単身赴任寮物語

その1

 

「おい、児玉、面接するってのが条件だけで、お前さんの希望にはぴったりなんだがなあ。単身赴任者専用でこの家賃ってのは、この先絶体出てこんと思うぞ。大家もいい青年だし、俺はもう決めていいと思うがな。とにかく今日の午後でも行ってみないか」

 

 私は児玉良一、46才。年相応の突き出た腹を抱えた、絵に描いたような中年管理職。会社からの転勤命令に妻はと言えば、1人で行っておいでなさいな、あたしも自由を謳歌したいしどうせ遊ぶ体力もないでしょうからね、と冷たいものだ。
 2人の子もいるが私自身はれっきとした同性愛者だ。学生時代は同じ部の連中とせんずりのかきあいから尺八、アナルセックスまでこなしていたが、最近ではたまの出張のときにサウナなどで男遊びをするくらいだった。

 

 妻帯の不自由な身にとって、単身赴任は男遊びのためにも願ってもない機会だ。それでも都市圏とは言え、今の住いより更に田舎への引越しとあっては腰の動きも重くなろうというものである。
 アパートの契約に大家の面接がいるというのも不思議なものだと思いつつ、釣り友達の不動産屋が商売抜きだと言って探してくれた物件に、土曜日の午後に出かける羽目になってしまったのだった。

 

 現地へ向かうと駅から5分と歩かないうちに、田舎の風景に囲まれたアパートにたどり着く。不動産屋は大家に引き合わせると、泊まりで鮎釣りに出ると言い残し、さっさと帰ってしまった。紹介を受けた大家は笑うと無くなるような目をした、いかにも人の良さそうな30過ぎのもっさりとした青年だ。
 高田と紹介を受けた青年の話しによると、親から譲り受けた土地を売るもならず、結局アパート経営でもということになったらしい。人を雇うのも気が引けるとかで、自分で大家兼、管理人兼、賄い夫までやってのけているとのことだった。

 

 何も独身の君が中年の男どもの世話だけではもったいないだろうと話すと、独身者ではどうしても時間が不規則になりがちで部屋が荒されるし、わざわざ中年の単身赴任者を対象にしたのだと言う。
 なるほどビジネスとしてはいい着眼点だとは思ったものの、いい年をした男が結婚もせずに中年の男だけを選んでいるとなると、どうしても本人の性向を気にしてしまう。そういう目で見てみると、柔らかな物腰やこちらの世界特有の男とみるとまず顔に目がいってしまう挙動など、疑えなくもない。

 

 同年代がタイプの私としては年齢が少々物足りないが、腹の出始めたがっちりした身体付きは決していけないタイプではなかった。おそらくサウナで見かけたら手を出しているだろう。まあ、契約ともなれば確かめる時間はあるさと、その場ではあまり突っ込まないことにする。

 

 まだ築5年といったところのアパートは、寮形式の鉄筋2階建て。契約が決れば私が入居することになる部屋は2階の個室で、全部で7部屋が南向きに並んでいる。キッチン付きのワンルームは、テレビに冷蔵庫、簡素な仕事机とゆったりとしたベッドが備え付けられ、身の回りの物さえ持ってくれば明日からでも入居できそうな具合だ。賄いも朝食付きだし、頼めば昼の弁当まで作って持たせてくれるという。
 1階は管理人部屋と入居者の共用施設で、12畳の和室と食堂、サウナ付の風呂が24時間いつでも利用できる。こりゃ、和室に布団を敷き詰めれば、まるで淫乱サウナのミニチュア判だと気付き、思わず一泊いくらですかと尋ねたくなるほどだった。

 

 不動産屋が言うように私に取っても願ってもない条件だが、こちらとしてはどうも違う方向へと考えが向くのは仕方のないことだろう。
 これだけの設備と処遇の充実ぶりに、高田君の入居者を選びたいという気持ちもよく分かった。呼びつけて済まないとしきりに恐縮する誠実そうな彼の姿に内心、これは趣味も実益も兼ねて、いいものを見つけてくれたと不動産屋に感謝していた。

 

 一通り寮内をまわりコーヒーでもと一階に戻る。食堂ではトランクスに上半身裸の男が、逆向きに椅子を跨いで肉厚の尻を突き出すように座り、テレビを見ているところだった。

 

 高田君の様子で入居者と分かり、軽い会釈をしてこちらも腰を下ろしたものの、男は私にとって理想のタイプである。
 厚みのある身体付きは固太りと言う言葉がまさにぴったりで、理想の男がいきなり目の前に現れた興奮に、入居者の畑山浩二さんですとの高田君の紹介も上の空で聞き流す始末だった。
 目の端の中年男の下着一丁の姿にちらちらと目をやりながら、契約条件の話しが一段落したときだった。二人の話しを聞くともなく聞いていたのか、浩二さんが横から話しかけてきたのだ。

 

「児玉さんでいいのかな? ここが気に入ったみたいだし、高坊も児玉さんなら大丈夫ってもう決めてんだろう。せっかくだから、今日はみんなで歓迎会やろうじゃないか」
 まだ契約もしていないのにと一応断ると、高坊と呼ばれた高田君も児玉さんならこちらからお願いしたいくらいです、夕方には大方揃いますからそれまで中をよく見てくださいと、柔和な顔をいっそうほころばせて勧めてくれる。

 

「ここはとにかく中年の男だけで気楽だからな。みんないい奴ばっかりだし、高坊は若いのに良く気がつくし、児玉さんもきっと気に入ると思う。土曜日だし、児玉さんは泊まっていったらいいだろう。高坊が酒の肴作ればアルコールはみんな部屋にあるだろうし。飲み方と聞いたらすぐにみんな集まるから。な、そうしよ。それまで児玉さんは俺の部屋でくつろいでもらえばいいじゃないか。高坊もそれでいいだろ、な、な」

 

 会社借り上げの条件は満たしているし、おそらくは男好きな高田君の目的も何となく感じてはいたが、やはり田舎暮しということで決めかねていた。それでも、タイプの男の部屋に行けて、もしかしたら裸も見れるかも知れない。あわよくば同じ趣味なら、といった不純な動機も手伝って、それならば、と甘えることにした。
 もし契約と到らなくても、高田君の性格なら、不動産屋に何やかやと文句を言うようなことはなかろうという打算が働いたのも、理由の一つだったろう。

 

 泊まりになりそうだと妻に電話を入れ、浩二さんの部屋に向かう。浩二さんのトランクスに覆われたでかい尻についていきながら、中年の男達だけでの生活というものを覗き見できるという滅多に無い機会に、うきうきとした気持ちになっていたのだった。

 

 煙草の匂いの残る部屋に入ると、下着だけで過ごせるようにかエアコンが効いていた。浩二さんだけ裸にさせておくのも妙なものだったし下心も手伝って、失礼しますよと、こちらもブリーフ一つになってソファに腰掛ける。
 浩二さんが部屋に備え付けの小型の冷蔵庫を開け、良く冷えた缶ビールを勧められる。あれやこれやと仕事や家のことなどをしゃべってしまっていた。

 

 ビールもお互い三本ほどが空き煙草でもとくつろいでいると、いやでもトランクス一丁の浩二さんの肉厚の身体が目に入る。固く張った太股や腹筋の上に脂肪ののった腹は、中年男の色気に溢れており、聞けばやはり学生時代柔道で鍛えていたものだった。
 今ではもうただの腹の出たおっさんだよと自嘲する浩二さんに、いやいや男盛りでいい身体されてますよと、こちらも少し色気を出した話しをしてみる。
 本人もまんざら悪い気もしないらしく、照れた様子がまた色気を感じさせてしまう。理想の男の肉体が手を伸ばせば届くところにあるという状況が、私の視線をどうしても剥き出しの腹や太腿へと向かわせるのだった。

 

 浩二さんは私の視線に気が付いたのか、年になっても食う量がなかなか減らないもんな、と更に腹をなでさする。
 ここは少しかまをかけてやれと思い、私もそんな男らしい身体になりたいですよと、固く張った腹に手を伸ばす。あっ、と言う小さな声をあげ、浩二さんの身体が一瞬こわばった。

 

 その瞬間、浩二さんも同好だということを確信できた。この道の男がサウナでかわす目と目の会話が、今、目の前にいる私の理想のタイプとの間で交わされたのだ。

 

 ほんの一呼吸の間を置いて、浩二さんの肉厚の手が私の突き出た腹に柔らかく重ねられる。

 

「その・・・、間違ってたら悪いが、児玉さんも俺みたいな・・・」

 

 何を、を尋ねるのも不粋だと思い、相手の目を見つめたまましっかりとうなづき返した。浩二さんは私の裸の肩を急に抱き寄せると、私の首に顔を埋めるようにして、話しかけてきた。

 

「高坊が気に入ってたみたいだからきっとそうだとは思ってたんだ。あいつは若いのに人を見る目があって、面接して入ってくるこの寮の連中はほとんど男好きの奴ばかりだ。そうじゃない奴が入ってきても、やっぱりどっか素質があるのか回りの連中に染まってしまうんだ。児玉さんを最初に見たときから、こりゃいい男をつれてきたなって気になってたんだよ」

 

「私も寮の仕組みと高田君の話しから、たぶんそうだとは思ってたんですよ。でも入居者がみんな男好きっていうのは驚きですね。浩二さんみたいなタイプの男ばっかりだと、この寮にいるだけで血圧が上がっちゃいそうですよ」

 

「血圧が上がるはよかったな。夜の歓迎会でみんなと会えるけど、とりあえず今は俺とでいいかい」
「もちろんです。高田君じゃないですがこちらからお願いしたいぐらいですよ」

 

 もはや何の気遣いもいらなくなった二人の身体は、自然に抱き合う形になった。浩二さんの小さめの唇が私の唇に重なる。生暖かいぬめった舌が、私の舌を撫であげ歯茎をぬめぬめとなぞる。口の中から伝わる快感に、私の下半身はそれだけで頭を持たげ始めていた。

 

 キスだけで勃起してしまった自分がなんとも恥ずかしく、こちらも浩二さんのトランクスに手を伸ばす。木綿の生地越しに熱くたぎりきった勃起が力強く伝わってきた。思わず指を這わし握りしめてしまうと、手にあまる大きさのものが息づいている。
 浩二さんの唇が私の首へと進んだ。暖かな息を吐きかけながら、胸から腹へと進んで行く。今まで隣に座っていた浩二さんは私の目の前に膝をついた。そのまま私の足を押し開くとブリーフの盛り上がりに顔を押し付けてくる。