カテキョの時間

その3

 

「キス、しよう」

 

 少し顎を上に向けて言う翔太に、祐也が無言で頷く。

 互いの口の端から漏れる初夏の匂いに、その意図は明確であった。

 

「んん、んむっ……」

 

 翔太の精液を含んだ祐也、祐也のそれを唾液とこね回している翔太。

 

 二人の唇が重なり、少し開けた隙間から互いの口中の粘液を差し交わす。

 唾液と精液、二人のそれぞれが混ざり合い、濃厚な香りと濃度、その味が口中から鼻腔、喉奥へと広がる。

 ぐちゅぐちゅ、ぐちゃぐちゃとした卑猥な音が、二人の間で奏でられていく。

 

「すごい……、僕の精液と、祐也の精液が混じって、すごいよ……」

「俺のって、こんな味するんだ……。ちょっと翔ちゃんのと違う感じ……」

「唾液も混ざってるから、味も変わっちゃったのかも」

 

 妙に冷静な翔太の返答が面白かったのか、祐也がくすくすと笑う。

 

「翔ちゃん、半分こ、しよう」

「いったん、全部僕にもらえる? 半分もらって、残りを祐也にやるから」

 

 祐也の意図もまた、翔太にはすぐに伝わった。

 祐也の舌が、口内に溜められた粘性の液体を翔太の口へと運び入れる。

 倍にもなった粘液を、半分ほど祐也へ差し戻す翔太。

 

 口中の精液を舌の上で味わい尽くす二人。

 飲み込む判断が付きかねるまま、再び二人の唇が近づいていく。

 

「んっ、んんっ……」

「んむっ、むぐ……」

 

 舌先に感じるのは相手の舌の動きと、ぬるぬるとした粘性の高い液体のしたたり。

 

「飲んじゃう?」

 

 祐也の問いかけに翔太がうなずく。

 二人の喉仏が、同時にごくりと上下に動いた。

 

「美味しくは、ないよね……」

「でも、なんか、人間の身体から出たものーって、感じはするかな」

 

 飲み込んだ精液が胃の腑から上がってくる匂いを感じながら、二人は再び唇を合わせた。

 

 舌と舌、唇同士が絡み合う。

 舌先が相手の歯の裏をなぞり、上口蓋をぬめぬめと舐め回す。

 舌と舌が互いに主導権を握ろうとその身を固くし、剣劇のような斬り合いを続けていたかと思えば、緊張を解いた柔らかさでべろりと相手のものを舐め上げる。

 

 精飲とキスで昂ぶる二人の股間は、激しい射精にも一向に萎えようとはしない。

 

「翔ちゃんの飲んじゃったし、俺、妊娠するかな?」

「はーか、するわけ無いだろ」

 

 ほんの少しだけ、翔太の口調が変わったことに、祐也が気付く。

 

「ふふ、翔ちゃん」

「なに? 祐也ったら、そんな笑って?」

「ん、別にー」

「なんだよー、言ってよ-」

「別にって言ってるじゃん」

 

 年下で奔放な祐也にも、いや、誰にでもだろう、どこか他人行儀にも思えていた翔太の丁寧な言葉遣いが、少しだけほぐれている気がしていた。

 物心ついたときから遊び馴れた「近所に住む仲のいいお兄ちゃん」が、初めて自分を本当に「気の置けない相手」と認めてくれたのではないか。

 そんな言葉を知っていたわけでは無かったが、祐也が翔太の言葉に感じた親近感の変化は、互いの汁を飲み合うという行為と共に、確かに存在していたのだろう。

 

「翔ちゃんの、ぜんぜん柔らかくなんないね」

「祐也のもガチガチのままじゃん」

 

 二人の手が、舌が、また相手の身体へと伸びる。

 キスをしながら全身をまさぐり、膝で相手の股間を刺激する。

 背中に舌を這わせ、敏感な脇の下から横腹まで、爪先が彷徨う。

 がっちりと日焼けした祐也の肌と、染み一つ無い翔太の伸びやかな肢体が絡み合い、二人が接する互いの皮膚が、圧点痛点が感じるはずの感覚、それらすべてを快感として捉え直していく。

 

「気持ちいい……」

「祐也の全部、好きだよ」

「翔ちゃんに触れてるとこ、全部気持ちいい」

「うん、僕も……」

 

 触れながら、キスをしながら、若い肢体が絡み合う。

 

「あっ、翔ちゃんっ、すごいっ、そこっ、感じるっ……」

 

 うつ伏せになった祐也の背中に翔太が舌を這わせていく。

 日に灼けた祐也のたくましい肩から肩胛骨に、唾液の痕が天井灯の光を散らす。

 初めて味わう背中の快感に、シーツを握り締めた祐也の手が震えている。

 

「ううっ、祐也のチンポが当たってるよ……」

 

 体位を変え翔太の腰にまたがり、自らの逸物を押さえ込むように翔太のものと一緒に握り締め、溢れ出る先走りを潤滑油に二本取りでしごきあげる祐也。

 兜合わせの刺激は、手のひらの圧力とともに粘膜同士の擦れ合いが途方もない快感を生む。

 

「すごいっ、気持ちいいっ! 翔ちゃんのっ、固いんだけど、柔らかくて……」

「祐也のもぶりぶりしてて、当たるよっ。先っぽがすごい気持ちいいっ!」

 

 褐色の肌をした祐也と色白の翔太が睦み合う姿は、ギリシア、アポロンの丘で若き神々が戯れる姿か、武士道の世界の若衆達か。

 力のある彫刻家、絵師であれば、刻まずにはいられない、描かずにはいられないほどの、猥雑さと美しさが同居していた。

 

 上背では翔太が年齢の分高くはあったが、ここ2年で急速にその重さを増した祐也とはそう体重は変わらないだろう。

 もともと運動が好きではあったが、家計への負担を考え部活を選択しなかった翔太にとり、自分の好きな運動を楽しんでいる祐也の姿はうらやましく思えていた。

 

「祐也、ギュッとして」

「うん、翔ちゃん……」

 

 上体を倒した祐也が翔太にのしかかり、背中に差し入れた手に力が入る。

 密着した互いの体温を感じながら、翔太が祐也の頭を引き寄せ、また唇を合わせた。

 

「祐也とのキス、感じるよ」

「へへ、俺も……。あのさ、俺って翔ちゃんのこと、昔から好きだったけど、これって、俺、ホモってこと?」

「うーん、ホモとかゲイとか『男が男全般を好き』って意味だと思う。祐也って、男の裸見て、興奮する?」

「かっこいいと思うことはあるけど、チンチン元気になるとかは無かったと思う」

「そこは僕とはちょっと違うかな……。あ、祐也はもちろん、かっこいいとは思うけど……」

 

 周囲の者との親和性がそれほど高く無い翔太にとり、祐也の溌剌さそのものが憬れであった。

 祐也にとっては、いつも穏やかで母親を心理的に支えてさえいるように思える翔太は、自分にはない落ち着きを持った、自分にはいない「理想の兄の姿」としての憧れがあったのだ。

 

 互いに感じていたその憧れは、思春期を脱しつつある二人にとって友情と愛情の間で揺れるあいまいな感情をもたらしていたが、祐也が翔太のオナニーを目撃したことにより、その関係性は一気に肉体性を伴ったものへと変化していた。

 

「あっ、あっ、腰とか舐められるのっ、気持ちいいっ……」

 

 先ほどまでとは変わり、今度はうつ伏せになった翔太を祐也が責めていた。

 肩、腕、背中。

 唇と舌、指先が這い周り、翔太の反応を一つ一つ確かめていく祐也。

 生まれて二度目の肌と肌との触れ合いに、全身の感覚が研ぎ澄まされ、どのような刺激にも敏感に反応する翔太。

 腹筋を引きつらせ、足先は反り返り、指先はシーツごとマットレスにきつく爪を立てる。

 唇から漏れ出る喘ぎ声は、責めている側の祐也の興奮をさらに昂ぶらせてしまう。

 

「翔ちゃん、全身性感帯だね」

「あっ、ゆ、祐也っ、そんな恥ずかしいこと、言わないでっ……」

「恥ずかしいって、翔ちゃんこんなに感じてるじゃん」

「ああっ、だって、全部っ、祐也のするのっ、全部っ、全部気持ちいいからっ……」

「じゃあ、お尻とかは?」

 

 固く締まった翔太の尻肉を、ぺろりと舐める祐也。

 

「ひあっ、気持ちいいっ、いいっ、よすぎる……」

 

 一瞬背中を反らした翔太がばたりとその胸を落とし、快感を言葉へと変換する。

 

「ねえ、翔ちゃん……」

「ん? 祐也、どうした?」

「その、この前話してた、ホモの人って、お尻使うってことなんだけど……」

「みんながみんなって訳じゃないとは思うけど……。この前も言ったみたいに、お尻だけじゃなくって、手だけでとか口でしゃぶってとか、色々みたいだけどね」

「翔ちゃんはさ、その、お尻とか、どうなの?」

「……祐也って、お尻に興味あるんだ」

「なんかさ、翔ちゃんのお尻、きれいだし。俺、翔ちゃんの見てたら、その……」

 

 祐也にとっては、純粋な好奇心と性欲の絡み合った末の発言であったろう。

 翔太にとっても精一杯の知識の披露だった。

 

 祐也にあっては、ホモ=アナルセックスのぼんやりとしたイメージにしか結びつかないことは、決して責められることではない。

 翔太にあっては、それでも自分が手に入れた知識を総動員しながら後口の洗浄をするまでになっているその努力は、溢れ出る性欲と貪欲な知識欲の結合した表れだったのだ。

 

「祐也、僕のお尻に、挿れてみたい?」

「いいの、翔ちゃん? ……、その、汚いとか、さ……」

「大丈夫だと思う。祐也が来る前に、洗っといたから」

「洗ったって、どうやって?」

 

 祐也の好奇心は、答える翔太の恥ずかしさまでには気が回らないようだ。

 

「うん、シャワー使ってやるんだけど……。恥ずかしいから、ここまで!」

「言いたくなかったらいいけどさ……。お尻、挿れていいの? ホントに?」

「大丈夫だと思う……。そのままだときついから、これ使って」

 

 笑いながらいなした翔太に、これはなにか恥ずかしいことなのかと、祐也も悟ったのだろう。

 翔太がベッドから身を起こし、引き出しに入れていたローションを取り出してきた。

 

「これってエッチなローションじゃん!」

 

 翔太が用意していたものは有名なメーカー製で、どこかで祐也も見たことがあったのだろう。

 

「薬局にあったから、前に買っておいたんだ」

「翔ちゃん、やっぱりエッチなんだから」

「祐也だって、ぜんぜん萎えてないじゃん」

「だって、翔ちゃん、エロいもん」

「祐也もすごいエロいよ。僕と違って日に灼けてて、カッコいいし……」

「泳ぐ分には翔ちゃんみたいにすらっとしてる方がいいんだろうけど」

「そうかもしんないけど、僕は今の祐也、全然いいと思う」

 

 自分の肉体が青年のそれへと変わりゆく毎日に不安を覚えるのか、祐也の言葉には少しの揺らぎが見られた。

 日頃から祐也の成長を見続けていた翔太もその肉体の変化には気付いていたが、翔太にとってのそれは祐也本人が捉えていたものとはまた違っていたようだ。

 

「どうしたらいいの?」

 

 自分達の姿に、祐也がふとローションの目的を思い出したのだろう。

 

「僕が足を抱えてお尻を上げるから、最初はローションつけた指でほぐしてくれる?」

「うん、やってみる」

 

 仰向けになった翔太が両脚を抱え、腰から下をぐいっと浮かす。

 固めのクッションを腰下に差し入れてもらうと、祐也の目の前に翔太の下腹部が丸見えとなる。

 白い肌に黒々と生えた陰毛がペニスの根元に茂ってはいるが、後口のすぼまりには未だ色素の沈着は見えず、周りの皮膚との色合いの差があるわけでは無い。

 

「翔ちゃんの、チンポもお尻も、全部見えてやらしいな」

「早くやってよ、このままの方が恥ずかしいし」

 

 せかす翔太に、祐也が右手の指先にローションをたっぷりと取る。

 

「穴の周りをぬるぬるしたら、指先を挿れて少し広げる感じで……」

「こう?」

「あっ……、そっ、そこっ……」

 

 祐也の指先が、翔太のアナルに触れる。

 わずかな抵抗を見せた窪みが圧力に負け、その侵入を許す。

 

「んっ、んんっ……」

「痛くない? 大丈夫?」

「痛くは無い、痛くは無いんだけど……」

「ちょっと、回してみるね」

 

 いつの間にか根元まで入っていた祐也の人差し指が、ぐりぐりと左右に回転する。

 翔太の返事を待たずしての祐也の行為は、本人の興奮の度合いを表している。

 

「はっ、あっ、あっ、ああっ……」

「人差し指だけだと、もういいみたいだけど、指、増やしていい?」

「んんっ、ん、んっ……」

 

 祐也の問いかけに、翔太が声を出せずにうなずく。

 人差し指をいったんギリギリまで引き出し、中指を添える。

 初めての経験であるはずの祐也の指使いは、熟練の男のそれに劣るものでもなかった。

 快楽を求める本能か、翔太を気遣う思いやりからなのか、繊細にして大胆なものだ。

 

「ほら、もう、2本全部飲み込んじゃってるよ」

「んっ、ゆうっ、祐也っ……」

「大丈夫、翔ちゃん?」

「もっと動かしてみて……」

「ここは、こんな感じ?」

「あっ、あっ、なんか変な感じっ」

「痛くない? 気持ち悪くない?」

「大丈夫……。もっとしていいよ……」

「気持ちいいの、翔ちゃん?」

「……、気持ち、いい……」

 

 翔太の様子に安心したのか、祐也が再びその指先を深く沈めていく。

 左右に回転させ、腸壁を撫で回すように指の腹で押していく。

 爪が当たらないよう細心の注意を払いながらも、内臓粘膜に直接触れることで相手の快感を引き出しているという初めての体験は、若い裕也の経験値を急速に高めていた。

 

「つっ……」

「3本目、入ったよ」

「あっ、ふっ、ふうっ……」

 

 薬指を加えた3本の指がゆっくりと出し入れされていく。

 指を入れた当初、一瞬萎えていた翔太のものが、再びその硬度を増してきていた。

 前立腺、という言葉までは知らぬ祐也の指先が、幾度かその存在を認知したのか、翔太の反応が見られるたびに指腹に感じるかすかな抵抗を楽しむようになってきていたのだ。

 

「翔ちゃんの、先走りがすごく出てる」

「玉の裏側ぐらいが、気持ちいいんだ……」

「ここらへん?」

「あっ、ああああっ、ああっ……!」

 

 快感に声を上げる翔太の目は閉じられていた。

 年上でありながらその姿に愛しさを感じる祐也が、左手を先走りにしとどに濡れた翔太の逸物に手を伸ばす。

 同年代の平均よりははるかに長大なそれは、祐也のとは違い血管の浮かび上がりの少ない、まっすぐにそそり勃つ百日紅のような容姿をしていた。

 

「あっ、そっちは……」

「翔ちゃんの、ガチガチ」

「だって、祐也が上手いから……」

「そろそろ、いい?」

 

 何を、と言うのも聞くのも年若い二人には互いに恥ずかしかったのだろう。

 それでも意図は確実に通じ、翔太は祐也の目を見つめながら、こくりとうなずく。

 祐也がそれまでくじっていた翔太のアナルから、ゆっくりと右手の指を引き抜く。

 じっくりとほぐされた翔太のそこは、ぷちゅんとした音が聞こえそうな弾力を持って祐也の指を吐き出した。

 

「挿れるよ」

 

 自らの肉棒にローションを垂らした祐也が、またも翔太の返事を待たずに腰を前に進める。

 

 翔太のそれより一回り太い祐也の逸物。

 その色味は若さゆえ周囲の皮膚との違いは見られないが、うねうねとした血管が中太の竿に巻き付き、シルエットだけ見れば歴戦の勇者のものと遜色は無い。

 熟練の手による鉋をかけられたような伸びやかな全長の翔太の肉棒と、老松の節くれ立った根のような祐也のそれ。見比べればどちらもまた魅力的な形状と、若さゆえの硬さと弾力を保持していた。

 公衆浴場で見る同年代のものと比べ、ずるりと剥け上がった己のものを密かに自慢に思っていたことは、二人にとっては当然のことであったのかもしれない。

 

 祐也の先端、健康的な色に赤く染まった亀頭がぬるぬると翔太の周辺を擦り上げる。

 

「ああっ、当たる……」

 

 翔太の言葉が聞こえた瞬間、祐也の腰がずんと前に突き出される。

 

「は、入った……」

「んんっ、んっ……」

 

 強大な亀頭がずるりと入った瞬間、おそらくは痛みが走ったのだろう。翔太の声のトーンが上がる。

 

「あ、あ、あ、翔ちゃんっ、すごいっ、俺のが、俺のが入った」

「まだ動かないでっ! 祐也っ、我慢してっ!」

「でも、あっ、先っぽ気持ちいいっ!!」

 

 亀頭のすべてが均等な圧力をかけられさらに入口の強烈な締め付けは、同じ粘膜同士の接触とはいえ、口中に納められたときのそれとはまったく別の感触だった。

 初の肛門性交の感激に思わず埒を上げそうになった祐也だったが、翔太の声にも励まされ、なんとか暴発を逃れる。

 

「ゆっくり挿れるけど、俺の真ん中のところ太いから……」

「祐也、ゆっくり、ゆっくりやって」

「痛かったらすぐ言ってね」

 

 これが今日最初の射精であれば、若い肉体がそのようなゆとりを醸すことは不可能であったろう。

 児戯のような、二人の絡みあいからの口内射精が功を奏していた。

 初回の射精をもたらした急激な快感の高まりと、それに遅れる追撃のそれは、実際にはかなりの余裕を二人に与えていたのだ。

 

「あっ、祐也のっ、で、でかい……」

「痛くない? 翔ちゃん、痛くない?」

「ゆっくり、ゆっくりして……」

 

 急に動いてさえくれなければ。

 翔太の思いはただそれだけだった。

 1人遊びで密かに自分の指を挿れた経験はあったのだが、ディルドなど買うことも出来ず、この太さのものを挿入するのは初めての体験である。

 それでもかろうじて収集した知識の中から、力を抜く、口を開けるという幾ばくかのテクニックを使い、なんとか祐也を受け止めようとする翔太。

 祐也は祐也で、とにかく翔太を傷付けたくない、痛い思いをしてほしくない、その強い思いに溢れた性交である。

 

 じわりじわりと進む祐也の肉棒。

 その年齢から考えれば驚くべき自制心であったのだが、それは他のスポーツと比べ体力の配分を綿密に計算せざるを得ない水泳という種目を選んできた彼の特質というものであったのかもしれない。

 

「うっ、あああっ、はあっ……」

「入ってくよ、翔ちゃんの中に、ほら、全部入るよっ!」

 

 最後に、ずんと一撃、祐也の腰が翔太の尻肉にぶつかった。

 20センチ近い巨根が、その全長を翔太の尻に埋め込まれていた。

 

「どう、翔ちゃん? 気持ちいい?」

「入ったの? 祐也の全部、入ったの?」

「触ってみて、翔ちゃん。全部入ったよ」

 

 翔太が腰の位置がずれないよう注意しながら、右手を己の尻穴へと伸ばした。

 祐也の引き締まった金玉の手前、埋め込まれた肉棒の根元に指先が届く。

 

「すごいっ! 祐也のデカいのが、入ってるっ!!」

「いい? 俺の、いい?」

「圧迫感がすごいよっ、祐也っ! デッカいのが入ってるのが、すごいっ、すごいっ!!」

 

 読書量は同年代の者達に比べてもかなりの量を誇る翔太であったが、生まれて初めての肛門性交に、そのボキャブラリーは限られたものとなってしまっている。

 

「翔ちゃん、俺、チンポ動かしたい……」

「あ、まだ、動かないでっ、祐也っ! まだ動かないでっ!!」

「でも、俺、もう、我慢出来ないよ……」

 

 当然の要求だった。

 鶏卵ほどもある大ぶりの睾丸で熟成された雄汁は、二度目とはいえ初回と変わらぬ量をすでに装填し、いまかいまかと発射の時期を待っている。

 

「ゆっくり、ゆっくりして」

 

 翔太が大きく息をした。

 これから起きるはずの体験に覚悟が決まったのだろう。

 

「ごめん、翔ちゃん、動かすよっ!!」

 

 ずるり。

 音がするような抜き出し。

 亀頭だけを残し引き出された肉棒は中太の形状のせいもあり、翔太の肉壁の全周を摩擦していく。

 そのあまりに切ない刺激に頭を反らす翔太。

 

「ふあああああっ……」

「痛いの?」

「大丈夫、大丈夫だから」

「じゃあ……、行くよ、翔ちゃん」

 

 再び無言でうなずく翔太。

 その瞳をまっすぐに見つめる祐也が翔太の足を抱え直す。支点を得ることで、作用点である股間の動きによりいっそうの振幅を確保する。

 

「あっ、あっ、すごいっ、すごいっ!!」

「んっ、いいよっ、翔ちゃんの尻っ、すごく気持ちいいっ!」

「当たるっ! 祐也のがっ、当たってるっ!!」

「俺もっ、いいっ、気持ちいいっ!」

 

 ゆっくりと、との翔太の声に従っていた動きは最初の2、3ストロークだっただろうか。

 祐也の我慢の限界と、翔太の尻穴の馴染みのタイミングはどうにか噛み合い、激しい前後運動が始まる。

 

「あっ、あっ、あっ、あああああっ……」

「んっ、んんっ、んっ、いいっ、気持ちいいっ!!」

 

 雄太の肉厚な腰が何度も翔太の白い尻にぶつかり、叩き付けられる肉同士、わずかに遅れてぶつかる祐也の睾丸が、規則的なリズムを刻む。

 そのビートと同時に揺れる翔太の肉棒は腹を叩き、うっすらと見える腹筋に先走りをまき散らす。

 

「そこっ、祐也っ、いいよっ、そこ、もっとしてっ、もっとして!」

「翔ちゃんっ、俺もいいっ、すげえチンポっ、気持ちいいっ!!」

 

 エアコンが効いている部屋ではあったが、体温と運動と緊張が汗を呼ぶ。

 祐也の上半身から流れる汗が翔太の胸を濡らし、翔太の汗は真っ白なシーツに吸われていく。

 腰が、下腹部が触れる場所のすべてが、汗のぬめりでさらなる快感を呼ぶ。

 

「し、しごいていい?」

 

 翔太が祐也へと確認を求める。

 イきたくなったのだ。

 

「イきそうなの? 翔ちゃんもイきそうなの?」

「祐也と一緒にイきたい!」

「俺も、俺も翔ちゃんと一緒にイきたいっ!!」

 

 自らの挿入に懸命になっている祐也には、翔太の実際の快感にまでは手が回らないだろう。翔太は自分の手でしごくことで、射精のタイミングをコントロールしたいという思いもあった。

 初めての後口への挿入に昂ぶってしまっている今、祐也の手が触れればあっと言う間に射精への扉が開かれてしまう。祐也との2回の接触で、他人の手で扱かれる心地よさ、快感の凄まじさを知ってしまったがゆえの行動であった。

 

「いいよっ、すごいっ、祐也のすごいっ!」

「俺っ、もうっ、イきそうっ! 翔ちゃんはっ? 翔ちゃんはっ?」

「僕もっ、イきそうっ! 祐也っ、イくとき言ってっ! 一緒にイくからっ、イくときに言ってっ!!」

 

 実際に祐也が翔太のアナルに挿入してから、まだ数分といったところだろう。長めに見積もっても、10分とは経っていない。

 それでも二人の快感は限界に近づき、白濁した雄汁はふつふつと体外への噴出をカウントしていた。

 

「ああっ、イくよっ、翔ちゃんっ、出るよっ!」

「僕もっ、出すよっ、祐也っ、イっていいっ? イくよっ、イくよっ!!!」

 

 限界だった。

 祐也の腰と翔太の右手の動きがシンクロする。

 

「イきそうっ、翔ちゃんっ! イっちゃうよっ!!」

「出してっ、僕の中に出してっ! 祐也っ、僕もイくっ、イっちゃうっ、イくっーーーーーー!!!!」

「翔ちゃんっ! 俺もっ、出るよっ、出るっ! ああっ、あああっ! イ、イくーーーーっ!!!!」

 

 ストップウォッチを持っての計測であれば、もしかしたら翔太の噴き上げが一瞬早く観測されたのかもしれない。

 それでも二人の体感時間においては、ほぼ同時の射精だった。

 精液が尿道を駆け上がる脈動に合わせ、びくびくと引きつける翔太の腹筋。

 そのたびに、直腸深くに差し入れられた先端が締め上げられる快感が、祐也の脊髄を駆け上がった。

 

 大量の雄汁を、腹と胸、一部は肩を越えベッドへと噴き上げる翔太。

 翔太の直腸の奥深く、押し広げられた腸壁へと何度も強くぶつけられる、祐也の白濁した汁。

 

 射精そのものがもたらす快感と、『相手のいる射精』の官能を最大限に味わおうと、二人は互いを引き寄せ、密着する体表面積を最大にする。

 伸びやかな翔太の肢体と、たくましく変わりつつある祐也の肢体。

 対象的な色合いのその二人の肉体が、絡み、密着し、汗と精液をその肌と肌とに馴染ませていく。

 

「んんっ、んっ、んっ……」

 

 射精直後の亀頭が自分と祐也の腹の間で圧迫され、ごろごろと転がされる翔太。

 敏感になったその粘膜が自らの先走りと精液を潤滑油にして味わうその刺激は、射精とはまた違った快感とおののきを体感させる」

 

「翔ちゃんの、イったのに、まだ固いね」

 

 唇を話した裕也が、わざと下腹部を強くおしつけながら、いたずらっぽく笑う。

 

「だって、祐也がそんなにするから……。祐也のだって、ぜんぜん小さくならないじゃん」

 

 体内に差し込まれた祐也の肉棒は、その大きさ固さ、熱さを維持し、翔太の肉壁を押し広げたままだった。

 

「翔ちゃんの中、気持ちいいんだもん」

「よかった……。初めてだったからさ、ホンモノ挿れるの……」

「なんかで練習してたの?」

「指でだけだけど……。洗ってから、ローション付けてやってた」

「翔ちゃん、やっぱりエッチ」

「祐也だって、初めてなのに、すごかったじゃん」

「へへ、おあいこだ」

 

 端から聞いていれば何が「おあいこ」なのかはよく分からないことだったが、二人の間では納得出来る話だったのだろう。

 屈託なく笑う二人の間では、緊張の糸は切れていた。

 

「あ、抜けるっ!」

 

 ずるっ、きゅぽんっ! っと、音がしそうな勢いで、祐也の肉棒が翔太の尻穴から弾き出された。

 笑ったときの腹筋の動きに連動したのだろう。

 翔太を抱きしめていた祐也が、ごろんと横に転がる。

 

「俺って、ホモになっちゃったのかな?」

 

 天井を見上げ、つぶやく。祐也にとっては気になることなのだろう。

 二人の会話に、何度か出てきていた台詞だった。

 

「うーん、僕は自分でゲイだ、男の方に自分が惹かれるし興奮する方だって思ってるけど、色んな人のブログとか見て、人それぞれなんだろうなって思うかな」

「男同士でエッチしちゃうと、もう女の人とは出来ないのかな?」

「どっちともエッチ出来るし、恋愛出来る人もいて、そういう人のことをバイセクシャルって言うんだって。そういう言葉があるってこと自体、色んな人がいるって証拠なんじゃって思うけど……」

 

 翔太にとっても精一杯の知識の披露だった。

 あまりに小さいときからの付き合いで、かえって年齢差を感じ無い同士ではあったが、それでも年上の者としてなるべく正確な情報を与えなければ、という使命感に近いものもあったのかもしれない。

 

「翔ちゃん、もしかしてこれまでも俺の裸とか想像してせんずりとかしてた?」

 

 直球の質問だった。

 

「なんか恥ずかしいな……。ゲイ雑誌見ててのグラビアとか小説読んで興奮してたけど、最近、祐也ってガッチリしてきたじゃん。想像して興奮しそうになって、なんかいけない気がして、雑誌持ってきてそっちで興奮してるんだって思い込もうとしてたのはあると思う」

「よく分かんないけど、やっぱり俺で興奮してたってこと?」

「うん、まあ、そうなんだけど……。気持ち悪くない?」

 

「まーた翔ちゃんはそんなふうに、自分が気持ち悪いとか、ごめんとかすぐ言っちゃうじゃん。そういうのは止めてって、この前も言ったよね」

「うん……、ごめん……」

「ほら、またすぐ謝る!」

「あ、ごめん……」

「また、まただからね!」

 

 ループする会話。

 ただそれこそが、若者の特権なのだろう。

 軽いいらだちを意図的に見せる祐也は、それを反省し赦すための翔太の言動を見越してのものだ。

 翔太もまた、話題が逸れたことを無意識では喜びながら、予定調和的なやり取りの帰結を楽しんでいた。

 

「お腹減っちゃったね!」

「シャワー浴びて、千春さんの作ってくれたの食べる?」

「うん、一緒に浴びよ!」

 

 いきおいよく身体を起こした祐也と、ゆっくりとベッドの端に腰かける翔太。

 対象的に見える二人の動作は年齢からくる違いだけでは無さそうだ。

 

「おばちゃん、なんて?」

 

 シャワーを浴び、着換えた二人。

 スマホに母親からのメッセージが来たらしい翔太に、裕也が尋ねる。

 

 祐也の母、田野島千春が作ってくれた食事を保存容器から皿に移し、レンジで温めた夕食を取る二人だ。

 若者向けにと揚げ物を多く入れているのは、祐也の母親が若者の好みを熟知しているためだろう。

 

「今日もかなり遅くなるって」

「おばちゃん、大変だよね。親父の遅くなるのはもともとのシフトってことだけど、残業なんでしょ、おばちゃん?」

「月末とか3月とかは、かなり遅いかな。こっちは慣れっこにはなったけど、母さんの方がきついかなっては思う」

「なんかあったらすぐに言ってねって、母ちゃんいつも言ってる」

「祐也んとこにはいつもお世話になってるよって、母さんも言ってるよ」

 

 ベッドで過ごした二人の時間もそれなりだったろう。

 もう時計は9時をまわっていた。

 

「次からは勉強ももっとちゃんとしないと、家庭教師代ももらってるんだから怒られちゃうな」

「今日も最初に頑張ったじゃん。あれ以上ってなったら、家庭教師の日以外にするしかなくなるって、翔ちゃん」

「祐也、それって、またエッチなことしようってこと?」

「翔ちゃんも絶対したいって思ってるでしょ?」

「……、うん」

「ほら、やっぱり! いっつも何かあったらこっちのせいばかりにするんだから。翔ちゃんも『したい』って最初から言えばいいのに」

「祐也は正直過ぎるんだよ!」

 

 笑いながら立ち上がった翔太が立ち上がる。

 テーブルを挟んだ祐也に、ちゅっとキスをする。

 唐揚げの匂いの残るキスに、祐也も笑った。