男性専科クリニック Part 5

その3

 

その3 初診日

 

「あ、田畑君か。予約しとった村岡です」

「村岡さん、宮内さん、こんにちは。今日は特別診療日で、午後はお2人以外の予約は入れてませんので、リラックスしてください。この前は翌日のゴルフ大丈夫でしたか? けっこう遅くまで、ほら、色々やっちゃったので……」

「あはは、さんざんだったですよ、なあ、昭一」

「いつもはプレイ前日は控えてるのに、あんなふうになっちゃったですからな。その分、愉しませてもらったので、プラマイゼロですわ」

 

 野村クリニックを訪れた2人を、受付にいた田畑看護師がにこやかに迎え入れる。

 

 このクリニックでは、週のうちの二日、水曜と金曜は野村医師の判断で一組ずつしか予約を入れない特別診療日になっている。

 この特診時間枠そのものが、野村クリニックが『男性専科』と銘打っている治療方針を明確に表していた。

 男性機能の低下というデリケートな部分に切り込むにあたっては、じっくりと時間をかけての心理的肉体的セラピーとセッションが必要という、野村医師の信念により設けられたこの時間は、限られた患者にしか案内されることは無く、まさに『特別』な診療体勢を敷いているものだったのだ。

 

「えっと、村岡昭一さん56才、宮内寛さん54才ですね。まずお2人とも、こちらの問診票にご記入ください。その後、採尿をお願いします。紙コップに名前を書いておきますので、小便を出してもらって、トイレの中にある小窓に置いてくださいね。後は血圧を計らせてもらってから、診療へとの流れになります」

 

 渡された問診票は一般的なものだった。

 他の病気や検診でなにか言われたことは無いか、治療中の病気や飲んでいる薬は無いか、アレルギーは無いか、普段の生活で困ったことが無いかなど、渡されたペンで書き入れていく2人。欄をすべて埋め、受付の田畑看護師に渡すと、紙コップをそれぞれに渡される。

 

 田畑看護師が渡したコップを持ち、トイレへと向かう2人。年齢的にも健康診断で何度も行っているものであり、採尿といっても特段難しいものでもない。

 

 癖なのかズボンそのものをざっくりと下ろし、がに股に開いた太ももで支えながら金玉まで放り出すようにして小便をする村岡と、これはジッパーの開き口から肉棒だけを引っ張り出して放尿する宮内が、互いの股間に目を落とす。

 

 ずろんと太短い村岡のそれは、その下に鎮座する双玉の大きさの方が目を引くといえば伝わるだろうか。ぼってりとした厚みのある皮膚に覆われたふぐりは、一つ一つの睾丸が鶏卵ほどの威容を誇り、色素の沈着した表面と相まってすさまじいまでの存在感を印象付けている。

 その逸物の全容は、ビール腹、狸腹とも称される丸い上半身にさえぎられ、本人からは風呂場の鏡の前でもないと視界には入らぬものだろう。

 

 宮内の方はといえば、こちらは普通にジッパーの開け口から平均よりは少しばかり大きめの逸物を引き出し、わずかに被った包皮を剥きあげての放尿だ。

 

 小便器の前に立った2人は、最初の放出はそのまま小便器に出し、親指と人差し指で亀頭の下あたりをつまみ、いったん流れを止める。

 

「昭一と横に並んでションベンするのも珍しいよな」

「確かにそうだわな。それにしても、いくら年の違いあるといっても、勢いが違うのはヤになるわいなあ」

 

 宮内の呟きに村岡が答える。

 

 コップを片手で据え、先端近くを摘まんでいた指を解放すると、薄い黄色みを帯びた小便が内側に線を引かれたコップを勢いよく満たしていく。半分ほど溜まったところでもう一度流れを止め、残りを小便器へと狙いを定める。

 中熟年になればどこそこの検診や病院で幾度も繰り返すその行為は、村岡宮内、双方にとってもごくごく当たり前の診療への流れの一つであった。

 

「コップ、置いときますよー」

「あ、ありがとうございます! 次は血圧測りますのでー」

 

 宮内が小窓の奥に声をかける。

 トイレを出た2人の血圧を測る田畑看護師。

 

「村岡さんが130の78、宮内さんは126の70です。先生にもデータ送りますので。採尿分の検査数値が出たらお呼びしますので、しばらくお待ちください」

 

 田畑看護師がそう説明したときだった。

 

「あー、世間話でもしておくので、もう入ってもらっていいですよ。田畑君、小便の方の数値出て入力出来たら、すぐ来てくれ」

 

 院長室から出てきた野村医師が声をかけてきた。

 通常の診療であれば予診の後に糖や蛋白の数値が出てからの医師の診療になるのだろうが、特別診療日ということもあり、のんびりとした雰囲気を意図的に野村医師が作りだしている。

 

「あ、はい、了解です。こっちもちゃちゃっとやりますので、お2人とも診療室にお入りください」

 

 青年の声に従い、医師の待つ診療室のドアを開けた2人だった。

 

「この前はどうもでした。あらためまして、当クリニックの院長をしております、野村道雄(のむらみちお)と申します。本日はお2人という形で受診をお願いして、申し訳無かったですね。今後ともよろしくお願いします」

「あ、先日はなんだか失礼しました。村岡昭一です」

「宮内寛です。よろしくお願いします」

 

 村岡は内心、よほど大きな病気のときは別として、医者から自己紹介するのは珍しいな、と思ったようだ。

 宮内の方に目をやると、やはり村岡と同じ思いだったのだろう。どこかホッとしたような、安心出来る相手だろうという雰囲気が伝わってくる。

 

「この前の温泉でだいたいの話しはしてるつもりですが、もう一度繰り返しておきますね。

 このクリニックでは主に男性の性機能についての治療をメインに行っています。

 通常の診療の流れだと、初診の本日は性機能の衰えている患者さん、今日は村岡さんですね、その村岡さんの勃起に不安があられる状態に対して、普段の性生活についてのインタビューや何らかの器質的な障害によって血流が妨げられているのでは無いかなどを、血液検査や触診、また陰圧式の勃起補助機材を使って調べていきます。

 ただ、村岡さんについては先日ご一緒した温泉での様子から、物理的な血流障害は見られなかったように思いますので、本日は次回の診療までに詳しい結果が出る血液検査と、心理的な面でのご不安などが原因になっていないか等を少し話しを聞かせていただこうかと思ってます」

 

 診療と治療の目的を説明する医師の言葉を、2人が真剣に聞いている。

 

「最初に村岡さんにお尋ねします。

 御自身の勃起が弱くなっているとのお話しでしたが、いつ頃その状態に気付いたのか、具体的にこんな感じ、こんなことに困ってる、こういうふうになってくれると嬉しいなど、何でもけっこうですので、自由に話してもらっていいでしょうか?

 もちろん嫌なこと、話したくないことがあれば無理はされないでください。また、宮内さんからの補足もあればお願いしますね」

 

 医師の勧めに村岡がぽつぽつと話し始めた。

 

「そうですな……。

 あれっと思い始めたんは、10年ぐらい前かと思います。それまで毎朝感じてた朝勃ちが無い日があるなって気付きはじめて。

 勃起しても長続きしない、固くならないまま射精してしまう、そんなことが段々増えていきました……」

 

「差し支えなければ、そのときの村岡さんの性生活の状況を聞かせてもらってもいいですか?

 この前のお2人の様子から、おそらく村岡さんと宮内さんとは、互いを性的対象として長くお過ごしになっているのかと感じましたので、今回もお2人一緒に来ていただこうとお声をかけさせてもらいました」

 

 医師の話振りに安心したのか、村岡も隠すところなく答えていく。

 

「お察しの通りで、ワシは宮内との付き合いはもう30年近くになります。今でも週末はほぼ一緒に過ごしてますしな……。

 その頃はもう何と言いますか、ワシの方がいわゆる『ウケ』って形になっとったので、そのことそのものが2人の間の支障になったワケでは無いんですが……。

 それでも元気に射精したい、いや、というか、コトの最中に勃ってないと、コイツに『感じてないんじゃ無いか?』って思われたくないなっちゅう思いが強かったですな……」

 

 医師の受け止めのせいか、村岡の話しもだんだんと具体的なものとなっていく。

 

「話しにくいことだったかもしれませんが、ありがとうございます。

 村岡さんのお話だと、勃起障害がお2人の性生活の直接の支障になっているという状態ではなく、どちらかといえば心理的に回復を求めている、という感じで受け止めていいでしょうか?」

「あ、はい、まさにそんな感じですわ。ひろ……、宮内とのセックスがそのことで上手くいかない、とかでは無いですな」

 

「ありがとうございます。それでは、宮内さんとしては、当時の村岡さんの変化をどう受け止めておられましたか? また、最初の変化からそれなりに年月が経った上で、今現在のお気持ちはどうでしょうか?」

 

「そうですね……。

 しょうい……、いや、村岡はほら、とにかく見た目的にも精力絶倫って感じでしたから、最初は『本人はショックだろうな』と思ってました。

 確かに途中では『自分に飽きたせいなんじゃないか、感じたフリをしてくれてたんじゃないか?』とも思ったこともあったんですが、色々話しをしていく中で、そうじゃないんだってことは分かってきたつもりです。

 それでもやはり、『固く勃起してからイッてくれた方が、本人は気持ちいいんじゃ無いか』って思うことはありますね……」

 

 村岡の、野村医師を少し小さくしたような、ころんとした子狸体型に艶のある禿頭、肌の質感も艶めいた容姿からすれば、宮内の言う『絶倫』とはまさに村岡のことだろうと周囲のものも納得しそうな話しだった。

 

「そうですか……。立ち入ったことを伺いますが、お2人の性的な接触においてはそのいわゆる『タチウケ』の役割は、現在では固定化されている形でしょうか。先ほどの村岡さんのお話しだと、そうかなとも思えるのですが?」

 

 医師の質問に顔を見合わせた2人だ。

 

「はい、私、宮内の方がいわゆる『タチ』として、挿入する側ですね」

「それはお2人の性生活の、最初からそうだったんでしょうか?」

 

 当たり前のように尋ねる野村医師。

 

「いや、一番最初はどっちもどちらもやっとったんですが、しばらくしたら宮内の方がタチをやりたいんだなと、ワシの方がウケに回った形ですな。その、2人とも、どっちもやれるのはやれとったんで……」

 

「ありがとうございます。その変化は、村岡さんの勃起不全に伴ってのものでしたか?」

 

「いや、付き合いだしてそう長くもないうちに、だいたいそんなふうに変わっていったよなあ、寛?」

「ああ、そうだったな……。確か半年か一年もしないうちに、役割というか、なんというか、私がタチで、しょうい……、村岡の方がウケ役という形に落ち着いたかと思います」

 

 思い出すような宮内の話しに、村岡も頷いている。

 

「それでは現在のお2人の関係において、村岡さん宮内さん双方のお話から、村岡さんの勃起不全についてはとりわけ何か困難な、困ったことがあるというよりも、それが改善することによって村岡さんの自信や快感への追求、実感を求めていきたい、というようなことが主訴になるかと思いますが、どうでしょうか?」

 

「ああ、まさにそんな感じですな。こう、チンポが元気になってくれれば、こいつともっと楽しめるんじゃなかろうかいな、と」

「私も、特に村岡がそうだから困るとかはまったく無いんですが、やはり自信とか感じるのとか、もっと気持ち良くなるんじゃないだろうか、とは思ってます」

 

「お2人とも、プライベートなことを話していただき、本当にありがとうございます。これからの治療もそのあたりを軸として考えていきたいと思いますので、よろしくお願いします」

 

 そこまで医師が説明を終えたときだった。

 

「先生、お2人の検査結果入れておきました」

 

 クリニック内で出来る尿の検査を終えた田畑看護師が、診察室に姿を現す。

 モニターの画面を見た医師が2人に説明する。

 

「数値の方は後ほどプリントしてお渡ししますが、血圧もお2人とも正常範囲、採尿検査での尿糖、蛋白、潜血もここでの結果では出て無いようですね。

 もしご希望ならば、内科的な疾患が無いか検査センターに回す分の採血と、HIV、梅毒、B型肝炎のスクリーニング検査もやることが出来ますが、どうしましょうか?

 これらの採血と検査は半年以内に会社などでの検診を受けておられれば、特に必要無いかと思います」

 

 顔を見合わせる2人。

 

「健康診断は2人とも3ヶ月ほど前にやってますわいな。

 あ、ワシら、その、梅毒とHIVの検査は毎月やっとるんですわ……。そのまあ、2人とも遊んどらんと言えば嘘になるもんで……。肝炎のはやってもらおうかなあ、寛……?」

「ああ、そっちはお願いしようか」

 

 村岡と宮内が済まなさそうに返事をする。

 

「いいことじゃないですか! 安心でもありますし、そこまでされているということは逆に普段の生活も気をつけておられるんだと思いますしね。では肝炎の簡易検査だけやっておきましょうかね。これは30分ぐらいで分かる奴ですので」

 

 2人の話を受け、田畑看護師がランセットを用意する。

 

「耳と指、どっちがいいですか?」

「あ、耳で」

「私も耳の方がいいかな」

「ちょっとちくっとしますよ」

 

 アルコール綿で耳たぶを拭った後、パチンと針を打った耳たぶから取った血が検査キットに落とされる。

 結果を待つ間、野村医師と田畑青年との雑談風の会話の中で、いつの間にか下世話な話しが普通に出来るようになっていることを不思議に思う2人であった。

 先日の温泉での痴態を思い起こせば最初から垣根は低いものではあったろうが、やはり日の光差す時間帯に互いに着衣のまま話す内容とは、どこか違ったものを感じていたのだ。

 

 ………………。

 …………。

 ……。

 

 

「あ、結果出ましたね。お2人とも陰性のようです。

 ウインドウ期間がありますので、直近の行為の結果が反映されるわけでは無いですが、他の感染症の検査も定期的に受けておられ、各々健康診断もきちんと受けておられるわけですから……。

 さて、色々お話しも聞かせていただき、こちらでの方針も説明させていただきました。初診ということで本来なら村岡さんの勃起不全の状態を機械を使って確認させてもらうんですが、それについては前回の温泉の状況から必要無いと考えていますので、本日はこの検査結果を持ち帰っていただく、ということでよろしいでしょうかね」

 

 野村医師がいたずらっ子のような笑みを浮かべながら、村岡の顔色を窺っている。

 

「え、あ、はい……。あの、その、今日は、その、それだけ、なんですかね……?」

「なにか、あられますか?」

「えっとお、その、てっきり……」

 

 勃起機能の検査は省略する、との医師の話に、村岡がかえってドギマギとしている。

 

「先生ったら、もう村岡さんにも宮内さんにも、いじわるすぎますよ!」

 

 先ほどからのやり取りを聞いていた田畑看護師が、横から助け船を出した。

 

「村岡さんも宮内さんも、絶対に先生や僕となにか絡みがあるって思っておられたと思うんですけどね? そうでしょ? 村岡さん、宮村さん?」

「あ、はい、その、やっぱりこの前のことがあったので、期待するっちゅうか、なんちゅうかで」

「田畑君の言う通りでして、その、村岡ともなにがあるかって興奮したりしてて……」

 

 看護師の言葉に、『興奮』の直接の内容には言及出来ない2人だ。

 

「先生、わざとあんなこと言って焦らしてるんだから、お2人とも怒っていいですよ。先生もやる気満々なのに、そんないじわるするんだから」

「はは、うちの田畑君にかかると私もかたなしですな。もちろん、お2人の期待も分かってますので、焦らしてすみませんでした」

 

 ぺこりと頭を下げる医師に、頬を赤らめた2人がホッとしたように顔を見合わせる。

 

「お2人の色んなことを第三者の前で正直に言える付き合い方に、ちょっと嫉妬してしまいました。田畑君、君なら初めてに近い人達、しかもお互い服を着たままの状態のときに、あそこまで踏み込んだ話しが出来るかね?」

「え、そんないきなり話し振るなんて……。まあ、確かに色々とムードが高まった後や、お互い裸になってる状態ならかえって話せますけど、普通のときだったら……」

「だろう? 村岡さん、宮内さんがいくら先日の温泉でのことがあったとは言え、昼間の普段着のまま、ましてや診察室の中で、私たちにあれほどあけすけに色んなことを話してくださったというのは、普段からお2人の間でしっかりと色んなことを包み隠さずに話せている証拠だと思ったんだよ。だったら、私のからかいにもいかにも『失望した』って表情を出してくれるんじゃないかと思ってだね」

 

 医師の青年への説明を聞いていた村岡と宮内が、再び思わず顔を合わせるが、そこには確かに『普通、こんな話し一気にしないよな』『自分達ってそう言えば、けっこうその手の話、マジにやってるな』との思いがこもっていた。

 

「先生の慧眼はさすがなのかもですが、それでもお2人にとってはからかいになってしまう話だったと思いますよ。そこはきちんと謝られないと。僕はきちんと話をしてくださったお2人に、失礼に当たることだと思います」

 

 若者の真っ直ぐな言葉に、野村医師も自らの過ちに気付かされたのだろう。

 椅子の向きを直し、2人に深々と頭を下げる。

 

「確かに田畑君の言う通りですね。からかったような言い方をしてしまい、大変申しわけありませんでした」

「いやいや、先生。頭、上げてください。ちょっと『そんな殺生な!』とは思いましたが、ワシら、そんなふうには受け取ってもおらんですから。なあ、寛、そうだろう?」

「もちろんですよ。というか、昭一の大事なとこ、色々やってくれるんでしょ? そっちの方が気がかりで」

 

 宮内の言葉に、野村医師が笑いながらもう一度頭を下げる。

 場の雰囲気をなごませようとするのはさすがに2人の年の功の部分もあるのだろう。

 謝罪の空気を笑いに変えるのは、長く付き合う中、2人の間で培われたものやもしれなかった。

 

「本当にすみませんでした。では、さっそく村岡さんの検査に移りましょうか。

 じゃあ、検査内容の説明をお2人にしてくれないか、田畑君。もちろん宮内さんや私らの役割についても頼むよ」

「了解です。まあ、先生が言うように温泉で勃起能力の状態は確認されてるようですけどね」

 

 田畑看護師の言いようには、都合2回の村岡達との逢瀬で初回に参加出来なかったくやしさが溢れている。

 あの温泉旅行の際、初ゴルフと長い運転の疲れから宿に到着した途端に睡魔に襲われ、昼間の露天風呂で繰り広げられた山崎の射精ショーには加わり損ねたのだ。

 

「えっと、勃起ってほら、ペニスに血液が流れ込むことで起こることはご存じかと思います。当院にあるEVDという機械、これ、External Vacuum Deviceと言って、筒の中の空気を抜くことで差し込んだペニスに物理的な血液の流入を促す『陰圧式陰茎勃起補助具』って奴です。

 この筒に村岡さんのペニスを挿入して、中の空気を抜いていきます。

 大きくなった時点で根元にリングをして性行為に及んだりも出来ますが、今日は先生、どの程度まで検査されますか?」

「そうだね、陰圧を止めた場合の勃起の維持能力がどのくらいかと、刺激による射精が可能か、そのあたりまでやってみようか。村岡さんは、それでいいですか?」

 

 ものものしい機械の大きさに、村岡も少し驚いたようだ。

 

「あ、はい、なんちゅうか、すごくいやらしいですな……」

「ここから先は、お楽しみタイム、ということで。というか、心理的な意味での『快感』を味わうことそのものが『治療』へと結びついていくかと思いますので、これもまた立派な治療行為の一つだと先生も僕も考えています」

「期待してなかったわけではないので、なんかこう、ちと、感激ですわ」

 

 村岡の答えに男達が笑う。

 

「で、もちろん機械の操作そのものは僕や先生がやるんですが、宮内さんにもちゃんと役割があります」

「え、私に?」

 

 田畑青年の言葉に頓狂な声を上げる宮内。

 

「はい、これは村岡さんの勃起能力と射精能力になんらかの器質的な異常が見られないかを検査するものですから、医療者側、支援者側としても村岡さんの勃起を促す行為を積極的に行っていくべきものです。

 うちのクリニック、先生の方針として『あらゆる医療的行為は患者さんのために』ってのがありまして、どのようなことに関しても先生も僕も、今回については村岡さん、宮内さんが豊かな性生活を送るための手助けをする覚悟なんですよ。

 同時に宮内さんにも検査や治療に加わっていただくことで、お2人の間にもしもほんの少しでもすれ違いがあったにしたしても、この先、そこを2人で乗り越えていくための力になる。

 そう僕は信じています」

 

「えーっと、田畑君、すごくカッコいいこと仰ってるんですが、まあ、なんというか、昭一をみんなで感じさせる、って受け取っていいんですよね?」

 

 宮内もまた頭の回転が早いのか、すぐさま医師達の意図を把握したようだ。

 1人『え? え?』という顔をした村岡がぐるりとみんなの顔を眺め回す。

 

「では、施術室に移りましょうか」

 

 にこやかに言う野村医師の指示で、4人が一斉に診療室から広い施術室へと向かったのだった。