達の興味が集まるのも仕方がない。

 ドジョウをぬるぬると捕まえる、そのときが迫ってきた。

 

 健幸を中心として、左右に二人ずつが見栄を切る。両端の二人は蹲踞の姿勢で腰を低く落とし、股を限界まで開いて股間をさらす。それぞれに勃ち上がった肉棒の先には、見られる快感、見せる快感を存分に味わっているのか、露さえ結んでいる。

 健幸の左右に位置した二人は、健幸のもっさりと陰毛の茂る股間に手が届く位置に、片立て膝でひざまずく。ローションをたっぷりと垂らした手のひらが、天井の照明にぬらぬらとした光を返す。

 ザルから拾い上げた股間のドジョウを一度健幸自身が握りしめるが、すぐにぬるりと逃げ出してしまう。

 逃げ出したドジョウをなんとか捕まえようと、左右の若者がタイミングよく健幸の勃起を何度も握り締めてはぬるりぬるりと逃がしていく。

 

「うわ、他人の手であんなにヤられたら、たまらんだろう!」

「しかも四本の手でって、どこのピンサロでもヤッてくれないよな」

「俺があんなことされたら、あっと言う間にイッちまうぞ!!」

 

 他人の手で扱かれる快感を、たいていの男は人生のどこかで経験しているのだろう。

 社員達の言葉は、自分がもしあの立場にあったら、という想像をリアルに表していた。

 

「おっ、おおっ、気持ちいいっ、二人にヤられてっ、おっさんのチンポが、気持ちいいっ!」

「社長っ、気持ちよくなって、盛大にイッちまってくださいっ!」

「イっていいッスよっ! 俺、社長の精液、しっかり受け止めますっ!!」

 

 社員達のチンポも、びくびくとその鎌首を振り立てている。

 もし誰かにしごけと言われれば、一瞬にして男としての精を噴き上げてしまうだろう。それほどまでに腫れ上がった亀頭が、パンパンに膨らんでいた。

 

「おおっ、おっ、おっ、ダメだ、イくっ、イくぞっ!!」

「いいッス、社長っ、かっこいいッス!」

「イけっ、西山社長っ、イッてくださいっ!!!!」

 

「すまん、みんなっ、イくぞっ、俺はイくぞっ、イくっ、イくっーーーーー!!!」

 

 盛大な射精だった。

 息子の健和のようにズル剥けであれば、さえぎるものの無い白濁液はまっすぐに距離を稼ぐのだろう。いつもの一人遊びであれば、自らの手のひらで先端を包み込み、その手でどろりとした汁を受け止めたのであろう。

 しかし今日ばかりは、皮に包まれた健和のそれは、二人の社員の顔身体を含む、辺り一面に広く播き散らかされた。

 

「すげえ、花火みたいに飛び散ったぜ」

「あはは、お前、鼻のところに社長の精子、付いてるぞ」

「おい、あいつ、自分にかかった社長の精液、舐めちまったぜ!!」

 

 健幸の盛大な打ち上げと同時に曲が終わった。

 会場が再び、万雷の拍手に包まれる。

 ステージに上った5人の男達は、円陣を組み互いの健闘を称え合う。

 若者達の勃起も、おさまることは無さそうだ。

 帰宅して後の彼らの部屋は、あの匂いが強く漂うことになりそうだった。

 

「本日の宴会はこれにてお開きとしましょう!

 それではみんな、西山社長と勇気ある若手諸君にもう一度大きな拍手を!」

 

 今日何度目かの、割れんばかりの拍手が起こる。

 

「最後に一本締めを、本日の最大の功労者、我が社の名誉慰安顧問に就任された、西山社長にお願いします」

 

 急に振る司会者。

 若者達が、健幸の肩を勢いよく叩き、さらに前にと押し出していく。

 

「えー、それでは皆さん、お手を拝借。

 手一本、これにてお開きにしたいと思います。

 それでは、よーいっ!」

 

 ぱんっ!!!!!

 

 宴会場に、きれいに揃った拍手の音がこだました。