七日籠もり その2

 宿入りの禊

 

 いよいよ七日籠もりの初日を迎えることになった。吐く息の白く濁る日の出前から、宿入りの儀式は始まったのだ。

 

 注連縄で囲まれた若衆宿の裏手に、青年団の七人が集まってきた。
 越中褌一つの男達の、胴長、短足、猪首という典型的な日本人らしい立ち姿は、早々と中年太りの体型になりつつあるこの俺にも、体型的にはコンプレックスを感じさせない。各々が中年を迎え始め、農作業で鍛えた筋肉の上にうっすらと乗りはじめた脂肪が、どっしりとした男の重みを醸し出している。
 胸毛や腹の毛が俺のようにうるさいほど茂っている団員も二人ほどおり、臍からの濃い茂みが越中の下へ続いていた。秋口からの入村のせいでまだ日に焼けていない自分の白い肌だけは、艶光りする周りの男達の中で少し気恥ずかしくもあった。
 宿入りとなるこの日は、全員が宿の裏の井戸で水垢離をし身体を清める。権立の俺と当家の良さんの二人だけは、最終日まで毎日早朝に起き出し、禊をしないといけないとの話しだった。

 

 この禊の儀式では全員が素っ裸になる。それでは、という当家の声を合図に男達が越中の紐を解き、はらりと褌を足元へと落した。むくつけき男衆が寒風吹きすさぶ中に、そのひきしまった尻を晒している様は、どこか滑稽なものすら感じさせた。

 

 全員が生まれたままの一糸まとわぬ姿になると、俺は良さんと一緒に最初に禊をすることになった。雪こそ落ちてはいなかったが、一月の早朝の気温は零下に近く、水を浴びる一瞬は大声を上げて気合いを入れないと、とてもではないが持たない。
 俺達の後は、二人ずつが組みになって水を浴びる。当家の手から水が浴びせられると、胸の前で手をあわせた身体が、あまりの冷たさにがたがたと揺れる。男達の下半身もさすがに寒さのせいで縮こまっていた。全員が禊を済ますと宿入りとなる。暖房の効いた部屋に入り、全員がやっと一息をついた。

 

「こっからは権立の浩平は何もせんでよかけんな。俺達が何でんしてやっけん。最初は権立の白落しから始むっけん、みな用意してな」

 


 白落し

 

 ここからが籠もりの中心となる儀式なのだ。若衆宿での七日間の中で、権立の俺は娑婆のケガレを落とし、神聖な存在への転生の準備を行う。食べ物が精進料理なのはもちろんだが、身体の中からも徹底的に精を落す儀式が行なわれるのだ。
 この宿に入った瞬間から権立としてのこの俺は、毎日毎時とせんずりを行ない、男としての生臭さを落し続けなければならない。「白落し」と呼ばれるこの行為では、自分で一切の挙動を行なってならない俺の代わりに、毎日男達が俺の肉棒を嬲り、精を絞りとるということになるのだった。

 

「浩平、布団の上に横になってもろてよかな。先ずは御幣で清めばすっけん、足ば開いて寝てはいよなあ」
 良さんの言葉に俺は覚悟を決める。素っ裸の身体を、部屋の中央に一つだけ敷かれた布団に仰向けに横たえ、大きく足を開いた。良さんが俺の開いた足の間に越中褌一つで腰を下ろす。五人の男達も俺の周りを取り囲むように座った。見上げる形になる褌一丁の男達の姿は、儀式とはいえ実に肉感的だ。その肉体から漂う噎せ返るような男臭さに、一月の外気と井戸水に縮こまっていた俺の肉棒もぞろりと太さを増し始めてしまう。

 

「浩平も太かつば持っとんなあ。ここまで太かつはそぎゃんおらんけん。毛深かし、良か身体しとったいなあ。自分で触られんとは、最初はきつかかんしれんばってん、みなで良か気持ちにしてやっけん、我慢せんで何遍でんイかなんばい。そのうち他人に握らるっだけで、勃つごつなるけんな。じゃ始むっけんなあ、みなもよかな」
 良さんは柏手を打つと、俺の肉体に清めの塩を振りかけた。御幣を俺の身体の上で振りかざし、古くから伝わると言う祝詞を捧げる。
 そして垂れ下がった御幣の先を、俺の全身に撫でまわすかのように這わせ始めたのだ。

 

「ああっ」
 ざわざわとした御幣の微妙な蠢きに、思わず俺は声をあげてしまった。
 何十本もの爪先にそこかしこを責められるような刺激を、和紙の独特の固さが身体中に与えるのだ。これまで経験したことのない、びくびくと肉体が持ち上がるような快感が、体表を巡る御幣から送り込まれる。良さんが胸、二の腕、下半身と御幣を動かす度に俺は喘ぎ声を上げ続けたのだった。

 

「よかよか、浩平も感じてきたごたんなあ。皆で気持ちようしてやっけん、じっとしとかないかんばい」
 良さんの声を合図にしたのか、全員が一斉に俺の肉体を弄び始めた。

 

 良さんは御幣を置くと、その厚い手のひらと荒れた指先で俺の肉棒を擦り上げ、金玉に軽い圧迫を加えながらやわやわと揉みほぐしてくる。上半身は信治さんが担当らしく、ごつい両手で俺のもっさりとした胸毛をまさぐりながら、少し膨らみ始めた乳首を、こりこりと豆粒をころがすようにいじりだす。あとの四人も俺の脇腹を内腿を、爪立てた指で愛撫さながらにまさぐり始めた。
 彼らの指が敏感な部分を這いまわる度に、押えようとしても押えられない、何とも言いようのない快感が脊髄から下半身へと忍び寄ってくる。男達による男の性を知り抜いた技巧に、俺の肉棒ははちきれんばかりにいきり勃ち、たちまちの内に先走りの露で先端をじっとりと濡らすまでになったのだ。

 

「濡れてきたごたんなあ。ようし、皆本気ですっけん、浩平ももっと声出して感じてな。汁ん出っときは、言わんといかんけんな」
 全身を責めあげる動きが、さらに淫猥さをましてくる。信治さんが俺の上体に覆いかぶさると、先ほどからの刺激で痛みさえ感じ始めている俺の乳首をやさしく舐め始めた。今まで性感帯などとは思ってもみなかった場所をいたぶられる度に、俺の肉棒が怒張していった。
 突然それまで上下運動を繰り返していた良さんの手が、俺の肉棒からすっとはなれた。一瞬のいぶかしさの後、俺の肉棒は生暖かい粘膜に包まれた。

 

「うっ、そ、それは」
 良さんの頭が股間に沈みこみ、その小さな唇が俺の肉棒をくわえ込んでいる。亀頭の裏側をざらついた舌でねっとりと舐めあげられ、先端の割れ目を舌先がこじるように責めあげる。唇は歯を当てないようにすぼめたまま上下に動き、根元を握りしめた右手が激しく擦り上げる。金玉の揉み上げや、全身を這いまわる唇と指先のツボを得た責めに、俺の肉棒はあっと言う間に、最後の瞬間を迎えてしまいそうだった。

 

「もうイきそうだ、このままだとイッちまうよっ」
 その瞬間、全身を嬲っていた男達の手がさっと引かれ、良さんの唇も俺の肉棒から引き離された。全身に加えられていた刺激がいきなりなくなり、イきそびれる、そう思った瞬間だった。
 良さんが先ほど俺の身体を嬲った御幣を取り上げると、俺の下半身をざわざわと嬲り始めたのだ。

 

「ああっ、イくっ、良さんっ、イくよっ」
「出せっ、よかけん、浩平の汁出せっ、ぐっさん出せっ」
 新たなこの刺激に、もはや限界まで来ていた俺の肉棒は一たまりもなかった。俺は全身をびくびくと震わせながら、股間を嬲る御幣に、男の精を何度も打ちつけたのだった。

 

 荒い息をつきながら、壮絶な射精の快感に浸っていると、良さんがまたもや俺の肉棒を握ってきた。射精後の敏感になっている亀頭に、出したばかりの汁をぬるぬると塗り広げる。その悶絶するような強烈な刺激は、俺に悲鳴を上げさせる。
「良さん、イッてすぐは駄目だ、ああっ、駄目だよ」
「宿入りは浩平の精を抜きまくるのが目的だけん、一遍ぐらいじゃ話しにならんけんな。すぐ気持ちようしてやっけん、何回でんイッてはいよなあ」

 

 結局その日は立て続けに三回、夜になり酒や飯を男達の手で飲み食いさせられた後にも二回と、男の精を抜かれてしまった。学生のときに部の連中とのしごきあいで、一日に七回というのはあったが、この年での五回もの射精はさすがにきつかった。
 こんな調子では三日と持つまいと思っていたが、肉や魚は食えない精進料理でも、山芋やにんにく、韮などわざと精のつくものを使っているのだろう。俺の肉棒は連日連夜の度重なる吐精にもかかわらず、男達にしごかれ、しゃぶりあげられる度にますますいきり勃ち、宿中に噎せかえるような栗の花の匂いを広げてしまうのだった。
 他の男達も、喘ぎ声を上げながら噴き上げてしまう俺の様子に興奮するのだろう、褌の前垂れをいつも突き上げていた。一日中裸の男達だけの中では、勃起や射精も他人に隠すようなものでもない。
 俺自身は、当家の良さんと日の出前に行なう水垢離以外は、生活のすべてを男達の手にゆだねて過ごしていた。